召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

107話

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『調子に乗ってすんませんしたー!』

 綺麗な土下座をする幼女と化した白竜。
 遥香の性別特攻が効きすぎたせいで、男の姿になるのをやめたようだ。
 あれは見てる方にとっても、ヒュンとなる辛い一撃である…

『まあ、ドラゴンに性別はありませんので…』

 レッドが苦笑いしながら説明してくれた。
 魔物同様に自然発生するらしく、タマゴから生まれるみたいなことは無いらしい。亜竜クラスは違うようだが。

『鱗ならいくらでも差し上げますんで、これ以上の痛いことはご勘弁を…』

 完全に心が折れてしまったようで、素直に鱗を差し出してくる。
 古い物から新しいものまで様々だ。

「では、遠慮なく大量にいただいていこう。海底に沈んでるんだろ?」
『はい。寝てる間も生え変わってたみたいなんで。』
「時間経過による変化が分かりそうだ。」

 探求心に衰えがないバニラ。
 その成果は遥香の腕の再生にも一役買っており、ダンジョンという事もありリソースの消費で治せたようだが、その必要すらなく元に戻してみせる。

「どうだ?」

 手を握ったり、開いたりを繰り返し、感触を確認する遥香。

「うん、完璧。さっきより良い感じ。」
「やっぱり大丈夫じゃなかったのか…」
「仕方ないよ。時間も掛けられなかったし。」
「それもそうだが…まあ、後はポーションを飲んで、しっかり食べて、しっかり休め。」
「うん、そうする。」

 バニラが箱に背もたれと肘掛けと座布団を追加して遥香を座らせる。便利な箱は更に便利になっていた。

『おい、女ども!今度は負けねーからな!次はあの意味わかんねー投げも、極悪非道な一太刀も凌いでみせる!』
「股で?」
『強がってごめんなさい。』
「そんな無茶は二度としなくて良いからな。オレは直視できなかったから…」
「えー?」

 えー?じゃない。どうしてこんな風に育ってしまったのか…

「二人とも調子はどうだ?」

 毛布にくるまって横たわるカトリーナとソニアに声を掛ける。
 悔しそうな表情の二人が起き上がろうとするが、手を上げて制止した。ダメージが大きかったので、今は安静にしていてもらいたい。

「情けないですね…もう、ハルカ様の足元にも及びません…」
「私も力不足でした…」

 カトリーナは完全に想定外の反射ダメージだし、ソニアも相手があまりにも強すぎただけだ。

「そんな事ないよ。二人が相手だと私じゃ勝てるか分からないのは変わらないし、まともに相手したらダメだって分かったのは、ソニアちゃんのおかげだから。」

 二人揃って深いタメ息を吐き、揃ってゴロンと同じ方向を向いたのを見て、オレと遥香は思わず吹き出した。

「なんだか二人も親子みたいだね。」
「15年も一緒だからな。」

 カトリーナとソニアが二人で何かする機会は多くないが、長いことお互いを見続けている。
 何処か似てきたり、息が合ったりする事も多くなるのは必然かもしれない。

「移動する時はオレたちが抱いていこう。」
「そうだね。そうしようか。」
『はい…』

 少し恥ずかしそうに返事をする二人。
 後はバニラとアクアに任せておこう。

 その後はギャーギャー言い合う白竜とタマモのやり取りを見ながら休憩し、それから洞窟内へと戻って一泊する事になった。




『お前達、ずりぃな!オレにもその術教えろ。』
『えー…』

 と、嫌そうな顔で嫌そうな声を出す面々。
 厚かましい、声が大きい、ジッとしていないからか、この短時間で心底嫌われてしまったようだ。不憫である…
 全裸マントの白い幼女に、分け身の事を教えたらこんなことになってしまった。

「訓練相手になれる?」
「無理じゃな。話し相手くらいにしかなれんからのう。」
「ざんねん。」

 そう言うのは柊。
 柊ならそのくらいは気にする事も無いのだろう。

『なんだと!?じゃあ、ただお喋りするしか出来ねぇってのか!?』
「そうじゃな。まあ、物を食べるくらいは出来るが。」
『自分が喰ってねぇのに満足出来るか!』

 ごもっともである。
 ただ、遠くを眺めるだけの分け身だが、ここから動けないタマモや、守護者としての役割があるドラゴン達にはそれでも十分な娯楽になる。

「はぁ…お前は変わらんのう。負けて落ち着くかと思ったが期待外れじゃったわ。」
『変わる?なんでだ?こんな愉快なヤツらと楽しい戦いが出来たのに何故変わる必要がある?』
「こんな連中が他におらんからじゃ!
 お前の事だから、居なくなればまたあちこち荒らして回るじゃろ!?おい、目を逸らすな!」

 とんでもない暴れん坊だ。
 こんなの野放しにするのも、連れていくのも憚られる。こんなのどうすれば良いんだ?

「また1000年眠るか!?1000年も経てばここの誰一人残っておらん!それでも良いのか!?」
『うっ…ぐぅ…』

 そう言われてしまっては返す言葉が無い様子。

『北の小童よ。守護者の責務を果たせ。東の小童もしっかり果たしているぞ。』
 『あいつ代替わりしたのか…』

 思う所があるのか、藍に諭されて神妙な面持ちになる白竜。
 ドラゴン同士の関係はよく分からないが、兄弟姉妹、親戚のような関係に見える。

『大人になれ、北の守護者。我らにしか出来ぬこともあるのだ。』
『…はぁ。興醒めする事、言うんじゃねぇよ。』

 立ち上がると、腕を組みながらウロウロ歩き出し、数分掛かって立ち止まった。

『分かった。分かったよ。ここらにやたらと命が少ないのは、オレが仕事をサボってるからなんだろう? 
 だったら、オレが仕事をすればここも草木いっぱいに出来るんだよな。』
「そこまでしなくて良いぞ。
 人は不便なら不便で上手く調整できる。やっと、軌道に乗った地域もあるからな。」

 オレがそう言うと、えっと言いたげな顔で白竜はこちらを見る。
 リリが苦心してようやく利益を出せた政策の事もある。あっさり終わらせるのは忍びない。

「現状をお前一人で維持できるなら、妾はすぐにでもここを放り出していきたいがそうもいくまい?
 なに、いくらでも暇潰しなら用意してやるから安心せよ。」
『お、おう…』

 東の海と似た形の支配の仕方に落ち着く北の守護者。
 少し不安もあるが、タマモなら上手くコントロール出来そうだし、任せて問題もないだろう。

「そういう事なら分け身を柊に任せるか?」
『いまいちパッとしねぇが、まあ何も無いよりマシか…』
「大人しくしていてくれば、美味い物も何か食わせてやろう。これみたいにな。」
『おー!なんか美味そうだな!』

 バニラがプレストースト、大きな串焼き、焼きそばなどをドンドン出してくる。
 開発に成功した豆腐や、醤油、味噌、酢を使った料理も出て来た。5年で名産品とはならなかったが、オラベリア領で産業を興す一環として醸造に日の当たる切っ掛けにはなったはずである。
 
「美味そう、じゃない。わたしたちの料理は美味いぞ。食べてみると良い。」
『おう!』

 貪るように食べ始める白竜。マナーも何もあったものではないが、美味しそうに食べているなら良い。これでマズイマズイなんて言い出したら、柊と遥香をけしかけているが。

『知らねぇ、喰ったことのねぇ味ばかりだな!
 今の人間はこんなもん喰ってるのか!』
「まだそれほど普及してないがな。これがわたしたちの世界の、わたしたちの故郷の味だよ。」

 完璧とは言い難いが、そう言っても差し支えないレベルなのは確かだ。現地組や子供達に、ようやく故郷の味の一部を伝えられたと、嬉しそうにしていたのが印象深い。

「バニラのおかげで味に幅が広がったのは確かよね。砂糖、塩、僅かな香辛料くらいしかそれまで一般的にはなかったもの。」
『おまえ、スゲーヤツだな!』
「創士の二つ名は伊達じゃないって事だ。」
『よくわからんがスゲー!』

 なんというか、こうしていると見た目といい、東のあれと変わらない気がしてきたな。
 白と黒は歳の離れた姉妹にすら思える。

「白いのよ、お前に名前はあるのか?」
『無いな。あったとしても覚えていない。』
「そうか。じゃあ、レヴィアタンなんてどうだ?わたしたちの故郷の神話から取ってきたが。」
「大きいしピッタリだねー」
『何でも良いぞ。どんな名前だろうとオレはオレだからな。』
「その心意気、気に入った。今日からお前はレヴィアタン、レヴィと呼ぼう。」
『おう!オレは今日からレヴィアタンと名乗る!』

 この世界にレヴィアタンが居ないことを祈りつつ、バニラの珍しくまともな命名にホッとする。白ナスとか言い出したらどうしようかと思っていた。
 早速、覚えた分け身の術を使うと、ミニタマモと同じ感じの全裸マントミニレヴィが柊の影へと飛び込んだ。
 そして、再び現れると、

『おお…』

 オレ以外の全員が、タメ息にも似た感嘆の声を漏らす。
 全裸幼女は柊の服装センスを継承した、イケメンの高身長な男性へと変化していた。

「い、いえ、そうじゃないの。あなたはあなたで良いところはあるから。」
「そ、そうだね。ヒガンの魅力はそういう所じゃないからね。」

 嫁二人が無意識な追撃をお見舞いしてくれた。MPが割合ダメージを喰らった気分だ。

『おおう。なんか知らんが魔力がすげー減ったな。』

 全員がギョッとしてオレを見る。

「大丈夫。体は問題ないから…」
「お父さん、見た目の事気にしてたんだね…」
「ずっと怖い怖い言われ続けてきたからな…」
『ごめんなさい。』

 主に言い続けてきた娘とその友人とメイド達が頭を下げた。
 悠里に見た目は怖いけど、なんて言われて友達に紹介された時はめちゃくちゃ切なかったし、ノエミからはお父様は顔が怖いからって出てこないように、と言われた時はめちゃくちゃへこんだ…
 子供達がオレに似なかったのは幸いである…

 その後も宴会を兼ねたお喋りが続き、お開きとなったのは夜中に差し掛かった辺りであった。





 慌ただしい大陸もう一周の旅が終わり、オレたちはオーディンの前にいた。
 自分達で踏破させたい子供達を除き、この場には一家勢揃い。最初は2人、それから5人と増えていったヒガン一家はもう大所帯と言っても過言ではない。

『普通ならば容易き旅ではないのだが、汝らには関係が無い様だな。では、受け止めて見せよ!』

【シールド・ラミネート・オーバードライブ】

 いつかのように、全身全霊の防御で強烈な光から全員を守る。
 ただ必死だったあの時とは違い、適切な形状で消耗を抑える。ただ、防ぐだけじゃない。しっかりと撃ち返す余力も必要だ。
 右手の【ホープフェザー】を握る手に力が入る。全力で防ぎつつ、全力でぶちかます。その必要があった。

【インクリース・マジック・オーバードライブ】

 バニラからバフが掛けられる。あの時とほぼ同じ状況だ。
 ただ、違うのは、今回はちゃんと立てる。踏ん張れる。最後まで五体満足でいられる!

【アンティマジック】

 オーディンの嫌らしい妨害。だが、オレもバニラの魔法も妨害にものともしない。
 魔力を練る。出しながら練り上げる。限界まで。更に向こうまで!

【魔導の極致】

 【ホープフェザー】から嫌な音が聞こえる。一発、一発だけで良い。召喚されたあの日から、今日まで培った全てをぶつける!

【ヴォイド・ブラスト】

 杖から虹色の光が放たれ、オーディンの放った光を一瞬で押し返し、直撃させた。
 役目を終えた、と言わんばかりに崩れ去る【ホープフェザー】。残ったのは羽の飾りだけ。

【グングニール】

 オーディンはそれで終わらせない。更に本腰の一撃を放ってきたが完璧に防ぎ切り、最後まで膝を折ること無く凌いでみせた。

『合格だ。はぁ…この外套も気に入っておったのだがな。』

 ボロ切れと化した外套を脱ぎ、塵に変えた。塵はリソースとなり、イグドラシルに還元されたようだ。

「そう言うと思って、予備と新作を用意しておきました。」

 素早く差し出すアリス。

『おお!うむ。今回も良い出来だ。どちらを着るか迷ってしまう。』
「ありがたき幸せにございます。」
『そなたも合格としよう。更なる高みを目指し、更に良い素材で更に良い物を作れるようになれ。』

 一礼をしてオレの横へと戻るアリス。
 その後も成果のお披露目会が続き、全員が転生の資格を得る事に成功した。
 レヴィとの戦いで、ソニアもようやく決意を固めた様子。まあ、転生せずとも今日までなんとか出来ていたのは凄いとしか言い様がない。

『全員、変なものを抱えているから時間が掛かる。のんびりしていると良い。』

 きっとタマモとドラゴンズの事なのだろうと思っていると、いきなりオレの番となった。
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