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第8話 魔女の家5
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◆◆◆
「お風呂はどうだった?」
「きもちよかったです!」
「んなー、それは重畳」
風呂から上がり、脱衣所で寅吉に身体を拭いていた。
「ちょうじょう?」
「喜ばしいということだ」
「へー、そうなんですか」
「にゃー、お前も文字や言葉の勉強が必要だな。まあその前に、風呂上がりと言ったらこれだ。美味いぞ」
寅吉がガラスケースの中から瓶に入れられた牛乳を手に取る。
「これはな、こうやって飲むんだ」
そう言うと、寅吉は瓶の蓋を開け、左手を腰に当てて一気に牛乳を飲み始める。
「んみゃー、風呂上がりにはやっぱり牛乳だな」
「おー、おいしそうです」
「にゃ、そうだろ、お前もやってみろ」
「ちょっと待ったー!」
グレンが牛乳瓶の蓋を開けようとした時、突然クレアが乱入してきた。
「おい、ちゃんと着替えてから来い」
「寅吉!何抜け駆けしてるの!お風呂上がりと言ったらコーヒー牛乳でしょ!」
「にゃ!何を言う、牛乳こそ至高の飲み物だろ!」
「いいえ、コーヒー牛乳こそ究極の飲み物だよ!」
クレアと寅吉が威嚇し合っている中、グレンはガラスケースの中に置かれた淡黄色の液体の入った瓶を取り出す。
「ぼくは、これをのんでみます」
「「そ、それは」」
グレンが手に取ったのはフルーツ牛乳だった。
単純に牛乳は飲んだことがあり、クレアの持ってきたコーヒー牛乳は茶色で余り美味しそうに見えなかったため、果物の様な色のフルーツ牛乳を選んだだけだった。
グレンは瓶の蓋を開け、左手を腰に当ててフルーツ牛乳を一気に飲み干す。
「ぷはー、あまくておいしい!」
グレンはキラキラした目でクレアと寅吉を見つめる。
こんな美味しいものを飲んだのは初めてだと、グレンが全身から溢れ出す感動で訴えてくる。
「ま、まあ、好みは人それぞれよね」
「にゃ、そうだな。推しの押し売りはよくない」
すっかり毒気を抜かれた2人は、いまだにキラキラと目を輝かせているグレン暖かく見つめるのであった。
◇◇◇
「んなー、ところで、グレンの着替えはどうする?」
「あーそうだね、”倉庫”から何か適当に見繕ってくるよ。ちょっと着替えたら行ってくるわ」
「にゃ、任せた」
クレアが着替えに戻り、寅吉とグレンだけが残される。
「グレン、今お前の着替えを取ってくるから、髪を乾かして待ってろ」
「このふくでいいよ?」
グレンはそう言って、今まで着てた服をかごから取り出す。
「んにゃ、流石にそのまま寝る訳にはいかないだろ。そいつは洗濯だ。クレアもすぐに戻ってくるだろうから髪の毛を乾かすぞ。ついでに俺の毛も乾かすのを手伝ってくれ」
「わかりました」
グレンは温風の出る魔道具で髪の毛を乾かされ、ドライヤーと呼ばれる魔道具の使い方を教わる。
まだ上手く扱うことができないため、グレンはブラシを手にし、寅吉の全身の毛をブラッシングすることになった。
「では俺がドライヤーを当てるから、お前はブラシをかけてくれ」
「はい!」
寅吉がドライヤーで温風を当て、グレンはその場所を丁寧にブラッシングしていく。
濡れていた毛は、次第にふわふわのもふもふへと変わっていく。
(うわーもふもふだ!)
思わず顔を埋めたくなるグレン。
仄かに香ってくる石鹸の香りと少し香ばしくも感じられる寅吉の毛の匂い。
(おひさまのにおいみたい……)
夢中で寅吉の毛をブラッシングするグレンは、ある音に気が付く。
まるで雷がゴロゴロとなっているような音。
それがすぐ目の前からしていた。
「あの……このおとは……」
「にゃー……にゃ!んっんっ!何でもないぞ!気にしなくていい!ちょっと気持ちよかっただけだ。うん。続けてくれたまえ」
「そうですか?」
(ぜったいねこのゴロゴロだ!)
