29 / 40
第3章 高原の岩山の上の鳥(?)
第29話 やっぱり高原へ
しおりを挟む
俺とナンシーは、今回のミッションを断固として拒否した。
ちなみに、ここハインツ・セキュリティー・サービスでは、仕事を請け負うか否かは合意制をとっており仕事の拒否は可能だ。
まあ、実際に拒否するような事案は殆どなく、俺も二十五年勤めて初めてだ。
会社によっては、受注拒否は一切認めない会社もあるんでここは、良心的だと思う。
だいたい、俺とナンシーをあの国に送るというのは無謀だろ、下手したら反政府運動に寝返るぞ。
俺は、愛国心などこれっぽっちも持ち合わせてないが、向こうが俺を日本人だといって目の敵にするなら俺もやり返すぞ。
結局おっさんと俺たちの交渉は平行線で時間ばかりが浪費されていった。
そろそろ日付も変わろうという頃になって、万策尽きたのだろうおっさんは、いきなり俺たちの前に土下座した。いや、土下座するスイス人って初めて見た。
おっさんは、「身の安全を第一にし、やばいと思ったらすぐ仕事を放棄してよい。」、「仕事は適当でよい。」といい、一応仕事を請けたという体裁だけ整えてくれと言い出した。
結局俺たちは、途中任務放棄しても約束通りのギャラは払う、ギャラは通常の倍とするという条件で仕事を引き受けることになった。
やっぱり、あのおっさんのほうが一枚上手だ。
今回は、仮想敵国の仕事を請け負うということで、L‐ATVとかカールグスタフとかミニミとか新兵器だったり高性能武器だったりするものは持っていけないことになった。
おい、ミニミなしで射撃の腕のしょぼい俺はどうすればいいんだ。
今回の兵装は、旧型のハンヴィー、M4カービン、RPG、ハンドキャノン、MⅡ重機関銃という三十年前の軍隊のような物になった。
まあ、反政府勢力には使いたくないしな、あの国の軍隊に背中から打たれたときに、この装備で逃げ切れるかどうかが問題だな。
**********
それから一週間後の昼過ぎ、俺はチューリッヒ国際空港でナンシーと待ち合わせた。
今回は珍しく昼過ぎのフライトだ。このところ夜逃げかと言いたくなる様なフライトが多かったからな。
俺は、手ぶらでいつものナッパ服だ。財布?パスポート?全部ポケットに入っているさ。
今回は、ナンシーもデニムのホットパンツにジージャンというやる気のない格好だ。
「おっさん、今回のミッションよく引き受けたね。私、絶対に断ると思ったよ。」
「断りたかったさ、でもな俺とおっさんの仲だから、嫌と言えなかったぜ。
きっと、みんなに断られて、最後に俺に回ってきたんだと思うから。
それより、ナンシーこそ断ったって良かったんだぜ。」
「いやさ、おっさんと組むと毎度不思議な出来事に巻き込まれるからさ、今度も面白いことがあるかと思って。」
ここに馬鹿がいた。面白いかもって言う理由だけで火中の栗を拾いにいく馬鹿が。
こうして俺たちは、スイスエア百九十六便の機上の人となった。
**********
翌朝早朝、まだ眠い時間に俺たちはクラアントの首都の空港に着いた。
着いた早々、軍関係者に連れられ、首都郊外にある軍の飛行場にやって来た。
このまま、軍用機で目的の高原まで行くらしい。
サービスが良いんじゃないぞ。俺たちを監視すると共に俺たちが余計な場所に行かないようにしているだけだ。
俺たちに行動の自由はないじゃないか。
えらい長時間輸送機に揺られて、俺たちは目的の高原まで来た。
やばい、空気が薄い。じっくり馴らさないで動くと高山病で死ぬ。
俺たちは、クライアントの方面軍の責任者に会わされた。
「私は、依頼した仕事をきちんとやってもらえるなら、どこの国籍のものでも構わない。
君達が我々が支払うギャラの分しっかり働いてくれることを期待するよ。」
とだけ言って、もう用はないから出て行けという感じだった。
俺は、責任者に対し、高地馴化に時間をかけないと活動が難しいので仕事に取り掛かる前に少し時間が欲しいと要求した。
奴は嫌な顔をしたが、妥当だと判断したのか仕事を始めるのは五日後からとしてくれた。
さすがに、軍事機密があるのか、寝床は基地内ではなく、取締りの拠点とするように言われている街の宿屋であった。
結構まともな宿屋だったが、ここもクライアントの息のかかった宿なんだろう。
部屋に入った後ナンシーがやってきて、
「この宿って言うか、私たちの部屋?盗聴器がたくさんあるんだけどどうする?」
と聞いてきた。いやナンシー、それも聞こえちゃっているから、そういうのは筆談にしろよ。
「ほっとくしかないんじゃない。外すと余計に監視がきつくなるぜ。別に聞かれて困ることするわけじゃないから、放置でいいよ。
それより、飯どうする?俺、この辺来たの初めてだから、何か地元のもの食いに行かないか?」
「いいね、この宿にいても息が詰まるから、外いこうか。」
俺とナンシーは、夕食をとるために連れ立ってホテルを出た。
イテッ!
