6 / 8
第6話
しおりを挟む
その日の放課後、俺は図書室の自習スペースで勉強していた。
ぱちぱちぱちと音が聞こえる。多分これは雨粒が屋根を叩く音だろう。今朝の天気予報では今日は一日中晴れると言っていた。雨が降るのは予想外だ。幸い、折り畳み傘をカバンに忍ばせていたのでびしょ濡れで家へ帰ることはなさそうだ。
今みたいな夏の暑い時期に雨が降ると空気がジメジメして気持ち悪い。それに肌がべたべたする。湿度と気温が高いせいで大量の汗をかく。少し考えただけでこんなにデメリットが思いつくのだから、この時期に雨が降ることのメリットはほぼゼロに近い気がする。ただ一つ思いつくメリットを挙げるとすれば、渇水を防げることくらいだ。
先輩と待ち合わせの時間まであと1時間。昨日だけでなく、今日もまた、いや、これから毎日、すず先輩と一緒に帰ることができようとは昨日の今頃の俺にはまったく想像ができなかった。
一時間後、彼女と正門の前で落ち合い、喋りながら一緒に家へ帰ることができると思うととてもわくわくする。気分が高まりすぎて、インド映画のように歌って踊り出してしまいそうな気さえする。早く時間になればいいのにと思うのに、なかなか時間は進まないものでとりあえず目の前のプリントを真剣に解くことにした。
***
もうすぐ待ち合わせの時間になる。正門まで歩いていくのがこんなに楽しく感じる日が来るとは考えたこともなかった。
廊下の窓から外を覗いてみると思っていたよりも大雨だった。今日の雨は雨粒が大きいから傘を持っていないと家に到着する頃にはきっと、ついさっき海から上がってきた人のようにずぶ濡れになってしまうだろう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか正門前に到着していた。
『キーンコーンカーンコーン』
完全下校のチャイムが鳴る。
「待たせちゃってごめんね」
あれ、先輩、傘をさしてない。きっと、天気予報で今日は晴れと言ってたので忘れてしまったのだろう。
「すず先輩、この傘、小さいけど一緒に入ってください。ずぶ濡れになっちゃいます」
大切な先輩をずぶ濡れで家へ返すなんてことはできない。
「ありがとう、でも申し訳ないからいいよ」
すず先輩は申し訳なさそうに笑う。
「まだそんなに親しいわけでもないのにこんなこと言うのはおかしいかもしれませんけど、俺に遠慮はしないでください!俺に先輩を、、、好きな人を守らせてください」
彼女は驚いて、そして照れ笑いを見せる。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ありがとう助かる」
2人で1つの傘をさして正門の前で話している男女。周りの人から見れば、俺たちは1組のカップルのように見えているのだろうか。
校舎から正門までそんなに遠い距離ではないのに既に先輩の髪や衣服はしっとりと濡れていた。湿度が高いのと雨のせいだろうか、前髪が少し乱れている。次に気がついた時には彼女の前髪を整えていた。
「………!!!」
「す、すみません!急に勝手に前髪を触ったりして…気持ち悪いですね…俺」
「びっくりしたけど気持ち悪いことはないよ…!ただ、私、男の子と関わることって今まであんまりなかったからこういうことの耐性があまりなくて……」
先輩を困らせてしまった。
俺は申し訳なくて、言葉を詰まらせていた。
「でも、あきくんにされたからかな、いや…ではなかった」
小さな小さな声で呟いた。
***
2人で1つ使う傘は折り畳み傘ということも相まってとても狭い。
「あきくん、私のせいで肩がずぶ濡れになってる。私はいいからちゃんと入って」
「先輩は女性です。大切な女性にそんなこと出来るはずありません!」
「あきくんはいつも私が恥ずかしくなるようなことばっかり言ってくれるねえ…。何度言われても恥ずかしくて顔から火が出そう。でもね、どこかにちょっと喜んでる自分もいるみたいなの…」
「ふふふっ」と照れ笑いして先輩は嬉しいことを言ってくれる。こんなの、先輩も俺のこと好いてくれてるんじゃないかって勘違いしてしまう。
二人で入る傘は狭いけれど、そのおかげでより彼女の近くに居られる。それが嬉しくて幸せでドキドキして、もう心臓が持ちそうにない。