寅吉の名誉の為、口に出さないが、グレンは核心を持ってそう思うのだった。
「グレン!着替え持ってきたよ~。あれ~寅吉、随分気持ちよさそうだねぇ?」
着替えを手に戻ったクレアは、寅吉がゴロゴロと喉を鳴らす音を聞いてニヤニヤしながら問いかける。
「にゃにゃ!そ、そんな事は無いぞ!ああでもグレンのブラッシングは素晴らしかったが……そう!素晴らしかったからな!うん、仕方がないのだ」
「そんな慌てることないじゃん、何時もゴロゴロ言ってるんだし。グレン、変わるからこれに着替えちゃいな。寝巻と明日の服も探してきたよ」
「あ、ありがとうございます」
クレアから服を渡され、ブラッシングを交代して着替え始めるグレン。
(あたらしいふくだ……いままでふるいふくしかきたことないのに……)
新品の服など貰ったことの無いグレンは、目を大きくして驚きながら着替える。
(どこにあったんだろう?そうこ、っていってたけど)
着替え終わると上下白色のパジャマ姿になる。
真っ白ではなく小さな黒猫の絵柄が散りばめられている可愛らしいパジャマだ。
(なんか、かわいい……)
「おっ、着替えたね。うん、思ったとおり似合ってるね!可愛い可愛い」
「にゃ……クレア、なんで黒猫なんだ、サバトラ猫はいないのか?」
「黒猫しかなかったよ、てかそこは張り合うところじゃないでしょ……」
「んにゃ……でも、やはり……」
「無いものはないの。ほら、乾いたし行くよ」
「んにゃー……」
寅吉の耳がぺたりと下がっていた。
◇◇◇
「さて、お風呂が先になっちゃったけど、ご飯食べようか」
「にゃ、シチュー温めるよ。パンがいい?ご飯がいい?」
(ごはん?)
お風呂から戻った3人はキッチンに立って夕飯の準備を始める。
グレンはご飯という言葉がわからず反応できないでいると、クレアが答えを出す。
「疲れたしすぐ食べたいからパンですまそうか、グレンもそれでいいかな?」
「はい、だいじょうぶです」
「にゃ、じゃあすぐに温めるから食卓の準備してくれ」
「グレンおいで、食器の場所を教えよう」
「はい」
寅吉がシチューを温め直している間、グレンはクレアに連れられてスプーンやコップの用意をしていく。
「グレンの食器も揃えないとだねー、何か気に入ったものとかある?」
「えっと……」
今まで食器と言えば木製の物だったため、初めて見る彩豊かなお皿や銀色に輝くカトラリー等が収められた食器棚を前にして、目が奪われるばかりで視点が定まらない。
「あっ」
ふとグレンの目に留まったのは、シンプルな白いお皿に緑色の植物の模様と銀の縁取りがされ、赤と紫の花が咲いているものだった。
「……これが、いいです」
「おー、いいの選んだね。これはなかなか手に入らないお皿なんだよ。お目が高い」
「えっ、そんなすごいものなんですか……じゃあほかのに……」
グレンは貴重なお皿と聞いて慌てて他の物を選ぼうとする。
「いいよ、これが気に入ったんでしょ?自由に使って」
「あ、ありがとうございます」
グレンは満面の笑みのまま、深々と頭を下げてお礼を口にする。
「ちなみに、どこが気に入ったのかな?」
「……えっと、このしょくぶつがクレアさんみたいで……ぎんいろはトラキチさん……あと、このちいさなはなが……ぼくみたいで……」
恥ずかしそうに理由を説明するグレン。
小さな花は赤と紫。
グレンの髪と瞳の色だ。
「……なんか……みんながいっしょにいるみたいで……」
「んんー!可愛い!お姉さんギュッとしちゃう!」
クレアが我慢できないとばかりにグレンを抱きしめる。
「あ、え、っと、クレア……さん?」
「大丈夫、私達は家族だよ」
グレンは戸惑いつつもクレアに包まれる温もりを感じ、今日1日中で身も心と温められたことを改めて感じる。
(おとうさん、……おかあさん……アイラ……ぼく、ここでがんばるよ……)
そんな2人を見ながら、寅吉が温めたシチューの入った鍋を持って現れる。
「2人とも、お皿を持ってきてくれ。ご飯にしよう」
「そうだね、グレン運んでくれるかな」
「はい」
食卓にはいつの間にかパンやサラダが並び、最後に寅吉がシチューを置く。
寅吉がシチューをよそる。
「にゃ、みんな席に着いて」
「では」
「「「頂きます」」」
グレンがこの家に来て、初めての食事は温かいシチューだった。
にんじん、ジャガイモ、玉ねぎ、キノコ、大きな柔らかいお肉ががゴロゴロと入った寅吉特製シチュー。
グレンは夢中で食べた、数日間殆ど飲まず食わずで疲弊していた体は栄養を求めた。
(おいしい!すごく、おいしい!こんなの、はじめて!)
夢中で食べるグレンをクレアと寅吉は嬉しそうに見つめていた。
◇◇◇
「もう、たべられません」
「ご馳走様でした」
「にゃ、お粗末さまでした」
3人で片付けをし、テーブルについて一息つく。
「グレン、明日からのことを軽く話しておくね」
「は、はい!」
グレンは姿勢を正してクレアの目をまっすぐに見つめる。
「そう畏まらなくてもいいよ。まずは身の回りの整理をして、まずはここの生活に慣れること。それから文字とか数字とかの勉強をしつつ興味のあることをやっていこう。魔術でもいいし、武術でもいい。料理や絵を描いてもいい。私は漫画を描いて欲しいけどね!小説でもいいよ!アニメーションとか作れたら最高かな?まぁ、自分の好きなことを見つけてみなよ。私と寅吉は割合そんな感じだから」
「にゃ、そうだな。魔法や漫画のことならクレアが。武術や料理なら俺が教えよう。身を守るすべてと生きるすべては覚えておいて損はないからな」
「ぼくは……ぜんぶ、やってみたいです!しらないことだらけだとおしえてもらったから!ぼくのしらないことをぜんぶしりたいです!それでみんなによろこんでもらうんです!」
グレンは、小さな村のよくある家庭の長男として生まれた。
子供も何かしら働かないといけないような世界。
子供は親の手伝いをし、下の子の世話をする。
そんな生活が当たり前で、死や不幸がすぐ隣にいる世界。
だから子供ながらに一生懸命に働き、自分を律して生きている。
子供が子供らしく、生きるのが辛い世界。
「いいね、子供はそれくらいじゃなきゃ」
「にゃ、夢と野望は大きい方がいいからな」
そんな世界の子供が夢と希望と野望を抱いた。
そう仕向けたのは大人の2人、ならばそれを見守り導くのも大人の役目。
まして家族として迎え入れたのならば親の責任。
「んなー、明日からは一生懸命遊び、学び、生きるんだ」
「そう、そして我々の手にオタク文化の潤いを!」
「おい!」
「いらないの?」
「……いる、あと料理」
「あと美味しいデザート!」
「がんばります!」
少年は夢を希望を、そして野望を抱いて新たな生活の一歩を踏み出した。
「お風呂はどうだった?」
「きもちよかったです!」
「んなー、それは重畳」
風呂から上がり、脱衣所で寅吉に身体を拭いていた。
「ちょうじょう?」
「喜ばしいということだ」
「へー、そうなんですか」
「にゃー、お前も文字や言葉の勉強が必要だな。まあその前に、風呂上がりと言ったらこれだ。美味いぞ」
寅吉がガラスケースの中から瓶に入れられた牛乳を手に取る。
「これはな、こうやって飲むんだ」
そう言うと、寅吉は瓶の蓋を開け、左手を腰に当てて一気に牛乳を飲み始める。
「んみゃー、風呂上がりにはやっぱり牛乳だな」
「おー、おいしそうです」
「にゃ、そうだろ、お前もやってみろ」
「ちょっと待ったー!」
グレンが牛乳瓶の蓋を開けようとした時、突然クレアが乱入してきた。
「おい、ちゃんと着替えてから来い」
「寅吉!何抜け駆けしてるの!お風呂上がりと言ったらコーヒー牛乳でしょ!」
「にゃ!何を言う、牛乳こそ至高の飲み物だろ!」
「いいえ、コーヒー牛乳こそ究極の飲み物だよ!」
クレアと寅吉が威嚇し合っている中、グレンはガラスケースの中に置かれた淡黄色の液体の入った瓶を取り出す。
「ぼくは、これをのんでみます」
「「そ、それは」」
グレンが手に取ったのはフルーツ牛乳だった。
単純に牛乳は飲んだことがあり、クレアの持ってきたコーヒー牛乳は茶色で余り美味しそうに見えなかったため、果物の様な色のフルーツ牛乳を選んだだけだった。
グレンは瓶の蓋を開け、左手を腰に当ててフルーツ牛乳を一気に飲み干す。
「ぷはー、あまくておいしい!」
グレンはキラキラした目でクレアと寅吉を見つめる。
こんな美味しいものを飲んだのは初めてだと、グレンが全身から溢れ出す感動で訴えてくる。
「ま、まあ、好みは人それぞれよね」
「にゃ、そうだな。推しの押し売りはよくない」
すっかり毒気を抜かれた2人は、いまだにキラキラと目を輝かせているグレン暖かく見つめるのであった。
◇◇◇
「んなー、ところで、グレンの着替えはどうする?」
「あーそうだね、”倉庫”から何か適当に見繕ってくるよ。ちょっと着替えたら行ってくるわ」
「にゃ、任せた」
クレアが着替えに戻り、寅吉とグレンだけが残される。
「グレン、今お前の着替えを取ってくるから、髪を乾かして待ってろ」
「このふくでいいよ?」
グレンはそう言って、今まで着てた服をかごから取り出す。
「んにゃ、流石にそのまま寝る訳にはいかないだろ。そいつは洗濯だ。クレアもすぐに戻ってくるだろうから髪の毛を乾かすぞ。ついでに俺の毛も乾かすのを手伝ってくれ」
「わかりました」
グレンは温風の出る魔道具で髪の毛を乾かされ、ドライヤーと呼ばれる魔道具の使い方を教わる。
まだ上手く扱うことができないため、グレンはブラシを手にし、寅吉の全身の毛をブラッシングすることになった。
「では俺がドライヤーを当てるから、お前はブラシをかけてくれ」
「はい!」
寅吉がドライヤーで温風を当て、グレンはその場所を丁寧にブラッシングしていく。
濡れていた毛は、次第にふわふわのもふもふへと変わっていく。
(うわーもふもふだ!)
