召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

20話

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 娘たちが学校へ通い始めて8日目。
 その間のオレは日々のボコボコトレーニングに加え、錬金術の修練も行っていた。
 近所の錬金術師の婆さんを紹介されて古い道具一式を譲り受けるが、古すぎてパーツ交換が必要なレベルだったのをバンブーが解決してくれた。授業だけでは製作意欲を満たせないようだが、倒れない程度にして欲しい。

 作るものは基本的にポーションなのだが、現状では納品しても二束三文にしかならない。だが、全く受け取って貰えないよりはマシなので、より収入を得る為にこちらも修練を重ねていく事にする。
 とは言え、品質も上がってきたおかげで買うよりは安上がりなので、自分用のを用意する頃合いか。その為の割れ難い強化ポーション瓶も既に用意してある。

 娘たちはというと、連日誰かしら友人を連れてきていた。オレやカトリーナさんが目当てのも居るようだが、それは極一部だろう。

 ストレイドの友人に関しては非常に分かりやすい連中が多い。トラ…ネコ娘達ビースト中心で、時々エルフリーダーちゃんも来てくれる。
 ストレイドがネコ娘とエルフリーダーちゃんの橋渡しになっているようで、なかなか良いポジションを得られた様である。
 たまにカトリーナさんが訓練相手をする事もあるが、最後はみんな揃って半泣きになっていたりする。他所の娘なんだから程々にお願いしますね…

 バンブーの連れて来るのは様々。本当に様々だ。
 性格の幅がとにかく広い。底抜けた明るさのビーストが来たと思えば、人の家に来るのが億劫そうなディモスの娘も一緒に居る。無理矢理連れてきたのかと思えばそんな事はなく、発言量は少ないがちゃんと輪に入り、自分の言葉で意思を示せていた。
 バンブーの友人らはとにかく人当たりが良く、ストレイドやリンゴの友人たちとも仲良く出来ている。職人たちはバンブーから広がる縁との交流が楽しみで来てる節すらあった。

 リンゴの友人はとにかく年相応に見えない。振る舞いが優等生過ぎて、逆に心配になってくるのだ。毎度ドンチャン騒ぎのストレイドの友人達を見習ってくれて良いんだよ…?
 そういう遊びをしているのかと思ったがどうも違うようで、貴族としての振る舞いを叩き込まれている最中なのだとリンゴと特に仲の良いディモスの娘がゲロっていた。
 ストレイドの友人、エルフリーダーちゃんが来た時はめちゃくちゃ目を輝かせ、振る舞いを真似たりしていた。真似られる側は居心地悪そうにしていたが、自分にも覚えがあるとカトリーナさんに呟いていた。こうして受け継がれるものもあるのかもしれない。
 最近、狼の魔獣を従えたリンゴ。魔獣は一緒に学校へ行っている時は分からないが、家に居る時はだいたい寝転がっている。そのせいでダメなハスキー犬にしか見えなかった。

 バニラの友人という者は一人も来ていない。
 それぞれの友人たちとの関係はとても良好で、かなり懐かれている様子なのだがバニラの方が遠慮しているように思える。妹の友人は妹の友人で自分の友人ではない、という線引きはしておきたいらしい。
 全員が歳下(?)という事もあって、面倒見の良さを発揮してはいるのだが…

「来年に期待、かなぁ…」
「もう少し様子を見ましょう。友人が出来る切っ掛けなんて色々ですからね。」

 そんなオレたちの様子に気付いてか、エルフリーダーちゃんが話し掛けてくる。
 皆の居る場では話しにくいとのことらしいので、この場はバニラとストレイドに任せ、オレたちは応接室へと向かうことにした。

