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第3章 高原の岩山の上の鳥(?)
第29話 やっぱり高原へ
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俺とナンシーは、今回のミッションを断固として拒否した。
ちなみに、ここハインツ・セキュリティー・サービスでは、仕事を請け負うか否かは合意制をとっており仕事の拒否は可能だ。
まあ、実際に拒否するような事案は殆どなく、俺も二十五年勤めて初めてだ。
会社によっては、受注拒否は一切認めない会社もあるんでここは、良心的だと思う。
だいたい、俺とナンシーをあの国に送るというのは無謀だろ、下手したら反政府運動に寝返るぞ。
俺は、愛国心などこれっぽっちも持ち合わせてないが、向こうが俺を日本人だといって目の敵にするなら俺もやり返すぞ。
結局おっさんと俺たちの交渉は平行線で時間ばかりが浪費されていった。
そろそろ日付も変わろうという頃になって、万策尽きたのだろうおっさんは、いきなり俺たちの前に土下座した。いや、土下座するスイス人って初めて見た。
おっさんは、「身の安全を第一にし、やばいと思ったらすぐ仕事を放棄してよい。」、「仕事は適当でよい。」といい、一応仕事を請けたという体裁だけ整えてくれと言い出した。
結局俺たちは、途中任務放棄しても約束通りのギャラは払う、ギャラは通常の倍とするという条件で仕事を引き受けることになった。
やっぱり、あのおっさんのほうが一枚上手だ。
今回は、仮想敵国の仕事を請け負うということで、L‐ATVとかカールグスタフとかミニミとか新兵器だったり高性能武器だったりするものは持っていけないことになった。
おい、ミニミなしで射撃の腕のしょぼい俺はどうすればいいんだ。
今回の兵装は、旧型のハンヴィー、M4カービン、RPG、ハンドキャノン、MⅡ重機関銃という三十年前の軍隊のような物になった。
まあ、反政府勢力には使いたくないしな、あの国の軍隊に背中から打たれたときに、この装備で逃げ切れるかどうかが問題だな。
**********
それから一週間後の昼過ぎ、俺はチューリッヒ国際空港でナンシーと待ち合わせた。
今回は珍しく昼過ぎのフライトだ。このところ夜逃げかと言いたくなる様なフライトが多かったからな。
俺は、手ぶらでいつものナッパ服だ。財布?パスポート?全部ポケットに入っているさ。
今回は、ナンシーもデニムのホットパンツにジージャンというやる気のない格好だ。
「おっさん、今回のミッションよく引き受けたね。私、絶対に断ると思ったよ。」
「断りたかったさ、でもな俺とおっさんの仲だから、嫌と言えなかったぜ。
きっと、みんなに断られて、最後に俺に回ってきたんだと思うから。
それより、ナンシーこそ断ったって良かったんだぜ。」
「いやさ、おっさんと組むと毎度不思議な出来事に巻き込まれるからさ、今度も面白いことがあるかと思って。」
ここに馬鹿がいた。面白いかもって言う理由だけで火中の栗を拾いにいく馬鹿が。
こうして俺たちは、スイスエア百九十六便の機上の人となった。
**********
翌朝早朝、まだ眠い時間に俺たちはクラアントの首都の空港に着いた。
着いた早々、軍関係者に連れられ、首都郊外にある軍の飛行場にやって来た。
このまま、軍用機で目的の高原まで行くらしい。
サービスが良いんじゃないぞ。俺たちを監視すると共に俺たちが余計な場所に行かないようにしているだけだ。
俺たちに行動の自由はないじゃないか。
えらい長時間輸送機に揺られて、俺たちは目的の高原まで来た。
やばい、空気が薄い。じっくり馴らさないで動くと高山病で死ぬ。
俺たちは、クライアントの方面軍の責任者に会わされた。
「私は、依頼した仕事をきちんとやってもらえるなら、どこの国籍のものでも構わない。
君達が我々が支払うギャラの分しっかり働いてくれることを期待するよ。」
とだけ言って、もう用はないから出て行けという感じだった。
俺は、責任者に対し、高地馴化に時間をかけないと活動が難しいので仕事に取り掛かる前に少し時間が欲しいと要求した。
奴は嫌な顔をしたが、妥当だと判断したのか仕事を始めるのは五日後からとしてくれた。
さすがに、軍事機密があるのか、寝床は基地内ではなく、取締りの拠点とするように言われている街の宿屋であった。
結構まともな宿屋だったが、ここもクライアントの息のかかった宿なんだろう。
部屋に入った後ナンシーがやってきて、
「この宿って言うか、私たちの部屋?盗聴器がたくさんあるんだけどどうする?」
と聞いてきた。いやナンシー、それも聞こえちゃっているから、そういうのは筆談にしろよ。
「ほっとくしかないんじゃない。外すと余計に監視がきつくなるぜ。別に聞かれて困ることするわけじゃないから、放置でいいよ。
それより、飯どうする?俺、この辺来たの初めてだから、何か地元のもの食いに行かないか?」
「いいね、この宿にいても息が詰まるから、外いこうか。」
俺とナンシーは、夕食をとるために連れ立ってホテルを出た。
イテッ!
