79 / 79
第三章
使途不明金の書類
しおりを挟む
「・・・なんだって?」
僕はニーナが言ったことを聞き返してしまう
「ですから、使途不明金について、そこだけ全く記録も記載も無かったんですぅ!
一応、工事の初期費用と最終的にかかった金額までは書いてありましたけど、何度書類を見直しても、使途不明金が計上されてるんですぅ・・・」
ニーナが頬を膨らましながら、書類を僕に渡してくる
僕の向かいに座っていた彼女は、僕の隣まで椅子を持ってやってきて、書類を指さしながら説明してくれる
どこに何が示されているのか、そして、どこに問題があるのかを・・・
うん・・・ニーナが言うように、確かに使途不明金の記載がない
最終的に使われた金額と、工事で使った費用が合っていない
ニーナが見つけてくれたこの書類には、工事で使われた費用が『すべて』纏められたもののはずだ
たとえ写しだったとしても、『すべて』が載っていないと駄目なものである
一応、王命とはいえ公共工事なのだから・・・
誰も、これを指摘する事なく王都へと帰ってしまったのか?
いや・・・王宮の文官がこの間違いに気付かずにいられるとは思えない
書類仕事に素人である、僕の爺ちゃんが気づく程のものなのだから・・・
「・・・これって、意図して記載していないって事ないよね?」
思わず考えを口にする
これは溢れたしまった訳ではなく、自分でも確証が得られないけど、とりあえず誰かの意見が聞きたいからだ
「・・・あり得るかもしれません
使途不明金について隠してるとしたら、はっきり言って杜撰です
横領だとしたら辻褄を合わせるためにどこかの費用を水増しするはずですよね?
・・・もしかしたら、気づいて欲しかったりするんでしょうか?」
「それでしたらぁ・・・誰に気付いて欲しかったんでしょぉ?」
「うん、そうだよねぇ・・・」
気づかれる事前提だとしても、田舎の村長の家に置いていかれた書類に気付くのは、その村長か、もしくは今後温泉に問題が生じた時に見た者しかいないはず
村長が書類を確かめるとは思っていなかったのか
それとも何かしらを長期で考えていて、この早さで見つかる事は予想されていなかったり・・・
いや、流石に分からないな・・・
「これ書いた人に話が聞けたらいいんだけど・・・無理だよなぁ・・・」
書いた者や承認したものはもう、王都へ帰ってしまっているだろう
今村に残っているのは、温泉工事の為にやってきた工員のうち、移住してしまった者だそうだ
工事期間に温泉に入れたことで温泉に憑りつかれてしまった者、気持ちの良い自然に囲まれたこの村が好きになった者
村の女性を好きになってしまった者とか・・・
そうして、三人の移住が完了した
しかも、そのうちの一人は妻子持ちで家族を呼び寄せてしまったという・・・
この村を好きになってくれて移住してくれたのは嬉しいんだけど、とんでもない行動力である
それはさておき・・・
手詰まりである
天井を見上げる
「どうすればいいんだ・・・」
僕はため息をつきながらぼやく
この書類について詳しく分かる人は王都にいる
まさか、王都に戻って王宮へ行き、書類について聞いてこないとダメなのか?
この使途不明金の件と僕とラビヤーを襲ってきた男は無関係なのだろうか?
何をすればいいのか全く分からない
この件は僕達には難しい依頼だったのか
ニーナとラビヤーも黙ってしまった
今まで追放部門で扱った件と比べて、解決の糸口が全く見えないのだ・・・
今までの依頼は、ある程度の証拠を依頼主に貰ってから、仕事を始めることが出来ていたからだ
ああ、依頼を受けて二日目にして、失敗かな・・・
初めての案件失敗がまさか自分の故郷だったなんて・・・
そんなことを考えていたら、家の扉勢いよく開いた音が聞こえた
「皆の衆、戻ったぞ!」
僕達が入り口を見に行くと、ローブ姿の知らない女性を連れた祖父がニコニコ顔で仁王立ちしていた・・・
「あらあら、おかえりなさい」
婆ちゃんがキッチンの方からパタパタとやってきて、爺ちゃんを出迎える
「あら、お客様ね?あなた、そちらの方を紹介してくださいな」
「うむ、こちらはな・・・」
「あっ、大丈夫です自分で名乗ります」
その女性は羽織っていたローブを肩から降ろして名乗り始めた
「私はシルビア・シビリアンと言います
普段は王宮で働いでいます
よろしくお願いします」
「あらあらご丁寧に
マクシミリアンの妻のアリアナです」
「はぁ?」
僕は祖父が連れてきた人物が思いがけなすぎて、変な声を出してしまった
僕はニーナが言ったことを聞き返してしまう
「ですから、使途不明金について、そこだけ全く記録も記載も無かったんですぅ!
一応、工事の初期費用と最終的にかかった金額までは書いてありましたけど、何度書類を見直しても、使途不明金が計上されてるんですぅ・・・」
ニーナが頬を膨らましながら、書類を僕に渡してくる
僕の向かいに座っていた彼女は、僕の隣まで椅子を持ってやってきて、書類を指さしながら説明してくれる
どこに何が示されているのか、そして、どこに問題があるのかを・・・
うん・・・ニーナが言うように、確かに使途不明金の記載がない
最終的に使われた金額と、工事で使った費用が合っていない
ニーナが見つけてくれたこの書類には、工事で使われた費用が『すべて』纏められたもののはずだ
たとえ写しだったとしても、『すべて』が載っていないと駄目なものである
一応、王命とはいえ公共工事なのだから・・・
誰も、これを指摘する事なく王都へと帰ってしまったのか?
いや・・・王宮の文官がこの間違いに気付かずにいられるとは思えない
書類仕事に素人である、僕の爺ちゃんが気づく程のものなのだから・・・
「・・・これって、意図して記載していないって事ないよね?」
思わず考えを口にする
これは溢れたしまった訳ではなく、自分でも確証が得られないけど、とりあえず誰かの意見が聞きたいからだ
「・・・あり得るかもしれません
使途不明金について隠してるとしたら、はっきり言って杜撰です
横領だとしたら辻褄を合わせるためにどこかの費用を水増しするはずですよね?
・・・もしかしたら、気づいて欲しかったりするんでしょうか?」
「それでしたらぁ・・・誰に気付いて欲しかったんでしょぉ?」
「うん、そうだよねぇ・・・」
気づかれる事前提だとしても、田舎の村長の家に置いていかれた書類に気付くのは、その村長か、もしくは今後温泉に問題が生じた時に見た者しかいないはず
村長が書類を確かめるとは思っていなかったのか
それとも何かしらを長期で考えていて、この早さで見つかる事は予想されていなかったり・・・
いや、流石に分からないな・・・
「これ書いた人に話が聞けたらいいんだけど・・・無理だよなぁ・・・」
書いた者や承認したものはもう、王都へ帰ってしまっているだろう
今村に残っているのは、温泉工事の為にやってきた工員のうち、移住してしまった者だそうだ
工事期間に温泉に入れたことで温泉に憑りつかれてしまった者、気持ちの良い自然に囲まれたこの村が好きになった者
村の女性を好きになってしまった者とか・・・
そうして、三人の移住が完了した
しかも、そのうちの一人は妻子持ちで家族を呼び寄せてしまったという・・・
この村を好きになってくれて移住してくれたのは嬉しいんだけど、とんでもない行動力である
それはさておき・・・
手詰まりである
天井を見上げる
「どうすればいいんだ・・・」
僕はため息をつきながらぼやく
この書類について詳しく分かる人は王都にいる
まさか、王都に戻って王宮へ行き、書類について聞いてこないとダメなのか?
この使途不明金の件と僕とラビヤーを襲ってきた男は無関係なのだろうか?
何をすればいいのか全く分からない
この件は僕達には難しい依頼だったのか
ニーナとラビヤーも黙ってしまった
今まで追放部門で扱った件と比べて、解決の糸口が全く見えないのだ・・・
今までの依頼は、ある程度の証拠を依頼主に貰ってから、仕事を始めることが出来ていたからだ
ああ、依頼を受けて二日目にして、失敗かな・・・
初めての案件失敗がまさか自分の故郷だったなんて・・・
そんなことを考えていたら、家の扉勢いよく開いた音が聞こえた
「皆の衆、戻ったぞ!」
僕達が入り口を見に行くと、ローブ姿の知らない女性を連れた祖父がニコニコ顔で仁王立ちしていた・・・
「あらあら、おかえりなさい」
婆ちゃんがキッチンの方からパタパタとやってきて、爺ちゃんを出迎える
「あら、お客様ね?あなた、そちらの方を紹介してくださいな」
「うむ、こちらはな・・・」
「あっ、大丈夫です自分で名乗ります」
その女性は羽織っていたローブを肩から降ろして名乗り始めた
「私はシルビア・シビリアンと言います
普段は王宮で働いでいます
よろしくお願いします」
「あらあらご丁寧に
マクシミリアンの妻のアリアナです」
「はぁ?」
僕は祖父が連れてきた人物が思いがけなすぎて、変な声を出してしまった
0
お気に入りに追加
76
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
最新話、2重投稿になってます
ご指摘ありがとうございます
修正いたしました!
最新話、誤字指摘
「鋼な【ぞ】」→ど
作品の更新は楽しみにしております。
誤字修正しました!ありがとうございます!
感想も嬉しいです!