アラフォー傭兵の幻想戦記

アイイロモンペ

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第3章 高原の岩山の上の鳥(?)

第37話 現世(うつしよ)に帰る

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 俺とナンシーは、二度目の襲撃の翌日、早々に天空の里を辞去することにした。
これ以上いると際限なく吸い取られそうで怖いわ。

 ナンシーは、籠いっぱいの仙桃を貰ってホクホク顔だ。
ナンシー、確かそれって、一つ食べれば不老長寿って奴だろ、そんなに貰ってどうすんだ?
さっき一個食ってたよな。


「おぬしら、本当にもう帰るのか?忙しないのお、もちとゆっくりしていけば良いのに。
特にケント、おぬしとは、もっとじっくりと仲ようなりたかったぞ。」

クマリー様が下腹部をさすりながら言った。
いや、それを避けるために早く帰りたいのだが。

 送ってくれる空の民の足の爪が、俺達の肩を掴み浮き上がる。
ファっと足元に地面がなくなり、里の外の雲海に飛び込んでいく。

「さらばだ、ケント。今度は子供の顔を見に来るのだぞ!良いな!!」

 クマリー様の声が遠くで聞こえた。


     **********


 例によってあっという間に、天空の里へ旅立った時の村に着いた。
本当にどういう位置関係にあるんだろうか?

 村人が空の民にぶら下げられて帰って来た俺達を見て、心配して集まってきた。
無用な争いを避けるため、空の民には早々にお引取り願った。

「村の方々、もう大丈夫です。ご安心ください。
空の民の方は、この村も、この近隣の村も今後は襲わないことを約束してくれました。」

俺の呼びかけに、いかにも血の気が多そうな若者が、噛みついて来た。

「そんな事信じられるか!!オレは、こんなよそ者の言うことなんか信じねえぞ!!」

まあ、信じなければ信じないで良いぞ。

「若い者が無礼なことを言って申し訳ない。
まずは無事帰られてなによりだ。よろしかったら事の顛末をお聞かせ願えないだろうか?」

村の長老らしき人物が俺の前へ進み出て言った。
長老の後ろには事の発端となった廃村の長老もいる。


 俺とナンシーは、村の長老の家にいる。目の前にはこの村の長老とかつて空の民と盟約を交わした村の元長老が座っている。


 俺は、この二日間で起こったことのあらましを(ナンシーの通訳で)語って聞かせた。

「おじさんの説得で、空の民の方々の怒りの矛先は、異民族の支配者であるこの国の政府に向かいました。
 具体的には、今後空の民の繁殖のためのオスが不足したときには、この辺りの地の民の村ではなく、異民族の集まる場所、具体的には政府軍の基地から適宜攫ってくることになりました。
 既に、この二日で軍の基地から三百人近い兵士を攫ったので、今頃大騒ぎだと思います。
 空の民の長であるクマリー様は、今後地の民の村を襲うことはないと約束してくれました。」

と説明の最後に、ナンシーが締め括った。


「信じられない……。我々は本当に古の盟約から解放されたのか。」

「でも、こちらのお二人は、空の民に丁重に送られてきたぞ。信じてよいのではないか。」


 まあ、信じようが信じまいがどちらでも良い。
別に、こいつらに恩が売りたくてやったわけではない。


     **********


 俺とナンシーは、廃村の長老をつれてベースとなる町に戻ってきた。

 途中で長老を降ろしてホテルに戻ると二日も戻らずどこに行っていたと文句言われたが言葉がわからない振りでスルーした。実際に俺にはわからないし。

「おじさん、これからどうするの?」

「お土産持って、基地の様子を見に行く。」

「やっぱりぃ、おじさん、悪趣味だね。」


 俺は、ナンシーを伴ってくだんの陸軍基地にやって来た。
基地は、本当に大騒ぎになっていた。
 基地指令に面会を頼むと、「忙しい」とか言われたが何とか会うことが出来た。

「この忙しいのに何の用だ。お前らはこちらの依頼さえこなしていれば、ここに来る必要はないぞ。」

「忙しいところすみません。何があったか存じませんが大変なことになっていますね。」


「うるさい、余計な詮索するな。いったい何の用なんだ。」

「実は、この二日間、高地馴化を兼ねて色々みて回りましたら良いものを見つけまして献上に参りました。」

 俺は、基地指令の前に宝箱を一つ差し出した。

「これは、現地人の職人が作った物ですが素晴らしいでしょう。光沢にある黒漆に夜光貝の螺鈿が映えて美しいこと。それに加えて、大粒のオパールの配置が絶妙でしょう。このオパール、もちろんイミテーションじゃないですよ。」

 どの位の価値のあるものかはわからないので、大げさに言ってみた。
だって、クマリー様が良いものだって言って俺にくれたんだもん。

「これは、本当に現地人が作ったものか?あいつらの中にこんな素晴らしい物を作れる者がいるのか。気に入ったぞ、有り難く貰っておこう。」

「ああ、すみません献上品はこちらです。
それは、俺があちこち触ってしまって、手の油が付いてます。
こちらはまったく同じ物ですが、まだ包装された状態の物です。
二つありますので、ご笑納ください。」

そういって、俺はビニールに包まれた宝石箱を二つ差出し、元の一つを回収した。

「おおそうか、気を利かせてもらって悪いな。」

その後、上機嫌な司令官に送られて俺たちは基地を後にした。


「おじさん、あの豪華な宝石箱はなんなの?ただの宝石箱じゃないでしょう。
おじさんが蛇蝎のように嫌っているあの軍の司令官に上げたんだから変なものでしょう?」

まあ、ちょっと待てって、お楽しみはあとにとっておこうぜ。











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