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第3話
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帰りのショートホームルームの終了を知らせるチャイムが鳴った瞬間、俺は教科書やノートを全てカバンに詰め込んで先輩の教室に向かって走り出した。先輩が早々に家に帰ってしまうと話すことができないから。
長い長い廊下を早歩きして先輩のいる教室へ向かう。先輩の教室が見えた。先輩はまだ教室にいるだろうか。
、、、いた。彼女は机の中に入れている教科書たちを丁寧にていねいにカバンに詰めている。まるで教科書やノートに命が宿っているかのように。彼女は自分が使っている道具をとても大切にしているのだろう。モノを大切にできる人に悪い人はいないと思う。
全くの部外者の俺が勝手に教室に入っていくのもなんだか気がひけるので、教室のドアのそばで待つことにした。彼女と何を話そうか。今日一日中考えていたことを頭の中で整理していく。まず最初に名前を名乗ろう、そして先輩の名前も聞こう。なんでもない話だけど好きな食べ物とか聞いてみようか。休みの日は何してるのかな。あ、何部に入ってるんだろう。初対面なのにこんなに質問したら変な人だと思われちゃうかな。聞きたい内容を整理するどころか次々と聞きたいことが増えて行く。
先輩と話すことを考えていると待ち始めてから結構な時間が経っていた。10分くらい経っただろうか。再び教室を覗いてみると、彼女は机に向かっていた。昼休みと同じように勉強していた。
「すごい」
素直にこの言葉が頭に浮かんだ。自分は先輩みたいにはできないと思った。勉強を頑張る理由も目的もない俺は先輩のように熱心に勉強しようとは思えない。テストだって平均点が取れたらいいかななんて思っている。こんな俺じゃ彼女に似合う人間にはなれない。彼女に1歩でも近づけるように努力ができる人間になろう。
昼休みも熱心に勉強していたから、きっと先輩は学校の完全下校時刻まで残って勉強をして帰るだろう。今日はこの後の予定も無いし、今日は俺も先輩を見習って時間になるまで自分の教室で勉強して帰ろう。そして、時間になったらこの教室に来て先輩に話しかけてみよう。先輩ははじめて見る人に話しかけられて驚くかな。
彼女に話しかけることへの緊張も大きいけれど、それよりも話してみたい、関わってみたいという気持ちの方が遥かに上回っている。彼女は話すときの癖はあるのかな、あるとしたらどんな癖なんだろう。彼女に対する疑問は尽きない。
入学して以来、何度も歩いた自分の教室に向かう廊下。何度も歩いたはずなのに、先輩と話せることを心待ちにする気持ちと、先輩とはじめて話すことへの緊張とが入り混じって初めて歩く場所のような気がした。
***
時間が来た。完全下校時刻だ。俺はこれから先輩に会いに行く。一日中考えていた彼女と話せるんだ、そう思うとワクワクした。今俺は顔の筋肉が緩んで変な顔をしている気がする。先輩の教室へ続く廊下を歩く。近づくたびに心臓が鼓動する音がだんだん、だんだん大きくなってゆく。その音が余計に俺の緊張を掻き立てる。今、俺の心臓はすれ違う人に聞こえているんじゃ無いかと思うくらい大きな音を立てている気がする。今日は自分の教室から先輩の教室まで既に2往復したけれど、3往復目の今回が最も廊下を歩く時間が短い気がした。
先輩の教室の照明はまだ点いている。きっと先輩が教室に残っているのだろう。
教室を覗くと、先輩がいた。
そして、彼女と目が合った。心臓が今までのどんなときよりも大きく大きく、跳ねた。
何か、話さなきゃ。
「は、はじめまして!俺、真島秀明っていいます。先輩のこと、部活ではじめて先輩のことを見て、それで俺、先輩と話してみたいなって、思ったんです。先輩、好きです!!!俺と付き合ってください!!!」
あれ?俺なんで告白してるんだ?こんなはずじゃなかったのに。
やってしまった。緊張しすぎて言うつもりのなかったことが口から飛び出した。きっと俺の顔は今、とんでもなく真っ赤だと思う。かっこわるい。
彼女は驚きと戸惑いが混じった表情をしていた。
「真島くん、、、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
ああ、俺、今から振られるんだ。なんで口から「好き」だなんて飛び出してきたんだ。
「私、まだ全然君のことを知らないから、お友達から、よろしくお願いします」
にこっと笑う先輩の笑顔が素敵だ。
「友達から始めよう」
振られると思っていた俺はその言葉がとてつもなく嬉しかった。嬉しいという言葉では表せないほどに。
「ええっと、今から教室の戸締りして鍵を職員室に返してくるから先に正門の前で待ってて。私もすぐ行くから」
「いえ、手伝います」
「助かるよ~ありがとう。毎日一人で教室の戸締りするの結構大変なんだ」
先輩は毎日こんな時間まで残って勉強しているのか。
「せ、先輩は、毎日この時間まで残って勉強してるんですか?」
「うん、家じゃ勉強できないからね」
「すごいですね、俺はあんまり勉強好きじゃないから尊敬します」
「うーん、私もあんまり好きじゃないんだけどね」
先輩は苦笑いして言った。
「じゃあ、教室の鍵を閉めて職員室に返しに行ってくるから先に正門の前で待ってて。私もすぐ行くから」
「わかりました。じゃあ、正門前で待ってます」
あれ、俺、、、待ってますって気軽に言ったけど、正門で待っててっていうことは「一緒に帰ろう」っていう遠回しなお誘いなんじゃないか?少し話したら帰ろうと思ってたのに、思いがけず一緒に帰ることになってしまった。
先輩と一緒に帰ることができるのか…嬉しいな…
長い長い廊下を早歩きして先輩のいる教室へ向かう。先輩の教室が見えた。先輩はまだ教室にいるだろうか。
、、、いた。彼女は机の中に入れている教科書たちを丁寧にていねいにカバンに詰めている。まるで教科書やノートに命が宿っているかのように。彼女は自分が使っている道具をとても大切にしているのだろう。モノを大切にできる人に悪い人はいないと思う。
全くの部外者の俺が勝手に教室に入っていくのもなんだか気がひけるので、教室のドアのそばで待つことにした。彼女と何を話そうか。今日一日中考えていたことを頭の中で整理していく。まず最初に名前を名乗ろう、そして先輩の名前も聞こう。なんでもない話だけど好きな食べ物とか聞いてみようか。休みの日は何してるのかな。あ、何部に入ってるんだろう。初対面なのにこんなに質問したら変な人だと思われちゃうかな。聞きたい内容を整理するどころか次々と聞きたいことが増えて行く。
先輩と話すことを考えていると待ち始めてから結構な時間が経っていた。10分くらい経っただろうか。再び教室を覗いてみると、彼女は机に向かっていた。昼休みと同じように勉強していた。
「すごい」
素直にこの言葉が頭に浮かんだ。自分は先輩みたいにはできないと思った。勉強を頑張る理由も目的もない俺は先輩のように熱心に勉強しようとは思えない。テストだって平均点が取れたらいいかななんて思っている。こんな俺じゃ彼女に似合う人間にはなれない。彼女に1歩でも近づけるように努力ができる人間になろう。
昼休みも熱心に勉強していたから、きっと先輩は学校の完全下校時刻まで残って勉強をして帰るだろう。今日はこの後の予定も無いし、今日は俺も先輩を見習って時間になるまで自分の教室で勉強して帰ろう。そして、時間になったらこの教室に来て先輩に話しかけてみよう。先輩ははじめて見る人に話しかけられて驚くかな。
彼女に話しかけることへの緊張も大きいけれど、それよりも話してみたい、関わってみたいという気持ちの方が遥かに上回っている。彼女は話すときの癖はあるのかな、あるとしたらどんな癖なんだろう。彼女に対する疑問は尽きない。
入学して以来、何度も歩いた自分の教室に向かう廊下。何度も歩いたはずなのに、先輩と話せることを心待ちにする気持ちと、先輩とはじめて話すことへの緊張とが入り混じって初めて歩く場所のような気がした。
***
時間が来た。完全下校時刻だ。俺はこれから先輩に会いに行く。一日中考えていた彼女と話せるんだ、そう思うとワクワクした。今俺は顔の筋肉が緩んで変な顔をしている気がする。先輩の教室へ続く廊下を歩く。近づくたびに心臓が鼓動する音がだんだん、だんだん大きくなってゆく。その音が余計に俺の緊張を掻き立てる。今、俺の心臓はすれ違う人に聞こえているんじゃ無いかと思うくらい大きな音を立てている気がする。今日は自分の教室から先輩の教室まで既に2往復したけれど、3往復目の今回が最も廊下を歩く時間が短い気がした。
先輩の教室の照明はまだ点いている。きっと先輩が教室に残っているのだろう。
教室を覗くと、先輩がいた。
そして、彼女と目が合った。心臓が今までのどんなときよりも大きく大きく、跳ねた。
何か、話さなきゃ。
「は、はじめまして!俺、真島秀明っていいます。先輩のこと、部活ではじめて先輩のことを見て、それで俺、先輩と話してみたいなって、思ったんです。先輩、好きです!!!俺と付き合ってください!!!」
あれ?俺なんで告白してるんだ?こんなはずじゃなかったのに。
やってしまった。緊張しすぎて言うつもりのなかったことが口から飛び出した。きっと俺の顔は今、とんでもなく真っ赤だと思う。かっこわるい。
彼女は驚きと戸惑いが混じった表情をしていた。
「真島くん、、、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
ああ、俺、今から振られるんだ。なんで口から「好き」だなんて飛び出してきたんだ。
「私、まだ全然君のことを知らないから、お友達から、よろしくお願いします」
にこっと笑う先輩の笑顔が素敵だ。
「友達から始めよう」
振られると思っていた俺はその言葉がとてつもなく嬉しかった。嬉しいという言葉では表せないほどに。
「ええっと、今から教室の戸締りして鍵を職員室に返してくるから先に正門の前で待ってて。私もすぐ行くから」
「いえ、手伝います」
「助かるよ~ありがとう。毎日一人で教室の戸締りするの結構大変なんだ」
先輩は毎日こんな時間まで残って勉強しているのか。
「せ、先輩は、毎日この時間まで残って勉強してるんですか?」
「うん、家じゃ勉強できないからね」
「すごいですね、俺はあんまり勉強好きじゃないから尊敬します」
「うーん、私もあんまり好きじゃないんだけどね」
先輩は苦笑いして言った。
「じゃあ、教室の鍵を閉めて職員室に返しに行ってくるから先に正門の前で待ってて。私もすぐ行くから」
「わかりました。じゃあ、正門前で待ってます」
あれ、俺、、、待ってますって気軽に言ったけど、正門で待っててっていうことは「一緒に帰ろう」っていう遠回しなお誘いなんじゃないか?少し話したら帰ろうと思ってたのに、思いがけず一緒に帰ることになってしまった。
先輩と一緒に帰ることができるのか…嬉しいな…
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