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第2章 リーナと一緒に旅に出ます

第19話 夏の終わりに

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 このところめっきり日の出が遅くなってきた八月の終わり、私がハーブ畑の手入れを終えて一息ついているとリーナがやって来ました。

「こんにちは、ロッテ。またお邪魔するわね。」

「ごきよう、リーナ。あなたなら何時でも歓迎よ。」

 館の前の木陰に置いたテーブルでお茶を楽しんでいた私は、向かいに座ったリーナにカモミールティーを差し出します。

 八月も半ばを過ぎると暑さも幾分和らぎ、温かいハーブティがうれしい季節になりました。

「ロッテ、精霊ちゃん達にお菓子を持ってきたの。精霊ちゃん達も一緒にお茶しない?」

「あら、リーナったら私に会いに来たのではなく、精霊たちに会いに来たのかしら。」

 私は少し拗ねた振りをして見せました。

「そんな意地悪言わないで、ロッテに会いに来たに決まっているでしょう。
 でも、せっかく来たのだから精霊ちゃん達にも会いたいじゃない。」

「はいはい、冗談よ。いつも有り難うね。
 みんな、リーナがお菓子を持ってきてくれたわよ。出て来なさい。」

「「「「「「はーい!」」」」」」

 私が呼びかけるとテーブルの上に私の契約精霊たちが勢揃いします。

「キャアー!精霊ちゃん達、こんにちは!今日も可愛いわね!」

 明らかにリーナのテンションがおかしいですが、いつもこんな感じです。

「みんなにお土産を持ってきたから一緒にお茶にしましょう。甘い焼き菓子よ。」

「「「「「「わーい、リーナ大好き!」」」」」」

 精霊たちに大好きと言われて、リーナはフニャッと顔を綻ばせます。
 
 あのセルベチア軍の事件以来、リーナはふらりとやって来ては私の契約精霊を餌付けして帰っていきます。
 私が作る蜂蜜で甘みを付けたお菓子とリーナが持参する砂糖を使ったお菓子では風味が大分違うせいか、精霊達は大喜び。いつしかリーナに懐くようになりました。
 契約精霊達が余りに懐くものですから、つい嫉妬してしまいそうです。

 ひとしきり精霊たちの喜ぶ姿を堪能して満足したのか、リーナはやっと私の方を向き直りました。

「ロッテ、最近、ハーブ畑の手入れの方は忙しいの?まだ、雑草から目を離せないのかしら。」

「暑さも盛りを過ぎて朝夕がめっきり涼しくなってきましたから、雑草の勢いも落ちてきましたね。
 九月も中ほどになったら、一日、二日目を離しても大丈夫ではないでしょうか。」

 ああ、なるほど。リーナは以前の約束を楽しみにしていたのですね。
 そうですね、高緯度地方の秋は短いです、うかうかしていると直ぐに冬になってしまいます。

「じゃあ、ロッテ。前に言っていたズーリックへ行く件、九月の半ばにしませんか?
 もちろん、私も連れて行ってくださるのですよね。」

 私が話を持ち出す前に、リーナの方から言いました。
 よほど楽しみなのでしょう、期待に目を輝かせています。

「ええ、もちろん、私も初めての旅だし、リーナが一緒に行ってくれた方が心強いわ。
 それでは、九月の半ばに行くことにしましょうか。」

 
     **********


 私の家は形ばかりではありますが、帝国貴族に列せられています。
 昨年、母が亡くなり私が伯爵の地位を相続したのですが、まだ届出が済んでいなかったのです。

 帝国貴族名鑑という帝国政府が発行している貴族名簿の改定にあわせるため、今年の年末までに届出を済ませないとならないのです。

 本来ならば帝国政府に赴いて手続きをするのですが、帝国の領土は広大です。
 現に私の住むアルムハイムから帝都ヴィーナまでは五百マイル近くあります。
 帝都へ行って手続きとなると、たかが名義の書き換えで一年がかりになってしまいます。

 そこで、帝国は各地に帝国政府に対する諸手続きを行う代理人を設けているのです。
 期限のある手続きの場合、代理人に届けた時点で手続きが完了されたと看做されるのでとても便利なのです。

 クラーシュバルツ王国は帝国には属していませんが、帝国に属していたときの名残で帝国政府から委託を受けた代理人が残されています。
 そして、ここから一番近い代理人はクラーシュバルツ王国最大の都市ズーリックにいるのです。

 リーナにその話をしたら、ズーリックに行きたそうなことを言ったので誘ってみました。
 夏が終ったら一緒に行こうと約束したので、リーナはそれを心待ちにしていたようです。


「でも、リーナは大丈夫なの?
 領主の仕事を始めたのでしょう、九月の半ばって結構日がないわよ。
 急に旅行の日程など入れられるの?」

「平気、平気。
 領主といってもまだ見習いみたいなものだし、何日か留守にしても支障はないわ。
 それまでに、やるべき仕事はきちんと済ませておくし、留守中のこともちゃんと頼んでおくわ。」

 
 そこはかとなく不安を感じますが、ダメならダメでリーナの側近がちゃんと言うでしょう。


     **********


「そうそう、ロッテ。
 アルノー達にクラーシュバルツ王国に潜入しているセルベチアの工作員の名前や素性を自白するように仕向けてくれたでしょう。
 それを王宮に報告したら凄く喜ばれたの。
 報告書を元にセルベチアの工作員を一網打尽にしたそうよ。
 それで、褒賞を頂けることになったので、最新の馬車をお願いしたの。
 以前、王都からシューネフルトへくる時に使った馬車はお尻や腰が痛くなって大変だったの。
 今度の馬車はクッションが効いていて凄く乗り心地がいいのよ。 
 ズーリックに行くときに使おうと思ってお願いしたのよ。」

 そういえば、移動手段を失念していました。
 私一人なら箒で空を飛んでいくのですが、リーナを連れて空を飛ぶ訳にも行きませんものね。

 馬車ですか、乗ったことがありません。
 書物で読む限り余り乗り心地の良いものではなさそうですが、他に手もないし仕方ないですね。

「それじゃあ、リーナ、馬車の方はお願いしてよろしいかしら。
 ついでと言ったら何だけど、旅の日程をリーナにお願いできないかしら。
 私は馬車って使ったことがないので、一日にどの程度進めるかも分らないの。
 箒で飛べば一日もかからずにズーリックまで着くのだけど、馬車ではどうなのかしら。」

 ズーリックまではシューネフルトから約三十マイル、平地であれば馬車で一日要しない距離です。
 しかし、クラーシュバルツ王国全体がアルム山脈に続く高原にあり、起伏がやたら多いのです。
 馬車が一日にどの程度進めるか検討もつきません。

「ええ、わかったわ。家人に聞いて無理のない日程を組むようにするね。
 ロッテの様子だと、宿泊するアテもなさそうね。
 宿泊する場所もこちらで手配してしまって良いかしら。」

 リーナの提案は願ってもないことです。
 ここに引きこもっている私には宿の手配など至難の業です。

「申し訳ないけど頼めるかしら。
 出来れば、ズーリックでは二、三日滞在したいのだけど。」

「任せておいて。
 ズーリックでは貴族名簿の書き換え以外に何かすることがあるの。」

「一件追加でやる事が出来たけど、それは名義書き換えと同時に出来ることだから関係ないわ。
 ズーリックに二、三日滞在すると言うのは少し町を観て歩こうかと考えたのよ。
 せっかく、ズーリックまで行くのですもの、とんぼ返りでは勿体ないでしょう。
 リーナ、あなただってそうやって見聞を広げる方が良いと思うわ。」

 私の言葉を聞いたリーナは満々の笑みを湛えて言ったのです。

「うれしい、私もせっかくズーリックまで行くのだからゆっくり町を回ってみたいと思っていたの。
 でも、ロッテの都合もあるだろうからと思うと言い出せなかったの。
 じゃあ、そのように日程を組むから楽しみにしておいて。」

 話を終えるとリーナは早速計画を立てると言って、軽い足取りで帰って行きました。
 帰り際にブラウニー隊に渡す予定だったお菓子が詰まったバスケットを私に押し付けて。

 いつもは、アインを呼んで自分で手渡すのですが…。
 よほど楽しみにしているのでしょう、今日は一刻も早く帰って旅の計画を立てたいようです。

 こうして、私は九月の半ばからリーナと一緒に旅に出ることになったのです。 

 

    **********

 お読みいただき有り難うございます。
 今日も18時10分にもう1話投稿します。
 引き続きお読み頂けたら幸いです。

 *お願い
 9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
 応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
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