「ヒガン様とストレイドたちに接触することを禁止する貴族が居るようなのです。」

 アンティマジックの一件が原因だろう。いつかは来ると思っていたが、いよいよか。

「そうか。」
「流石に覚悟はなさっておられましたね。」

 焦って大きな事を成しても、親の七光りみたいな事をバニラが言われるだけであろう状況に少し苛立ちはある。だが、それを表に出すわけにはいくまい。

「まあな。バニラの才能が火種になるのは覚悟の上だったよ。」

 【アンティマジック】の件を経験している以上、こうなる事は分かっていたからな。

「そうでございましたか。」
「ですが、よろしいのですか?我々に漏らすのは…」
「ご心配なく。我が一族を見くびってもらっては困りますわ。」

 エルフのお嬢様は振る舞いだけでなく、気骨もしっかり備えている。それゆえの優美さなのかもしれないな。

「戦いは魔法だけではない。己の肉体を、時に自然も、あらゆる物を、状況を活用して勝つのが我々の流儀だ、と幼い頃から叩き込まれておりますので。」

 グッと顔の前で拳を握るエルフリーダーちゃん。この高潔な戦士の親御さんに会ってみたくなってきた。

「とても頼もしいよ。」
「本来のエルフの戦い方ですね。我々もエルフに倣って戦闘技術を研鑽してきたはずなのですが…」

 オレたちの言葉に、照れながらも誇らしげな表情を見せてくれた。
 良くも悪くも平和が続きすぎたのだろう。
 ダンジョン攻略は冒険者の領分だし、依頼や報奨を用意するのは貴族の仕事だ。自らが汚れる必要もないのでは仕方ない。
 ではなぜ、戦闘科に貴族子弟が多いのか。それは箔を付ける事と、将来は指揮する立場を狙ってだろう。継承順位が低ければ、入れ代わりの多い軍事系が狙い目に映るようだ。本来は儀礼的な剣技で取れるポジションではないはずなのだが…

「とにかく、ありがとう。これからも娘たちと仲良くしてやって欲しい。」
「私からもお願いします。」

 二人で頭を下げると、エルフリーダーちゃんは顔を赤くし、慌て始める。

「そ、そこまでなさらなくても!
 信頼できる友人の家族の事ですので。
 それに、お二人は私たちに大きな可能性を示してくださいました。それに応えなくてはエルフの恥ですわ。」

 おじさん、娘が良い友達を持って泣きそうだよ。

「麗しいエルフのお嬢さん、名前を教えてくれないか?」
「や、や、やめて下さい!
 わ、わたしはフィオレンティーナ。エルフの国、東部の総領の第三女で、フィオナで結構ですわ。」
「フィオナ、ありがとう。」

 顔を真っ赤にしたフィオナは、それ以上は言葉にならない声を出して慌ただしく部屋を後にする。うん、かわいい。

「ヒガン様。」

 心の底から震え上がる冷たく透き通った声。

「娘のご友人を口説くのはお止め下さい。二度目はないですからね?」
「は、ハイ…」

 そんなつもりはなかったのだが、こっちは顔が青くなるのを自分でも感じていた。




 似たようなやり取りが連日続く。
 オレが丁寧に対応すると大変な事になるのでカトリーナさんに任せる事もあったが、やはり同じような結果になる。こればかりは二人揃って困惑するしかない。
 現在、娘たちと仲良くしてくれている者達はとても協力的で、学校の事を色々と教えてくれる。
 魔法科に関しては、ほぼ情報封鎖されていると言っても過言ではない。縁者に通う生徒がいるにも関わらず、状況が伝わって来ないそうだ。
 これはホントにまずいかも知れない。
 とは言え、約束の一ヶ月までそう時間もなく、オレも動き出すための準備を始めていた。

 ギルドの方に顔を出し、その日の内に終えられる採集、納品依頼や、労働系の依頼をこなして遠征依頼が受けられるランクまで上げておいた。
 ギルド入会から一週間だが、こなした数が尋常ではないと受付嬢がビビってたけどな。
 バニラの方だが、様子に違いは見られない。だいたい同じ時間に帰って来て、他の娘の友人と仲良くするという感じだ。勉強や魔法の基礎を教える事もある。
 特に実害が無いようならそれでも、とは思うが、やはりモヤモヤするものはあった。
 フィオナ達にも探りを入れるが首を横に振るのみ。お手上げである。
 そうこうしていると、以前に話していた追加のお手伝いさんである歳はオレとそう変わらない様子のディモスの執事がやって来る。エディさんにはまた借りを作ってしまったな。

「セバスチャンと申します。今後ともよろしくお願いします。」
『よろしくお願いします!』

 娘達の友人勢揃いのタイミングでやって来たのでさぞ困惑しただろう。だが、これが今の日常だ慣れてくれ。
 緩やかにだが、将来は新たな派閥を形成できるのでは?と思えるくらいに多様な顔触れだ。
 エルフの長クラスの娘たちが、ストレイドととても仲が良い。ビーストも同様で、最近は戦闘が苦手なビーストもストレイドと競い合う姿を見る。
 ストレイドありきの関係かと当初は思っていたが、高みを目指すビーストはエルフとも積極的に仲良くし、エルフもビーストと切磋琢磨を楽しんでいた。
 武闘派ビーストはドワーフとも仲が良い。波長が合うのか、大騒ぎするのはだいたいこの組み合わせだ。
 リンゴの友人らは居る場所が毎回違い、それでいて上手く溶け込むのだから、あの幼子たちは世渡り上手になりそうである。

「さて、セバス。」

 夜になり、静かになったところで家族会議の時間だ。そんな時間設けたこと無いけど。

「エディさんから言伝てはあるか?」

 単刀直入に尋ねる。

「お二人が危惧していることは把握した。こちらでも対応はするが期待しないで欲しいとの事でした。」
「わかった。」
「…あっさりと受け入れられましたな。」

 今回のはエディさんに怒ってもなぁ…

「エディさんの領分ではないという事だろう。
 だったら、解決の為のアプローチを変えてみるか。」

 まあ、今はこちらから出来ることもないしな。
 チラッとバニラを見るが、特に何かを気にしている様子はない。

「まあ、それは良い。これからの事についてだが…」

 約束の一ヶ月が終わるので、遠征依頼を受ける準備をしていると皆に伝えると、皆が神妙な面持ちになる。今生の別れじゃ無いんだぞ。
 これからは家にいる機会が減るので、男手が必要ならセバスに頼るようにとも伝える。行事の際は、依頼なんて蹴っ飛ばして優先するが。

「ヒモ生活ともおさらばだねー」
「やめてくれ特攻が過ぎる…」

 とても居心地が良かったので、名残惜しさは正直ある。毎日のようにボコボコにされていたが。

「これから私は誰に憂さ晴らしをすれば…」

 憂さ晴らしだったんですかカトリーナさん?

「心中お察しいたします…」

 セバス、哀れみに満ち溢れた眼差しを向けないでくれるか。

「一月、二月も家を空ける事もないだろ?気が付いたら帰って来てそうだし。」

 バニラが呆れた顔でやり取りにツッコミを入れる。

「いや、普通にあると思う。大峡谷まで行くのに二週間掛かると考えると、往復で一月だ。手間を考えたら一月はそこに居たいから二ヶ月は留守にしそうだな。」
「は?」

 全く想定してなかったのか、バニラが呆気に取られる。

「き、騎獣とかあれば…」
「今の我が家の懐具合では…」

 歩いていくしかない。

「いきなり挑戦するつもりはないが、長い時はそれくらいは掛かると思ってくれ。」

 行動の幅を広がるから、騎獣は手に入れておきたい所だが。

「そ、そんな遠くまで行かなくても稼ぐくらい…」

 バニラが声を震わせながら引き留めようとしてくれる。うん。嬉しいよ。嬉しいけど。

「最近のやり取りで、我が家が明らかに舐められているのが明らかだからな。力の証明が必要だ。」
「当家には実績がまだありません。事情があるとは言え、家名も無いですからね。
 それでは舐められてもしかたありませんし、何より皆様のご友人方に失礼でしょう。」
「そんなの気にする娘たちじゃないけどねー」
「だが、親の意向というものは大きい。再三、距離を置くように言われている子供も居るようだ。
 我が家が認めてもらえれば、無理をしている子供達も鼻が高いだろう?」

 最近、居心地の悪そうな娘たちが増えてきた。
 特に多いのはリンゴの周囲だ。最初から仲良くしてくれているのは、そんな事はないのはとてもありがたいが。

「セバス、いない間は娘たちを任せても良いな?」
「身に余る大役、私などにはとても。」

 まあ、言わんとすることはわかる。オレにも過ぎた家族だし、今も距離の詰め方がわからん。

「過ぎた害意が及ばないようにしてくれるだけで良い。まあ、やり過ぎた時の尻拭いはオレがやるから。カトリーナも良いな?」
「拝命いたしました。」

 セバスは黙す。
 今はそれで良いよ。まだ何も示せないからな。

「おとーちゃん、例の装備を提出したから明日学校に来てくれる?
 おねーちゃんにもエンチャントしてもらいたいから一緒にね。」

 いよいよか。この日を楽しみにしていたぞ。

「セバス、明日は付き合ってもらう。
 娘たちの晴れ舞台だ。」

 今夜はワクワクして眠れそうにないな!
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