外へ出てすぐに頭に何かぶつかった。えっ、と思ったら次々に小さな石ころが降ってくる。
石ころが飛んでくる方向を見ると、まだ小さな子供達が、
「政府の犬どもめ、早くこの街から出て行け」
と叫びながら石を投げていた。
いや怒らないよ、あのくらいの石なんて当たっても痛くないし。
でも、これは本当に面倒くさい場所に来たと思った。
やっぱり、来るんじゃなかった。
ちなみに、ここハインツ・セキュリティー・サービスでは、仕事を請け負うか否かは合意制をとっており仕事の拒否は可能だ。
まあ、実際に拒否するような事案は殆どなく、俺も二十五年勤めて初めてだ。
会社によっては、受注拒否は一切認めない会社もあるんでここは、良心的だと思う。
だいたい、俺とナンシーをあの国に送るというのは無謀だろ、下手したら反政府運動に寝返るぞ。
俺は、愛国心などこれっぽっちも持ち合わせてないが、向こうが俺を日本人だといって目の敵にするなら俺もやり返すぞ。
結局おっさんと俺たちの交渉は平行線で時間ばかりが浪費されていった。
そろそろ日付も変わろうという頃になって、万策尽きたのだろうおっさんは、いきなり俺たちの前に土下座した。いや、土下座するスイス人って初めて見た。
おっさんは、「身の安全を第一にし、やばいと思ったらすぐ仕事を放棄してよい。」、「仕事は適当でよい。」といい、一応仕事を請けたという体裁だけ整えてくれと言い出した。
結局俺たちは、途中任務放棄しても約束通りのギャラは払う、ギャラは通常の倍とするという条件で仕事を引き受けることになった。
やっぱり、あのおっさんのほうが一枚上手だ。
今回は、仮想敵国の仕事を請け負うということで、L‐ATVとかカールグスタフとかミニミとか新兵器だったり高性能武器だったりするものは持っていけないことになった。
おい、ミニミなしで射撃の腕のしょぼい俺はどうすればいいんだ。
今回の兵装は、旧型のハンヴィー、M4カービン、RPG、ハンドキャノン、MⅡ重機関銃という三十年前の軍隊のような物になった。
まあ、反政府勢力には使いたくないしな、あの国の軍隊に背中から打たれたときに、この装備で逃げ切れるかどうかが問題だな。
**********
それから一週間後の昼過ぎ、俺はチューリッヒ国際空港でナンシーと待ち合わせた。
今回は珍しく昼過ぎのフライトだ。このところ夜逃げかと言いたくなる様なフライトが多かったからな。
俺は、手ぶらでいつものナッパ服だ。財布?パスポート?全部ポケットに入っているさ。
今回は、ナンシーもデニムのホットパンツにジージャンというやる気のない格好だ。
「おっさん、今回のミッションよく引き受けたね。私、絶対に断ると思ったよ。」
「断りたかったさ、でもな俺とおっさんの仲だから、嫌と言えなかったぜ。
きっと、みんなに断られて、最後に俺に回ってきたんだと思うから。
それより、ナンシーこそ断ったって良かったんだぜ。」
「いやさ、おっさんと組むと毎度不思議な出来事に巻き込まれるからさ、今度も面白いことがあるかと思って。」
ここに馬鹿がいた。面白いかもって言う理由だけで火中の栗を拾いにいく馬鹿が。
こうして俺たちは、スイスエア百九十六便の機上の人となった。
**********
翌朝早朝、まだ眠い時間に俺たちはクラアントの首都の空港に着いた。
着いた早々、軍関係者に連れられ、首都郊外にある軍の飛行場にやって来た。
このまま、軍用機で目的の高原まで行くらしい。
サービスが良いんじゃないぞ。俺たちを監視すると共に俺たちが余計な場所に行かないようにしているだけだ。
俺たちに行動の自由はないじゃないか。
えらい長時間輸送機に揺られて、俺たちは目的の高原まで来た。
やばい、空気が薄い。じっくり馴らさないで動くと高山病で死ぬ。
俺たちは、クライアントの方面軍の責任者に会わされた。
「私は、依頼した仕事をきちんとやってもらえるなら、どこの国籍のものでも構わない。
君達が我々が支払うギャラの分しっかり働いてくれることを期待するよ。」
とだけ言って、もう用はないから出て行けという感じだった。
俺は、責任者に対し、高地馴化に時間をかけないと活動が難しいので仕事に取り掛かる前に少し時間が欲しいと要求した。
奴は嫌な顔をしたが、妥当だと判断したのか仕事を始めるのは五日後からとしてくれた。
さすがに、軍事機密があるのか、寝床は基地内ではなく、取締りの拠点とするように言われている街の宿屋であった。
結構まともな宿屋だったが、ここもクライアントの息のかかった宿なんだろう。
部屋に入った後ナンシーがやってきて、
「この宿って言うか、私たちの部屋?盗聴器がたくさんあるんだけどどうする?」
と聞いてきた。いやナンシー、それも聞こえちゃっているから、そういうのは筆談にしろよ。
「ほっとくしかないんじゃない。外すと余計に監視がきつくなるぜ。別に聞かれて困ることするわけじゃないから、放置でいいよ。
それより、飯どうする?俺、この辺来たの初めてだから、何か地元のもの食いに行かないか?」
「いいね、この宿にいても息が詰まるから、外いこうか。」
俺とナンシーは、夕食をとるために連れ立ってホテルを出た。
イテッ!
外へ出てすぐに頭に何かぶつかった。えっ、と思ったら次々に小さな石ころが降ってくる。
石ころが飛んでくる方向を見ると、まだ小さな子供達が、
「政府の犬どもめ、早くこの街から出て行け」
と叫びながら石を投げていた。
いや怒らないよ、あのくらいの石なんて当たっても痛くないし。
でも、これは本当に面倒くさい場所に来たと思った。
やっぱり、来るんじゃなかった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる