38 / 307
第1部
番外編 見習い魔導師は運命が変わる
しおりを挟む
〈見習い魔導師アリス〉
卒業式を終えた私たち同窓生は最後のお茶会に興じていた。
既に皆の進路は決まっており、新たな船出に不安と期待で心踊らせている。
私、アリス・ドートレスもその一人だ。
父と最近再婚した母、上に音信不通がちな姉と兄、下にはまだ幼年の妹がいる下級貴族。
妹を生んですぐに亡くなった母だが、私はその母によく似ていると父や親族に言われている。
確かに、最近の鏡に映る私の姿は確かに記憶の中の母に似てきているが、実際のところはどうなのか姉と兄に尋ねたいが帰ってこないのでは尋ねようがない…
特に角がよく似ていると言われている。真っ直ぐではない角。この左右違う方向に曲がり、大きさも歪な角は好きではないのだが…いつも笑っていた母もそうだったのだろうか。
話はお茶会に戻る。
周囲の友人に冒険者になると宣言すると、やめた方がいいと必死に説得される。私の魔法の能力を知っているにも関わらずにだ。
身体能力が低すぎる。
おっちょこちょい過ぎる。
走るとよく転ぶ。
止める理由に心当たりがありすぎて反論出来ない。
それでも、私には冒険者になる、家を出る理由があったのだ。
その事を父と継母に話すと当然のように猛反対された。ただし、継母にだ。
父も驚いた様子であったが、私の意志に協力してくれると約束してくれる。
「お姉様、家を出るのですか?」
私と入れ替わるように、春から学生生活が始まるソニアが尋ねてきた。
「ええ、そうよ。冒険者になると、これからはあまり一緒に寝て上げられなくなるわね。」
「…そうですか。寂しいです。」
ああ、かわいい幼い妹よ。オムツも散々替えさせてくれた世界で一番可愛い妹よ。お姉ちゃんは離れたくない…でも、
…お母様の痕跡が無いこの家が息苦しい。
父が再婚して以来、母の思い出の品は少しずつ減っていった。継母が使用人に命じて棄てさせていたと聞いた時、怒りで我を忘れるほどだった。
父を糾弾したが、仕方がないの一言ばかりが帰って来るだけ。
…借金のカタの政略結婚。それが再婚の理由だと最後に質した時に知らされた。
継母は実家の支援金で贅沢。私とソニアは貴族の体面を保てる程度に生活をしている。学生で、制服だったのが幸いだ。
だが、これからは、極力自分でどうにかしていかなくてはなるまい。もう家を出ると決めたのだから。
しかし、現実はそう甘くはない。
ランクの低い内は遠出は出来ず、王都の中や近くでの仕事ばかりになる。ただでさえ物入りな駆け出し魔導師が実家暮らしなのはよくある事だと、自分に言い聞かせていた。
「大丈夫。しばらくはルエーリヴで仕事を受けるから。ちゃんと実績を作らないと遠征もさせてもらえないからね。」
「はい…」
欠陥制度なのでは?と思ったが、冒険者ギルドの歴史を紐解くと、初期はそういう制限は無かったようである。だが、未帰還率が跳ね上がっていた。
未熟ゆえにトラブルで殺害、戦死、トラップ死、自殺、餓死、奴隷化、行方不明がとんでもなく多い。初期の冒険者は、本当に無茶で無策で無謀な荒くれ者らの代名詞だったようだ。
その中で成り上がった者らの手で、制度を整える事を繰り返し、今日に至る。先人達の犠牲と経験と知恵が作った制度なのだと知ると、文句も言えなくなってしまう。
その制度の中で実力を高めていく必要があり、私は3年目にしてようやく遠征の権利を手にしたのだった。
大失敗だった。
いや、クエストは成功した。即席パーティーによる低級魔物退治、というありふれた内容なのだから失敗のしようがない。
とにかく、私が失敗を繰り返した。
森林地帯で火炎魔法を放ったり、先頭の重騎士に頼まれていないAGI強化を行ったり、肝心なところで魔法の不発を犯したりと本当に大失敗だった…
臨時リーダーの槍使いの男に慰められたが、女シーフには散々詰られた。他のメンバーは目を合わせてもくれなかった。
…大失敗だったのだ。
それを最後に私はパーティーを組むのを諦める。それでも簡単な討伐依頼はこなせるし、制度のお陰で地力も自信もついた。このまま、少しずつ装備を充実していけば大丈夫なはず。
そう思い、私は少しずつ強化系アクセサリーを増やしていくことにした。
「お姉様、最近面白い子が転入してきたのですよ。」
久し振りに実家の自室でのんびりしていると、ソニアはすっかり貴族の娘という風体になっている事に気付いた。…どこか小汚なさのある私とは違う。どこが違うのかしら?
「どんな子なの?」
私も興味が湧き尋ねてみる。面白い子、と言えば国境で会ったヒュマスっぽい強面の男は元気だろうか。見た目の割に、強い魔力を宿していたが…
「ヒュマス系の亜人の子です。背は私と同じくらいなのですが、戦闘も魔法も敵いませんでした。」
「…髪が真っ黒?」
「その子は私たちより薄い色ですわ。ですが、義理のお父上が真っ黒ですよ。」
ああ、あの男だ。どうやらこっちに居るようである。
子供が学園に通っているという事は、こっちに住んでいるようだ。
「その男について教えて。」
こうして私は妹から情報を得て、ありったけのアクセサリーを身に付けて町に飛び出した。
ヒガンと再開出来たのはそれから二週間後である。
…何故、妹に頼んで仲介して貰わなかったのか。その時の私を問い詰めるべきである。
「ソニアがお世話になってる人のところか…」
ヒガンに渡された加入同意書を見せると父が考える仕草を見せる。
「もうおやめなさい。どうせ長続きしません。冒険者など辞め、家のために結婚したらどうですか?」
継母には求めていないので黙っていて欲しい。
「そのような奇抜な格好…貰い手がある内にお辞めなさい。」
黙っていて欲しい。
「だいたい、冒険者など花形と言えども荒くれ者の集団。貴族は使う側であってなる者では」
「始祖様も今で言う冒険者と変わらないよ。そんな事を言っちゃいけない。」
「…ふん。」
そう言うと、父はサインをして紙を渡してきた。
「僕から言えることはない。好きにしてくると良いよ。」
…言葉の意味が分からない。表情の深意が読み取れない。
「…ありがとうございます。お父様。」
「アリス、あの家の状況は知っているかい?」
「…いいえ。何か問題でも?」
「いいや。ちゃんと自分で見て、考えて、使えるものを全て使ってくると良い。これも良い経験だ。」
「…はい。」
「どうせすぐに音を上げて戻ってきます。あの女そっくりの貴女にお似合いの姿で。いつまで頑張れるか楽しみにしておりますわ。ふふふ。」
…本当に気に入らない。
だが、言い返すことが何も出来なかった…
「失礼します。」
応接間から出て、一目散に自室に飛び込み、荷物をまとめる。
持っていくのは鞄いっぱいの旅道具、日用品、服…枕とお気に入りの毛布も鞄の上に括り付ける。同意書も忘れてはいけない。
「…お世話になりました。」
雨の中、誰にも、大好きな妹にすら見送られずに、私は走って実家を後にした。
完全に負け犬ではないか。学園を魔法学だけとはいえ主席で卒業した者の姿ではない。こんな将来を望んで冒険者になったのではない。
私は、もっと活躍がしたくて、家の力を、父の助けを借りずに、独りで、たちたくて、しょうめいしたくて…
足を引っ掛け、転んでしまった。服が嫌な音を立てる。押さえないと完全に胸が見えてしまっていた。
…泣きたい。情けない。でも、既にあの男の家の敷地の中。それだけが不幸中の幸いだ。
決死の思いでその玄関のドアを叩いた。もう私には他に頼れるものはない…
〈器用貧乏アリス〉
寛容である。それがこの家の印象だ。
一緒にお風呂に入ったメイドの体にびっしり刻まれた犯罪紋。冤罪だったそうで、後で思いっきり驚いたことを謝った。
毎日たくさんやって来る子供たち。娘たちの同級生らしいが数が半端じゃない。特に初等部が多く、高等部は戦闘科しかいないようだ。
午前中はカトリーナさんとヒガンにきたえてもらい、午後は戦闘科に混じって訓練をするようにしている。…が、当然ながら鍛え続けてきた高等部にはついていけない。中等部に混じっての訓練である。
訓練が休みの時は製薬助手、裁縫、料理の手伝いと色々な事をさせてもらえた。
物作りに関しては本当に容赦がなかった。訓練も、特にカトリーナさんのは厳しいのだが、物作りはヒガンの娘達が厳しい。
製薬はバニラちゃんが、裁縫はバンブーちゃんが厳しい中、料理だけは特に何も言われないのが逆に怖かった。
魔法は師匠であるヒガンに自主練習で良いと言われ、何か指導されることはなかったが遠く及ばない。見えているもの、備えている知識が違うのだとやり取りを重ねると思い知らされる。でも、この人を目標にすることは間違っていない事だけは確信できた。
それでも、自分が未熟なのだと毎日思い知らされる。
私はあの白エルフが本当に苦手だ。飄々として掴み所がない。魔法や元々備えていた有用なスキルが一切使えないという制約があるにも関わらず、訓練で触れることさえできないのだ。気が付くと、いつもお尻を蹴られている。本当に意味が分からないし腹が立つ。
…まあ、同じパーティーメンバーのジュリアも同じ目に遭っているのだが。
そんな白エルフでも、ヒガンの横には並び立てないと時々言う。
恐らく、ヒガンと並んで戦える者はカトリーナさんだけだろう。というか、ヒガンもそのカトリーナさんには全く歯が立たない辺り、この家は王都内の魔窟ではないかという疑念が湧いてくる。力を求めたのは私の意志だが、なんだかとんでもないところに来てしまった…
だが、そんなおどろおどろしい魔窟というものではない事は住んでみればよく分かる。とにかく、皆が世話焼きで面倒見がよく、それが伝播して互いを高め合う。そんな環境だ。
そんな中で私が出来ることは…
「裁縫の練習を始めるわよー」
『はーい。』
初等部が相手だが、これが私の出来ること。旅の合間の修繕に、訓練後の修繕に、生活の中での手直しにととても重要な技術。ここの面々にとって腐ることのない技術である。向き不向きはどうしようもないのだが。
ソニアを含めた初等部に、こんな形で裁縫の授業をする事になるなんて思いもしなかったわね…
意外な運命の変転に、思わず笑みがこぼれてしまった。
卒業式を終えた私たち同窓生は最後のお茶会に興じていた。
既に皆の進路は決まっており、新たな船出に不安と期待で心踊らせている。
私、アリス・ドートレスもその一人だ。
父と最近再婚した母、上に音信不通がちな姉と兄、下にはまだ幼年の妹がいる下級貴族。
妹を生んですぐに亡くなった母だが、私はその母によく似ていると父や親族に言われている。
確かに、最近の鏡に映る私の姿は確かに記憶の中の母に似てきているが、実際のところはどうなのか姉と兄に尋ねたいが帰ってこないのでは尋ねようがない…
特に角がよく似ていると言われている。真っ直ぐではない角。この左右違う方向に曲がり、大きさも歪な角は好きではないのだが…いつも笑っていた母もそうだったのだろうか。
話はお茶会に戻る。
周囲の友人に冒険者になると宣言すると、やめた方がいいと必死に説得される。私の魔法の能力を知っているにも関わらずにだ。
身体能力が低すぎる。
おっちょこちょい過ぎる。
走るとよく転ぶ。
止める理由に心当たりがありすぎて反論出来ない。
それでも、私には冒険者になる、家を出る理由があったのだ。
その事を父と継母に話すと当然のように猛反対された。ただし、継母にだ。
父も驚いた様子であったが、私の意志に協力してくれると約束してくれる。
「お姉様、家を出るのですか?」
私と入れ替わるように、春から学生生活が始まるソニアが尋ねてきた。
「ええ、そうよ。冒険者になると、これからはあまり一緒に寝て上げられなくなるわね。」
「…そうですか。寂しいです。」
ああ、かわいい幼い妹よ。オムツも散々替えさせてくれた世界で一番可愛い妹よ。お姉ちゃんは離れたくない…でも、
…お母様の痕跡が無いこの家が息苦しい。
父が再婚して以来、母の思い出の品は少しずつ減っていった。継母が使用人に命じて棄てさせていたと聞いた時、怒りで我を忘れるほどだった。
父を糾弾したが、仕方がないの一言ばかりが帰って来るだけ。
…借金のカタの政略結婚。それが再婚の理由だと最後に質した時に知らされた。
継母は実家の支援金で贅沢。私とソニアは貴族の体面を保てる程度に生活をしている。学生で、制服だったのが幸いだ。
だが、これからは、極力自分でどうにかしていかなくてはなるまい。もう家を出ると決めたのだから。