思わず顔を埋めたくなるグレン。
仄かに香ってくる石鹸の香りと少し香ばしくも感じられる寅吉の毛の匂い。
(おひさまのにおいみたい……)
夢中で寅吉の毛をブラッシングするグレンは、ある音に気が付く。
まるで雷がゴロゴロとなっているような音。
それがすぐ目の前からしていた。
「あの……このおとは……」
「にゃー……にゃ!んっんっ!何でもないぞ!気にしなくていい!ちょっと気持ちよかっただけだ。うん。続けてくれたまえ」
「そうですか?」
(ぜったいねこのゴロゴロだ!)
寅吉の名誉の為、口に出さないが、グレンは核心を持ってそう思うのだった。
「グレン!着替え持ってきたよ~。あれ~寅吉、随分気持ちよさそうだねぇ?」
着替えを手に戻ったクレアは、寅吉がゴロゴロと喉を鳴らす音を聞いてニヤニヤしながら問いかける。
「にゃにゃ!そ、そんな事は無いぞ!ああでもグレンのブラッシングは素晴らしかったが……そう!素晴らしかったからな!うん、仕方がないのだ」
「そんな慌てることないじゃん、何時もゴロゴロ言ってるんだし。グレン、変わるからこれに着替えちゃいな。寝巻と明日の服も探してきたよ」
「あ、ありがとうございます」
クレアから服を渡され、ブラッシングを交代して着替え始めるグレン。
(あたらしいふくだ……いままでふるいふくしかきたことないのに……)
新品の服など貰ったことの無いグレンは、目を大きくして驚きながら着替える。
(どこにあったんだろう?そうこ、っていってたけど)
着替え終わると上下白色のパジャマ姿になる。
真っ白ではなく小さな黒猫の絵柄が散りばめられている可愛らしいパジャマだ。
(なんか、かわいい……)
「おっ、着替えたね。うん、思ったとおり似合ってるね!可愛い可愛い」
「にゃ……クレア、なんで黒猫なんだ、サバトラ猫はいないのか?」
「黒猫しかなかったよ、てかそこは張り合うところじゃないでしょ……」
「んにゃ……でも、やはり……」
「無いものはないの。ほら、乾いたし行くよ」
「んにゃー……」
寅吉の耳がぺたりと下がっていた。
◇◇◇
「さて、お風呂が先になっちゃったけど、ご飯食べようか」
「にゃ、シチュー温めるよ。パンがいい?ご飯がいい?」
(ごはん?)
