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第4話
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正門前で待っていると誰かが走ってこちらへ向かってくる音がした。
「おまたせー!待たせちゃってごめんね」
「いえ、全然…」
俺が好きで待っていたのだから先輩は謝る必要なんてないのに。
先輩の隣を歩くとあのときのレモングラスの香りがする。今、俺はあのとき一目惚れした先輩の隣で歩いている。不思議な気持ちだ。
「あ、真島くんのおうちって花園町の方向?それとも河原町の方向?」
「花園町方面です」
「良かった~待たせといて家の方向が逆だったら一緒に帰れないからね…」
「先輩、俺、、、もし家が逆方向だったとしても先輩を家まで送り届けます!」
「ありがとう」
先輩はふふふっと少し照れくさそうに笑った。笑った表情もとても素敵だ。
先輩と一緒にいると緊張して考えていることを全て口に出してしまう。考えていることすべてを伝えるのはなんだか恥ずかしいけれど、伝えることでいい方向に進んでるのだったらそれもまた良いことのような気がしてきた。
先輩の顔をオレンジ色の夕陽が照らす。こんな時間まで学校に残り、夕陽を浴びることなんて滅多にないので、改めて先輩と一緒に家に帰っているんだということを実感する。
「あの、先輩、実は俺、まだ先輩の名前知らないんです…」
「そうだったの!?てっきりもう知ってるものだとばかり思ってた。私の名前は天沢涼楓です。名字のほうの漢字は、天の川の天、沢山の沢であまさわ。名前のほうは、涼しいの涼、木の楓の楓ですずか。」
「いい名前ですね、先輩にぴったりの名前だと思います」
「そうかなあ?そんなことはじめて言われた。ふふふ、なんだか恥ずかしいなあ」
先輩は少し照れているみたいだ。
あまさわかえで先輩、、、か。空に浮かぶ沢——天の川——。そして、涼しい木陰を作り出す楓。名字も名前も、どちらも彼女のようにとても美しい。
「先輩のこと、『すず先輩』って呼んでいいですか?」
「もちろん。じゃあ、私は真島くんのことなんて呼ぼうかな?名前は『秀明』だよね。うーん、『あきくん』って呼ぼうかな」
「あきくん」、か。ひであきで「ひで」の方で呼ばれたことはあったけど、「あき」の方で呼ばれるのは初めてだ。すず先輩だけが使う呼び方か…と考えると、特別感があってとても嬉しい。
「はじめてで新鮮です、そうやって呼ばれるの」
「もしかして嫌だった?嫌だったらごめんね…」
嫌なんてことは全くない。逆だ、むしろ嬉しすぎる。
「いえ!嫌なんてことは全くありません!ただ、そうやって俺のことを呼ぶのは先輩だけなんで、なんか嬉しいな~って思って…」
「そっか、はじめてか…みんなからは何て呼ばれてるの?」
「『ひであき』とか『ひで』とか、あと、名字のまんま呼ばれることが多いです」
「そっか~、じゃあ私もひでくんって呼ぼうかな?」
俺は、、、先輩だけの特別な呼ばれ方の方が嬉しい。
「『あきくん』の方が嬉しいです。先輩には、特別な呼び方をされたいです」
ああ、また心の声が口から飛び出した。恥ずかしい。多分、今、俺の顔は真っ赤だ。夕陽のおかげですず先輩にばれていないことを願う。
「分かった、じゃあ私は今日から君のことを『あきくん』と呼びます!」
にっこりと笑うすず先輩の素敵な笑顔。勉強をしている時とはまた違った美しさだ。例えるならば、可憐で美しいスズラン。彼女の笑顔は俺までを幸せにしてくれる。この素敵な笑顔を俺が守りたい。俺のそばで、ずっと笑っていてほしい。
先輩といると正直な気持ちを伝えることができるのは俺の緊張からか、それとも、すず先輩が醸す雰囲気がそうさせているのか。正直、どちらかは分からないが、彼女の存在自体が俺に大きな影響を与えていることは間違いない。
***
「ねぇ、あきくん、あきくんはどうして私に告白してくれたの?」
「先輩が文芸部の田中先輩にプリントを届けに来たときはじめてすず先輩を見て、一目惚れ…しました」
「そっかー。一目惚れ、、、私、一目惚れするほどなのかな…?一目惚れしたっていうのは、はじめて言われたなあ。少し照れくさいな、ふふふっ。こくはくされたのもあきくんがはじめてだし」
先輩がはじめて告白された相手が俺。
それを聞いてとても嬉しくなった。相手のはじめてをもらって幸せを感じる。これは人間の性なのだろうか。
***
「先輩の家まであとどのくらいですか?」
「あと3分くらいかな」
あと3分で先輩と一緒に過ごす時間は終わってしまう。そう思うとひどく寂しい。一緒に過ごした時間は学校から家までの約30分。楽しくて幸せな時間はとても短く感じられる。
「もうすぐ、すず先輩とお別れなんですね。また、俺と話してくれますか?俺、すず先輩のこと、これからもっともっとたくさん知っていきたいです」
「ありがとう。私もあきくんのこと、これから少しずつ知っていきたいと思ってる。あきくんさえ良ければだけど、毎日一緒に帰らない?毎日この時間になっちゃうけど…」
先輩からのお誘いだ…。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「じゃあ、毎日完全下校時刻に正門前集合ね」
「はい!」
今日、彼女と話せて名前を知って。それだけでも十分幸せなのに、これからは毎日先輩と一緒に帰ることができる。
俺は明日から放課後が待ち遠しい日々を送ることになるだろう。
「おまたせー!待たせちゃってごめんね」
「いえ、全然…」
俺が好きで待っていたのだから先輩は謝る必要なんてないのに。
先輩の隣を歩くとあのときのレモングラスの香りがする。今、俺はあのとき一目惚れした先輩の隣で歩いている。不思議な気持ちだ。
「あ、真島くんのおうちって花園町の方向?それとも河原町の方向?」
「花園町方面です」
「良かった~待たせといて家の方向が逆だったら一緒に帰れないからね…」
「先輩、俺、、、もし家が逆方向だったとしても先輩を家まで送り届けます!」
「ありがとう」
先輩はふふふっと少し照れくさそうに笑った。笑った表情もとても素敵だ。
先輩と一緒にいると緊張して考えていることを全て口に出してしまう。考えていることすべてを伝えるのはなんだか恥ずかしいけれど、伝えることでいい方向に進んでるのだったらそれもまた良いことのような気がしてきた。
先輩の顔をオレンジ色の夕陽が照らす。こんな時間まで学校に残り、夕陽を浴びることなんて滅多にないので、改めて先輩と一緒に家に帰っているんだということを実感する。
「あの、先輩、実は俺、まだ先輩の名前知らないんです…」
「そうだったの!?てっきりもう知ってるものだとばかり思ってた。私の名前は天沢涼楓です。名字のほうの漢字は、天の川の天、沢山の沢であまさわ。名前のほうは、涼しいの涼、木の楓の楓ですずか。」
「いい名前ですね、先輩にぴったりの名前だと思います」
「そうかなあ?そんなことはじめて言われた。ふふふ、なんだか恥ずかしいなあ」
先輩は少し照れているみたいだ。
あまさわかえで先輩、、、か。空に浮かぶ沢——天の川——。そして、涼しい木陰を作り出す楓。名字も名前も、どちらも彼女のようにとても美しい。
「先輩のこと、『すず先輩』って呼んでいいですか?」
「もちろん。じゃあ、私は真島くんのことなんて呼ぼうかな?名前は『秀明』だよね。うーん、『あきくん』って呼ぼうかな」
「あきくん」、か。ひであきで「ひで」の方で呼ばれたことはあったけど、「あき」の方で呼ばれるのは初めてだ。すず先輩だけが使う呼び方か…と考えると、特別感があってとても嬉しい。
「はじめてで新鮮です、そうやって呼ばれるの」
「もしかして嫌だった?嫌だったらごめんね…」
嫌なんてことは全くない。逆だ、むしろ嬉しすぎる。
「いえ!嫌なんてことは全くありません!ただ、そうやって俺のことを呼ぶのは先輩だけなんで、なんか嬉しいな~って思って…」
「そっか、はじめてか…みんなからは何て呼ばれてるの?」
「『ひであき』とか『ひで』とか、あと、名字のまんま呼ばれることが多いです」
「そっか~、じゃあ私もひでくんって呼ぼうかな?」
俺は、、、先輩だけの特別な呼ばれ方の方が嬉しい。
「『あきくん』の方が嬉しいです。先輩には、特別な呼び方をされたいです」
ああ、また心の声が口から飛び出した。恥ずかしい。多分、今、俺の顔は真っ赤だ。夕陽のおかげですず先輩にばれていないことを願う。
「分かった、じゃあ私は今日から君のことを『あきくん』と呼びます!」
にっこりと笑うすず先輩の素敵な笑顔。勉強をしている時とはまた違った美しさだ。例えるならば、可憐で美しいスズラン。彼女の笑顔は俺までを幸せにしてくれる。この素敵な笑顔を俺が守りたい。俺のそばで、ずっと笑っていてほしい。
先輩といると正直な気持ちを伝えることができるのは俺の緊張からか、それとも、すず先輩が醸す雰囲気がそうさせているのか。正直、どちらかは分からないが、彼女の存在自体が俺に大きな影響を与えていることは間違いない。
***
「ねぇ、あきくん、あきくんはどうして私に告白してくれたの?」
「先輩が文芸部の田中先輩にプリントを届けに来たときはじめてすず先輩を見て、一目惚れ…しました」
「そっかー。一目惚れ、、、私、一目惚れするほどなのかな…?一目惚れしたっていうのは、はじめて言われたなあ。少し照れくさいな、ふふふっ。こくはくされたのもあきくんがはじめてだし」
先輩がはじめて告白された相手が俺。
それを聞いてとても嬉しくなった。相手のはじめてをもらって幸せを感じる。これは人間の性なのだろうか。
***
「先輩の家まであとどのくらいですか?」
「あと3分くらいかな」
あと3分で先輩と一緒に過ごす時間は終わってしまう。そう思うとひどく寂しい。一緒に過ごした時間は学校から家までの約30分。楽しくて幸せな時間はとても短く感じられる。
「もうすぐ、すず先輩とお別れなんですね。また、俺と話してくれますか?俺、すず先輩のこと、これからもっともっとたくさん知っていきたいです」
「ありがとう。私もあきくんのこと、これから少しずつ知っていきたいと思ってる。あきくんさえ良ければだけど、毎日一緒に帰らない?毎日この時間になっちゃうけど…」
先輩からのお誘いだ…。
「いいんですか?ありがとうございます!」
「じゃあ、毎日完全下校時刻に正門前集合ね」
「はい!」
今日、彼女と話せて名前を知って。それだけでも十分幸せなのに、これからは毎日先輩と一緒に帰ることができる。
俺は明日から放課後が待ち遠しい日々を送ることになるだろう。
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