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第1部
25話
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歩き続け、昼を少し過ぎた辺りで魔物の集団が感知に引っ掛かる。
街道からかなり離れており、まだ力を蓄えている段階だろうか。
森の中を突っ切るように作られた道だが、あまり手が入っていないのが気になる。
「今日はここまでだ。」
ジュリアは歩き疲れた、というより空腹が堪えたのか、腹を押さえて大きく息を吐く。
受付嬢に与えられた長い赤い布を、木に登って街道から目立つ場所に巻き付け、近くに魔物の巣があることを知らせる。風で靡くように巻けと言われたので、その通りにしておいた。
しばらくして隊商の護衛の者たちが、顔を引き締めて通り過ぎていく。ちゃんと見えていたようだな。
「テントは道から離すか。」
「そうだね…道が狭いから邪魔になりそうだし…」
街道と言っても、魔物の巣ができる程度に人里離れている。そんな所はやはり整備が甘く、道路も馬車同士なんとかすれ違える程度であった。
最初にやることは藪を払い、草を刈り、休める場所を作ることだ。この辺は自由にして良いと言われたので、木材にするのもありか。
「奥の間伐して大丈夫そうな所にしよう…
街道沿いの所は少し斜面になってるし、手を出すと地面が崩れそう…」
ここはぽっちゃりエルフの言うことに従おう。森の住民の知識はバカにできない。
「うーん…音を出さないのは難しいな。」
「大丈夫…たぶん、明るい内ならゴブリンは気にしない…向かってくるなら受けて立とう…」
先輩冒険者がそう言うなら従う事にしよう。
奥の比較的平坦な場所に手を入れ、木材として確保する。乾燥しないと使えないが、これはこれで役立つ事もあるだろう。
根っこもきれいに取っ払い、だいぶ場所が空いたおかげで余裕をもってテントを張れそうだ。
見晴らしは良くないが、感知があるので大丈夫だろう。
「さて…」
気になる方へ足元の小石を投げる。
「気付いてやしたか。」
「出てからずっとな。」
「恐れ入りやす。」
薄汚れた外套を纏った白いエルフが姿を見せる。
足取りはしっかりしており、行き倒れが一食で回復したものとは思いにくい。ハメられてただろうか?
「雇えない事情があるんだ。察して欲しいな。」
「構いやせん。あたしが勝手についてきてるだけでございやすんで。」
強情なヤツだ。まあ、悪意を向けて来ないなら良いだろう。
「変な気を起こすなよ。その時はゴブリンを釣る餌になるだけだからな。」
「…心得ておりやす。」
そう言って、テントの設営を手伝ってくれる。
まあ、それに免じて飯くらいは出してやろう。一月分は仕込んであるし。
「あなた…!」
日が暮れてジュリアが戻って来る。弓で戦うことになったので、周囲の地形を確認していたようだ。
「お邪魔しておりやす。」
焚き火の準備をしながらペコリと頭を下げる。
「…あのまま王都に向かったと思っていたのに。」
「あたしに王都は窮屈でして。」
「はぁ…餌付けも止めておくべきだった…」
仲良くする必要はないが、ギスギスも勘弁してもらいたいものである。
「カトリーナさんになんと言い訳したら…」
「それについてはオレも一緒に謝る。」
「言質は取りましたからね…?」
あぁ…帰ったら説教のご褒美か…いや、ご褒美じゃない。本気で怖い。
腕組みをしながら【鬼神化】状態で説教をするカトリーナさんの姿が鮮明に思い描けてしまい、思わず震え上がる。
「…いったいどういう御人で?」
「メイドだ。わりと本気でオレたちの生殺与奪を握られてる。」
「そうだねぇ…」
「はぁ…?」
よく分からない様子で返事をされる。良いんだ。知らなくても良いんだ。
「さて、タダ働きもさせないが、無駄飯喰らいも飼うつもりはないからな。しっかり働いて貰うぞ。」
「承知しやした。」
そう言い、手慣れた様子で魔法を使わずに焚き火をおこす。ここまで色々な隊商を見てきたが、魔法に頼らないのは初めて見た気がする。
「あなた、もしかして…」
「あたしは魔法が封じられてやして。」
「そこまでの事をしたの…」
恐らく、この世界では死活問題に受け取られるだろう。魔法で多くの事が解決するのだから当然だ。
だが、魔法は使えずとも、試行錯誤で改善しようとする姿勢は嫌いではない。
「しやしたねぇ。そればっかりは認めなくちゃなりやせん。ははは。」
笑っているが、表情はそうではない。
そんな顔をされたら笑えないだろうが。
「申し訳ございやせん。笑うのは苦手でやして…」
「いや、こっちこそ気を使わせたな。」
「咎人にそんな事言うのヒガンだけだよ…」
そういうものなのだろうか?なかなかこっちの色に染まれないなぁ。
「何から何まで、あたしには過ぎた対応で、強者の余裕と受け取らせて戴いておりやすよ。」
「オレなんてまだまだだ。強いヤツはいくらでもいる。」
「それはもう英雄レベルだよ…」
「まだ英雄じゃないからな。」
「ドラゴン殺しを目標にしてたね…」
「それはまた大層な…」
呆れた様子と驚いた様子の二人。
「野良の悪竜でも居ればすっ飛んで行くんだが。」
恐らくグリーンエリアにはいない。そうなると、軍事力の低いヒュマスの国か、人の手の届かない海くらいしか可能性はないだろう。
ドラゴン同士の勢力争いの漁夫の利を狙うのも良いが、それでは格好がつかない。
「亜人側は先代以来平穏なもんでさぁ。何か大きな事件が起きない限り、悪竜退治もできやしないでしょう。」
「事件…事件か。」
思い当たることはある。オレたち召喚者の存在だ。
一ヶ月経ち、自惚れる程度に成長もしているだろう。何か起きても不思議ではない。
「思い当たる事でも?」
「ありすぎる。」
「ほうほう?」
「ヒガン、咎人にはならないでね…」
「オレじゃない!」
このやり取りで笑い出す二人。
「なんだ、自然に笑えるじゃないか。」
「当たり前の事を言わねぇでくだせい。人をなんだと思っていやしたか。」
「怪しいスカウト。」
「ちが…いや、まあ、違わねぇですが!」
アサシンと言おうと思ったが、それはやめた。恐らく、ジュリアの反応が悪い方に傾く。
「くくっ…あまり笑わせないで…」
そのジュリアは口と腹を押さえ、大笑いを堪えている。
ここで大笑いなんてしたら、ゴブリンがすっ飛んで来そうだしな。
周囲は完全に闇色に染まり、そろそろ警戒が必要になってくる。
ここはもう魔物の勢力圏なのだ。
「さて、互いのわだかまりが解けたところで腹ごしらえだ。最後の晩餐にするつもりはないから、量はこれまで通りだぞ。」
「はい…」
まだ、ジュリアに思うところはあるだろう。だが、これ以上の詮索は必要ないと判断したようだ。
それはこの咎人スカウトも同じ様子。必要なのは、どう事態に対処するかである。
オレはいつも通りに飯の準備をし、その間に二人が互いの役割について話をする。
「そうですね。それで良いと思いやす。
あたしらが前に出ても、邪魔にしかならないでしょう。」
斥候として前に出てもらっても良かったが、スナイパー役であるジュリアの護衛をするのを選んだようだ。こうなると、ゴブリンには皆殺しにされて貰う。慈悲はない。
「出来たぞ。食ったらオレ、おまえ、ジュリアの順で見張りだ。」
感知から漏れたという経験をしたので、その対策だ。
「私が最後…」
食べながら嫌そうな口振りで言う。
怪しいスカウトは勢い良く食べる。よほどまともなもん食ってなかったようだ。
「キツいのは2番目だと思うけどな。中途半端な睡眠になるし。」
「それもそうか…」
「あたしは問題ありやせん。一人じゃないからゆっくり休めやす。」
魔法も無しによく生き延びて来たと感心する。放っておくのはなんだか惜しいな。
「心強いよ。」
照れたのかはにかんだ表情になっている。
「ぐぬぬ…」
「なんで悔しそうな表情をする。」
「まだ頼られてない…」
妙に対抗意識を燃やすな。悪いことではないが。
「頼りになってるよ。ここまでで、知らないことをたくさん教えてくれたじゃないか。」
「んふー」
急にドヤるな。
「でも、殺され欠けたからな…」
「えっ」
「待って、それは無意識の事故で…」
「身体が砕かれるかと思った。」
「えぇ…」
「私も咎人になるのだけは…」
「大丈夫。軽微なら4回まで許されやす。」
「家の事があるから一発でダメだよ…姉妹が殺しに来るよ…」
フィオナは本当に殺しに来そうだ。カトリーナさん同様、腕を組み、強烈な冷気を纏っている姿が鮮明に思い浮かぶ。
「そうならないように見張ってるよ。」
「お願いします…」
「えっ。あたし、命の危機じゃねぇですか?」
「気付いたようだな。」
「何卒、私を咎人にしないでください…」
「何卒、あたしを亡き者にしないでくだせい。」
「自信ないなぁ。」
腕を組んでそう言うと、
「あぁ…これがあたしの最後の飯…最後の飯が草や僅かな木の実じゃなくて良かったですぜ…」
「物騒なこと良いながら食べないで…」
良いコンビになりそうじゃないか。
「ほら、温め直すから皿を出せ。」
「お願いします…」
頭を下げ、神妙な面持ちで差し出すジュリア。
この後は静かに食事を終え、二人は早々に寝床へ入って行った。
『何卒…何卒…』
二人揃ってテントから顔だけ出して懇願する。
「わかったわかった。早く寝ろ。」
流石に殺し合いは困るので、意識を向けておく事にした。
三度、命の危険に晒したのはしっかり記録しておこう。
戦闘もないのに命の危機が訪れていた以外は特に何も起きなかった。
無事に朝を迎え、いよいよ仕事の時間だ。
まだ暗いが、すぐに日も昇る。
「一人より気が休まりやせんでした…」
ジュリアと寝てる時は分かるが、なぜなのか。
「とんでもない力をひしひし感じて、いつ喰われるか冷や冷やしてやした…」
オレは猛獣か何かと同列なのか。
最後にジュリアだけ仮眠させ、朝食を出す。
スカウトもうとうとしてたが大丈夫か。
「さて、仕事前最後の食事だ。しっかり食べろ。」
『はい』
昨夜のドタバタはなく、緊張した様子で食事をする。眠いだけかもしれないが。
静かな食事は、お喋りが無い分、そう時間も掛からずに終わった。
食器を回収し、洗浄を掛けて片付ける。
それ以外は出しっぱなしで良いだろう。
軽く準備運動程度に身体を動かす。剣を振れるスペースがないのでぶっつけ本番だな。
「そろそろ動くか。」
「へぇ。準備は万全でさ。」
スカウトは複雑な服の上にボロボロの外套を羽織り、顔を引き締めて返事をする。
ジュリアはというと
「ぐ、グローブ…あ、髪留めも…」
大慌てで準備をしていた。大丈夫か先輩冒険者。
街道からかなり離れており、まだ力を蓄えている段階だろうか。
森の中を突っ切るように作られた道だが、あまり手が入っていないのが気になる。
「今日はここまでだ。」
ジュリアは歩き疲れた、というより空腹が堪えたのか、腹を押さえて大きく息を吐く。
受付嬢に与えられた長い赤い布を、木に登って街道から目立つ場所に巻き付け、近くに魔物の巣があることを知らせる。風で靡くように巻けと言われたので、その通りにしておいた。
しばらくして隊商の護衛の者たちが、顔を引き締めて通り過ぎていく。ちゃんと見えていたようだな。
「テントは道から離すか。」
「そうだね…道が狭いから邪魔になりそうだし…」
街道と言っても、魔物の巣ができる程度に人里離れている。そんな所はやはり整備が甘く、道路も馬車同士なんとかすれ違える程度であった。
最初にやることは藪を払い、草を刈り、休める場所を作ることだ。この辺は自由にして良いと言われたので、木材にするのもありか。
「奥の間伐して大丈夫そうな所にしよう…
街道沿いの所は少し斜面になってるし、手を出すと地面が崩れそう…」
ここはぽっちゃりエルフの言うことに従おう。森の住民の知識はバカにできない。
「うーん…音を出さないのは難しいな。」
「大丈夫…たぶん、明るい内ならゴブリンは気にしない…向かってくるなら受けて立とう…」
先輩冒険者がそう言うなら従う事にしよう。
奥の比較的平坦な場所に手を入れ、木材として確保する。乾燥しないと使えないが、これはこれで役立つ事もあるだろう。
根っこもきれいに取っ払い、だいぶ場所が空いたおかげで余裕をもってテントを張れそうだ。
見晴らしは良くないが、感知があるので大丈夫だろう。
「さて…」
気になる方へ足元の小石を投げる。
「気付いてやしたか。」
「出てからずっとな。」
「恐れ入りやす。」
薄汚れた外套を纏った白いエルフが姿を見せる。
足取りはしっかりしており、行き倒れが一食で回復したものとは思いにくい。ハメられてただろうか?
「雇えない事情があるんだ。察して欲しいな。」
「構いやせん。あたしが勝手についてきてるだけでございやすんで。」
強情なヤツだ。まあ、悪意を向けて来ないなら良いだろう。
「変な気を起こすなよ。その時はゴブリンを釣る餌になるだけだからな。」
「…心得ておりやす。」
そう言って、テントの設営を手伝ってくれる。
まあ、それに免じて飯くらいは出してやろう。一月分は仕込んであるし。
「あなた…!」
日が暮れてジュリアが戻って来る。弓で戦うことになったので、周囲の地形を確認していたようだ。
「お邪魔しておりやす。」
焚き火の準備をしながらペコリと頭を下げる。
「…あのまま王都に向かったと思っていたのに。」
「あたしに王都は窮屈でして。」
「はぁ…餌付けも止めておくべきだった…」
仲良くする必要はないが、ギスギスも勘弁してもらいたいものである。
「カトリーナさんになんと言い訳したら…」
「それについてはオレも一緒に謝る。」
「言質は取りましたからね…?」
あぁ…帰ったら説教のご褒美か…いや、ご褒美じゃない。本気で怖い。
腕組みをしながら【鬼神化】状態で説教をするカトリーナさんの姿が鮮明に思い描けてしまい、思わず震え上がる。
「…いったいどういう御人で?」
「メイドだ。わりと本気でオレたちの生殺与奪を握られてる。」
「そうだねぇ…」
「はぁ…?」
よく分からない様子で返事をされる。良いんだ。知らなくても良いんだ。
「さて、タダ働きもさせないが、無駄飯喰らいも飼うつもりはないからな。しっかり働いて貰うぞ。」
「承知しやした。」
そう言い、手慣れた様子で魔法を使わずに焚き火をおこす。ここまで色々な隊商を見てきたが、魔法に頼らないのは初めて見た気がする。
「あなた、もしかして…」
「あたしは魔法が封じられてやして。」
「そこまでの事をしたの…」
恐らく、この世界では死活問題に受け取られるだろう。魔法で多くの事が解決するのだから当然だ。
だが、魔法は使えずとも、試行錯誤で改善しようとする姿勢は嫌いではない。
「しやしたねぇ。そればっかりは認めなくちゃなりやせん。ははは。」
笑っているが、表情はそうではない。
そんな顔をされたら笑えないだろうが。
「申し訳ございやせん。笑うのは苦手でやして…」
「いや、こっちこそ気を使わせたな。」
「咎人にそんな事言うのヒガンだけだよ…」
そういうものなのだろうか?なかなかこっちの色に染まれないなぁ。
「何から何まで、あたしには過ぎた対応で、強者の余裕と受け取らせて戴いておりやすよ。」
「オレなんてまだまだだ。強いヤツはいくらでもいる。」
「それはもう英雄レベルだよ…」
「まだ英雄じゃないからな。」
「ドラゴン殺しを目標にしてたね…」
「それはまた大層な…」
呆れた様子と驚いた様子の二人。
「野良の悪竜でも居ればすっ飛んで行くんだが。」
恐らくグリーンエリアにはいない。そうなると、軍事力の低いヒュマスの国か、人の手の届かない海くらいしか可能性はないだろう。
ドラゴン同士の勢力争いの漁夫の利を狙うのも良いが、それでは格好がつかない。
「亜人側は先代以来平穏なもんでさぁ。何か大きな事件が起きない限り、悪竜退治もできやしないでしょう。」
「事件…事件か。」
思い当たることはある。オレたち召喚者の存在だ。
一ヶ月経ち、自惚れる程度に成長もしているだろう。何か起きても不思議ではない。
「思い当たる事でも?」
「ありすぎる。」
「ほうほう?」
「ヒガン、咎人にはならないでね…」
「オレじゃない!」
このやり取りで笑い出す二人。
「なんだ、自然に笑えるじゃないか。」
「当たり前の事を言わねぇでくだせい。人をなんだと思っていやしたか。」
「怪しいスカウト。」
「ちが…いや、まあ、違わねぇですが!」
アサシンと言おうと思ったが、それはやめた。恐らく、ジュリアの反応が悪い方に傾く。
「くくっ…あまり笑わせないで…」
そのジュリアは口と腹を押さえ、大笑いを堪えている。
ここで大笑いなんてしたら、ゴブリンがすっ飛んで来そうだしな。
周囲は完全に闇色に染まり、そろそろ警戒が必要になってくる。
ここはもう魔物の勢力圏なのだ。
「さて、互いのわだかまりが解けたところで腹ごしらえだ。最後の晩餐にするつもりはないから、量はこれまで通りだぞ。」
「はい…」
まだ、ジュリアに思うところはあるだろう。だが、これ以上の詮索は必要ないと判断したようだ。
それはこの咎人スカウトも同じ様子。必要なのは、どう事態に対処するかである。
オレはいつも通りに飯の準備をし、その間に二人が互いの役割について話をする。
「そうですね。それで良いと思いやす。
あたしらが前に出ても、邪魔にしかならないでしょう。」
斥候として前に出てもらっても良かったが、スナイパー役であるジュリアの護衛をするのを選んだようだ。こうなると、ゴブリンには皆殺しにされて貰う。慈悲はない。
「出来たぞ。食ったらオレ、おまえ、ジュリアの順で見張りだ。」
感知から漏れたという経験をしたので、その対策だ。
「私が最後…」
食べながら嫌そうな口振りで言う。
怪しいスカウトは勢い良く食べる。よほどまともなもん食ってなかったようだ。
「キツいのは2番目だと思うけどな。中途半端な睡眠になるし。」
「それもそうか…」
「あたしは問題ありやせん。一人じゃないからゆっくり休めやす。」
魔法も無しによく生き延びて来たと感心する。放っておくのはなんだか惜しいな。
「心強いよ。」
照れたのかはにかんだ表情になっている。
「ぐぬぬ…」
「なんで悔しそうな表情をする。」
「まだ頼られてない…」
妙に対抗意識を燃やすな。悪いことではないが。
「頼りになってるよ。ここまでで、知らないことをたくさん教えてくれたじゃないか。」
「んふー」
急にドヤるな。
「でも、殺され欠けたからな…」
「えっ」
「待って、それは無意識の事故で…」
「身体が砕かれるかと思った。」
「えぇ…」
「私も咎人になるのだけは…」
「大丈夫。軽微なら4回まで許されやす。」
「家の事があるから一発でダメだよ…姉妹が殺しに来るよ…」
フィオナは本当に殺しに来そうだ。カトリーナさん同様、腕を組み、強烈な冷気を纏っている姿が鮮明に思い浮かぶ。
「そうならないように見張ってるよ。」
「お願いします…」
「えっ。あたし、命の危機じゃねぇですか?」
「気付いたようだな。」
「何卒、私を咎人にしないでください…」
「何卒、あたしを亡き者にしないでくだせい。」
「自信ないなぁ。」
腕を組んでそう言うと、
「あぁ…これがあたしの最後の飯…最後の飯が草や僅かな木の実じゃなくて良かったですぜ…」
「物騒なこと良いながら食べないで…」
良いコンビになりそうじゃないか。
「ほら、温め直すから皿を出せ。」
「お願いします…」
頭を下げ、神妙な面持ちで差し出すジュリア。
この後は静かに食事を終え、二人は早々に寝床へ入って行った。
『何卒…何卒…』
二人揃ってテントから顔だけ出して懇願する。
「わかったわかった。早く寝ろ。」
流石に殺し合いは困るので、意識を向けておく事にした。
三度、命の危険に晒したのはしっかり記録しておこう。
戦闘もないのに命の危機が訪れていた以外は特に何も起きなかった。
無事に朝を迎え、いよいよ仕事の時間だ。
まだ暗いが、すぐに日も昇る。
「一人より気が休まりやせんでした…」
ジュリアと寝てる時は分かるが、なぜなのか。
「とんでもない力をひしひし感じて、いつ喰われるか冷や冷やしてやした…」
オレは猛獣か何かと同列なのか。
最後にジュリアだけ仮眠させ、朝食を出す。
スカウトもうとうとしてたが大丈夫か。
「さて、仕事前最後の食事だ。しっかり食べろ。」
『はい』
昨夜のドタバタはなく、緊張した様子で食事をする。眠いだけかもしれないが。
静かな食事は、お喋りが無い分、そう時間も掛からずに終わった。
食器を回収し、洗浄を掛けて片付ける。
それ以外は出しっぱなしで良いだろう。
軽く準備運動程度に身体を動かす。剣を振れるスペースがないのでぶっつけ本番だな。
「そろそろ動くか。」
「へぇ。準備は万全でさ。」
スカウトは複雑な服の上にボロボロの外套を羽織り、顔を引き締めて返事をする。
ジュリアはというと
「ぐ、グローブ…あ、髪留めも…」
大慌てで準備をしていた。大丈夫か先輩冒険者。
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