アラフォー傭兵の幻想戦記

アイイロモンペ

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第2章 南海の珊瑚の森の女王様

第18話 南の国へ

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 俺は、未だチューリッヒにいた。俺は、傭兵を始めてから二十五年アパートを借りたことがない。
本当の宿無しだ。インターミッションの時は大体待機を命じられた街の娼館に居座っている。
 今、俺はリンマートクヴァイ通りから丘側に狭い路地を入ったところにある馴染みの娼館にいる。
俺の横には、自称二十歳の娼婦が、俺の白濁液まみれで横たわっている。
 俺には娼婦の歳はよくわからん。大概は鯖読んでいるというから二十歳よりは上なんだろう。
珍しく日本人だった。いや、正確には日本語を母国語のように話す日本人に見える女か。
 とにかく、久しぶりの同国人に興奮してしまって、もう二日買い続けている。
 でも、それもここまで、今日からは仕事だ。


     **********


 俺は今チューリッヒ本社の社長室にいる。ここも立派になったもんだ。
社長室の窓からは、天下のUBSの本社が間近に見える。
俺が社長に騙されて引き込まれたときにはチューリッヒとは名ばかりの田舎にあったのにな。

 目の前の社長は、ぜんぜん変わっていない人懐っこい善人顔だ。
変わったといえば、スーツがよれよれなのから、ブランド品に変わったぐらいか。

 社長のハインツは、俺に向かって、二十五年前と同じ口調で、

「ようケント、休みは楽しんだかい?
結婚するんだって、いいのか?そんなフラグ立てちまいやがって。
お前の故郷じゃ、死亡フラグって言うんだろう。」

「なんだ、そんな与太話するために呼んだんか。」

「わりいな、ついお前の顔見ているとからかいたくなる。
オメーは、あんまり変わってないな。ホッとするよ。
で、今度はマレーシアだ。クライアントはマレーシア政府。
ミッションはマラッカ海峡の海賊退治だ。
詳しい期間とかターゲットとかはクアラルンプール支局で聞いてくれ。
それとナンシーな、お前と気が合うみたいなんで今回も宜しくな。
フライトは今晩スイスエア一七六便を押さえてある。
少しはまともな服装してけよ。この間みたいに不審者扱いされても知らんぞ。」

「なんだ、また真夜中の出発か?夜逃げするみてえじゃないか。」

「まあ、そういいなさんな。
ナンシーとは隣の席だから飛行機で合流でいいぞ。」

 フライトは、今夜十一時前である。
未だ半日もある。娼館は引き払ってしまって、今更戻る気にもならん。
どうしようかと思っていると、ハインツが安いバーボンとジャーキーを持ってきた。
 昔は、ぼろい社長室で、みんなと一緒に飲んだよなその安酒、嫌いじゃないぜ。


      **********


 結局、ぎりぎりまで飲んじまった。
あの社長仕事ほっぽって昼間から酒食らって良かったんだろうか?

 俺は酒臭い赤ら顔でチューリッヒ国際空港の出国カウンターにたどり着いた。
現在、十時十五分フライト三十分前だ、出国手続きを終えて座席に着くと既にナンシーは座ってっていた。
 まあ、当たり前か、定刻の十分前なんだから。


「おじさん、久しぶり。相変わらずマイペースだね。
相変わらず場にそぐわない格好しているし。
アロハシャツと短パン着てサンダル履きでビジネスクラスに乗っている人なんて初めて見たよ。」

 そういうナンシーは、限りなく白に近い薄いピンクのワンピースを着ている。
薄手のワンピースは、首回りとかにレースを使った涼しげなもので、いかにも南国リゾートへ向かうお嬢様という装いである。

「うるせえ、日本人が南国に行くときは、この格好がデフォなんだよ。
オメーこそ、そんなオボコぶった格好して、地元のチェリーボーイでも摘もうってか。」

「ひっどーい、おじさんはそう言うけど、私も地元に帰れば一応お嬢様なんですけど。」

「ところで、振込みしておいたの確認してくれたか?」

「あ、あれね。凄いね一枚で百五十万ドルだって、自由に換金できないのが難点だけどね。
私達もう一生働かなくていいじゃない。
でもいいの?振り込んでくれたのって、おじさんの物をオークションに掛けた代金じゃない。」

「いいだよ、どうせたくさんあるし。一生の間に換金しきれねえよ。
換金できるのは、せいぜい十年に数枚がいいとこだろうよ。
なんせ、現時点で六枚しか世界中に流通してないもんだからな。」

「それもそうか、じゃあ、有り難くもらっとくね。
おじさん、お礼におじさんの素人童貞もらってあげよう。
そこの、トイレで一発やっとく?」

「いらねーよ、オメーその辺の街娼たちんぼより遣り込んでるじゃないか。
オメー抱くくらいなら、ベガス辺りにエスコートレディ買いに行くよ。
まだ、行った事ないんだ。」

「おじさん、またそんな無駄遣い考えているの。私ならロハで股開くのに。」

「だから、そういうのが嫌だと言ってるんだよ。」


 くだらないやり取りをしているうちに寝てしまい、気が付いたらシンガポールに降りるところだった。
シンガポール乗継でクアラルンプールへ着いた時は、もう夕暮れ時だった。
 今回は、空港へ迎えに来た職員と無事合流でき、クアラルンプールの目抜き通りにある支局にたどり着いた。


     **********


 支局に着くと見知った顔が出迎えてくれた。
中華系マレーシア人のヤンだ。俺と同じ頃に傭兵となって何度となく一緒に行動した仲だ。

「よお、ジャップ!よく来てくれたな。また会えて嬉しいよ。
今回はよろしく頼むぞ。ジャップが来てくれたんなら心強いぜ。」

「ヤン、久しぶりだな。最近見ないと思っていたら、こんなところで偉くなっていたんだ。
知らなかったぜ。出世おめでとう。」

「もう体力的に限界で傭兵家業から足を洗おうと思っていたら、社長が椅子を用意してくれたんだ。
本当にいい社長だよ。二十年もクソみたいな戦場で頑張った甲斐があるってもんだよ。」

 
 俺たちは、ヤンからミッションについてのブリーフィングを受けたあと、用意されたホテルに入った。
明日は、朝からマラッカに向けて移動である。
 やれやれ、また移動か……・







  


 
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