外へ出てすぐに頭に何かぶつかった。えっ、と思ったら次々に小さな石ころが降ってくる。
石ころが飛んでくる方向を見ると、まだ小さな子供達が、
「政府の犬どもめ、早くこの街から出て行け」
と叫びながら石を投げていた。
いや怒らないよ、あのくらいの石なんて当たっても痛くないし。
でも、これは本当に面倒くさい場所に来たと思った。
やっぱり、来るんじゃなかった。
ちなみに、ここハインツ・セキュリティー・サービスでは、仕事を請け負うか否かは合意制をとっており仕事の拒否は可能だ。
まあ、実際に拒否するような事案は殆どなく、俺も二十五年勤めて初めてだ。
会社によっては、受注拒否は一切認めない会社もあるんでここは、良心的だと思う。
だいたい、俺とナンシーをあの国に送るというのは無謀だろ、下手したら反政府運動に寝返るぞ。
俺は、愛国心などこれっぽっちも持ち合わせてないが、向こうが俺を日本人だといって目の敵にするなら俺もやり返すぞ。
結局おっさんと俺たちの交渉は平行線で時間ばかりが浪費されていった。
そろそろ日付も変わろうという頃になって、万策尽きたのだろうおっさんは、いきなり俺たちの前に土下座した。いや、土下座するスイス人って初めて見た。
おっさんは、「身の安全を第一にし、やばいと思ったらすぐ仕事を放棄してよい。」、「仕事は適当でよい。」といい、一応仕事を請けたという体裁だけ整えてくれと言い出した。
結局俺たちは、途中任務放棄しても約束通りのギャラは払う、ギャラは通常の倍とするという条件で仕事を引き受けることになった。
やっぱり、あのおっさんのほうが一枚上手だ。
今回は、仮想敵国の仕事を請け負うということで、L‐ATVとかカールグスタフとかミニミとか新兵器だったり高性能武器だったりするものは持っていけないことになった。
おい、ミニミなしで射撃の腕のしょぼい俺はどうすればいいんだ。
今回の兵装は、旧型のハンヴィー、M4カービン、RPG、ハンドキャノン、MⅡ重機関銃という三十年前の軍隊のような物になった。
まあ、反政府勢力には使いたくないしな、あの国の軍隊に背中から打たれたときに、この装備で逃げ切れるかどうかが問題だな。
**********
それから一週間後の昼過ぎ、俺はチューリッヒ国際空港でナンシーと待ち合わせた。
今回は珍しく昼過ぎのフライトだ。このところ夜逃げかと言いたくなる様なフライトが多かったからな。
俺は、手ぶらでいつものナッパ服だ。財布?パスポート?全部ポケットに入っているさ。
今回は、ナンシーもデニムのホットパンツにジージャンというやる気のない格好だ。
「おっさん、今回のミッションよく引き受けたね。私、絶対に断ると思ったよ。」
「断りたかったさ、でもな俺とおっさんの仲だから、嫌と言えなかったぜ。
きっと、みんなに断られて、最後に俺に回ってきたんだと思うから。
それより、ナンシーこそ断ったって良かったんだぜ。」
「いやさ、おっさんと組むと毎度不思議な出来事に巻き込まれるからさ、今度も面白いことがあるかと思って。」
ここに馬鹿がいた。面白いかもって言う理由だけで火中の栗を拾いにいく馬鹿が。
こうして俺たちは、スイスエア百九十六便の機上の人となった。
**********
翌朝早朝、まだ眠い時間に俺たちはクラアントの首都の空港に着いた。
着いた早々、軍関係者に連れられ、首都郊外にある軍の飛行場にやって来た。
このまま、軍用機で目的の高原まで行くらしい。
サービスが良いんじゃないぞ。俺たちを監視すると共に俺たちが余計な場所に行かないようにしているだけだ。
俺たちに行動の自由はないじゃないか。
えらい長時間輸送機に揺られて、俺たちは目的の高原まで来た。
やばい、空気が薄い。じっくり馴らさないで動くと高山病で死ぬ。
俺たちは、クライアントの方面軍の責任者に会わされた。
「私は、依頼した仕事をきちんとやってもらえるなら、どこの国籍のものでも構わない。
君達が我々が支払うギャラの分しっかり働いてくれることを期待するよ。」
とだけ言って、もう用はないから出て行けという感じだった。
俺は、責任者に対し、高地馴化に時間をかけないと活動が難しいので仕事に取り掛かる前に少し時間が欲しいと要求した。
奴は嫌な顔をしたが、妥当だと判断したのか仕事を始めるのは五日後からとしてくれた。
さすがに、軍事機密があるのか、寝床は基地内ではなく、取締りの拠点とするように言われている街の宿屋であった。
結構まともな宿屋だったが、ここもクライアントの息のかかった宿なんだろう。
部屋に入った後ナンシーがやってきて、
「この宿って言うか、私たちの部屋?盗聴器がたくさんあるんだけどどうする?」
と聞いてきた。いやナンシー、それも聞こえちゃっているから、そういうのは筆談にしろよ。
「ほっとくしかないんじゃない。外すと余計に監視がきつくなるぜ。別に聞かれて困ることするわけじゃないから、放置でいいよ。
それより、飯どうする?俺、この辺来たの初めてだから、何か地元のもの食いに行かないか?」
「いいね、この宿にいても息が詰まるから、外いこうか。」
俺とナンシーは、夕食をとるために連れ立ってホテルを出た。
イテッ!
外へ出てすぐに頭に何かぶつかった。えっ、と思ったら次々に小さな石ころが降ってくる。
石ころが飛んでくる方向を見ると、まだ小さな子供達が、
「政府の犬どもめ、早くこの街から出て行け」
と叫びながら石を投げていた。
いや怒らないよ、あのくらいの石なんて当たっても痛くないし。
でも、これは本当に面倒くさい場所に来たと思った。
やっぱり、来るんじゃなかった。
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