アラフォー傭兵の幻想戦記

アイイロモンペ

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第1章 砂漠の中の大森林のお姫様

第2話 俺の話

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 翌朝四時、未だ夜が明けきらないベイルートの目抜き通りを、俺とナンシーを乗せたL-ATVは軽快に走り抜けていく。
最近の軍用車はオートマだから運転が楽でいいよな。
俺は、まっさらな新車のL-ATVをご機嫌で運転している。


ナンシーの奴、助手席で気持ちよさそうに寝てやんの。
人に運転させておいて自分だけ寝ているなんてけしからん。
乳でも揉んでやろうか。


 そんなことを考えながら、運転していたら、もう隣国との国境に着いた。
  国境警備隊の管理官にパスポートと軍用車両の通行許可書を提示して出国手続きをしていると、目を覚ましたナンシーが降りてきた。
 国境警備隊の事務所に行ってなんか言っていると思ったら、事務所に入っていった。
ああ、トイレか。


 さあ、ここまでは安全な道だったが、国境を越えたら反政府テロ組織が大手を振るっている危険地帯だ。
 少し気を引き締めていこうか。

 
     **********


 国境を越えて少しすると暇をもてあましたのかナンシーが話しかけてきた。


「ねえ、ねえ、おじさん。
日本人の傭兵って初めて見るけど、おじさんは自衛隊って言うところのOBなの?」


ああ、そうだね。日本人の傭兵って珍しいよね。


「いや、俺は、この会社に入るまでは一般人で、銃器なんか触ったこともなかったよ。
ハイスクールを出て就職もしないでぶらぶらしていたんだ。
なんだっけ、今ならニートって言うんだっけ。」


「え、なに、おっさんハイスクールの学生から傭兵になったの?
なんで、なんで、興味ある。
詳しく教えてよ。」


お、ぐいぐいくるね。おっさんに昔話聞いても面白くないだろう。
え、暇つぶしにはなる。
ま、そうだね。
じゃあ、ちょっと長くなるけど。



     **********



 俺は、若い頃ちょっとヤンチャしていて、他に入れるところもなかったんで最底辺と言われるハイスクールに行ったんだ。
 ミドルスクールに行っていた時は日本はバブル経済って言って凄く景気がいい時代だったんだよ。
 そのときは、最底辺のハイスクールだって就職は楽勝って言われていたんで油断してたんだ。
俺が、ハイスクールで遊んでいる間にバブルが崩壊して、就職氷河期になっちまった。
最底辺の学校でかつ、ろくに勉強しなかった俺を採用してくれる会社なんかなくてな。
 就職が決まらないで卒業した俺は、ヤンチャしていた頃の先輩を頼って、工事現場の守衛とか道路工事の交通整理とか、要は警備会社のアルバイトで金を稼いでいたんだ。
 夜間の仕事が中心だったんで、アルバイトだけど結構金が貯まったんだ。


 で、ある日街を歩いていたら自分探しの旅っていうチラシを見たんだ。
当時日本で流行っていたんだよ。
 閉塞感のある日本で、何か自分でしかできないことを見つけたいという風潮があったんだろうな。
俺もそれに乗せられちまって、悪いことにソ連が崩壊したことで経営が悪化したアエロフロートが安売りをしてモスクワ経由だと安くヨーロッパにいけたんだ。


 有り金全部持って、ヨーロッパに旅行しに来たわけだ。
 最初はモスクワに行って、そこから鉄道でポーランド、ドイツ、オーストリアと渡って初めての海外旅行で楽しかったわ。
 でもな、落とし穴があったんだ。
 モスクワ、ポーランドって凄く物価が安かったから、手持ちの金で楽勝だと思ってしまったんだ。
そこで、街娼を買うことを覚えちまったのが失敗だった。
 これがドイツ、オーストリア、スイスってどんどん物価は高くなるし、娼婦の値段も上がるんだ。


 結局チューリッヒにたどり着いたときには無一文さ。
そのときは、腹も減っているし、宿にとまる金もないで本当にどうしようかと思ってたんだ。
 チューリッヒ中央駅のベンチで途方にくれていたら、胡散臭いおっさんが日本語で声をかけてきたんだ。

「おい、若いの、どうした。具合でも悪いのか」って。

 見るからに胡散臭いおっさんだったけど、久しぶりに聞いた日本語に気を許してしまって、つい金がなくなって行き倒れる寸前だって言っちまったんだ。



 そしたら、おっさんが飯屋に連れて行ってくれてご馳走してくれたんだ。
今でも忘れられないな、あの牛肉の煮込み料理。

 で、飯を食った後、おっさんは言うんだ。

「もし、金が必要なら俺の会社でアルバイトしないか。
俺は従業員二十人ほどの零細企業だけど、スイスの伝統産業の会社の社長なんだ。
新しく契約した現場の人手が足りなくて困っていたところなんだ。
三ヶ月間働いてくれたら、十分な謝礼を払うよ。
多分、一年くらい旅を続けられるお金は払えると思う。
仕事は誓って、違法なものではないし、スイスでは遥か昔から続く伝統産業だよ。」



 最底辺のハイスクールを卒業した俺には、スイスの伝統産業といわれても分かりはしねえ。
スイスの伝統産業?時計?ってなもんだ。
 で、おっさんについてくと郊外におんぼろな事務所で、ハインツ・セキュリティー・サービスって看板に書いてあるじゃないか。
 ああ、警備会社かって思ったよ。
 俺がバイトしていた警備会社が、利根セキュリティ・サービスっていう名前だったんで、英語ができない俺でも読めたんだな。
 新しい現場と聞いて、どっかの工事現場の交通整理でもするのかと思って働くことにしたんだ。



 おっさんに、「俺働くよ」って言ったら、何か知らないがいっぱい書類にサインさせられてさ。
全部英語で読めないのにここにサインしろって、サインは日本語でいいからって。
 サインが終わったらそのままチューリッヒ空港に連れて行かれたんだ。
どこへ行くのかわからないまま、何度か乗り換えて気が付いたら、アフリカのサバンナの中にいた。


 で、おっさんはこう言ったさ、

「はい、これはM二四九ミニミ軽機関銃って言うんだ。
引き金引いてれば一分間に七百発勝手に弾が出るから。
もっとも弾帯は二百発だから、一分は持たないけど。
要は、素人でも、下手な鉄砲数撃ちゃ中るんで、とりあえず敵に向けて引き金を弾いておいてね。
で、具体的な仕事なんだけど、この村を反政府組織から守ってね。
具体的には、班長から教えてもらって。
うちは、軍隊ではないから隊長って言わないんだ。
ここの責任者は班長ね。」



と言っておっさんはケインさんという班長さんを呼んで、俺を押し付けたんだ。
俺は、何の訓練もなしかって抗議したんだけど、おっさんは言うんだ。

「これもOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:実際に仕事をやりながら現場で仕事を覚える研修形態)よ、OJT。習うより慣れろってやつよ。
ケインの言う通りにやってれば、間違いないから。
この現場の契約期間は、あと三ヶ月だから、三ヶ月経ったら迎えに来るよ。」


と言って一人で帰っちまいやんの。
それから三ヶ月は本当に地獄だった。
手が引きちぎれるのとか、脳漿が飛び散るのとか初めて見たよ。


で、三ヵ月後におっさんが迎えに来たとき生き残った班員は俺を含めて五人だけ。
俺が連れてこられたときは確か十五人いたんだけど。
おっさんが言うには、反政府勢力の攻撃があんなに激しいとは計算外だったって。


 結局チューリヒに帰ったら、報酬だといって日本円で約千五百万円貰ったんだ。
もう戦場はこりごりだったんで、金貰ったんだからさっさと日本に帰ろうと思ったんだ。
 そしたら、おっさんが初陣であれだけの働きをするなんて見所があるとか言って勧誘するんだ。
丁重に辞退したら、おっさんも諦めて、じゃあ日本に帰る前に慰労会をやろうということになって、おっさんの奢りで、チューリッヒの最高級娼館に行って二輪車だって。


 たっぷり搾り取られて、賢者モードになっていたら、いつの間にか更新契約にサインしていた。

 それからは、一九九〇年台後半から最近までの、ほとんどの紛争地域を渡り歩いて今に至るって訳さ。



      **********


「って、こんなところだけどおじさんの昔話なんて聞いても面白くなかっただろう?」

と俺が言うと。


「いや、結構面白かったよ。おじさんも若い頃は結構無茶してたんだね。
それに、おじさんって女で失敗するタイプだよね絶対。」


ちくしょう痛いとこ突かれたな。
確かに、俺今まで、多分二桁億円くらい稼いでるはずなのに預金が殆どないんだ。
この二十五年間で娼館に貢いだ金が二桁億円だってことだな。
本当に洒落になってねえや。


「多そうだ、いいこと教えてやろう。
世界中の娼館を渡り歩いてきた俺だけど、実は素人童貞なんだ。」


「ぷっ。
おじさん、マジ受けるー。
何、本当に素人とやったことないの?
今度、私が相手してあげようか?」


いや、そういうのはいいから。


「あ、そうそう、言うの忘れていた。
ナンシーは知ってた?
傭兵ってスイスの伝統産業の一つなんだって。」


俺、チューリッヒの娼館のお姉ちゃんに聞くまで知らなかったよ。




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