しかし、現実はそう甘くはない。
ランクの低い内は遠出は出来ず、王都の中や近くでの仕事ばかりになる。ただでさえ物入りな駆け出し魔導師が実家暮らしなのはよくある事だと、自分に言い聞かせていた。
「大丈夫。しばらくはルエーリヴで仕事を受けるから。ちゃんと実績を作らないと遠征もさせてもらえないからね。」
「はい…」
欠陥制度なのでは?と思ったが、冒険者ギルドの歴史を紐解くと、初期はそういう制限は無かったようである。だが、未帰還率が跳ね上がっていた。
未熟ゆえにトラブルで殺害、戦死、トラップ死、自殺、餓死、奴隷化、行方不明がとんでもなく多い。初期の冒険者は、本当に無茶で無策で無謀な荒くれ者らの代名詞だったようだ。
その中で成り上がった者らの手で、制度を整える事を繰り返し、今日に至る。先人達の犠牲と経験と知恵が作った制度なのだと知ると、文句も言えなくなってしまう。
その制度の中で実力を高めていく必要があり、私は3年目にしてようやく遠征の権利を手にしたのだった。
大失敗だった。
いや、クエストは成功した。即席パーティーによる低級魔物退治、というありふれた内容なのだから失敗のしようがない。
とにかく、私が失敗を繰り返した。
森林地帯で火炎魔法を放ったり、先頭の重騎士に頼まれていないAGI強化を行ったり、肝心なところで魔法の不発を犯したりと本当に大失敗だった…
臨時リーダーの槍使いの男に慰められたが、女シーフには散々詰られた。他のメンバーは目を合わせてもくれなかった。
…大失敗だったのだ。
それを最後に私はパーティーを組むのを諦める。それでも簡単な討伐依頼はこなせるし、制度のお陰で地力も自信もついた。このまま、少しずつ装備を充実していけば大丈夫なはず。
そう思い、私は少しずつ強化系アクセサリーを増やしていくことにした。
「お姉様、最近面白い子が転入してきたのですよ。」
久し振りに実家の自室でのんびりしていると、ソニアはすっかり貴族の娘という風体になっている事に気付いた。…どこか小汚なさのある私とは違う。どこが違うのかしら?
「どんな子なの?」
私も興味が湧き尋ねてみる。面白い子、と言えば国境で会ったヒュマスっぽい強面の男は元気だろうか。見た目の割に、強い魔力を宿していたが…
「ヒュマス系の亜人の子です。背は私と同じくらいなのですが、戦闘も魔法も敵いませんでした。」
「…髪が真っ黒?」
「その子は私たちより薄い色ですわ。ですが、義理のお父上が真っ黒ですよ。」
ああ、あの男だ。どうやらこっちに居るようである。
子供が学園に通っているという事は、こっちに住んでいるようだ。
「その男について教えて。」
こうして私は妹から情報を得て、ありったけのアクセサリーを身に付けて町に飛び出した。
ヒガンと再開出来たのはそれから二週間後である。
…何故、妹に頼んで仲介して貰わなかったのか。その時の私を問い詰めるべきである。
「ソニアがお世話になってる人のところか…」
ヒガンに渡された加入同意書を見せると父が考える仕草を見せる。
「もうおやめなさい。どうせ長続きしません。冒険者など辞め、家のために結婚したらどうですか?」
継母には求めていないので黙っていて欲しい。
「そのような奇抜な格好…貰い手がある内にお辞めなさい。」
黙っていて欲しい。
「だいたい、冒険者など花形と言えども荒くれ者の集団。貴族は使う側であってなる者では」
「始祖様も今で言う冒険者と変わらないよ。そんな事を言っちゃいけない。」
「…ふん。」
そう言うと、父はサインをして紙を渡してきた。
「僕から言えることはない。好きにしてくると良いよ。」
…言葉の意味が分からない。表情の深意が読み取れない。
「…ありがとうございます。お父様。」
「アリス、あの家の状況は知っているかい?」
「…いいえ。何か問題でも?」
「いいや。ちゃんと自分で見て、考えて、使えるものを全て使ってくると良い。これも良い経験だ。」
「…はい。」
「どうせすぐに音を上げて戻ってきます。あの女そっくりの貴女にお似合いの姿で。いつまで頑張れるか楽しみにしておりますわ。ふふふ。」
…本当に気に入らない。
だが、言い返すことが何も出来なかった…
「失礼します。」
応接間から出て、一目散に自室に飛び込み、荷物をまとめる。
持っていくのは鞄いっぱいの旅道具、日用品、服…枕とお気に入りの毛布も鞄の上に括り付ける。同意書も忘れてはいけない。
「…お世話になりました。」
雨の中、誰にも、大好きな妹にすら見送られずに、私は走って実家を後にした。
完全に負け犬ではないか。学園を魔法学だけとはいえ主席で卒業した者の姿ではない。こんな将来を望んで冒険者になったのではない。
私は、もっと活躍がしたくて、家の力を、父の助けを借りずに、独りで、たちたくて、しょうめいしたくて…
足を引っ掛け、転んでしまった。服が嫌な音を立てる。押さえないと完全に胸が見えてしまっていた。
…泣きたい。情けない。でも、既にあの男の家の敷地の中。それだけが不幸中の幸いだ。
決死の思いでその玄関のドアを叩いた。もう私には他に頼れるものはない…
〈器用貧乏アリス〉
寛容である。それがこの家の印象だ。
一緒にお風呂に入ったメイドの体にびっしり刻まれた犯罪紋。冤罪だったそうで、後で思いっきり驚いたことを謝った。
毎日たくさんやって来る子供たち。娘たちの同級生らしいが数が半端じゃない。特に初等部が多く、高等部は戦闘科しかいないようだ。
午前中はカトリーナさんとヒガンにきたえてもらい、午後は戦闘科に混じって訓練をするようにしている。…が、当然ながら鍛え続けてきた高等部にはついていけない。中等部に混じっての訓練である。
訓練が休みの時は製薬助手、裁縫、料理の手伝いと色々な事をさせてもらえた。
物作りに関しては本当に容赦がなかった。訓練も、特にカトリーナさんのは厳しいのだが、物作りはヒガンの娘達が厳しい。
製薬はバニラちゃんが、裁縫はバンブーちゃんが厳しい中、料理だけは特に何も言われないのが逆に怖かった。
魔法は師匠であるヒガンに自主練習で良いと言われ、何か指導されることはなかったが遠く及ばない。見えているもの、備えている知識が違うのだとやり取りを重ねると思い知らされる。でも、この人を目標にすることは間違っていない事だけは確信できた。
それでも、自分が未熟なのだと毎日思い知らされる。
私はあの白エルフが本当に苦手だ。飄々として掴み所がない。魔法や元々備えていた有用なスキルが一切使えないという制約があるにも関わらず、訓練で触れることさえできないのだ。気が付くと、いつもお尻を蹴られている。本当に意味が分からないし腹が立つ。
…まあ、同じパーティーメンバーのジュリアも同じ目に遭っているのだが。
そんな白エルフでも、ヒガンの横には並び立てないと時々言う。
恐らく、ヒガンと並んで戦える者はカトリーナさんだけだろう。というか、ヒガンもそのカトリーナさんには全く歯が立たない辺り、この家は王都内の魔窟ではないかという疑念が湧いてくる。力を求めたのは私の意志だが、なんだかとんでもないところに来てしまった…
だが、そんなおどろおどろしい魔窟というものではない事は住んでみればよく分かる。とにかく、皆が世話焼きで面倒見がよく、それが伝播して互いを高め合う。そんな環境だ。
そんな中で私が出来ることは…
「裁縫の練習を始めるわよー」
『はーい。』
初等部が相手だが、これが私の出来ること。旅の合間の修繕に、訓練後の修繕に、生活の中での手直しにととても重要な技術。ここの面々にとって腐ることのない技術である。向き不向きはどうしようもないのだが。
ソニアを含めた初等部に、こんな形で裁縫の授業をする事になるなんて思いもしなかったわね…
意外な運命の変転に、思わず笑みがこぼれてしまった。
0
お気に入りに追加
1,065
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる