アラフォー傭兵の幻想戦記

アイイロモンペ

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第1章 砂漠の中の大森林のお姫様

第16話 戴冠式

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「ほら、見てくださいケント様、あの馬車に乗って街を回るんですよ。
私も、パレードは初めてなんです。
平和なこの国で、パレード初体験が凱旋パレードになるなんて思いませんでしたわ。
普通は、結婚式か、戴冠式のパレードなんです。」

 クラリス姫がシューネヴァルトに帰還した翌日、公都シューネヴァルトの目抜き通りを凱旋パレードするというイベントが待ち構えていた。
 オープンの馬車に乗ってクラリス姫が街頭に向けて手を振って回るのだが、なぜかクラリス姫の後ろで俺とナンシーが正装させられて手を振っている。
 俺たちだけ場違い感が半端じゃないんですけど。


「もっと、ちゃんと手を振ってください。沿道に向かって笑顔ですよ。
早く慣れて下さいね。次もあるのですから。」

 クラリス姫からの無茶振りが入った。いや、次って何だよ。


 凱旋パレードが終わると、宮殿の中庭でクラリス姫のお茶会に同席しろといわれた。
お茶会は、貴族の夫人と子女を招いたもので、色とりどりのドレスが咲き乱れ非常に華やかだった。
 クラリス姫について各テーブルを回る。
俺を貴族の子女に紹介してくれるのだ。
いちいち救国の英雄だとか大げさに紹介されるのでこそばゆいが、今度こそこの子女の中から気に入った娘を選べと言われるのかと思ったら心が躍った。


 クラリス姫から「気に入った娘はいたか」と、いつ聞かれるのかと心待ちにしていた。
残念ながらその日クラリス姫と会うことはなかった。
 せっかく、あの伯爵の娘とか、あっちの子爵の妹とかを指名しようと名前を覚えたのに。


 その後も、俺はやれパーティだ、やれお茶会だとクラリス姫に毎日のように連れ出された。

 毎回妙齢の女性を紹介されるのに、それ以上の進展がないって言うのはどういうことだ。
断固講義するぞと決意を固めているのに、そういうときに限ってクラリス姫に会えないのだ。


 しかも、ナンシーの奴は、この町に来た晩から毎日、日替わりで男を宛がわれているらしい。
毎日自慢しに来るんだぜ、しかも、股間から白濁液を滴らせて。
中に留め切れないくらい出されたんだったらせめてナプキンでもつけろよ。
何度も言うようだけど、俺は他の男のザーメンなんか見たかないし、いわんや臭いなど嗅ぎたくないわ。
こっち寄るな、臭うんだよ、本当にドンだけ搾り取ったのやら。


 ナンシーの艶々な顔を見て、俺は苛々を募らせた。


     **********


 クラリス姫にあちこち連れまわされているうちに、時間は過ぎ、今日は戴冠式である。

俺たちは、例によって正装させられ、会場の隅の方で戴冠式を見ている。

 どうやらこの国の大公位というのは神から授けられるらしい。
神の代理人たる神官が、神聖なる森を守り次代に伝えていくことと国民を守ることを神に誓うかと問い、クラリス姫が神に誓うということで、神官から冠を頭に載せてもらった。


 その後式典は、粛々と進み、最後に宰相から今回の反乱についての経緯説明があり、待ちに待った恩賞授与の時間となった。

 最初にナンシーが呼ばれ、クラリス姫改め大公クラリス一世の前に跪く。

「ナンシー、此度のそなたの働き誠に大儀であった。
恩賞として、金恩賞箱二箱を取らせる。
更に、名誉伯爵位に叙するとともに、大公宮殿内に居室を一つ下賜するものとする。」

 事前に受けた説明だと名誉伯爵というのは、何の義務もない代わりに年金もない本当に名ばかりのものだが、公国にいるときには伯爵として遇されるというものだ。
 要するに、遊びに来たときには伯爵待遇でもてなすから気軽に遊びに来てねということらしい。
居室も、ホテル代わりに使えということだ。


 そして、待望の俺の番だ。
名を呼ばれた俺は、クラリスの前に進み跪く。

「ケント、此度のそなたの働き誠に大儀であった。
恩賞として、金恩賞箱二箱を取らせる。
そして、そなたの素人童貞を捨てたいという願い、確かに聞き届けた。」

(いや、姫さん、それこの場で言っちゃうの?みんな聞いてるよ。ほら、呆れた顔している。)

「よって、そなたを余の配偶者として向かえ、余の寵愛を受ける権利を与える。
更に公配として、公爵位を授けるものとする。
以上だ。」


いや、そんなの聞いてないよ。
確かに、素人を抱きたいとか、処女を抱きたいとかいったけど、ナンシーが勝手に。
相手が姫さんとか、話が飛躍しすぎだよ。
いつフラグが立ったんだ。
というより、俺に拒否権はないの?いきなり、結婚とか、それも相手が大公とか何の冗談。


     **********


 式典終了後、部屋に戻って呆然としていると、ドアがノックされた。

「どうぞ」というと、薄い夜着を纏ったクラリス一世が部屋に入ってきた。

そして、

「やっと、この時が参りました。森の中で、助けていただいたあの時からお慕いしておりました。
今日、こうしてケント様に純潔を捧げられるのが夢のようです。
これより、この身はケント様のものです。ご存分に愛してくださいませ。」


 いいのかこれ?年齢とか不味いのではないだろうか?
でも、据え膳喰わぬは男の恥とも言うし。
そもそも、成人年齢が日本と違うのかもしれないし…・・・


悩んでいたら、突然ドアが開いた。


「いけませぬぞ、姫様。」

入ってきたのは宰相だった。

「無礼な、宰相といえど大公の寝室に入るとは何事ですか?」

「いや、ご無礼をいたしました。
しかし、わたくしめの話を聞いてくだされ。
大公におかれましては、婚姻の儀までは純潔を守っていただかねば成りませぬ。
晴れて婚姻の儀を済ませた翌朝に、純潔を散らした印のついたシーツを宮殿のテラスからお披露目するのが慣わしです。」

「それでは、父の喪が明ける一年後ではないですか。」

「ですから、一年間お待ちいただきたいのです。」

クラリスは床に膝を着いて項垂れてしまった。
俺は、泣きたい気分であった。また、お預けか…・・・トホホ。








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