51 / 580
第3章 魔法使いの弟子
第50話【閑話】大空を飛ぶために
しおりを挟むロッテお姉ちゃんに拾われて何日か経って、わたしはリーナお姉ちゃんの領地へやってきた。
リーナお姉ちゃんの家に着いたのはもう夕方だった。
リーナお姉ちゃんは、もう日が暮れるので今日は泊まっていけと言ったの。
でも、ロッテお姉ちゃんはこの位の時間の方が人目に付かないから都合が良いって。
二人が話しをしている間、わたしはリアとクシィ、それにリーナお姉ちゃんの契約精霊シアンと三人でお菓子をご馳走になっていたの。
しばらくして、二人の話しが終わったようで……。
「お待たせ、アリィシャちゃん。じゃあ、これから私の家に帰るわよ。」
そう言って、私を連れてきたのはリーナお姉ちゃんの部屋の外に広がるバルコニー。
えっ、帰るってここから?どうやって?玄関からじゃないの?
私が不思議に思っているとロッテお姉ちゃんは引き摺っていた大きなトランクを横倒しにしたの。
ますます、訳が分からない。
「さあ、アリィシャちゃん、ここに腰掛けて。このトランクに乗って空を飛んで帰るわよ。」
なんと、ロッテお姉ちゃんはここから空を飛んでうちに帰ると言ったの。
「ロッテお姉ちゃん、ここから空を飛んで帰るの?
私も一緒に飛べるの?」
信じられずに思わず聞き返しちゃった。
「ええ、そうよ。ここから私の館まで飛んで帰るのよ。
大空の散歩を楽しませてあげる。」
ロッテお姉ちゃんは自信満々に答えて、わたしを隣の座らせたの。
わたしがトランクにしっかりと腰掛けたのを確認するとロッテお姉ちゃんは本当に空に浮き上がったの。
私がビックリして、
「うわっ、本当に浮かんだ!」
と、思わず声を上げると、ロッテお姉ちゃんは得意げな笑顔を浮かべて前方を指差したの。
「それじゃ、出発!」
ロッテお姉ちゃんの掛け声と共に、わたし達を乗せたトランクはふよふよと前へ進み始めたんだ。
凄くのんびりした進み具合に、わたし思わず聞いちゃった。
「ロッテお姉ちゃん、これ、とっても遅く感じるのだけど。
こんなに遅くていいの?」
すると、ロッテお姉ちゃんは地上を走る馬車を指差して言ったの。
「遅いように見えるのは何もない広大な空を飛んでいるからよ。
見なさいあの馬車、同じ方向へ進んでいるでしょう。すぐに追い越しちゃうから。」
ロッテお姉ちゃんの言う通り、わたし達の前に見えた馬車をあっという間に追い越してしまったの。 結構速いんだなと、感心しているとロッテお姉ちゃんはこんなことも言っていた。
「もう九月も半ば過ぎでしょう、風が冷たいのよ。これ以上速く飛ぶと凍えちゃうわ。」
ロッテお姉ちゃんは寒い時期に飛ぶときは風の精霊に風除けをしてもらうそうです。
今の時期はそれほどでもないので、速さを落として風を切って飛ぶ感触を楽しんでいるのだって。
「ここから見える世界が私達の住んでいる世界、広いでしょう、きれいでしょう。
良く目に焼き付けておくのよ、これがアリィシャちゃんが初めて空から見た光景よ。」
ロッテお姉ちゃんは言ったの、わたしはこれから何度も空を飛ぶことになるだろうって。
でも、同じ場所を飛んでも、季節や時間によって景色は違って見えるんだって。
ロッテお姉ちゃんは、何度もこの辺の空を飛んでいるけど、同じ景色はまだ見た事が無いって。
だから、初めて空を飛んだ記念にこの景色を目に焼き付けておけって。
ロッテお姉ちゃんにそう言われて、改めて周りを見回すと高く連なる山々が夕日に照らされてオレンジ色に染まっているのが凄くきれいで思わず見入ってしまったの。
たぶん、この光景は一生忘れないって思った。
そして、わたしは心に誓ったの。
絶対に魔法を覚えて、今度は自分の力で大空を飛ぶんだって。
**********
たどり着いたロッテお姉ちゃんのおうちは凄く大きかった。
どのくらい大きいかというと、さっきいたリーナお姉ちゃんのおうちの何倍も大きかったの。
ロッテお姉ちゃんはここはアルムハイム伯国と言って、さっきまでいた国と別の国だと言った。
国と言われてもピンと来なかったの、ロッテお姉ちゃんは色々説明してくれたけどやっぱりよく分からなかった。
ただ、リーナお姉ちゃんがいたところとここは別の国で、ロッテお姉ちゃんが一番偉い人だという事だけがわかったの。
「うん…、まあ、取り敢えずはそう思っておいて。」
ロッテお姉ちゃんは疲れた顔でそう言っていた。何か違うのかな?
ロッテのお姉ちゃんのおうちはブラウニーって言うおうちのお世話をしてくれる精霊がいっぱいいたの。
多すぎてロッテお姉ちゃんも何人いるかわからないんだって。
わたしが住み始めた日は、ブラウニーが作ってくれた鹿肉の煮込み料理をご馳走になったの。
柔らかく煮込まれた鹿肉がゴロゴロ入っていてとても美味しかった。
それから、住む部屋を与えられたのだけど、部屋も広いし、ベッドも大きいしで、かえって落ち着かなかった。
その部屋にいると、一人ぼっちになっちゃたみたいで寂しかったの。
結局一人では眠れなくて、その晩からロッテお姉ちゃんの部屋で一緒に寝ることになったの。
ロッテお姉ちゃんのおうちに来て何日か過ぎて、ロッテお姉ちゃんが魔法の勉強を始めると言った。
最初に書庫にいって、ロッテお姉ちゃんが魔法書の実物を見せてくれた。
何か細かいものがいっぱい書いてあって、ロッテお姉ちゃんはそれが文字だと言ったの。
それを見て、ロッテお姉ちゃんが最初に言った文字の読み書きが出来ないと魔法が理解できないと言うことが分かったの。
たしかに、こういう風に書かれているのなら文字が読めないと話しにならないと。
ロッテお姉ちゃんは文字の読み書きの勉強が捗るようにって絵本を読んでくれた。
捕らわれのお姫様を救い出す勇者の話しだったけど、ドキドキしながら聞いてたの。
とっても面白かった。
ロッテお姉ちゃんは、絵本がたくさん入っている棚の前で、文字が読めるようになったら自由に読んで良いって言ってくれた。
わたしはその時思ったの、頑張って文字の読み書きを覚えて早く絵本を読めるようになろうと。
絵本を読みたいと思って毎日読み書きの勉強を頑張っていたら、今度は魔法の基礎を教えると言われたの。
魔法って本を読んで覚えるものだと聞いていたけどそれだけではないみたい。
魔力を感じ取って、それを操作するのは本を読んだだけじゃ良く分からないんだって。
体で覚えるほうが早いってロッテお姉ちゃんは言ってた。
実際にやってみて、案外簡単ですぐに出来たら、ロッテお姉ちゃんが凄いねって褒めてくれたの。
頭を撫でてもらって凄くうれしかった。
それから、魔力を操作する練習にと、光、水、風、土の簡単な魔法を一つずつ教えてもらったの。
毎日欠かさず練習するようにって。
わたしは読み書きの勉強が終った後は欠かさず魔法の練習をしたよ。
早く覚えれば、それだけ空を飛ぶ魔法を教えてもらえるのも早くなると思ったから。
ロッテお姉ちゃんが留守にしていた四日間も、リアとクシィに協力してもらってずっと練習してた。
わたしの上達具合をみていたロッテお姉ちゃんが、今度は宙に浮き上がる魔法を教えてくれた。
空を飛ぶ魔法の前段階なんだって、その練習を続けていくといずれ空を飛べるようになるって。
最初にロッテお姉ちゃんがお手本を見せてくれて、次に私の体にロッテお姉ちゃんが魔力を通して浮かぶための魔力の使い方を教えてもらったの。
ロッテお姉ちゃんがやって見せてくれた魔力の使い方を真似してみたんだけど、上手くコツが掴めなかった。
そしたら、クシィがわたしの体を何度か浮かべてくれたの。
クシィの力で浮いたり降りたりを繰り返すうちに、なんとなく浮くという感覚がつかめてきたの。
そして、そのためにどういう風に魔力を使ったら良いかも。
それから、また何度か失敗したあと、ちゃんと宙に浮くこと出来た。
わたしは凄くうれしかった、これで空に一歩近づけたと思ったから。
その日から、わたしは読み書きの勉強の合間をぬって浮く練習を続けたの。
そして、もう冬も間近となった今日、ロッテお姉ちゃんが真新しい箒を持ってきてこう言ったの。
「大分、自然に浮き上がれるようになったし、高さも上がってきたわ。
今度はこれに乗って前に進む練習をしましょう。
この練習は落ちると危ないから私が一緒にいるときしかやったらだめよ。
まずは、高さ一ヤード位からね。
誰もがこの練習を始めると大空を飛びたがるけど、焦ってはダメよ。
徐々に高さと飛ぶ時間を延ばしていくから、大空を飛べるのは二、三年先だからね。」
ロッテお姉ちゃんはわたしがすぐにでも大空を飛びたいと思っていたのをお見通しだったみたい。
先にダメと言われてしまいました。
でも、明るい光が見えたよ。
頑張って練習すれば、二、三年で大空を飛べるんだ。
わたしは頑張って空を跳ぶ練習をしようと心に誓ったの。
**********
お読みいただき有り難うございます。
*お願い
9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
ぶしつけにこのようなお願いをして恐縮ですが、よろしくお願いします。
投票は、PCの方は表題ページの左上、「作品の情報」の上の『黄色いボタン』です。
スマホアプリの方は表題ページの「しおりから読む」の上の『オレンジ色のボタン』です。
0
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる