上 下
74 / 79
第三章

温泉の管理者家族

しおりを挟む
『さえずり』ではいい情報を得られなかった・・・
 僕たちは次の目的地であるサンスケさんの家へと向かう

 サンスケさんの一族は代々温泉を管理している
 その為、今回の温泉工事の責任者の一人にサンスケさんが選ばれた
 王命とはいえ、自分達の管理する温泉とその為の建物が建て替えられる事に、一切の口出しが出来なかったかと言うと、そういうわけでも無いのだ
 王の温泉建て替え命令は綺麗にする事、利便性を上げる事、そして自分の趣味の押し付けである
 王はこの温泉を外交に使用するつもりでもあるので、ボロい温泉に他国の重鎮を招いたら恥をかいてしまうかもしれない
 もしかしたら理解ある国の主導者は『味がある』と言ってくれるかもしれない
 しかし、関係の悪い国だった場合、どう思われるかは分からないのだ
『こんなオンボロ温泉に呼びやがって、俺たちの国を舐めてるのか?』と取られるかもしれない
 国の良い所を見せつける、ということも外交には必要なのだろう

 そんな重要な仕事を任されてしまったこの村の村人達は、さぞ大変だったのだろう
 僕も冒険者にならなかったら、村長の家族として、何か重要な仕事を任されていたのだろうか
 その生活が僕にとって良い物か悪い物か、僕がその仕事を達成できたかは、もう村を出てしまった僕にはわからないことだ


 ジェーンと他愛もない話をしながら温泉の方へと向かう
 お昼前にサンスケさんの家にたどり着くことが出来た
 彼の家は温泉の施設の向かいにある建物だ
 正直、建て替えられてしまった温泉と比べると、雰囲気がまるで合っていない
 前の建物だったら合ってたんだけど、管理する家族の家まで建て替えることはしなかったから、こうなったのだ

「やぁやぁ!マーク君、待ってましたよ」
「どうもお待たせしました」

 サンスケさんは彼の家の窓辺で、僕たちの来るのを待っていたようだ
 僕とジェーンを見つけ家から出てきて、ぱたぱたと走り寄ってきた
 ここら辺では見ない服と珍しい履物を履いている
 僕とジェーンの視線に気づいたのか、説明してくれた

「これですか?私の故郷の服なんですけどね
 ローブを帯で留めているようなものですよ」
「へぇ~、こんな服があるんだねぇ」
「これは『着物』と言いましてね
 着るのも脱ぐのも割と簡単で気持ちのいい服なんですが、動き回るとすぐ乱れてしまうんですよ
 なので私は普段は家の中だけで着ていて、仕事着や普段着にはしてないんです」
「良い見た目してるし、あたしも着てみたら似合うかな?」
「うん、ジェーンなら似合うんじゃない?」

 彼女は嬉しそうにサンスケさんの来ている服を、興味深そうに見ている
 サンスケさんは神妙な顔つきになり、人差し指を立ててジェーンに話す

「・・・実は昔、温泉に入るお客様に着てもらおうと考えたこともあったんですよ
 この服なら、他に無い雰囲気を味わってもらえると思ったんですけどね
 どうもこの周辺の国々では使ってない生地でして・・・高くつくから、辞めたんですよねーアハハハ」
「ありゃー、そりゃ残念だなぁ」

 サンスケさんは昨日の夜の怯えていた姿が嘘のように、明るく振舞っている
 そういえば、もともとこういう冗談交じりで温泉の案内等をしてくれる人だった
 僕とラビヤーが覆面男に襲われたことに対して怯えていた姿も、彼なのだろうけど
 少しも不安を出さなかった他のメンバーがおかしかっただけなのだろうか・・・

「あっそちらの方は初めましてですね、温泉の管理をしていますサンスケ・テルマエと申します」
「ジェーンだ、フリーの冒険者で主に護衛の仕事をしてるよ」

 サンスケさんとジェーンの自己紹介が終わると、サンスケさんに彼の家に入るように誘われた
 彼の家族が中で待っているようだ
 僕とジェーンは誘いに乗り、サンスケさんの家の中へと入っていった


 サンスケさんの家に入ると、テーブルで女性が二人、談笑していた
 僕は二人を知っているけど、ジェーンは初めて会うのでサンスケさんが紹介の場を作る

「紹介します、僕の妻と娘で「マーク兄ちゃん!」す・・・」

 サンスケさんの紹介を遮り、彼の娘が僕の名前を呼ぶ

「久しぶりだねユキちゃん」
「うん!久しぶり!聞いてよ!あたしエステティシャンになったよ!」
「すごいじゃないか」

 彼女はユキ
 サンスケさんの娘さんで18歳・・・くらいだったっけな?
 彼女が小さな頃で僕がまだ村を出る前、僕の爺ちゃんが村長なので、サンスケさんがよく訪ねてきていた
 その時に連れられて家に遊びに来ていたので、相手してあげていた
 彼女は温泉に併設されているエステで働くことが決まり、王都で修行して選ばれた三人のうちの一人だということを自慢してくる

「ユキ?久しぶりに会えて嬉しいのは分かるけど、お母さんも紹介させて?」
「あっ!ごめんおかーさん!」
「娘が失礼しました、サンスケの妻のロウリュと申します
 マークちゃん、お久しぶりね」

 彼女は元々村の人間ではない
 僕が生まれてすぐの時に、この村の温泉に旅行に来てそのまま住み着いた人だ
 僕の母の友人でもあったそうだ
 ユキが生まれる前に何度か面倒を見てくれたことがあるらしいけど、僕は覚えていない
 しかし、何か逆らえないような貫禄がある女性である

 ジェーンもユキとロウリュさんへの自己紹介が終わったので早速、仕事の話に入る
 温泉の改装計画に最も関わっている人たちだ
 きっといい情報が得られるだろう

 僕はそんな期待を胸に、彼女たちから話を聞く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...