ぱちぱちぱちと音が聞こえる。多分これは雨粒が屋根を叩く音だろう。今朝の天気予報では今日は一日中晴れると言っていた。雨が降るのは予想外だ。幸い、折り畳み傘をカバンに忍ばせていたのでびしょ濡れで家へ帰ることはなさそうだ。
今みたいな夏の暑い時期に雨が降ると空気がジメジメして気持ち悪い。それに肌がべたべたする。湿度と気温が高いせいで大量の汗をかく。少し考えただけでこんなにデメリットが思いつくのだから、この時期に雨が降ることのメリットはほぼゼロに近い気がする。ただ一つ思いつくメリットを挙げるとすれば、渇水を防げることくらいだ。
先輩と待ち合わせの時間まであと1時間。昨日だけでなく、今日もまた、いや、これから毎日、すず先輩と一緒に帰ることができようとは昨日の今頃の俺にはまったく想像ができなかった。
一時間後、彼女と正門の前で落ち合い、喋りながら一緒に家へ帰ることができると思うととてもわくわくする。気分が高まりすぎて、インド映画のように歌って踊り出してしまいそうな気さえする。早く時間になればいいのにと思うのに、なかなか時間は進まないものでとりあえず目の前のプリントを真剣に解くことにした。
***
もうすぐ待ち合わせの時間になる。正門まで歩いていくのがこんなに楽しく感じる日が来るとは考えたこともなかった。
廊下の窓から外を覗いてみると思っていたよりも大雨だった。今日の雨は雨粒が大きいから傘を持っていないと家に到着する頃にはきっと、ついさっき海から上がってきた人のようにずぶ濡れになってしまうだろう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか正門前に到着していた。
『キーンコーンカーンコーン』
完全下校のチャイムが鳴る。
「待たせちゃってごめんね」
あれ、先輩、傘をさしてない。きっと、天気予報で今日は晴れと言ってたので忘れてしまったのだろう。
「すず先輩、この傘、小さいけど一緒に入ってください。ずぶ濡れになっちゃいます」
大切な先輩をずぶ濡れで家へ返すなんてことはできない。
「ありがとう、でも申し訳ないからいいよ」
すず先輩は申し訳なさそうに笑う。
「まだそんなに親しいわけでもないのにこんなこと言うのはおかしいかもしれませんけど、俺に遠慮はしないでください!俺に先輩を、、、好きな人を守らせてください」
彼女は驚いて、そして照れ笑いを見せる。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ありがとう助かる」
2人で1つの傘をさして正門の前で話している男女。周りの人から見れば、俺たちは1組のカップルのように見えているのだろうか。
校舎から正門までそんなに遠い距離ではないのに既に先輩の髪や衣服はしっとりと濡れていた。湿度が高いのと雨のせいだろうか、前髪が少し乱れている。次に気がついた時には彼女の前髪を整えていた。
「………!!!」
「す、すみません!急に勝手に前髪を触ったりして…気持ち悪いですね…俺」
「びっくりしたけど気持ち悪いことはないよ…!ただ、私、男の子と関わることって今まであんまりなかったからこういうことの耐性があまりなくて……」
先輩を困らせてしまった。
俺は申し訳なくて、言葉を詰まらせていた。
「でも、あきくんにされたからかな、いや…ではなかった」
小さな小さな声で呟いた。
***
2人で1つ使う傘は折り畳み傘ということも相まってとても狭い。
「あきくん、私のせいで肩がずぶ濡れになってる。私はいいからちゃんと入って」
「先輩は女性です。大切な女性にそんなこと出来るはずありません!」
「あきくんはいつも私が恥ずかしくなるようなことばっかり言ってくれるねえ…。何度言われても恥ずかしくて顔から火が出そう。でもね、どこかにちょっと喜んでる自分もいるみたいなの…」
「ふふふっ」と照れ笑いして先輩は嬉しいことを言ってくれる。こんなの、先輩も俺のこと好いてくれてるんじゃないかって勘違いしてしまう。
二人で入る傘は狭いけれど、そのおかげでより彼女の近くに居られる。それが嬉しくて幸せでドキドキして、もう心臓が持ちそうにない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる