上 下
34 / 580
第2章 リーナと一緒に旅に出ます

第33話 ブラウニーの心遣いに感謝です

しおりを挟む
 すっかり日が落ちたころ、ほぼ一週間ぶりに我が家へ帰り着きました。
 
「これがロッテお姉ちゃんのおうち?
 リーナお姉ちゃんのおうちより大きいよ。
 ロッテお姉ちゃんってすごい貴族様だったんだ。」

 アリィシャちゃんが私の屋敷を見て目を丸くしています。

「ようこそ、アルムハイム伯国へ。
 私はシャルロッテ・フォン・アルムハイム、この国の女王よ。
 アリィシャちゃんは、この国の国民第一号になるのよ、改めて歓迎するわ。」

「?????」

 私は今まできちんとした自己紹介をしてないかったので、改めて自己紹介をしました。
 が……、アリィシャちゃんには王といっても縁遠いモノのようでピンと来ないみたいです。

「アリィシャちゃん、国ってわかる?」

「よくわかんない。
 親方が、関所で国を越えるときは税を取られるってブツクサ言っていたのは知ってる。」

「じゃあ、王って何かわかる?」

「知っているよ、偉い人でしょう。お貴族様とどっちが偉いの?」

「………。」

 私は返す言葉を失ってしまいました。
 この後、私は国と王の説明をすることになります。
 何も知らない幼子にその説明をするの大変骨が折れることだと思い知らされました。

「ふーん、じゃあ、ここはロッテお姉ちゃんの国で、リーナお姉ちゃんのいた所とは違う国なんだ。
 それで、この国の中でロッテお姉ちゃんが一番偉いの?」

「うん…、まあ、取り敢えずはそう思っておいて。」

 国民がいない国で一番偉いと言われても失笑ものですが、取り敢えずはその認識でかまないでしょう。
 詳しいことは追々教えていくことにしましょう。

 
     ***********


 アリィシャちゃんを招き入れたダイニングルームで私はため息をつきました。
 この時、リーナのお誘いを断ったことを後悔していたのです。

「夕食の準備をしなくては…。」

 そう、これから夕食の準備をしないといけないのです。
 旅で疲れ切った私には中々厳しい作業ですが、しない訳にはいきません。

 お腹を空かせたアリィシャちゃんに夕食抜きは可哀想です。
 疲れた体にムチ打って、夕食の準備を始めようと思ったとき。

「ロッテ、お帰りなさい。ごはん、食べる?」

 私の目の前にポンっと現われたアインちゃんが尋ねてきました。

「ただいま、アインちゃん。何か食べるものあるの?」

「鹿肉の煮込み作った。ロッテ、いつ帰って来ても良いように三日前から煮込んでいる。」

 なんと気の利くブラウニー達でしょう、私のためにご飯を用意していてくれたようです。
 思わず、アインちゃんの頭を撫で撫でしてしまいました。

「ねえ、ロッテお姉ちゃん、その子は誰?
 わたしも仲良くしたい。」

「この子はブラウニー隊の代表、アインちゃんよ。
 ブラウニー隊はアインちゃんみたいな子がたくさんいて、家のお手入れとかをしてくれるの。
 今日は、私達のために晩御飯を作ってくれたのだって。
 アリィシャもお礼を言って。ブラウニー隊が作るご飯はとっても美味しいのよ。」

「わーい!わたし、とってもお腹空いていたの。
 アインちゃん、ありがとう。
 わたしはアリィシャ、今日からロッテお姉ちゃんと一緒にここに住むの。
 お友達になってくれるとうれしいな。」

 アリィシャの言葉を受けてアインちゃんが、アリィシャの前までふよふよと飛んでいきました。
 そして、…。

「初めまして、アリィシャちゃん。
 アインです。これからよろしくね。」

 アインちゃんはそう言って、ぺこりと頭を下げました。
 これは珍しいことです。
 気が弱くて恥ずかししがり屋のアインたちブラウニー隊は私の前以外には姿を現しません。
 先日、リーナが来た時がそうでしたが、姿を現しても私の影に隠れるようにしているのです。
 アインちゃんが、自分から私以外の人の前に寄って行くのを初めて見ました。

 アリィシャちゃんが子供だからでしょうか、それとも精霊を視認出来る力を持っているからでしょうか。
 理由はわかりませんが、ブラウニー隊のみんながアリィシャちゃんに馴染むのであれば、それに越したことはないと思います。

 私がキッチンにブラウニー隊の用意してくれた料理を取りに行こうとすると、なんとブラウニー隊のみんなが料理を次々に運んで来てくれました。

 アインちゃん以外のブラウニーが私以外の人の前に現われるのは本当に珍しいことです。
 どうやら、アリィシャちゃんはブラウニー隊のみんなに無事受け入れられたようです。

 それから、私の契約精霊達とリア、クシィも呼んでみんなで賑やかな晩餐になりました。

 帰りがけにリーナが、精霊たちにって、たくさんの焼き菓子をお土産に持たせてくれたのです。
 もちろん、留守番をしているブラウニー達の分もたっぷりと。

「うわああ、すごい!精霊さんがこんなにたくさん!
 ロッテお姉ちゃんって、こんなにたくさんの精霊さんと一緒に暮らしていたんだ。」

 人が片側に十人は座れる晩餐用の大きなダイニングテーブルの上は、今夜はブラウニーを中心とした精霊であふれています。

 アリィシャちゃんは精霊達の多さに目を丸くしています。

「さあ、アリィシャちゃん、私達も晩御飯をいただきましょう。
 せっかくアインちゃん達が用意してくれた熱々の煮込み料理が冷めちゃいますよ。」

「はーい!いただきまーす!」

 ブラウニー隊の用意してくれた煮込み料理は、大ぶりにカットされた鹿肉がゴロゴロと入ったものでした。鹿肉と共にジャガイモ、人参、オニオンがたっぷりと煮込まれています。
 どの具材も柔らかく煮込まれており、とても深みのある味わいになっています。
   
 なによりも、九月も半ばを過ぎめっきりと冷え込むようになったこの時期、体の芯から温まる煮込み料理はとても有り難いです。
 ブラウニー隊の気遣いに感謝しなければならないですね。
 私はテーブルの上でもしゃもしゃと焼き菓子を頬張るブラウニー達に改めて感謝しました。

 温かい煮込み料理と微笑ましい精霊達の姿に、心も体も癒されたひと時でした。


     **********


 旅の疲れもあるのでしょう。
 お腹が膨れて、アリィシャちゃんは早々にウトウトとしています。

 細かい話は明日以降で良いでしょう、今日はもう眠らせてあげましょう。
 そう思い、アリィシャを寝室に案内しました。

「アリィシャちゃん、この部屋をあなたの私室にします。
 自由に使ってくださいね。
 私の部屋は隣ですので、何かあれば遠慮せずにいらしゃい。」

 私はそう言ってアリィシャちゃんをベッドまで連れて行きました。
 もう既に半分眠っていたアリィシャちゃんはワンピースを脱ぎ捨てると、もぞもぞとベッドに入って寝息を立て始めました。
 やはり、まだ幼い子供です、旅で相当疲れたのでしょう。
 私はアリィシャちゃんを起こさないように静かに部屋を出て、自室に戻りました。

 それから、数時間後のことです。
 私もそろそろ眠ろうかと思っていると部屋の扉がノックされました。
 扉を開けるとアリィシャちゃんがまぶたを擦りながら立っています。

「どうかしたの?」

 私が尋ねるとアリィシャちゃんはモジモジとしながら遠慮がちに言いました。

「部屋が広すぎて、一人じゃ落ち着かないの……。
 一緒に寝たらダメ?」

 そうですね、アリィシャちゃんはまだ五歳かそこらでしょう、まだ一人で寝るのは寂しい歳です。
 ましてや、一座の人達と一つの天幕でまとまって寝ていたと聞いています。
 きっと、目を覚ましたら一人ぼっちで心細かったのですね。

 私はアリィシャちゃんを部屋に迎え入れました。
 これからは、毎晩アリィシャちゃんと一緒に眠ることになりそうです。
 
 その晩、私はいつの間にか忘れかけていた家族のぬくもりを感じながら眠りに就いたのです。


      **********

 お読みいただき有り難うございます。
 今日も20時にもう1話投稿いたします。
 引き続きお読み頂けたら幸いです。

 *お願い
 9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
 応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
 ぶしつけにこのようなお願いをして恐縮ですが、よろしくお願いします。
 投票は、PCの方は表題ページの左上、「作品の情報」の上の『黄色いボタン』です。
 スマホアプリの方は表題ページの「しおりから読む」の上の『オレンジ色のボタン』です。
 
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...