18 / 40
第2章 南海の珊瑚の森の女王様
第18話 南の国へ
しおりを挟む
俺は、未だチューリッヒにいた。俺は、傭兵を始めてから二十五年アパートを借りたことがない。
本当の宿無しだ。インターミッションの時は大体待機を命じられた街の娼館に居座っている。
今、俺はリンマートクヴァイ通りから丘側に狭い路地を入ったところにある馴染みの娼館にいる。
俺の横には、自称二十歳の娼婦が、俺の白濁液まみれで横たわっている。
俺には娼婦の歳はよくわからん。大概は鯖読んでいるというから二十歳よりは上なんだろう。
珍しく日本人だった。いや、正確には日本語を母国語のように話す日本人に見える女か。
とにかく、久しぶりの同国人に興奮してしまって、もう二日買い続けている。
でも、それもここまで、今日からは仕事だ。
**********
俺は今チューリッヒ本社の社長室にいる。ここも立派になったもんだ。
社長室の窓からは、天下のUBSの本社が間近に見える。
俺が社長に騙されて引き込まれたときにはチューリッヒとは名ばかりの田舎にあったのにな。
目の前の社長は、ぜんぜん変わっていない人懐っこい善人顔だ。
変わったといえば、スーツがよれよれなのから、ブランド品に変わったぐらいか。
社長のハインツは、俺に向かって、二十五年前と同じ口調で、
「ようケント、休みは楽しんだかい?
結婚するんだって、いいのか?そんなフラグ立てちまいやがって。
お前の故郷じゃ、死亡フラグって言うんだろう。」
「なんだ、そんな与太話するために呼んだんか。」
「わりいな、ついお前の顔見ているとからかいたくなる。
オメーは、あんまり変わってないな。ホッとするよ。
で、今度はマレーシアだ。クライアントはマレーシア政府。
ミッションはマラッカ海峡の海賊退治だ。
詳しい期間とかターゲットとかはクアラルンプール支局で聞いてくれ。
それとナンシーな、お前と気が合うみたいなんで今回も宜しくな。
フライトは今晩スイスエア一七六便を押さえてある。
少しはまともな服装してけよ。この間みたいに不審者扱いされても知らんぞ。」
「なんだ、また真夜中の出発か?夜逃げするみてえじゃないか。」
「まあ、そういいなさんな。
ナンシーとは隣の席だから飛行機で合流でいいぞ。」
フライトは、今夜十一時前である。
未だ半日もある。娼館は引き払ってしまって、今更戻る気にもならん。
どうしようかと思っていると、ハインツが安いバーボンとジャーキーを持ってきた。
昔は、ぼろい社長室で、みんなと一緒に飲んだよなその安酒、嫌いじゃないぜ。
**********
結局、ぎりぎりまで飲んじまった。
あの社長仕事ほっぽって昼間から酒食らって良かったんだろうか?
俺は酒臭い赤ら顔でチューリッヒ国際空港の出国カウンターにたどり着いた。
現在、十時十五分フライト三十分前だ、出国手続きを終えて座席に着くと既にナンシーは座ってっていた。
まあ、当たり前か、定刻の十分前なんだから。
「おじさん、久しぶり。相変わらずマイペースだね。
相変わらず場にそぐわない格好しているし。
アロハシャツと短パン着てサンダル履きでビジネスクラスに乗っている人なんて初めて見たよ。」
そういうナンシーは、限りなく白に近い薄いピンクのワンピースを着ている。
薄手のワンピースは、首回りとかにレースを使った涼しげなもので、いかにも南国リゾートへ向かうお嬢様という装いである。
「うるせえ、日本人が南国に行くときは、この格好がデフォなんだよ。
オメーこそ、そんなオボコぶった格好して、地元のチェリーボーイでも摘もうってか。」
「ひっどーい、おじさんはそう言うけど、私も地元に帰れば一応お嬢様なんですけど。」
「ところで、振込みしておいたの確認してくれたか?」
「あ、あれね。凄いね一枚で百五十万ドルだって、自由に換金できないのが難点だけどね。
私達もう一生働かなくていいじゃない。
でもいいの?振り込んでくれたのって、おじさんの物をオークションに掛けた代金じゃない。」
「いいだよ、どうせたくさんあるし。一生の間に換金しきれねえよ。
換金できるのは、せいぜい十年に数枚がいいとこだろうよ。
なんせ、現時点で六枚しか世界中に流通してないもんだからな。」
「それもそうか、じゃあ、有り難くもらっとくね。
おじさん、お礼におじさんの素人童貞もらってあげよう。
そこの、トイレで一発やっとく?」
「いらねーよ、オメーその辺の街娼より遣り込んでるじゃないか。
オメー抱くくらいなら、ベガス辺りにエスコートレディ買いに行くよ。
まだ、行った事ないんだ。」
「おじさん、またそんな無駄遣い考えているの。私ならロハで股開くのに。」
「だから、そういうのが嫌だと言ってるんだよ。」
くだらないやり取りをしているうちに寝てしまい、気が付いたらシンガポールに降りるところだった。
シンガポール乗継でクアラルンプールへ着いた時は、もう夕暮れ時だった。
今回は、空港へ迎えに来た職員と無事合流でき、クアラルンプールの目抜き通りにある支局にたどり着いた。
**********
支局に着くと見知った顔が出迎えてくれた。
中華系マレーシア人のヤンだ。俺と同じ頃に傭兵となって何度となく一緒に行動した仲だ。
「よお、ジャップ!よく来てくれたな。また会えて嬉しいよ。
今回はよろしく頼むぞ。ジャップが来てくれたんなら心強いぜ。」
「ヤン、久しぶりだな。最近見ないと思っていたら、こんなところで偉くなっていたんだ。
知らなかったぜ。出世おめでとう。」
「もう体力的に限界で傭兵家業から足を洗おうと思っていたら、社長が椅子を用意してくれたんだ。
本当にいい社長だよ。二十年もクソみたいな戦場で頑張った甲斐があるってもんだよ。」
俺たちは、ヤンからミッションについてのブリーフィングを受けたあと、用意されたホテルに入った。
明日は、朝からマラッカに向けて移動である。
やれやれ、また移動か……・
本当の宿無しだ。インターミッションの時は大体待機を命じられた街の娼館に居座っている。
今、俺はリンマートクヴァイ通りから丘側に狭い路地を入ったところにある馴染みの娼館にいる。
俺の横には、自称二十歳の娼婦が、俺の白濁液まみれで横たわっている。
俺には娼婦の歳はよくわからん。大概は鯖読んでいるというから二十歳よりは上なんだろう。
珍しく日本人だった。いや、正確には日本語を母国語のように話す日本人に見える女か。
とにかく、久しぶりの同国人に興奮してしまって、もう二日買い続けている。
でも、それもここまで、今日からは仕事だ。
**********
俺は今チューリッヒ本社の社長室にいる。ここも立派になったもんだ。
社長室の窓からは、天下のUBSの本社が間近に見える。
俺が社長に騙されて引き込まれたときにはチューリッヒとは名ばかりの田舎にあったのにな。
目の前の社長は、ぜんぜん変わっていない人懐っこい善人顔だ。
変わったといえば、スーツがよれよれなのから、ブランド品に変わったぐらいか。
社長のハインツは、俺に向かって、二十五年前と同じ口調で、
「ようケント、休みは楽しんだかい?
結婚するんだって、いいのか?そんなフラグ立てちまいやがって。
お前の故郷じゃ、死亡フラグって言うんだろう。」
「なんだ、そんな与太話するために呼んだんか。」
「わりいな、ついお前の顔見ているとからかいたくなる。
オメーは、あんまり変わってないな。ホッとするよ。
で、今度はマレーシアだ。クライアントはマレーシア政府。
ミッションはマラッカ海峡の海賊退治だ。
詳しい期間とかターゲットとかはクアラルンプール支局で聞いてくれ。
それとナンシーな、お前と気が合うみたいなんで今回も宜しくな。
フライトは今晩スイスエア一七六便を押さえてある。
少しはまともな服装してけよ。この間みたいに不審者扱いされても知らんぞ。」
「なんだ、また真夜中の出発か?夜逃げするみてえじゃないか。」
「まあ、そういいなさんな。
ナンシーとは隣の席だから飛行機で合流でいいぞ。」
フライトは、今夜十一時前である。
未だ半日もある。娼館は引き払ってしまって、今更戻る気にもならん。
どうしようかと思っていると、ハインツが安いバーボンとジャーキーを持ってきた。
昔は、ぼろい社長室で、みんなと一緒に飲んだよなその安酒、嫌いじゃないぜ。
**********
結局、ぎりぎりまで飲んじまった。
あの社長仕事ほっぽって昼間から酒食らって良かったんだろうか?
俺は酒臭い赤ら顔でチューリッヒ国際空港の出国カウンターにたどり着いた。
現在、十時十五分フライト三十分前だ、出国手続きを終えて座席に着くと既にナンシーは座ってっていた。
まあ、当たり前か、定刻の十分前なんだから。
「おじさん、久しぶり。相変わらずマイペースだね。
相変わらず場にそぐわない格好しているし。
アロハシャツと短パン着てサンダル履きでビジネスクラスに乗っている人なんて初めて見たよ。」
そういうナンシーは、限りなく白に近い薄いピンクのワンピースを着ている。
薄手のワンピースは、首回りとかにレースを使った涼しげなもので、いかにも南国リゾートへ向かうお嬢様という装いである。
「うるせえ、日本人が南国に行くときは、この格好がデフォなんだよ。
オメーこそ、そんなオボコぶった格好して、地元のチェリーボーイでも摘もうってか。」
「ひっどーい、おじさんはそう言うけど、私も地元に帰れば一応お嬢様なんですけど。」
「ところで、振込みしておいたの確認してくれたか?」
「あ、あれね。凄いね一枚で百五十万ドルだって、自由に換金できないのが難点だけどね。
私達もう一生働かなくていいじゃない。
でもいいの?振り込んでくれたのって、おじさんの物をオークションに掛けた代金じゃない。」
「いいだよ、どうせたくさんあるし。一生の間に換金しきれねえよ。
換金できるのは、せいぜい十年に数枚がいいとこだろうよ。
なんせ、現時点で六枚しか世界中に流通してないもんだからな。」
「それもそうか、じゃあ、有り難くもらっとくね。
おじさん、お礼におじさんの素人童貞もらってあげよう。
そこの、トイレで一発やっとく?」
「いらねーよ、オメーその辺の街娼より遣り込んでるじゃないか。
オメー抱くくらいなら、ベガス辺りにエスコートレディ買いに行くよ。
まだ、行った事ないんだ。」
「おじさん、またそんな無駄遣い考えているの。私ならロハで股開くのに。」
「だから、そういうのが嫌だと言ってるんだよ。」
くだらないやり取りをしているうちに寝てしまい、気が付いたらシンガポールに降りるところだった。
シンガポール乗継でクアラルンプールへ着いた時は、もう夕暮れ時だった。
今回は、空港へ迎えに来た職員と無事合流でき、クアラルンプールの目抜き通りにある支局にたどり着いた。
**********
支局に着くと見知った顔が出迎えてくれた。
中華系マレーシア人のヤンだ。俺と同じ頃に傭兵となって何度となく一緒に行動した仲だ。
「よお、ジャップ!よく来てくれたな。また会えて嬉しいよ。
今回はよろしく頼むぞ。ジャップが来てくれたんなら心強いぜ。」
「ヤン、久しぶりだな。最近見ないと思っていたら、こんなところで偉くなっていたんだ。
知らなかったぜ。出世おめでとう。」
「もう体力的に限界で傭兵家業から足を洗おうと思っていたら、社長が椅子を用意してくれたんだ。
本当にいい社長だよ。二十年もクソみたいな戦場で頑張った甲斐があるってもんだよ。」
俺たちは、ヤンからミッションについてのブリーフィングを受けたあと、用意されたホテルに入った。
明日は、朝からマラッカに向けて移動である。
やれやれ、また移動か……・
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!
菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
追放聖女は黒耀の王子と復讐のシナリオを生きる
河津田 眞紀
恋愛
〜秘められた力を持つ聖女は、イケメン紳士の優しくて意地悪な溺愛に翻弄される〜
メルフィーナは、名門貴族・ヒルゼンマイヤー家に仕える使用人だ。
孤児出身ながらに高い治癒魔法の力を持ち、一族の次女・ファティカの傷を癒すなど奮闘していた。
しかし、長女・ドリゼラの策略に嵌り、謂れのない罪で"魔女"と罵られ、追放されてしまう。
家も職も失ったメルフィーナは、流れ着いた教会で治癒魔法の力を見込まれ、人々を癒す"聖女"として働き始める。
聖女の仕事にやりがいを感じるメルフィーナだったが、とある傭兵に無理な婚約を迫られる。
そんな彼女を助けたのは、ジン・アーウィンと名乗る黒髪の美青年。
彼はメルフィーナを連れ出し、こう告げる。
「俺の復讐に協力してもらいたい。
ヒルゼンマイヤー家をはじめとする罪深き貴族と、その駒として動くある組織への復讐だ。
俺のシナリオには……君が必要なんだ」
不遇な聖女は『復讐』に生きる青年の協力者となり、己に隠された真の力に目覚めてゆく――
* * * *
♦︎……というあらすじの雰囲気よりはライトにお読みいただける内容です。
♦︎『ざまぁ』というより『勧善懲悪』。
♦︎本編43話+番外編4話。完結まで毎日更新します。
【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。
「私ね、皆を守りたいの」
幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/20……完結
2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位
2022/02/14……アルファポリスHOT 62位
2022/02/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる