1 / 1
硫酸
しおりを挟む
「硫酸」
それは人の肌をいとも簡単に焼いてしまう劇薬。
私は硫酸になりたい。
私の手で貴方を溶かして、貴方に一生消えない傷を残すの。
硫酸で焼けてぼろぼろになった皮膚も、鼻か口かも見分けがつかなくなった|爛ただれた顔も、焼けて見えなくなった目も私だけが愛するの。
貴方の醜い傷は、私だけの宝物。
***
大好きな恋人がいる。親切で気立てが良く、私がいけないことをしていたらすぐに叱ってくれる彼。
私は彼を信頼していた。彼のポケットから一枚の名刺が出てくるまで。
その名刺には「春日いろは」という名前とともに「連絡待ってます♡」という言葉が添えられていた。
彼のスーツにアイロンをかけようとした時のことだった。
信じたくなかった。大好きな彼が浮気をしているなんて。
信じたくなかったから彼が家へ帰ってきた時に、玄関での出迎えのついでに聞いてみた。
「この女性に連絡したの?」
「お前にそんなこと、関係あるのか?」
彼はカッと目を見開いて私を睨む。
刳る。
そう思ったとき、既に私の背中は大きな掌で打たれていた。
痛い。この痛み。彼が私を大切にしてくれている証拠の痛み。
いつもそうやって彼は私を大切にしてくれるの。彼から受ける痛みを幸せに感じているの。痛いけれどそれが幸せなの。
私は彼に大切にされている。
「これはお前を傷めるために打っているんじゃない。お前を大切に思っているからやっていることなんだよ」
彼は先ほど私を打った大きな掌で私を抱きしめる。そして、先ほど自分自身で打ったそこをやわやわと撫でる。私を打った後、そこを撫でる彼の手はいつも温かい。
「俺は浮気なんかしないよ。麻理のこと、大好きだから。俺のこと、信用していないの?」
「そんなことないよ」
私は彼に愛されている。
だから私も彼を愛している。
愛しているから私はずっとずっと彼のそばにいたい。
ずっとずっと私を大切にして欲しい。
私のことを想って打つその手も、私を叱るその口も、私を睨むその目も、全て私だけのものにしたい。
痛めつけた後に優しく抱きしめる逞しくて長い腕も、打った場所を撫でる温かい掌も全てを私のものにしたい。
だから、私の手で貴方を世界で一番醜い人間にしたい。
焼けて爛れて、誰かも分からなくなくなった貴方を貴方だとわかるのは私だけ。
目が見えなくなった貴方を支えるのは私だけ。
たった一人、私にしか存在を認めてもらえない貴方を他の誰でもない、私だけが愛するの。
醜い貴方を愛することができるのは私だけ。
私がいるから貴方は生きられるの。
私がいなければ貴方の世話をしてくれる人は誰もいない。
私は貴方の劇薬になるの。
私がいなければ貴方は存在することのできない、愛という劇薬になるの。
彼の焼け爛れた皮膚を愛して私の温かい手で撫でるの。
そして貴方の全身にキスを落とすの。私の持ち物だっていう|証しるしを身体全体に付けるの。
消えないように、毎日付けるの。
それは人の肌をいとも簡単に焼いてしまう劇薬。
私は硫酸になりたい。
私の手で貴方を溶かして、貴方に一生消えない傷を残すの。
硫酸で焼けてぼろぼろになった皮膚も、鼻か口かも見分けがつかなくなった|爛ただれた顔も、焼けて見えなくなった目も私だけが愛するの。
貴方の醜い傷は、私だけの宝物。
***
大好きな恋人がいる。親切で気立てが良く、私がいけないことをしていたらすぐに叱ってくれる彼。
私は彼を信頼していた。彼のポケットから一枚の名刺が出てくるまで。
その名刺には「春日いろは」という名前とともに「連絡待ってます♡」という言葉が添えられていた。
彼のスーツにアイロンをかけようとした時のことだった。
信じたくなかった。大好きな彼が浮気をしているなんて。
信じたくなかったから彼が家へ帰ってきた時に、玄関での出迎えのついでに聞いてみた。
「この女性に連絡したの?」
「お前にそんなこと、関係あるのか?」
彼はカッと目を見開いて私を睨む。
刳る。
そう思ったとき、既に私の背中は大きな掌で打たれていた。
痛い。この痛み。彼が私を大切にしてくれている証拠の痛み。
いつもそうやって彼は私を大切にしてくれるの。彼から受ける痛みを幸せに感じているの。痛いけれどそれが幸せなの。
私は彼に大切にされている。
「これはお前を傷めるために打っているんじゃない。お前を大切に思っているからやっていることなんだよ」
彼は先ほど私を打った大きな掌で私を抱きしめる。そして、先ほど自分自身で打ったそこをやわやわと撫でる。私を打った後、そこを撫でる彼の手はいつも温かい。
「俺は浮気なんかしないよ。麻理のこと、大好きだから。俺のこと、信用していないの?」
「そんなことないよ」
私は彼に愛されている。
だから私も彼を愛している。
愛しているから私はずっとずっと彼のそばにいたい。
ずっとずっと私を大切にして欲しい。
私のことを想って打つその手も、私を叱るその口も、私を睨むその目も、全て私だけのものにしたい。
痛めつけた後に優しく抱きしめる逞しくて長い腕も、打った場所を撫でる温かい掌も全てを私のものにしたい。
だから、私の手で貴方を世界で一番醜い人間にしたい。
焼けて爛れて、誰かも分からなくなくなった貴方を貴方だとわかるのは私だけ。
目が見えなくなった貴方を支えるのは私だけ。
たった一人、私にしか存在を認めてもらえない貴方を他の誰でもない、私だけが愛するの。
醜い貴方を愛することができるのは私だけ。
私がいるから貴方は生きられるの。
私がいなければ貴方の世話をしてくれる人は誰もいない。
私は貴方の劇薬になるの。
私がいなければ貴方は存在することのできない、愛という劇薬になるの。
彼の焼け爛れた皮膚を愛して私の温かい手で撫でるの。
そして貴方の全身にキスを落とすの。私の持ち物だっていう|証しるしを身体全体に付けるの。
消えないように、毎日付けるの。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
一人用声劇台本
ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。
男性向け女性用シチュエーションです。
私自身声の仕事をしており、
自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。
ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ
【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】
階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、
屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話
_________________________________
【登場人物】
・アオイ
昨日初彼氏ができた。
初デートの後、そのまま監禁される。
面食い。
・ヒナタ
アオイの彼氏。
お金持ちでイケメン。
アオイを自身の屋敷に監禁する。
・カイト
泥棒。
ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。
アオイに協力する。
_________________________________
【あらすじ】
彼氏との初デートを楽しんだアオイ。
彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。
目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。
色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。
だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。
ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。
果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!?
_________________________________
7話くらいで終わらせます。
短いです。
途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。
放課後の生徒会室
志月さら
恋愛
春日知佳はある日の放課後、生徒会室で必死におしっこを我慢していた。幼馴染の三好司が書類の存在を忘れていて、生徒会長の楠木旭は殺気立っている。そんな状況でトイレに行きたいと言い出すことができない知佳は、ついに彼らの前でおもらしをしてしまい――。
※この作品はpixiv、カクヨムにも掲載しています。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる