召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

46話

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 セントラル・フォートレスに来て3週間が経っていた。
 エディさんの…元エディさんの商会の厄介になって越冬する事になり、オレたちは様々な部署に配属されている。
 オレ、梓、アクアは生産開発部、カトリーナ、メイプルは営業部、遥香と柊は警備部、ソニア、ジゼル、リリ、ケリー(呼び捨てにするよう言われた)は農業指導部へと配属された。
 ユキとジュリアは自由にさせ、色々な情報を得ることに専念してもらっている。

 生産開発部、とは言っても、オレたちは既存の物の生産に注力していた。
 梓は改善案も提出しているようだが、そこまでの知恵も技術もオレとアクアにはないからな。

 冬に備えて暖気の魔導具を準備している。これがビーストの生活を支えれば…と思いたいが、権力者が買い込み、贈り物にするだけの未来が見えるなぁ…

「旦那様の顔にやる気が無さすぎて、こちらにも伝播してきましたよ…」
「おとーちゃんは、本当に一家と困ってる人以外には頑張れない人だねぇ…」

 オレたちが組んだものを検品する梓班長。
 全部合格の箱に入ってホッとした。

「あ、そうそう。居残り組がこっちに向かってるって。」
『えっ。』

 声が揃うオレとアクア。

「ジェリちゃんがグズって大変だったって手紙が来てるよ。」
「そ、そうか…」
「眠っちゃってましたからね。目が覚めたらみんな居なかった、というのは寂しかったと思いますよ?」
「うむぅ…」

 手紙には色々なことが書いており、かわいい家族が増えたとも書いてある。

「おとーちゃんはおねーちゃんに手を出していたのですね。このロリコンが!」

 虫を見るような目でオレを見る梓。
 いつもの冗談めいた感じが無くて怖い。

「まてまてまて!濡れ衣だ!」
「そうですよ。旦那様は…あ、いえ、ユキさんとココアの言い訳が出来ませんね…」

 援護してくれないアクア。

「もしそうなら、バニラ様の体型じゃ別れた頃には既に隠しようもなかったでしょうし…」
「命拾いしたね、おとーちゃん。」

 どうやら、アクアのおかげでオレの命は救われたようである。

「しかし、合流するとなると、住むところがなぁ。」
「そうだねー。支店長に相談しようか。」
「班長、よろしくお願いします。」
「おとーちゃんは来ないとダメだよー?」
「そうだよなぁ。」

 腹を決めて、終業後に相談しに行こう。

「今日は他に何かあるか?」
「ほぼ貴族向けにしか作れないからねー。こんなもんで良いんじゃないかな。数が多ければ、ばら撒けるけど、商会としてはまだ価値を落としたくないだろうし、調整すると思うけど。」
「出店直後に値崩れは確かにな。」

 印象も良くないし、戦略的にも美味しくないだろう。まあ、売り込む方も多少の在庫があった方が、商売しやすいかもしれないが。

「明日はメイプルとカトリーナの為に頑張るか。」
「それでこそおとーちゃんだよー」

 終業の鐘が突かれ、今日一日の終わりである。

「それじゃお二人とも、先に帰らせてもらいますね。」
「おう。お疲れ。」

 アクアが道具を片付けて帰るのを見送ってから、オレたちも支店長室へと向かった。




「本店から連絡は受けているが、すぐに用意するのは…」

 ここ、セントラル・フォートレス支店長のキャロル・リットンさんだ。歳はオレより上のようで、細身で背が低めだがただ者ではない何かを感じる。

「土地があれば十分ですよ。自分で建てますんで。」
「…はあ、貴殿はそういうヤツだったな…」

 机から書類を出し、オレたちの前に並べる。

「住宅用に用意した土地が2つある。どっちもここまでの距離は大して変わらないが、片方は治安に問題があってな。」
「では、問題の無い方で。」
「迷いがなかったな…」

 小さい子供がいるから当然である。

「親分、建築規制とかあるのー?」
「支店長と呼べ。階層は2階まで、隣家と家屋を近付け過ぎるのもダメだ。」
「庭なら良いんだよねー?」
「雪で植物が育たんがな。」
「あー、そっかー…」

 ノラも流石にこの短期間で春の準備は無理だろう。次の春は寂しい庭になりそうだ。

「出来れば家屋は回収はせずに残して欲しい。その分、旅立つ時に上乗せしよう。」
「分かりました。」

 選ばなかった方は支店長に返す。

「仕事は丁寧で良いが少し遅い。営業部が在庫を不安がっているぞ?」
「あ、明日から頑張ります…」
「期待している。
 土地に関しては経理の方に行ってくれ。」
「分かりました。では、失礼します。」

 営業、開発終業直後の戦場と化した経理室に行き、土地に関する手続きを速やかに終えて、すぐに梓の元へと戻った。

「筆舌し難い光景だった…」
「ソニアちゃんも月末はあんな感じだったよねー…」

 生徒の月謝、設備、消耗品の支払い計算を担っており、月末の夜は静かにするのが通例となっていたものである。
 手伝いたかったが、頑なに断るので完全に任せっきりだったなぁ…

「収支計算に在庫管理にと、把握しておくことは多いだろうからな…」
「ソニアちゃんが取られなくて良かったよー…」

 下手すると手放してもらえなくなる可能性があるくらいの人材だもんな…
 表に出ると、カトリーナとメイプルが待っていた。最初はメイド服じゃない事に違和感もあったが、営業用の制服も板についてきた。
 まあ、カトリーナに関しては、メイド服の上に制服を上だけ着ており、営業部のお手伝い兼用心棒という感じのようだが。

「二人も終わったところか。」
「はい。アクアから話を聞いて、待っておりました。」
「だったら話は早い。行こうか。」

 ここに居る皆で、借り受けた土地へと向かうことにする。
 話題のエディアーナ商会の制服を来ているディモス、という事で注目されつつ、歩いてそう時間の掛からない場所にある空き地へと向かうのであった。




 きれいな更地となった土地はなんだか物悲しい光景に見えた。
 更地は他にも何ヵ所かあり、そうでない所は新しい木造の建物ばかりである。豪雪対策なのか、かなり床は高めで、屋根の傾斜も急である。

「あー、こっちも雪が凄いんだね…」
「ルエーリヴの比じゃないようだな。玄関を高くするという事は相当だぞ。」
「いっそのこと、2階を玄関にしよっかー?それなら豪雪もあまり気にならないと思うんだー」

 画板を掛け、完成図を描く梓。

「そうですね。それが良いと思います。
 魔法や魔導具でどうにでもなると思いますが、引き渡した後を考慮すると、手間が掛からない方が良さそうですし。」

 カトリーナも賛同する。

「一応、暖炉も付けておくよー」

 煙突にも屋根を付け、できるだけ雪が入り込まないようにするようだ。

「物置は考慮しなくていいかなぁ?」
「必要なら、後で足すだろう。」
「それもそっか。
 1階、地下は石造り、2階はログハウスにするね。換気口はこんな感じかな。」

 ルエーリヴの家に近い構造だが、1階は完全に石で囲まれており、地下室のようである。

「地下は要らない気がするな…
 1階を風呂や倉庫代わり、2階を住居にしよう。」
「じゃあ、各作業室も1階にしておこう。」
「訓練場のスペースは作れそうにないな。」
「そこはサクラに任せるしかないねー」

 庭が限度というところか。

「こんなところだな。とりあえず、組んでみよう。」
「うん。」

 先ずは地盤。魔法で一気に掘り起こし、残っていた岩や木の根を回収する。
 掘り起こした地面を平らにするために均し、取り除いた分の土を増やしておく。
  その間に描き上げられた設計図に従い、1階部分を石で組み上げようとしたところで、梓に止められる。

「鉄筋コンクリートにしてみよう。ちょっと試したかったんだー」

 1階部分を梓に任せると、床部分に一気にコンクリートを流し込み、棒状の金属、鉄骨と、網状の金属、鉄筋が一気に組まれていく。
 ここからどうするのだろうか?と思っていると、一気に型枠が組み上げられ、コンクリートが流し込まれていった。

「ここからは自然乾燥かなぁ。魔法でやっても良いんだけど、加減が難しいから。」
「じゃあ、シールドスフィアを張っておこう。悪戯されるのもつまらんしな。」
「おねがーい。」

 今日の作業を終え、後ろを振り向くと、呆然とするカトリーナとメイプルの姿があった。

「どうした?」
「なにがどうなったのか…」
「鉄筋コンクリートはともかく、魔法で鉄筋が組めるものなのですね…」
「裁縫よりは簡単かなー?」
「とてもそのようには…」

 カトリーナは裁縫は出来るが、建築魔法が使える程の制御力がなく、梓はカトリーナに比べて裁縫が不得手なので、互いの認識に齟齬が生まれていた。
 その反応に梓は首を傾げている。

「魔法で圧して乾かして、じゃないのですねー」
「試しにやったらひび割れちゃって…」
「あー…」

 なんでも簡単とはいかないようである。仕組みが詳しく分かれば対策も打てそうだが。

「今日のところは帰ろうか。アクア一人じゃ大変だろうしな。」
『はーい。』

 1階部分だけで何日か掛かりそうだが、本格的な実用試験を兼ねてと思えばそう苦にはならない。

「もう少し早く連絡が欲しかったねー」
「通話器が使えない内は仕方ないさ。オレたちはオレたちの生活を送ろう。」

 メイプルとカトリーナからの仕事のぼやきを聞きつつ、オレたちは家路につく。
 在庫に悩むメイプルの為に、明日からもっと頑頑張らなくては…



 1週間掛けて1階部分がようやく出来上がる。
 ここでようやく、オレの番がやって来た。
 新興住宅地で住民は少ないが、近所でも話題になっており、野次馬が少しずつ増えている。

「階段部分も大丈夫みたいだから、上で作業しようか。」

 懐かしい手触り、足音になんだか心踊るものがある。

「じゃあ、始めるぞ。」

 この1週間で準備したパーツを亜空間収納から出し、一気に組み上げる。
 傾斜の急な屋根、屋根付きの煙突、様々な色の丸いガラスが嵌め込まれた大きな窓。
 ビースト国家群の様式に倣いつつ、一般的ではない技術を詰め込んだ無二の家が完成した。

「とーしゃますごい!」

 懐かしい声に耳を疑った。
 フィオナに肩車されたジェリーが、手をぶんぶん振ってはしゃいでいる。
 ノエミも、先に合流したジュリアに抱かれて目を輝かせていた。
 ベランダから飛び降りて待機組の元へ駆け寄る。

「良いタイミングで到着したな。」
「ええ。一泊くらいは覚悟してたのだけど。」

 そう言って、オレに抱き付くアリス。

「ちゃんと無事なようね?記憶は?」
「危うかった事があったがなんともない。」
『えっ?』

 待機組が深刻そうな顔付きでオレを見る。

「一時的なものだ。もうなんともないよ。」
「父さん、椅子に座ってくれ。いや、座れ。」
「はい…」

 感動の再会が一転、バニラによる公開診察が行われる。
 嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、微妙な気分であった…
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