1 / 35
プロローグ
しおりを挟む
【――これより神罰術式を発動します――】
世界を終焉へと導く言葉は、至極簡単なものだった。
美しい声が、無機質に世界へと響き渡る。
空から響くようなその声は、何処に居ようと、どの様な言語だろうと、果ては言語すら理解していない者にさえも。
人々の魂に、刻み込むように鳴り響く。
眩い光の放流が世界に溢れ、世界を飲み込む。
それまで、人間が当たり前に存在していた景色が一変する。その場に居た人々の姿は。否、そこにあったものは、翠色の光を放つ樹木だけになっていた。
人間であった者達の残滓が見て取れる樹々は、瞬く間に枝葉を伸ばし、より輝きを増して、翠色の光で世界を満たしていく。
そして世界は翠色に染まり、人間の時代は終焉を迎えた。
◇◇◇
樹々が怪しく翠色に光る森の中、焚き火を見つめる一人の男が居る。
男は焚き火の傍らで、シングルバーナーを使ってコッヘルでお湯を沸かしている。
パチパチと焚き火が爆ぜる音とバーナーの音だけが響く世界。火にかけたコッヘルの水が沸騰し、男は用意しておいたドリップコーヒーにお湯を注ぐ。
広がるコーヒーの香りに、男の頬が緩む。
「ふぅ……いい香りだ」
1口、2口とコーヒーを口にしながら男が呟く。
男の目線がふと横に動く。
そこにはうつらうつらと舟を漕いで、眠気と戦っている小学校中学年くらいの女の子が1人座っていた。
「ほら、こんな所で寝たら風邪ひくぞ。今日はもう休もう」
「……わかった……」
眠い目を擦りながら女の子は立ち上がり、男の方に近づく。
「おとうさん、だっこ……」
男はコーヒーを地面に置きながら立ち上がる。
「……仕方がないな、ほら行くよ亜依」
男に抱きかかえられ、嬉しそうに目を瞑る女の子。
男は女の子を抱きかかえながら今夜の寝床を目指す。
「……お父さんか」
未だ戸惑いを覚えつつも、嬉しそうに呟く。
そして、ここにはいない子供達のことを思い出す。
(伊緒達は無事だといいが……、真理は光に任せるしかないか――)
夜空を見上げると、怪しく翠色に光る樹々の間から月が輝く。
そのすぐ隣には高層ビルが立ち並び、ここが何処だったかを思い出させる。
「こんな世紀末みたいな世界で、俺はどうすればいいんだろうな……なぁ美夏……」
新都心のビルの谷間で、仁代星斗は一人そう呟いた。
世界を終焉へと導く言葉は、至極簡単なものだった。
美しい声が、無機質に世界へと響き渡る。
空から響くようなその声は、何処に居ようと、どの様な言語だろうと、果ては言語すら理解していない者にさえも。
人々の魂に、刻み込むように鳴り響く。
眩い光の放流が世界に溢れ、世界を飲み込む。
それまで、人間が当たり前に存在していた景色が一変する。その場に居た人々の姿は。否、そこにあったものは、翠色の光を放つ樹木だけになっていた。
人間であった者達の残滓が見て取れる樹々は、瞬く間に枝葉を伸ばし、より輝きを増して、翠色の光で世界を満たしていく。
そして世界は翠色に染まり、人間の時代は終焉を迎えた。
◇◇◇
樹々が怪しく翠色に光る森の中、焚き火を見つめる一人の男が居る。
男は焚き火の傍らで、シングルバーナーを使ってコッヘルでお湯を沸かしている。
パチパチと焚き火が爆ぜる音とバーナーの音だけが響く世界。火にかけたコッヘルの水が沸騰し、男は用意しておいたドリップコーヒーにお湯を注ぐ。
広がるコーヒーの香りに、男の頬が緩む。
「ふぅ……いい香りだ」
1口、2口とコーヒーを口にしながら男が呟く。
男の目線がふと横に動く。
そこにはうつらうつらと舟を漕いで、眠気と戦っている小学校中学年くらいの女の子が1人座っていた。
「ほら、こんな所で寝たら風邪ひくぞ。今日はもう休もう」
「……わかった……」
眠い目を擦りながら女の子は立ち上がり、男の方に近づく。
「おとうさん、だっこ……」
男はコーヒーを地面に置きながら立ち上がる。
「……仕方がないな、ほら行くよ亜依」
男に抱きかかえられ、嬉しそうに目を瞑る女の子。
男は女の子を抱きかかえながら今夜の寝床を目指す。
「……お父さんか」
未だ戸惑いを覚えつつも、嬉しそうに呟く。
そして、ここにはいない子供達のことを思い出す。
(伊緒達は無事だといいが……、真理は光に任せるしかないか――)
夜空を見上げると、怪しく翠色に光る樹々の間から月が輝く。
そのすぐ隣には高層ビルが立ち並び、ここが何処だったかを思い出させる。
「こんな世紀末みたいな世界で、俺はどうすればいいんだろうな……なぁ美夏……」
新都心のビルの谷間で、仁代星斗は一人そう呟いた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる