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第1章 砂漠の中の大森林のお姫様
第1話 ベイルートにて
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現在深夜三時三十分、俺はベイルート空港のロビーを出たローターリーで黄昏ていた。
本当なら、迎えの車が来ているはずなんだ。
チューリッヒ発のハーンエアー五二一六便がベイルートに着いたのは、定刻どおりの二時十五分だった。
って言うか、誰だよこんな運行スケジュールを立てた奴。
深夜二時過ぎに到着って、普通の人は寝ている時間だぞ。
まあ、それはともかく、深夜着の便で搭乗客も少ないと思われる便がついてから一時間以上入国ゲートから出てこなければ、迎えの者が帰っても仕方ないよな。
でも、俺は悪くないぞ。悪いのは人を見た目で判断する入国管理官のクソ野郎だ。
あの野郎、俺がナッパ服にサンダル履きで、手ぶらで入国ゲートへ行ったら不審者だって言って別室に連れて行きやがった。
手ぶらで悪いか。ナッパ服はすごいんだぞ。
ポケットが多いから、パスポートだって、財布だって、搭乗券だって全部ポケットに入るんだから。
で、件の入国管理官が頭の固い奴で話が通じやしない。
俺が、チューリッヒに本社を置く大手セキュリティー会社ハインツ・セキュリティー・サービスの職員で、隣国政府の依頼でここにいるといっても信じないんだ。
会社の社員証を見せても駄目なんだぜ、ハインツ・セキュリティー・サービスって名前は、紛争地では結構有名な企業なんだけど。
制服を着て髪をぴっちりと決めている写真を見て、お前じゃないだろうって抜かしやがる。
だから、俺は社長に言ったんだ。
社員証の写真は、普段の格好をしていないといざと言うとき役立たんよと。
社長の野郎、そう思うんだったら普段からビシッとしとけ何て言いやがった。
結局、隣国の大使館に連絡して俺が政府の依頼で隣国に入国する予定がある事の確認が取れたのでやっと開放されたのがついさっき。
そして、迎えは誰もいないって。
とりあえず、会社のベイルート支局に電話したら誰も出ない。
そうだよな、こんな時間には誰もおらんよな。
元々、今日は迎えの車で、支局が用意してくれたホテルまで行って、そこで一晩休む。
そして昼から打ち合わせという段取りだったんだ。
ちくしょう、ホテルの名前聞いてないぞ。
迎えの者がいないのも、ホテルがわからないのも今さらどうしようもない。
気を取り直して、俺は馴染みの娼館に行くべくタクシーを拾うことにした。
**********
ラフィク・ハリリ国際空港からタクシーで約十分、ベイルートの繁華街でタクシーを降りた俺は、いかがわしい匂いのする路地を歩いていた。
この街は、若い頃から何度も来ているので、花街は熟知している。
俺が目指すのは行きつけの娼館で、若い女の子が多いのが売りの店だ。
俺も、両手では数え切れないくらい訪れているけど、いつも待たずにいける娘の中で一番若い娘を指名しているので、毎回違う娘が相手だった。
やっぱり、こっちも年をとってくるから、たまには若い気を吸収しないとな。
やベー、遅刻する。
やくざな仕事をしていても、社会人であるからには遅刻厳禁である。
現在十一時三十分、ここからなら悠長にタクシーを拾うより走ったほうが速く着くはずだ。
昨晩は馴染みの娼館へ行ったところ、自称十八歳という北欧系の娘がいた。
栗毛色のストレートな髪で、涼しげな瞳、鼻梁の整った小さな鼻、若い人は知らんだろうが俺がガキの頃何とかって言うシャンプーのコマーシャルに出てきた北欧少女そっくりだった。
少し割高だったけど、迷うことなくその娘を買ったよ。
そしたら、ナマでもいいって言うもんだから、おっさん、朝まで頑張ってしまった。
で、起きたら十一時を過ぎていたって訳だ。
**********
現在十二時十五分、俺の前には顔を真っ赤にして怒っているメタボ親爺がいる。
「馬鹿野郎、四十過ぎても時間一つ守れないのかテメーは。
だから、いつまで経っても一平卒なんだよ。
テメーなんかシャバに出たらまともな仕事できないだろうって、お情けで社長が養っているんだ。
時間ぐらい守りやがれ、ジャップ。」
目の前のうるさいのは、ヘンリー。
退役軍人とは思えないメタボ体型だけど、俺より若いはずだ。
このベイルート支局の支配人である。
今更だが、俺の名前は田中健斗(たなかけんと)という。決してジャップという名前ではない。
ちなみにジャップとは、日本人を蔑視する差別用語だが、この会社に日本人は俺しかいないためコードネームがジャップになってしまった。
最初は蔑視されていたんだろうが、俺も現場最年長となってからは蔑称というより愛称に近くなっている。
もちろん、目の前のメタボ親爺みたいに、俺を蔑視してジャップと呼ぶ奴もいるがな。
「俺はちゃんと、定刻十分前にこの事務所に着いたぞ。
遅刻したのはテメーの無能な部下が、俺を事務所に入れなかったからじゃないか。
そもそも、テメーが俺のことを、守衛に連絡していなかったのが悪いんだろ。
もっと言えば、テメーの部下が昨晩俺の迎えをきっちりやらなかったから、俺は自分で宿をとることになって、結果として遅刻ぎりぎりになったんだろうが。」
俺は、こいつの部下ではないんで言いたいことを言ってやった。
「このオフィスの支配人である俺に対してテメーとは何という口の利き方だ。
これだからハイスクールもろくに出てない奴は困るんだ。
だいたい、この名門ハインツ・セキュリティー・サービスの事務所に入るのにその格好は何だ。
守衛に止められて当然だろう。」
こいつはウエストポイントの卒業生なんだが何かにつけて偉そうにするいけ好かない奴だ。
「何が名門企業だ。
テメーが、ソマリア内戦のとき反政府軍に至近弾食らって、ションベン漏らしていたときは、全社で五十人もいない零細企業だったじゃねえか。
たまたま、テロとの戦いでクライアントが増えて、この二十年で会社が大きくなった成り上がりだろうが。
テメーがションベン漏らしていた頃の仲間はみんな似たり寄ったりの格好だったぜ。」
俺が、チューリッヒ中央駅のベンチで社長のハインツに拾われたときは、社長を含めて二十五人しかいなかった。
今じゃあ、実働部隊だけで千人を超す大企業だ。
バックオフィスの人間なんて現場の俺には何人いるか想像もできやしない。
会社が大きくなるのはめでたい事なんだろうが、社長も柵が増えて、最近いろんな国から退役軍人を押し付けられる。
中には、このヘンリーみたいな口ばっかりの奴もいて嫌になる。
だいたい、銃撃戦でションベン漏らす将校なんて、誰がついてくるんだ。
**********
ヘンリー支局長との口撃戦は、ヘンリーが沈黙したことによって俺の勝利で終った。
ヘンリーは、へそを曲げながらも、俺をミーティングルームに通した。
そこには、大柄な体格で、ボリューム感のあるブロンドの癖毛、目と口が大きい典型的なヤンキー美人が座っていた。
ミーティングルームに俺と支配人が入室するのを見て立ち上がった彼女の胸がプルンと跳ねるのを俺は確かに見た。
あれは、最低でもFカップはあるだろう。
ラウンドテーブルの席に着くと、ヘンリーは俺に対し彼女の紹介をする。
「彼女は、ナンシー・ブラウン。
先週入社したばかりで、今回が初任務だ。
今回は君のサーポートをしてもらう。
ステイツの海兵隊出身の二十三歳で、既に戦場も経験している。
わが社の幹部候補として入社してもらっている。
すぐに君の上になるだろうから、せいぜいゴマすっておけよ。」
相変わらずヘンリーの嫌味はストレートだな、もうちょっとユーモアを効かせた嫌味が言えないかね。
続いてヘンリーは、ナンシーに俺を紹介する。
「彼は、ケント・タナカ。日本人だ。
現場最年長で、今年四十三歳か?
たいした手柄も上げられないから小隊指揮官にもなれないまま、今でも一平卒だ。
現在、最古参職員の一人なので、皆が気を使うため誰かの指揮下に入れられない状態で、仕方なく社長直属の遊撃要因となっている。
まあ、君が気に留めるまでもない塵だと思っていればいいさ。
今回は初任務なので、研修をかねて彼の指揮下に入ってもらうが、今回だけなので気にしないように。」
酷い紹介の仕方だな。まあ、ほとんど事実だからしょうがないが。
とりあえず、俺も挨拶をしておこうか。
「はじめまして、ケント・タナカだ。
みんな俺をジャップと呼んでいる。
短い間だと思うがよろしく頼む。」
ナンシーは、俺を見てにこっと笑い、
「ハロー、私はナンシー・ブラウン、ナンシーって呼んで頂戴。
おじさん、何か線が細いわね。
この仕事している人ってムキムキの人が多いんだけど、おじさんは違うのね。
体の細い人って、コックも細いのかしら?
ちょっと興味あるわ。
これからよろしくね。」
何か変なことを言っている気がするが、気にするのはやめよう。
メタボのヘンリーが、手を叩いて注目を集めて言った。
「今回のミッションの説明をするぞ。
現在、隣国で反政府テロ組織に包囲されて孤立している、我が社の同僚に弾薬を補給することとテロ組織を撤退させるまで同僚を支援することだ。
孤立している班は、十名で数は少ないが、敵よりも火器が優れているので何とか戦線を維持しているらしい。
問題は、当方が優位に立てている拠り所となっている火器の弾薬が大分減っていることにある。
まだ、二週間くらいは大丈夫と思われるが、心細い状況にある。
君達の任務は敵を撤退させるまで、現在駐留している班は未だ契約期間が残っているから、そのまま残留するが、君達は帰投してかまわない。」
その後俺達は、敵の兵数や装備の状況、敵と同僚の配置の状況などを詳細に情報交換し、最後に今回の任務に際し、自分達に支給される物資及び補給物資の確認を行うこととした。
**********
事務所一階の格納庫に来たが、目の前に素晴らしい物がおいてあった。
L-ATV、ステイツで最近制式採用されたばかりの最新鋭の装輪式多目的軍用車両である。
思えば、勤続二十五年、常にどっかの軍から払い下げを受けたような旧式の兵装で戦ってきた。
こんな最新鋭の装備は初めて見る。
社長頑張ったなー。きっと、最新鋭の武器を手に入れるために、ステイツの退役軍人をせっせと雇い入れてコネを作っていたんだ。
「今回は、敵中を突破して味方の補給を行わなければならないので、任務の困難さを勘案して最新鋭の車両を投入した。
すでに、この国の通行許可も、隣国の通行許可も取ってある。
あと、携行武器も希望通りのものを揃えてあるし、レーションも十分にある。」
座席の後方の荷室を見ると、補給物資は梱包されているが、その手前に梱包されていない携行武器があり、それが俺達の分だと分かるようになっている。
お、ちゃんと俺愛用のM249ミニミ軽機関銃とカールグスタフM4はあるな。
それと、今回特別に頼んだSMAWもある。
これは、楽しみだなと思っていると、ナンシーから話しかけられた。
「おじさんは何を使うの。私の得物はこれよ。」
とナンシーはM4カービンを手にしながら言った。
「俺は、射撃は苦手で命中率が悪いから、銃弾をばら撒けるM249だ。
それと、無反動砲だな。
今回は、初めから難しいミッションと聞いていたのでSMAWを頼んでおいたんだ。
いざとなったら、サーモバリック弾頭で敵を殲滅する。
あと、俺は弱虫だから、正面からは絶対戦わないよ。
敵を狭いところに呼び込んでクレイモアを使うとか、C4で小屋ごと吹き飛ばすとか。」
「ふーん、おじさんは姑息な手が好きなのかー。
日本人って正々堂々とか言いそうだけど、おじさんは違うんだ。」
俺は、胸を張っていった。
「傭兵は生きて帰ってなんぼだ。
国の兵士はお国のために死ぬかもしれんが、
傭兵はお金のために死ぬことはしない、だって死んだら金を使うことはできんだろう。」
装備の確認をした俺達は、明朝早くにミッションを開始することとして、今日は早めに休むことにした。
今日はちゃんと支局が用意してくれたホテルに泊まったよ。
本当なら、迎えの車が来ているはずなんだ。
チューリッヒ発のハーンエアー五二一六便がベイルートに着いたのは、定刻どおりの二時十五分だった。
って言うか、誰だよこんな運行スケジュールを立てた奴。
深夜二時過ぎに到着って、普通の人は寝ている時間だぞ。
まあ、それはともかく、深夜着の便で搭乗客も少ないと思われる便がついてから一時間以上入国ゲートから出てこなければ、迎えの者が帰っても仕方ないよな。
でも、俺は悪くないぞ。悪いのは人を見た目で判断する入国管理官のクソ野郎だ。
あの野郎、俺がナッパ服にサンダル履きで、手ぶらで入国ゲートへ行ったら不審者だって言って別室に連れて行きやがった。
手ぶらで悪いか。ナッパ服はすごいんだぞ。
ポケットが多いから、パスポートだって、財布だって、搭乗券だって全部ポケットに入るんだから。
で、件の入国管理官が頭の固い奴で話が通じやしない。
俺が、チューリッヒに本社を置く大手セキュリティー会社ハインツ・セキュリティー・サービスの職員で、隣国政府の依頼でここにいるといっても信じないんだ。
会社の社員証を見せても駄目なんだぜ、ハインツ・セキュリティー・サービスって名前は、紛争地では結構有名な企業なんだけど。
制服を着て髪をぴっちりと決めている写真を見て、お前じゃないだろうって抜かしやがる。
だから、俺は社長に言ったんだ。
社員証の写真は、普段の格好をしていないといざと言うとき役立たんよと。
社長の野郎、そう思うんだったら普段からビシッとしとけ何て言いやがった。
結局、隣国の大使館に連絡して俺が政府の依頼で隣国に入国する予定がある事の確認が取れたのでやっと開放されたのがついさっき。
そして、迎えは誰もいないって。
とりあえず、会社のベイルート支局に電話したら誰も出ない。
そうだよな、こんな時間には誰もおらんよな。
元々、今日は迎えの車で、支局が用意してくれたホテルまで行って、そこで一晩休む。
そして昼から打ち合わせという段取りだったんだ。
ちくしょう、ホテルの名前聞いてないぞ。
迎えの者がいないのも、ホテルがわからないのも今さらどうしようもない。
気を取り直して、俺は馴染みの娼館に行くべくタクシーを拾うことにした。
**********
ラフィク・ハリリ国際空港からタクシーで約十分、ベイルートの繁華街でタクシーを降りた俺は、いかがわしい匂いのする路地を歩いていた。
この街は、若い頃から何度も来ているので、花街は熟知している。
俺が目指すのは行きつけの娼館で、若い女の子が多いのが売りの店だ。
俺も、両手では数え切れないくらい訪れているけど、いつも待たずにいける娘の中で一番若い娘を指名しているので、毎回違う娘が相手だった。
やっぱり、こっちも年をとってくるから、たまには若い気を吸収しないとな。
やベー、遅刻する。
やくざな仕事をしていても、社会人であるからには遅刻厳禁である。
現在十一時三十分、ここからなら悠長にタクシーを拾うより走ったほうが速く着くはずだ。
昨晩は馴染みの娼館へ行ったところ、自称十八歳という北欧系の娘がいた。
栗毛色のストレートな髪で、涼しげな瞳、鼻梁の整った小さな鼻、若い人は知らんだろうが俺がガキの頃何とかって言うシャンプーのコマーシャルに出てきた北欧少女そっくりだった。
少し割高だったけど、迷うことなくその娘を買ったよ。
そしたら、ナマでもいいって言うもんだから、おっさん、朝まで頑張ってしまった。
で、起きたら十一時を過ぎていたって訳だ。
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現在十二時十五分、俺の前には顔を真っ赤にして怒っているメタボ親爺がいる。
「馬鹿野郎、四十過ぎても時間一つ守れないのかテメーは。
だから、いつまで経っても一平卒なんだよ。
テメーなんかシャバに出たらまともな仕事できないだろうって、お情けで社長が養っているんだ。
時間ぐらい守りやがれ、ジャップ。」
目の前のうるさいのは、ヘンリー。
退役軍人とは思えないメタボ体型だけど、俺より若いはずだ。
このベイルート支局の支配人である。
今更だが、俺の名前は田中健斗(たなかけんと)という。決してジャップという名前ではない。
ちなみにジャップとは、日本人を蔑視する差別用語だが、この会社に日本人は俺しかいないためコードネームがジャップになってしまった。
最初は蔑視されていたんだろうが、俺も現場最年長となってからは蔑称というより愛称に近くなっている。
もちろん、目の前のメタボ親爺みたいに、俺を蔑視してジャップと呼ぶ奴もいるがな。
「俺はちゃんと、定刻十分前にこの事務所に着いたぞ。
遅刻したのはテメーの無能な部下が、俺を事務所に入れなかったからじゃないか。
そもそも、テメーが俺のことを、守衛に連絡していなかったのが悪いんだろ。
もっと言えば、テメーの部下が昨晩俺の迎えをきっちりやらなかったから、俺は自分で宿をとることになって、結果として遅刻ぎりぎりになったんだろうが。」
俺は、こいつの部下ではないんで言いたいことを言ってやった。
「このオフィスの支配人である俺に対してテメーとは何という口の利き方だ。
これだからハイスクールもろくに出てない奴は困るんだ。
だいたい、この名門ハインツ・セキュリティー・サービスの事務所に入るのにその格好は何だ。
守衛に止められて当然だろう。」
こいつはウエストポイントの卒業生なんだが何かにつけて偉そうにするいけ好かない奴だ。
「何が名門企業だ。
テメーが、ソマリア内戦のとき反政府軍に至近弾食らって、ションベン漏らしていたときは、全社で五十人もいない零細企業だったじゃねえか。
たまたま、テロとの戦いでクライアントが増えて、この二十年で会社が大きくなった成り上がりだろうが。
テメーがションベン漏らしていた頃の仲間はみんな似たり寄ったりの格好だったぜ。」
俺が、チューリッヒ中央駅のベンチで社長のハインツに拾われたときは、社長を含めて二十五人しかいなかった。
今じゃあ、実働部隊だけで千人を超す大企業だ。
バックオフィスの人間なんて現場の俺には何人いるか想像もできやしない。
会社が大きくなるのはめでたい事なんだろうが、社長も柵が増えて、最近いろんな国から退役軍人を押し付けられる。
中には、このヘンリーみたいな口ばっかりの奴もいて嫌になる。
だいたい、銃撃戦でションベン漏らす将校なんて、誰がついてくるんだ。
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ヘンリー支局長との口撃戦は、ヘンリーが沈黙したことによって俺の勝利で終った。
ヘンリーは、へそを曲げながらも、俺をミーティングルームに通した。
そこには、大柄な体格で、ボリューム感のあるブロンドの癖毛、目と口が大きい典型的なヤンキー美人が座っていた。
ミーティングルームに俺と支配人が入室するのを見て立ち上がった彼女の胸がプルンと跳ねるのを俺は確かに見た。
あれは、最低でもFカップはあるだろう。
ラウンドテーブルの席に着くと、ヘンリーは俺に対し彼女の紹介をする。
「彼女は、ナンシー・ブラウン。
先週入社したばかりで、今回が初任務だ。
今回は君のサーポートをしてもらう。
ステイツの海兵隊出身の二十三歳で、既に戦場も経験している。
わが社の幹部候補として入社してもらっている。
すぐに君の上になるだろうから、せいぜいゴマすっておけよ。」
相変わらずヘンリーの嫌味はストレートだな、もうちょっとユーモアを効かせた嫌味が言えないかね。
続いてヘンリーは、ナンシーに俺を紹介する。
「彼は、ケント・タナカ。日本人だ。
現場最年長で、今年四十三歳か?
たいした手柄も上げられないから小隊指揮官にもなれないまま、今でも一平卒だ。
現在、最古参職員の一人なので、皆が気を使うため誰かの指揮下に入れられない状態で、仕方なく社長直属の遊撃要因となっている。
まあ、君が気に留めるまでもない塵だと思っていればいいさ。
今回は初任務なので、研修をかねて彼の指揮下に入ってもらうが、今回だけなので気にしないように。」
酷い紹介の仕方だな。まあ、ほとんど事実だからしょうがないが。
とりあえず、俺も挨拶をしておこうか。
「はじめまして、ケント・タナカだ。
みんな俺をジャップと呼んでいる。
短い間だと思うがよろしく頼む。」
ナンシーは、俺を見てにこっと笑い、
「ハロー、私はナンシー・ブラウン、ナンシーって呼んで頂戴。
おじさん、何か線が細いわね。
この仕事している人ってムキムキの人が多いんだけど、おじさんは違うのね。
体の細い人って、コックも細いのかしら?
ちょっと興味あるわ。
これからよろしくね。」
何か変なことを言っている気がするが、気にするのはやめよう。
メタボのヘンリーが、手を叩いて注目を集めて言った。
「今回のミッションの説明をするぞ。
現在、隣国で反政府テロ組織に包囲されて孤立している、我が社の同僚に弾薬を補給することとテロ組織を撤退させるまで同僚を支援することだ。
孤立している班は、十名で数は少ないが、敵よりも火器が優れているので何とか戦線を維持しているらしい。
問題は、当方が優位に立てている拠り所となっている火器の弾薬が大分減っていることにある。
まだ、二週間くらいは大丈夫と思われるが、心細い状況にある。
君達の任務は敵を撤退させるまで、現在駐留している班は未だ契約期間が残っているから、そのまま残留するが、君達は帰投してかまわない。」
その後俺達は、敵の兵数や装備の状況、敵と同僚の配置の状況などを詳細に情報交換し、最後に今回の任務に際し、自分達に支給される物資及び補給物資の確認を行うこととした。
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事務所一階の格納庫に来たが、目の前に素晴らしい物がおいてあった。
L-ATV、ステイツで最近制式採用されたばかりの最新鋭の装輪式多目的軍用車両である。
思えば、勤続二十五年、常にどっかの軍から払い下げを受けたような旧式の兵装で戦ってきた。
こんな最新鋭の装備は初めて見る。
社長頑張ったなー。きっと、最新鋭の武器を手に入れるために、ステイツの退役軍人をせっせと雇い入れてコネを作っていたんだ。
「今回は、敵中を突破して味方の補給を行わなければならないので、任務の困難さを勘案して最新鋭の車両を投入した。
すでに、この国の通行許可も、隣国の通行許可も取ってある。
あと、携行武器も希望通りのものを揃えてあるし、レーションも十分にある。」
座席の後方の荷室を見ると、補給物資は梱包されているが、その手前に梱包されていない携行武器があり、それが俺達の分だと分かるようになっている。
お、ちゃんと俺愛用のM249ミニミ軽機関銃とカールグスタフM4はあるな。
それと、今回特別に頼んだSMAWもある。
これは、楽しみだなと思っていると、ナンシーから話しかけられた。
「おじさんは何を使うの。私の得物はこれよ。」
とナンシーはM4カービンを手にしながら言った。
「俺は、射撃は苦手で命中率が悪いから、銃弾をばら撒けるM249だ。
それと、無反動砲だな。
今回は、初めから難しいミッションと聞いていたのでSMAWを頼んでおいたんだ。
いざとなったら、サーモバリック弾頭で敵を殲滅する。
あと、俺は弱虫だから、正面からは絶対戦わないよ。
敵を狭いところに呼び込んでクレイモアを使うとか、C4で小屋ごと吹き飛ばすとか。」
「ふーん、おじさんは姑息な手が好きなのかー。
日本人って正々堂々とか言いそうだけど、おじさんは違うんだ。」
俺は、胸を張っていった。
「傭兵は生きて帰ってなんぼだ。
国の兵士はお国のために死ぬかもしれんが、
傭兵はお金のために死ぬことはしない、だって死んだら金を使うことはできんだろう。」
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