お風呂から戻った3人はキッチンに立って夕飯の準備を始める。
グレンはご飯という言葉がわからず反応できないでいると、クレアが答えを出す。
「疲れたしすぐ食べたいからパンですまそうか、グレンもそれでいいかな?」
「はい、だいじょうぶです」
「にゃ、じゃあすぐに温めるから食卓の準備してくれ」
「グレンおいで、食器の場所を教えよう」
「はい」
寅吉がシチューを温め直している間、グレンはクレアに連れられてスプーンやコップの用意をしていく。
「グレンの食器も揃えないとだねー、何か気に入ったものとかある?」
「えっと……」
今まで食器と言えば木製の物だったため、初めて見る彩豊かなお皿や銀色に輝くカトラリー等が収められた食器棚を前にして、目が奪われるばかりで視点が定まらない。
「あっ」
ふとグレンの目に留まったのは、シンプルな白いお皿に緑色の植物の模様と銀の縁取りがされ、赤と紫の花が咲いているものだった。
「……これが、いいです」
「おー、いいの選んだね。これはなかなか手に入らないお皿なんだよ。お目が高い」
「えっ、そんなすごいものなんですか……じゃあほかのに……」
グレンは貴重なお皿と聞いて慌てて他の物を選ぼうとする。
「いいよ、これが気に入ったんでしょ?自由に使って」
「あ、ありがとうございます」
グレンは満面の笑みのまま、深々と頭を下げてお礼を口にする。
「ちなみに、どこが気に入ったのかな?」
「……えっと、このしょくぶつがクレアさんみたいで……ぎんいろはトラキチさん……あと、このちいさなはなが……ぼくみたいで……」
恥ずかしそうに理由を説明するグレン。
小さな花は赤と紫。
グレンの髪と瞳の色だ。
「……なんか……みんながいっしょにいるみたいで……」
「んんー!可愛い!お姉さんギュッとしちゃう!」
クレアが我慢できないとばかりにグレンを抱きしめる。
「あ、え、っと、クレア……さん?」
「大丈夫、私達は家族だよ」
グレンは戸惑いつつもクレアに包まれる温もりを感じ、今日1日中で身も心と温められたことを改めて感じる。
(おとうさん、……おかあさん……アイラ……ぼく、ここでがんばるよ……)
そんな2人を見ながら、寅吉が温めたシチューの入った鍋を持って現れる。
「2人とも、お皿を持ってきてくれ。ご飯にしよう」
「そうだね、グレン運んでくれるかな」
「はい」
食卓にはいつの間にかパンやサラダが並び、最後に寅吉がシチューを置く。
寅吉がシチューをよそる。
「にゃ、みんな席に着いて」
「では」
「「「頂きます」」」
グレンがこの家に来て、初めての食事は温かいシチューだった。
にんじん、ジャガイモ、玉ねぎ、キノコ、大きな柔らかいお肉ががゴロゴロと入った寅吉特製シチュー。
グレンは夢中で食べた、数日間殆ど飲まず食わずで疲弊していた体は栄養を求めた。
(おいしい!すごく、おいしい!こんなの、はじめて!)
夢中で食べるグレンをクレアと寅吉は嬉しそうに見つめていた。
◇◇◇
「もう、たべられません」
「ご馳走様でした」
「にゃ、お粗末さまでした」
3人で片付けをし、テーブルについて一息つく。
「グレン、明日からのことを軽く話しておくね」
「は、はい!」
グレンは姿勢を正してクレアの目をまっすぐに見つめる。
「そう畏まらなくてもいいよ。まずは身の回りの整理をして、まずはここの生活に慣れること。それから文字とか数字とかの勉強をしつつ興味のあることをやっていこう。魔術でもいいし、武術でもいい。料理や絵を描いてもいい。私は漫画を描いて欲しいけどね!小説でもいいよ!アニメーションとか作れたら最高かな?まぁ、自分の好きなことを見つけてみなよ。私と寅吉は割合そんな感じだから」
「にゃ、そうだな。魔法や漫画のことならクレアが。武術や料理なら俺が教えよう。身を守るすべてと生きるすべては覚えておいて損はないからな」
「ぼくは……ぜんぶ、やってみたいです!しらないことだらけだとおしえてもらったから!ぼくのしらないことをぜんぶしりたいです!それでみんなによろこんでもらうんです!」
グレンは、小さな村のよくある家庭の長男として生まれた。
子供も何かしら働かないといけないような世界。
子供は親の手伝いをし、下の子の世話をする。
そんな生活が当たり前で、死や不幸がすぐ隣にいる世界。
だから子供ながらに一生懸命に働き、自分を律して生きている。
子供が子供らしく、生きるのが辛い世界。
「いいね、子供はそれくらいじゃなきゃ」
「にゃ、夢と野望は大きい方がいいからな」
そんな世界の子供が夢と希望と野望を抱いた。
そう仕向けたのは大人の2人、ならばそれを見守り導くのも大人の役目。
まして家族として迎え入れたのならば親の責任。
「んなー、明日からは一生懸命遊び、学び、生きるんだ」
「そう、そして我々の手にオタク文化の潤いを!」
「おい!」
「いらないの?」
「……いる、あと料理」
「あと美味しいデザート!」
「がんばります!」
少年は夢を希望を、そして野望を抱いて新たな生活の一歩を踏み出した。
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