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第4章 アルムの冬
第54話 カーラを預けに行きました
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*このところ毎日お昼に1話投稿しています。まだお読みでない方がいらっしゃればお手数ですが1話戻ってお読みください。
**********
十一月も半ばを過ぎ、いよいよ本格的な冬を迎えました。
カーラも雇ってから二ヶ月が経ち、難しい文章でなければ読み書きが出来るようになりました。
計算の方も時間は掛かるものの、桁数の少ない足し算、引き算であれば間違わずに出来るようになりました。
読み書き計算共に、実務に使うのはまだまだですが始めて二ヵ月の成果としては十分だと思っています。
ここらで一度、読み書き計算の学習は中断して、侍女としての言葉遣いや作法を学ばせにリーナの許に預けようと思ったのです。
というのも、これから雪が本格的に降り始めてシューネフルトへ良くことが困難になるからです。
もちろん、転移魔法を使えばいつでも行き来できるのですが、リーナ以外にはなるべく秘密にしたいと思います。
雪に閉ざされた後にリーナの館に現われては不自然極まりないので、行き来が可能なうちに預けようと考えたのです。
「カーラ、良いわね、春までしっかりと礼儀作法や言葉遣いを学んでくるのよ。
リーナに無理を言って預かってもらうのだからサボることは許しません。」
私はカーラに釘を刺します。
カーラは根は真面目なのですが、どうも礼儀作法とか言葉遣いとかは性に合わないらしく、この二ヶ月で殆んど矯正できませんでした。
後はプロの侍女の任せて、鍛えてもらうしかないと思っているのです。
「はい、わかりました、シャルロッテ様。
出来る限りの努力はしてみます。」
必ず出来るようになると言わないあたりが正直者なのでしょうね……。
いまいち、覇気のないカーラの返事に脱力しながらも、私は横倒しにした大きなトランクにカーラを座らせました。
「じゃあ、行こうか。ブリーゼちゃん、風除けお願いね。」
私は肩の上に腰掛ける風の精霊ブリーゼちゃんに声を掛け空に舞い上がります。
「ハイな!任せておいて!」
上空は冷たい北風が吹いているはずですが、ブリーゼちゃんのおかげで全く風を感じません。
ちらほらと降る雪もブリーゼちゃんのおかげで私達には当たらないのです。
まるで目に見えない器の中に入っているようです。
「すごいです、全然風を感じません。これなら、空を飛んでいても余り寒くはないですね。」
カーラがブリーゼちゃんの力に感心しています。
そんなカーラを乗せて私はふよふよとリーナの館を目指しました。
空は黒い雪雲で覆われていて昼でも薄暗い状況ですので、人目を避けて飛ぶのにはもってこいです。
私達は空を飛んだままリーナの館までやってきて、バルコニーに降り立ちます。
「いらっしゃ、寒かったでしょう。早く中に入って。」
あらかじめ、訪問を知らせてあったので、リーナが直ぐに部屋に迎え入れてくれました。
**********
「リーナ、今回は無理言ってごめんなさいね。
私には侍女教育なんて出来ないのでよろしく頼みますね。」
「ええ、任せておいて。
責任持って一人前の侍女に仕立てて見せるわ。来年の三月末まで預かればいいのよね。
ヘレーナにはきっちり鍛えるように言ってあるから大丈夫よ。
ねえ、ヘレーナ。」
私の言葉にリーナは気安く答えて、ヘレーナさんに話を振りました。
「はい、カロリーナお嬢様。
私の全力を持ってカーラさんを何処へ出しても恥ずかしくない侍女に鍛えてみせます。
ええ、夜の作法まで私の持ち得るものを全て伝授しようではありませんかジュルリ。」
なんか、この人、また涎を垂らした気がする……。夜の作法っていったい……。
ヘレーナさんの性癖を考えるとカーラを預けることに一抹の不安を感じますが、侍女としてのこの人は本当に優秀なのです。仕事に個人の趣味嗜好は持ち込まないものと信じましょう。
「じゃあ、これが謝礼ね。」
私はトランクの中から大きな麻袋を一つ取り出してリーナの目の前におきました。
「謝礼って、そんなもの要らないって。
私の方こそ今までたくさんお世話になっているのだもの、こんなの受け取れないわ。」
「だめよ、リーナも領主なのだから公私を混同したら。
これは友達の付き合いではなく、領主のあなたに対する正式な依頼なの。
それに、私がこれだけの謝礼を支払っているんだと分かっている方がカーラだって真剣になるでしょう。」
私の言葉にリーナは謝礼を受け取る気になったようで、麻袋の中を覗きます。
そして、…。
「こんなに!これ銀貨何枚入っているの?」
「とりあえず、銀貨一万枚入っているわ。足りないなら言ってちょうだいね。」
「いえ、いえ、これじゃあもらい過ぎですって。」
「そんことないわ、銀貨一万枚で一人前の侍女が手に入るのなら御の字よ。
優秀な人材は宝物よ。」
私はそう言いながらトランクの中から小ぶりな麻袋を出してヘレーナさんの前に置きました。
これには銀貨千枚を入れてあります。
「これは、ヘレーナさんに。私からの個人的な謝礼よ。
仕事を増やして申し訳ないけど、カーラをしっかり鍛えてくださいね。」
私が差し出した麻袋をヘレーナさんはニコニコと受け取って言ったのです。
「え~、申し訳ないです。
こんな可愛い子猫ちゃんを預けてもらえるだけでご褒美なのに謝礼までいただけるなんて。
これは頑張らなくてはいけませんね。
大船に乗った気持ちで任せてください、受けでも、攻めでもいけるように完璧に仕上げてみせますから。」
ええっと、何でしょうか、その受けとか攻めとか言うのは。
私としてはごく普通の侍女に育てて欲しいのですが……。
リーナは何の遠慮も無しに謝礼を受け取ったヘレーナさんを見て気まずそうにしていました。
**********
「この館で雇い入れた十人なのですが、毎日夕方四時から七時までを学習の時間に当てることしました。
もう既に始めているのですが、よかったらカーラさんも一緒に学んでいったらいかがですか。
侍女の研修は朝から夕方まででも十分でしょう。
どうかしら、へレーネ。」
「はい、そうですね。
一日にそう長い時間研修をしましても効率が上がるとは思えませんので、夕方までで十分かと。
何か不足があれば、夕食後に時間をとって研修するということでよろしいのでは。」
リーナとヘレーナさんはそう言って、この館で下働きとして雇った少女と共にカーラも読み書き計算の勉強をしたらどうかと勧めて来ました。
「そうね、こちらにお世話になっている間に、せっかく覚えた読み書き計算を忘れてしまったら困るから、リーナ達の提案はとても有り難いわ。
是非ともそうして頂きたいと思います。良いわね、カーラ?」
カーラはここで侍女教育を受けている間は苦手な計算から解放されると思っていたのでしょう。
私たち三人の会話を聞いて露骨に嫌そうな顔をしています。
しかし、私の決定に逆らうことはできないと分かっているようでした。
「はい、承知いたしました。」
カーラは渋々そう答えたのです。
そして、カーラは早速研修を始めますと言って張り切るヘレーナさんに連れて行かれました。
カーラについての用件が終ったので、私は早々に帰ることにしました。
今、館ではアリィシャちゃんが一人でお留守番です。
余り一人ぼっちにするのは可愛そうなのでなるべく早く帰りたかったのです。
「じゃあ、カーラのことお願いね。
それから、リーナ。
アルビオンに行く件で少し話しがあるの。
時間のある時で良いからうちに来てもらえないかしら。
そうね、夕方にでも来てもらえば、一緒に夕食をとりましょう。
その日はそのまま泊まっていけば良いわ。
私のベッドは広いし、アリィシャちゃんと三人でベッドの中でゆっくり話しをしましょうか。」
先日ハンスさんから聞いた話をし忘れていた私は、帰り際にリーナにそう告げました。
「泊まりにいっていいの?それは楽しみだわ!
なるべく早く時間を作っていくようにするわね。
あの転移魔法を使って急に行くことになるけど、それでも平気かしら?」
私の誘いをリーナは喜んでくれたようです。
「ええ、もちろんよ。
リーナが何時きても構わないように夕方からの時間は空けておくわ。
じゃあ、待っているわね。」
私はそう答えてリーナの許を立ち去りました。
私もリーナが泊まりに来るのが楽しみです。
**********
お読みいただき有り難うございます。
*お願い
9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
ぶしつけにこのようなお願いをして恐縮ですが、よろしくお願いします。
投票は、PCの方は表題ページの左上、「作品の情報」の上の『黄色いボタン』です。
スマホアプリの方は表題ページの「しおりから読む」の上の『オレンジ色のボタン』です。
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十一月も半ばを過ぎ、いよいよ本格的な冬を迎えました。
カーラも雇ってから二ヶ月が経ち、難しい文章でなければ読み書きが出来るようになりました。
計算の方も時間は掛かるものの、桁数の少ない足し算、引き算であれば間違わずに出来るようになりました。
読み書き計算共に、実務に使うのはまだまだですが始めて二ヵ月の成果としては十分だと思っています。
ここらで一度、読み書き計算の学習は中断して、侍女としての言葉遣いや作法を学ばせにリーナの許に預けようと思ったのです。
というのも、これから雪が本格的に降り始めてシューネフルトへ良くことが困難になるからです。
もちろん、転移魔法を使えばいつでも行き来できるのですが、リーナ以外にはなるべく秘密にしたいと思います。
雪に閉ざされた後にリーナの館に現われては不自然極まりないので、行き来が可能なうちに預けようと考えたのです。
「カーラ、良いわね、春までしっかりと礼儀作法や言葉遣いを学んでくるのよ。
リーナに無理を言って預かってもらうのだからサボることは許しません。」
私はカーラに釘を刺します。
カーラは根は真面目なのですが、どうも礼儀作法とか言葉遣いとかは性に合わないらしく、この二ヶ月で殆んど矯正できませんでした。
後はプロの侍女の任せて、鍛えてもらうしかないと思っているのです。
「はい、わかりました、シャルロッテ様。
出来る限りの努力はしてみます。」
必ず出来るようになると言わないあたりが正直者なのでしょうね……。
いまいち、覇気のないカーラの返事に脱力しながらも、私は横倒しにした大きなトランクにカーラを座らせました。
「じゃあ、行こうか。ブリーゼちゃん、風除けお願いね。」
私は肩の上に腰掛ける風の精霊ブリーゼちゃんに声を掛け空に舞い上がります。
「ハイな!任せておいて!」
上空は冷たい北風が吹いているはずですが、ブリーゼちゃんのおかげで全く風を感じません。
ちらほらと降る雪もブリーゼちゃんのおかげで私達には当たらないのです。
まるで目に見えない器の中に入っているようです。
「すごいです、全然風を感じません。これなら、空を飛んでいても余り寒くはないですね。」
カーラがブリーゼちゃんの力に感心しています。
そんなカーラを乗せて私はふよふよとリーナの館を目指しました。
空は黒い雪雲で覆われていて昼でも薄暗い状況ですので、人目を避けて飛ぶのにはもってこいです。
私達は空を飛んだままリーナの館までやってきて、バルコニーに降り立ちます。
「いらっしゃ、寒かったでしょう。早く中に入って。」
あらかじめ、訪問を知らせてあったので、リーナが直ぐに部屋に迎え入れてくれました。
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「リーナ、今回は無理言ってごめんなさいね。
私には侍女教育なんて出来ないのでよろしく頼みますね。」
「ええ、任せておいて。
責任持って一人前の侍女に仕立てて見せるわ。来年の三月末まで預かればいいのよね。
ヘレーナにはきっちり鍛えるように言ってあるから大丈夫よ。
ねえ、ヘレーナ。」
私の言葉にリーナは気安く答えて、ヘレーナさんに話を振りました。
「はい、カロリーナお嬢様。
私の全力を持ってカーラさんを何処へ出しても恥ずかしくない侍女に鍛えてみせます。
ええ、夜の作法まで私の持ち得るものを全て伝授しようではありませんかジュルリ。」
なんか、この人、また涎を垂らした気がする……。夜の作法っていったい……。
ヘレーナさんの性癖を考えるとカーラを預けることに一抹の不安を感じますが、侍女としてのこの人は本当に優秀なのです。仕事に個人の趣味嗜好は持ち込まないものと信じましょう。
「じゃあ、これが謝礼ね。」
私はトランクの中から大きな麻袋を一つ取り出してリーナの目の前におきました。
「謝礼って、そんなもの要らないって。
私の方こそ今までたくさんお世話になっているのだもの、こんなの受け取れないわ。」
「だめよ、リーナも領主なのだから公私を混同したら。
これは友達の付き合いではなく、領主のあなたに対する正式な依頼なの。
それに、私がこれだけの謝礼を支払っているんだと分かっている方がカーラだって真剣になるでしょう。」
私の言葉にリーナは謝礼を受け取る気になったようで、麻袋の中を覗きます。
そして、…。
「こんなに!これ銀貨何枚入っているの?」
「とりあえず、銀貨一万枚入っているわ。足りないなら言ってちょうだいね。」
「いえ、いえ、これじゃあもらい過ぎですって。」
「そんことないわ、銀貨一万枚で一人前の侍女が手に入るのなら御の字よ。
優秀な人材は宝物よ。」
私はそう言いながらトランクの中から小ぶりな麻袋を出してヘレーナさんの前に置きました。
これには銀貨千枚を入れてあります。
「これは、ヘレーナさんに。私からの個人的な謝礼よ。
仕事を増やして申し訳ないけど、カーラをしっかり鍛えてくださいね。」
私が差し出した麻袋をヘレーナさんはニコニコと受け取って言ったのです。
「え~、申し訳ないです。
こんな可愛い子猫ちゃんを預けてもらえるだけでご褒美なのに謝礼までいただけるなんて。
これは頑張らなくてはいけませんね。
大船に乗った気持ちで任せてください、受けでも、攻めでもいけるように完璧に仕上げてみせますから。」
ええっと、何でしょうか、その受けとか攻めとか言うのは。
私としてはごく普通の侍女に育てて欲しいのですが……。
リーナは何の遠慮も無しに謝礼を受け取ったヘレーナさんを見て気まずそうにしていました。
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「この館で雇い入れた十人なのですが、毎日夕方四時から七時までを学習の時間に当てることしました。
もう既に始めているのですが、よかったらカーラさんも一緒に学んでいったらいかがですか。
侍女の研修は朝から夕方まででも十分でしょう。
どうかしら、へレーネ。」
「はい、そうですね。
一日にそう長い時間研修をしましても効率が上がるとは思えませんので、夕方までで十分かと。
何か不足があれば、夕食後に時間をとって研修するということでよろしいのでは。」
リーナとヘレーナさんはそう言って、この館で下働きとして雇った少女と共にカーラも読み書き計算の勉強をしたらどうかと勧めて来ました。
「そうね、こちらにお世話になっている間に、せっかく覚えた読み書き計算を忘れてしまったら困るから、リーナ達の提案はとても有り難いわ。
是非ともそうして頂きたいと思います。良いわね、カーラ?」
カーラはここで侍女教育を受けている間は苦手な計算から解放されると思っていたのでしょう。
私たち三人の会話を聞いて露骨に嫌そうな顔をしています。
しかし、私の決定に逆らうことはできないと分かっているようでした。
「はい、承知いたしました。」
カーラは渋々そう答えたのです。
そして、カーラは早速研修を始めますと言って張り切るヘレーナさんに連れて行かれました。
カーラについての用件が終ったので、私は早々に帰ることにしました。
今、館ではアリィシャちゃんが一人でお留守番です。
余り一人ぼっちにするのは可愛そうなのでなるべく早く帰りたかったのです。
「じゃあ、カーラのことお願いね。
それから、リーナ。
アルビオンに行く件で少し話しがあるの。
時間のある時で良いからうちに来てもらえないかしら。
そうね、夕方にでも来てもらえば、一緒に夕食をとりましょう。
その日はそのまま泊まっていけば良いわ。
私のベッドは広いし、アリィシャちゃんと三人でベッドの中でゆっくり話しをしましょうか。」
先日ハンスさんから聞いた話をし忘れていた私は、帰り際にリーナにそう告げました。
「泊まりにいっていいの?それは楽しみだわ!
なるべく早く時間を作っていくようにするわね。
あの転移魔法を使って急に行くことになるけど、それでも平気かしら?」
私の誘いをリーナは喜んでくれたようです。
「ええ、もちろんよ。
リーナが何時きても構わないように夕方からの時間は空けておくわ。
じゃあ、待っているわね。」
私はそう答えてリーナの許を立ち去りました。
私もリーナが泊まりに来るのが楽しみです。
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お読みいただき有り難うございます。
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9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
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