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第2部
17話
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フェルナンドさんたちに出発の挨拶をしてから、オレ達は海へ向かって更に東へとトレーラーで移動をする。
なんだかんだで3ヶ月近い滞在となり、フブキのついでに皆を鍛え直したり、装備の拡充をしたりとなかなか充実した3ヶ月であった。
ポーションや梓から預かった工業用品、バニラたちが作った魔導具などなど、北部へ送る物資を総領府や商工会に託してからエレナさんとフブキに見送られての出発となった。二人はフェルナンドさんの家の側での見送りだったが、やはり名残惜しいな。
「徒歩か浮遊車じゃないと移動できない体が憎い…」
呪詛のような呻き声を出すバニラ。怖いからやめてくれ。
「牽引車が広くなって嬉しいわ。順番待ちじゃ我慢できないもの。」
アリスがバニラの後ろで楽しそうに言う。
3ヶ月の間に牽引車の中が広くなっており、前2人、後ろは詰め込めば3人といったところか。
「広いから食事も出来ちゃうね。」
そう言いながら、何かを啜るジュリア。流石に食べてはいないようだが…
「アズサはどうしてるんだろうね?」
「船大工に混じって何か作ってそうだなぁ。」
「あの子…もう、子じゃないわね。きっと、また何か得てるかもしれないわね。」
女子、と呼ぶには歳も立場もあれだが、3人揃えば賑やかである。これはオレが喋る必要も無さそうだ。
「トレーラー全体を改修はしたが、根本的な解決は出来ていない。梓も知らない分野に触れられる、ってウキウキだったから期待したいな。」
「空の旅だけでも凄いのに、まだ良くなる余地があるのね…」
「形が良くないし、水の中も行けないからな。
いずれは活火山や砂漠もとなると、課題が多い。」
今の所、行ける場所に該当する地形はないが、外の大陸はどうか分からない。
広がっているのは無限の砂漠かもしれないし、火山ばかりかもしれない。様々な対策が必要になるだろう。
まあ、塵対策くらいなら、いくつかゲーム時代の方法はあるのだが。
「火山も砂漠も教えてもらったけど、想像がつかないわね。」
「砂漠は砂丘を知らないとな。アクアもぼんやりとしか描けなかったし。
逆に火山はリアルすぎて怖かった…」
大袈裟に怖がる仕草をするバニラ。
アクアのレベルが高すぎる弊害か、完全に世界の終末のような絵だったからな。
「元々、ドワーフの聖域が地鎮、というか火山を沈める信仰の為というのを読んだことがある。地形にその名残があるかもしれないな。」
「ただの観光名所じゃないってことね。」
「聖域なんて言うくらいだもんね。」
イグドラシルという謎物体を除くと、大陸最高峰がドワーフ領そのものとなっている『西の山』だ。安直すぎるが、畏れ多くて名前が付けられないという、エルフ領における東西南北のイグドラシルのある町と共通の事情があったらしい。
そういえば、北部は普通に町の名前があったな。東部は立地的に中央以外に用がなくて、それ以外に行くことが無くて気にしてなかったが…
「地下には溶岩地帯もあるからな。見物するなら熱さ対策が必要になるかもしれない。」
「極寒の北方を過ごしてから、灼熱を体感することになるのかしらね…」
「北の果ては獣人領まで及ぶからな。エルディーには寄れても、もうエルフ領は寄らないと思う。」
『えっ?』
オレの言葉に、アリスとジュリアが驚きの声を上げる。
「北方エルフ領だけじゃないの…?」
「ビースト領まで行くなんて思ってなかったよ…?」
まさか、トレーラーで飛んでいくと思っていたのだろうか。
「北の果てが難所の理由は、天然のフロストノヴァ状態だからだ。そんなところを浮遊車で通るのは自殺行為だぞ。」
フィオナの程じゃないが、魔力に干渉が起きる北の果て。そこをこれで突っ切るのは勘弁願いたい。主にバニラ達が耐えられそうにない
「海は大丈夫なんだろ?」
「流氷が無ければな。冬、というか恐らくもう二月もすると、海も氷が流れ着いて閉ざされる。」
まだ8月くらいなので問題はないが、事情を知ると海路開拓がいかに無謀かよく分かる。
一年の大半が氷に覆われ、通ることが出来ない海。そんな海の道を開拓するのは、金の使い方を知らない冒険野郎か野心の塊のようなヤツしかいないだろう。
そして、今の時期が最も穏やかで美しい時でもあった。冬将軍の夏休み期間なんて言われていたな。
「えぇ…まだ夏よね…」
「しょっぱいかき氷が食べ放題な訳か…」
絶対、健康に良くないからやめましょうね。普通のならいくらでも作れるから。
「今日のおやつはかき氷にしよう。外も暑いしね。」
「船職人にも振る舞ってやらないとな。」
「フィオナが大忙しになりそうね。」
「かき氷は置いとけ。まあ、そういう事だから、防寒着はしっかり用意しておくように。この前の北部の比じゃないぞ。」
先日の北部は春であるにも関わらずかなり冷えていた。更に北へ、年中存在するブリザードへとなると、それが生ぬるく感じるくらいだろう。
「ひえー…かき氷は好きだけど、なるのは嫌だなぁ…」
「ブリザードに原因はあるのかしら?」
原因、原因か…
気象についても専門外でこれといった確証も持てないが…
「何かあるのは間違いない。その影響で北半分が強烈な寒気で、中心はブリザードで覆われている。自然現象という可能性もあるが。」
「自然現象とは思えないけどなぁ…」
バニラが納得できない様子で呻いた。
「まあ、それ含め、しっかり世界を暴いていかないとな。」
そう締め括った所で、北の果ての話はお終いとなる。
その後は、喫茶店や食堂、東部の冒険者の流行のファッションの話となり、退屈すること無く、東部の港湾地区へと到着したのであった。
全く話についていけなかったけどな…
「遅いよー!」
バニラに誘導されて造船所へ向かうと、ニコニコ顔の日焼けした梓に出迎えられた。
「一ヶ月ぶりだが寂しくなかったか?」
「そんなの感じてる暇もなかったよー。知らない技術、工法、道具、素材がいっぱいだったー!」
根っからの職人にとって、良い刺激になったようだ。バニラ無しは、かえって好きに出来て良かったのかもしれない。
「おねーちゃん、トレーラーの改善案用意したから見ておいてね。
出発前に済ませたいけど、とりあえずは親方の所に行こうかー」
「そうだな。梓が世話になった礼もしないと。」
一応、手土産も用意してある。
直接会うのは初めてだがどんな人だろうか?
事務所のような建物の一室に入ると、ドワーフが一人ちょこんと座っていた。
「親方ー、おとーちゃんとおかーちゃんとおねーちゃん連れてきたよー」
微動だにせぬ親方に失礼があってはいけないように、こちらから挨拶をしよう。
「ヒガン一家のヒガンです。この度は無茶な依頼を引き受けてくださり、感謝しています。
娘の世話までしていただき、言葉もございません。」
「ヒガン一家のアリスです。東方の造船所の噂はエルディーにも届いております。
腕の良い職人に引き受けていただき、光栄でございます。」
バニラの番だが、何も言わずに親方の前に行き、目の前で手を振った。
「し、死んでる…」
「おおおやかたああ!?」
大慌てで親方に掴み掛かり、頬をペチペチ叩く梓。
「むり…わたし…このしごと…おりる…」
『えぇ…』
オレとアリスは困惑の声しか出せなかった。
どうやら、本物の引き篭り気質の親方なようで、普段なら交渉などを務める側近が不在の為に本人が出てきたそうだ。
「子供が風邪を引いたんだって。」
「だったら仕方ないわね。私だって休むもの。」
仕事より子供の看病を優先するのは、うちだけではなかったらしい。まあ、ルエーリヴはそんな家庭が多いからあまり気にしてなかったが。
しかし、造船はチーム作業のはず。親方がこの調子でよく回せてるな?
「まあ、親方は座ってれば良いよー。説明は事前に受けてるからねー」
「ごめん…」
震え声の親方。自己紹介どころではないようで、逆に心苦しい。
船の仕様から注意事項まで、しっかりと書類に従って説明をする梓。立派になってくれておとーちゃんは嬉しいよ。
…残念ながら、内容はおとーちゃんとおかーちゃんには難しすぎたが。
「ライトクラフトはバランサー、基本的にウォータージェットだけで進むものと思えば良いかな。」
「でも、エアロジェットも付いているな。これは何のためのだ?」
「緊急用の転回装置だよー。負荷が大きくて、本当に緊急用だからね。」
「ガンポートって何かしら?」
「…ん?銃門?砲門の事か?」
「そう言ったわよね?」
アリスが不思議そうにジュリアを見ると、ジュリアも頷いている。
翻訳の問題か。珍しいな。
「ああ、多分、わたしのせいだ。草案を魔法みたいに英語混じりで書いたから、翻訳がそうなったんだと思う。」
「いや、認識できれば良いさ。分からない時は聞くからな。」
翻訳が機能しての事なら問題ない。
「何か武器を積むのかしら?」
「ああ。魔導銃を大型化したもの、魔導砲を積んである。片方3門、前後1門ずつな。
柊や母さんに使ってもらおうと思っている。」
遠距離が苦手な二人だからな。
「もう一門は?」
「メイドの誰かだな。ソニアでも良いが。
まあ、2門じゃ少ないと思って積んだだけだし、二人が位置を変えながら撃っても良いしな。」
「うちは遠距離得意なの多いからなぁ。」
オレに影響されて、という訳ではないだろうが、とにかく魔法が得意なのが揃っている。
反面、近接のスペシャリストと呼べるのが柊とカトリーナしかいない。フィオナ、遥香、ユキも優れてはいるが、恐らく極まった相手だと負ける可能性がある。スキルや魔法でねじ伏せられるだろうが、本人たちのプライドがそれを許すとは思えない。
殺し合いとなれば、容赦なく魔法で叩き潰すのも想像できるが…
「どっちも出来ちゃう娘ばかりよねぇ…」
「まあ、それもそうなんだが…」
遥香を筆頭に、多くが高水準で近接、魔法のどちらにもちゃんと心得がある。
戦闘がからっきしなのは、弱気が過ぎるアクアと、全く心得のないメイプルくらいか。二人とも良いバッファ役ではあるが。
「一家の人材事情は置いといて、続けるよー。
一応、念のために帆船としても使えるからね。マストは艦内倉庫に片付けておく事になってて、あと二組くらいは亜空間収納に入れておく事にもなってるよー。」
最後の手段だからな。備えは多い方が良い。
進みさえすれば、幽霊船になることもないだろう。
「ロープの結び方は後で教えてくれるって言ってた。」
「それはありがたい。オレと、柊と、ユキと、カトリーナが覚えておけば良いか?」
「そうだねー。おかーちゃんたちが覚えれば、メイドたちにも教えられるから一石二鳥かなー?」
その後は操縦の注意点なども教えてもらい、最後に親方が一言。
「ぜったいに…しょうとつは…しないでね…」
「まあ、善処はするが、最初はぶつけるかもしれないぞ?」
「…たてものも、ていぼうも、がんしょうも、船にまけちゃうから。」
とんでもない船を作ってしまった事を、オレたちはこの時ようやく理解したのだった。
なんだかんだで3ヶ月近い滞在となり、フブキのついでに皆を鍛え直したり、装備の拡充をしたりとなかなか充実した3ヶ月であった。
ポーションや梓から預かった工業用品、バニラたちが作った魔導具などなど、北部へ送る物資を総領府や商工会に託してからエレナさんとフブキに見送られての出発となった。二人はフェルナンドさんの家の側での見送りだったが、やはり名残惜しいな。
「徒歩か浮遊車じゃないと移動できない体が憎い…」
呪詛のような呻き声を出すバニラ。怖いからやめてくれ。
「牽引車が広くなって嬉しいわ。順番待ちじゃ我慢できないもの。」
アリスがバニラの後ろで楽しそうに言う。
3ヶ月の間に牽引車の中が広くなっており、前2人、後ろは詰め込めば3人といったところか。
「広いから食事も出来ちゃうね。」
そう言いながら、何かを啜るジュリア。流石に食べてはいないようだが…
「アズサはどうしてるんだろうね?」
「船大工に混じって何か作ってそうだなぁ。」
「あの子…もう、子じゃないわね。きっと、また何か得てるかもしれないわね。」
女子、と呼ぶには歳も立場もあれだが、3人揃えば賑やかである。これはオレが喋る必要も無さそうだ。
「トレーラー全体を改修はしたが、根本的な解決は出来ていない。梓も知らない分野に触れられる、ってウキウキだったから期待したいな。」
「空の旅だけでも凄いのに、まだ良くなる余地があるのね…」
「形が良くないし、水の中も行けないからな。
いずれは活火山や砂漠もとなると、課題が多い。」
今の所、行ける場所に該当する地形はないが、外の大陸はどうか分からない。
広がっているのは無限の砂漠かもしれないし、火山ばかりかもしれない。様々な対策が必要になるだろう。
まあ、塵対策くらいなら、いくつかゲーム時代の方法はあるのだが。
「火山も砂漠も教えてもらったけど、想像がつかないわね。」
「砂漠は砂丘を知らないとな。アクアもぼんやりとしか描けなかったし。
逆に火山はリアルすぎて怖かった…」
大袈裟に怖がる仕草をするバニラ。
アクアのレベルが高すぎる弊害か、完全に世界の終末のような絵だったからな。
「元々、ドワーフの聖域が地鎮、というか火山を沈める信仰の為というのを読んだことがある。地形にその名残があるかもしれないな。」
「ただの観光名所じゃないってことね。」
「聖域なんて言うくらいだもんね。」
イグドラシルという謎物体を除くと、大陸最高峰がドワーフ領そのものとなっている『西の山』だ。安直すぎるが、畏れ多くて名前が付けられないという、エルフ領における東西南北のイグドラシルのある町と共通の事情があったらしい。
そういえば、北部は普通に町の名前があったな。東部は立地的に中央以外に用がなくて、それ以外に行くことが無くて気にしてなかったが…
「地下には溶岩地帯もあるからな。見物するなら熱さ対策が必要になるかもしれない。」
「極寒の北方を過ごしてから、灼熱を体感することになるのかしらね…」
「北の果ては獣人領まで及ぶからな。エルディーには寄れても、もうエルフ領は寄らないと思う。」
『えっ?』
オレの言葉に、アリスとジュリアが驚きの声を上げる。
「北方エルフ領だけじゃないの…?」
「ビースト領まで行くなんて思ってなかったよ…?」
まさか、トレーラーで飛んでいくと思っていたのだろうか。
「北の果てが難所の理由は、天然のフロストノヴァ状態だからだ。そんなところを浮遊車で通るのは自殺行為だぞ。」
フィオナの程じゃないが、魔力に干渉が起きる北の果て。そこをこれで突っ切るのは勘弁願いたい。主にバニラ達が耐えられそうにない
「海は大丈夫なんだろ?」
「流氷が無ければな。冬、というか恐らくもう二月もすると、海も氷が流れ着いて閉ざされる。」
まだ8月くらいなので問題はないが、事情を知ると海路開拓がいかに無謀かよく分かる。
一年の大半が氷に覆われ、通ることが出来ない海。そんな海の道を開拓するのは、金の使い方を知らない冒険野郎か野心の塊のようなヤツしかいないだろう。
そして、今の時期が最も穏やかで美しい時でもあった。冬将軍の夏休み期間なんて言われていたな。
「えぇ…まだ夏よね…」
「しょっぱいかき氷が食べ放題な訳か…」
絶対、健康に良くないからやめましょうね。普通のならいくらでも作れるから。
「今日のおやつはかき氷にしよう。外も暑いしね。」
「船職人にも振る舞ってやらないとな。」
「フィオナが大忙しになりそうね。」
「かき氷は置いとけ。まあ、そういう事だから、防寒着はしっかり用意しておくように。この前の北部の比じゃないぞ。」
先日の北部は春であるにも関わらずかなり冷えていた。更に北へ、年中存在するブリザードへとなると、それが生ぬるく感じるくらいだろう。
「ひえー…かき氷は好きだけど、なるのは嫌だなぁ…」
「ブリザードに原因はあるのかしら?」
原因、原因か…
気象についても専門外でこれといった確証も持てないが…
「何かあるのは間違いない。その影響で北半分が強烈な寒気で、中心はブリザードで覆われている。自然現象という可能性もあるが。」
「自然現象とは思えないけどなぁ…」
バニラが納得できない様子で呻いた。
「まあ、それ含め、しっかり世界を暴いていかないとな。」
そう締め括った所で、北の果ての話はお終いとなる。
その後は、喫茶店や食堂、東部の冒険者の流行のファッションの話となり、退屈すること無く、東部の港湾地区へと到着したのであった。
全く話についていけなかったけどな…
「遅いよー!」
バニラに誘導されて造船所へ向かうと、ニコニコ顔の日焼けした梓に出迎えられた。
「一ヶ月ぶりだが寂しくなかったか?」
「そんなの感じてる暇もなかったよー。知らない技術、工法、道具、素材がいっぱいだったー!」
根っからの職人にとって、良い刺激になったようだ。バニラ無しは、かえって好きに出来て良かったのかもしれない。
「おねーちゃん、トレーラーの改善案用意したから見ておいてね。
出発前に済ませたいけど、とりあえずは親方の所に行こうかー」
「そうだな。梓が世話になった礼もしないと。」
一応、手土産も用意してある。
直接会うのは初めてだがどんな人だろうか?
事務所のような建物の一室に入ると、ドワーフが一人ちょこんと座っていた。
「親方ー、おとーちゃんとおかーちゃんとおねーちゃん連れてきたよー」
微動だにせぬ親方に失礼があってはいけないように、こちらから挨拶をしよう。
「ヒガン一家のヒガンです。この度は無茶な依頼を引き受けてくださり、感謝しています。
娘の世話までしていただき、言葉もございません。」
「ヒガン一家のアリスです。東方の造船所の噂はエルディーにも届いております。
腕の良い職人に引き受けていただき、光栄でございます。」
バニラの番だが、何も言わずに親方の前に行き、目の前で手を振った。
「し、死んでる…」
「おおおやかたああ!?」
大慌てで親方に掴み掛かり、頬をペチペチ叩く梓。
「むり…わたし…このしごと…おりる…」
『えぇ…』
オレとアリスは困惑の声しか出せなかった。
どうやら、本物の引き篭り気質の親方なようで、普段なら交渉などを務める側近が不在の為に本人が出てきたそうだ。
「子供が風邪を引いたんだって。」
「だったら仕方ないわね。私だって休むもの。」
仕事より子供の看病を優先するのは、うちだけではなかったらしい。まあ、ルエーリヴはそんな家庭が多いからあまり気にしてなかったが。
しかし、造船はチーム作業のはず。親方がこの調子でよく回せてるな?
「まあ、親方は座ってれば良いよー。説明は事前に受けてるからねー」
「ごめん…」
震え声の親方。自己紹介どころではないようで、逆に心苦しい。
船の仕様から注意事項まで、しっかりと書類に従って説明をする梓。立派になってくれておとーちゃんは嬉しいよ。
…残念ながら、内容はおとーちゃんとおかーちゃんには難しすぎたが。
「ライトクラフトはバランサー、基本的にウォータージェットだけで進むものと思えば良いかな。」
「でも、エアロジェットも付いているな。これは何のためのだ?」
「緊急用の転回装置だよー。負荷が大きくて、本当に緊急用だからね。」
「ガンポートって何かしら?」
「…ん?銃門?砲門の事か?」
「そう言ったわよね?」
アリスが不思議そうにジュリアを見ると、ジュリアも頷いている。
翻訳の問題か。珍しいな。
「ああ、多分、わたしのせいだ。草案を魔法みたいに英語混じりで書いたから、翻訳がそうなったんだと思う。」
「いや、認識できれば良いさ。分からない時は聞くからな。」
翻訳が機能しての事なら問題ない。
「何か武器を積むのかしら?」
「ああ。魔導銃を大型化したもの、魔導砲を積んである。片方3門、前後1門ずつな。
柊や母さんに使ってもらおうと思っている。」
遠距離が苦手な二人だからな。
「もう一門は?」
「メイドの誰かだな。ソニアでも良いが。
まあ、2門じゃ少ないと思って積んだだけだし、二人が位置を変えながら撃っても良いしな。」
「うちは遠距離得意なの多いからなぁ。」
オレに影響されて、という訳ではないだろうが、とにかく魔法が得意なのが揃っている。
反面、近接のスペシャリストと呼べるのが柊とカトリーナしかいない。フィオナ、遥香、ユキも優れてはいるが、恐らく極まった相手だと負ける可能性がある。スキルや魔法でねじ伏せられるだろうが、本人たちのプライドがそれを許すとは思えない。
殺し合いとなれば、容赦なく魔法で叩き潰すのも想像できるが…
「どっちも出来ちゃう娘ばかりよねぇ…」
「まあ、それもそうなんだが…」
遥香を筆頭に、多くが高水準で近接、魔法のどちらにもちゃんと心得がある。
戦闘がからっきしなのは、弱気が過ぎるアクアと、全く心得のないメイプルくらいか。二人とも良いバッファ役ではあるが。
「一家の人材事情は置いといて、続けるよー。
一応、念のために帆船としても使えるからね。マストは艦内倉庫に片付けておく事になってて、あと二組くらいは亜空間収納に入れておく事にもなってるよー。」
最後の手段だからな。備えは多い方が良い。
進みさえすれば、幽霊船になることもないだろう。
「ロープの結び方は後で教えてくれるって言ってた。」
「それはありがたい。オレと、柊と、ユキと、カトリーナが覚えておけば良いか?」
「そうだねー。おかーちゃんたちが覚えれば、メイドたちにも教えられるから一石二鳥かなー?」
その後は操縦の注意点なども教えてもらい、最後に親方が一言。
「ぜったいに…しょうとつは…しないでね…」
「まあ、善処はするが、最初はぶつけるかもしれないぞ?」
「…たてものも、ていぼうも、がんしょうも、船にまけちゃうから。」
とんでもない船を作ってしまった事を、オレたちはこの時ようやく理解したのだった。
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