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第2章 南海の珊瑚の森の女王様
第20話 遭遇
しおりを挟むナンシーと気長に待とうといった翌日、朝ムラカの港を出てしばらくするとナンシーが不審な船を見つけた。
ナンシーによれば、ダウ船という種類の古びた木造船が二隻、一直線に小型の輸送船に向けて進んでいるようだ。
ダウ船と輸送船の距離はもう五百メートルもないらしい。
「おじさん、あれ、当たりじゃない。普通この距離で、他の船に舳先を向けて一直線に進んでいくって、襲撃するとしか思えないんだけど。」
「わかった、少し速度を上げて、もう少し距離を詰めてみるぞ。」
目的のダウ船との距離が二百メートルを切るくらいまで接近したとき、
「ねえ、おじさん。ビンゴだよ!あいつらAKを持っている。何か慌ただしくやっているよ。襲撃準備じゃない。」
「じゃあ、こっちも準備しますか。ナンシー、射手は任せたぞ。好きに殺ればいいが、間違っても輸送船には中てるなよ。」
ナンシーは、陽気に「ラジャー」というと、席を立って銃架に向かった。
さて、俺は奴らが輸送船に追いつく前に接近しますかね。
俺は四十ノットまで速度を上げた、いやこれ以上スピード上げたら、俺もナンシーも酔うから。
旧式のダウ船の速度は遅く、おそらく二十ノットは出ていないだろう、彼我の速度差は二倍。
見る間に、ダウ船との距離が縮まっていく。
「おじさん、なんか奴ら、みんなこっち向いてるよ。あ、撃ってきた。」
どうも、こちらに気付いた海賊は、輸送船の襲撃より先に、俺たちの排除をする気になったらしい。
海賊は、一隻に三十人くらい乗っているか、こちらに向けて一斉にAKを撃ってきた。
「おじさん、近づき過ぎ、あたる、あたる、あたっちゃうよ。」
どうやら、操縦に集中するあまり近寄りすぎたらしい。そうだよな、普通周りを警戒しているよな。
俺は、慌てて舵を切り、ダウ船と距離をとる。
「わりー、ナンシー。生きてるか?
慣れない船の操縦で、距離感がおかしくなっていたみたいだ。」
「おじさん、ひどいよ。私は、何とか無事だけど。船は小さな穴がいっぱいあいてるよ。」
お前が無事なら問題ないさ、どうせ穴は外装の表面で止まってるって。
そうこうしている間にも、ダウ船は輸送船に近づいていく。
「おいナンシー、輸送船と海賊船の間にこの船を割り込ませるから、射撃任せるぞ。
多少、照準は甘くてもいい、とにかく海賊船に向けて銃弾をばら撒け。」
「分かった。やってみる。」
速度を上げた俺たちは、間一髪、輸送船と海賊と思しきダウ船の距離が百メートルというところで、輸送船の盾となるように割り込ませることができた。
割り込み体制となった時点で、ナンシーはM二重機関銃の十二.五ミリ弾をばら撒いていた。
流石に、M二の張る弾幕に抵抗できず、海賊の発砲は止むが、
「ダメだ、おじさん、奴ら土嚢みたいなもの積んでて、こちらが弾幕を張るとその後ろに隠れるんで有効打になっていないよ。」
「なあ、ナンシー、木造船ならM三八の二五ミリで打ち抜けないのか?沈められるんじゃないか?ダメもとでやってみたらどうだ。」
ナンシーが、すばやく銃架を移動し、M三八機関砲を撃ち始める。流石に、船体ではなく土嚢を狙っているようだ。
二五ミリ弾の威力はたいしたもんで、土嚢を弾き飛ばして後ろに隠れている海賊どもを死をもたらした。
どのくらいの時間交戦しただろうか、海賊船はこちらから徐々に距離をとり始めた。
「おじさん、奴ら逃げるよ。」
「よし、泳がして奴らのねぐらを暴くぞ。まだ、午前中だ見失うことはあるまい。
さっきはすぐ後ろに輸送船がいたから使えなかったけど、今度はカールグスタフを使うぞ。
絶対に沈めてやる。」
***********
そして数時間後
俺たちは、まだ海賊船二隻を追跡している。
「おじさん、あいつら私たちの尾行に気付いているよ。
拠点を隠すために、あっちこっちへ航路を変えているんだよ。
奴らきっと夜までねぐらに帰らない心算だよ。夜陰にまみれて私たちをまく心算だよ。
もう沈めちゃおうよ。おじさんの腕じゃ夜になったら絶対に追跡できないよ。」
まあ、言われて見れば、その通りか。
こんな目立つ船じゃ、追いかけて来ているのは丸分かりだよな。
アジトを突き止めるのが困難であれば速やかに排除せよという指示なんだから沈めちまおうか。
「じゃあ、ナンシー、よろしく。じゃあ、俺は敵さんとの距離を詰めるぜ。」
俺は、八十四ミリ無反動砲の射程に捕らえるべく、海賊船に向けて加速させた。
彼我の距離が百メートルくらいまで迫ったところで、ナンシーはカールグスタフの引き金を弾いた。
「ドーン」という発射音と共に、後方にバックブラストを撒き散らした多目的榴弾は、木造船の外装を突き破って炸裂した。
流石に木造船といえど、八十四ミリ弾で沈めるのは無理かと思っていると、何かに引火したのか目の前で海賊船に爆発が起こった。
あっという間に、火に包まれる海賊船、生き残った海賊達が次々と海に飛び込み、もう一隻の海賊船に向かって泳いでいく。
逃げる海賊達をナンシーは見逃すわけがない。
まずは、次弾を装てんしたカールグスタフでもう一隻の海賊船を狙う。
仲間の収容のために止まっている海賊船を狙うことなど、ナンシーにとっては児戯にも等しい。
八十四ミリの多目的榴弾は、狙いを外さず海賊船に吸い込まれ炸裂した。
さすがに、そう都合よく何かに引火するということはなく、側舷に穴をあけながらも海賊船は健在である。
ナンシーは、足元においてあった予備のカールグスタフを手に取ると、すぐさま引き金を弾いた。
海賊船に二つ目の風穴が開く、今度は燃料タンクか何かをぶち抜いたようだ。
海賊船が黒煙を上げた。
そして、やおら、M二重機関銃に取り付いたナンシーは、海の中を逃げ惑う海賊どもに向けて容赦なく銃弾をばら撒いた。
比喩表現ではなく、海が血の色に染まった。
よっぽど、AKの斉射を受けたことを恨んでいたのだろう、本当に容赦なかった。
ちょっと待て、ナンシー、尋問したいから何人か生かしておけ。
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