1 / 84
1.Cape jasmine
1
しおりを挟む
さああああ―――
雨音が通り過ぎて、湿り気を帯びた風が頬の産毛を掠める。
開け放した掃き出し窓の向こうから、濡れたアスファルトと草木の青い匂いと共に、微かに薫る甘い匂い。
眼裏に、敷地内の植え込みで密かに咲いていた白い花が浮かんだ。
(くち、なし…?)
(うん)
(変な名前)
そう言われれば、そうかも。
目を閉じたまま、返事の代わりにふ、と笑った頬に、温かな手の平が触れる。
すっぽりと顔半分を包み込む大きな手は、そっと動いて頬を撫でて―――
ぶるり、と肩を震わせて目を開けた。
薄闇の中に、リビングの白い壁と天井が浮かび上がっている。時計は19時を指していた。
母は今日、少し遅くなると言っていたっけ。
冷たいフローリングの床に横たわったまま、腕を上げて額に手の甲を乗せ、また目を閉じた。
「…ごはん、作らなきゃ…」
小さな呟きは、静かに、1人の部屋の空気に溶けて消える。
さああああ―――と。
また、雨が通り過ぎた。
雨音が通り過ぎて、湿り気を帯びた風が頬の産毛を掠める。
開け放した掃き出し窓の向こうから、濡れたアスファルトと草木の青い匂いと共に、微かに薫る甘い匂い。
眼裏に、敷地内の植え込みで密かに咲いていた白い花が浮かんだ。
(くち、なし…?)
(うん)
(変な名前)
そう言われれば、そうかも。
目を閉じたまま、返事の代わりにふ、と笑った頬に、温かな手の平が触れる。
すっぽりと顔半分を包み込む大きな手は、そっと動いて頬を撫でて―――
ぶるり、と肩を震わせて目を開けた。
薄闇の中に、リビングの白い壁と天井が浮かび上がっている。時計は19時を指していた。
母は今日、少し遅くなると言っていたっけ。
冷たいフローリングの床に横たわったまま、腕を上げて額に手の甲を乗せ、また目を閉じた。
「…ごはん、作らなきゃ…」
小さな呟きは、静かに、1人の部屋の空気に溶けて消える。
さああああ―――と。
また、雨が通り過ぎた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる