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第二章

スミスの尋問2

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「魔剣が作りたかったんだ」

 スミスは今なんて言ったのだろう
 魔剣?
 魔剣って作れるものなんだっけ?
 ダンジョンの主、ボス討伐を行った際に超低確率で出現すると言われているアレを?

「それって・・・可能なんですか?」
「ああ、理論上はな」

 ここでゴブニュさん達が口を挟んでくる
 鍛冶師だからか、剣について語るのが好きなようだ
 長くない話だといいんだけど・・・

「元冒険者のお前なら剣に魔法を受け止めさせるように打つことが出来るのは知っているだろう?
 ミスリルを使えば作れるって事なんだがなぁ
 しかし・・・あれはかなり貴重な物だし、受け止めると言っても魔法は一時的にしか受け止めきれん
 跳ね返せるくらいで、魔法を定着なんかできん
 すぐ霧散しちまうんだ」
「その点、魔剣は魔法が定着させられているんだな
 これは詳しく説明するとだな・・・
 魔法の発動に必要な呪文の役割を刻印にして魔力を注ぐだけで魔法が発動できるようになったり
 魔法そのものを定着させるとしたら使用回数に制限があったり
 そんな感じだ」
「はぁ・・・」

 魔剣ってそんなシステムだったのか
 触ったことも見たことも無いから知らなかった
 大体あんなもの持ってるのは一流の冒険者か王族や貴族、そしてよっぽどの富豪たちだけだからなぁ
 持っているだけで地位があるとも言われてるくらいだし・・・

「で、それをスミスさんは作ろうとしたと・・・」

 スミスは静かに頷く

「俺のこと最近ずっと調べてたんだろう?
 さっき隊長達から聞いたんだが
 俺の仕事ははっきり言うとだが・・・

 地味なんだ」
「地味」

 地味って・・・
 何が言いたいんだろ
 地味でもいい仕事はあるだろうけど・・・
 そういうことじゃなさそうだ

「だってよぉ!俺の得意なのは数打ちづくりだぞ?!
 たまに俺に剣を打って欲しいと言ってくれる冒険者とかギルド員もいるけどよぉ!
 そいつらは『丈夫な剣が欲しい』としか言わねぇんだよ!
 俺だって隊長みたいに一流の冒険者たちに最高の剣とか打ってみたいんだよ!」

 嫉妬・・・なんだろうか?
 自分が未熟ゆえの悔しさもありそうだ

「儂らだって130年でそこまでの仕事が出来たわけじゃないんだぞ?
 地道に剣を打って・・・口コミでいい剣を打つって噂になったり、師匠に認められたりしてだな・・・」
「隊長よう・・・俺のそれはいつ来るんだ?」

 ゴブニュさんが閉口してしまった
 結局噂になるのなんて運もあるだろう
 はっきり言われてないけど、実力が無いと言われたのも同じだろうか?

「そりゃ130年くらいしか剣を打ってないのはまだまだだろうよ
 修行も足りてないのもわかる
 だけどよぉ!この先ずっと数打ちだけ打つ人生なんて俺には耐えられそうにないんだが!」

 130年
 ただの人族である僕には80年も生きれば人生が終わる
 だが長命である異種族にとってはまだまだ人生の序盤、中盤であるだろう
 ドワーフは500年は生きると言われているからな
 ゴブニュさんは400歳くらいだっけ
 僕の10倍以上生きているのだ
 スミスだって5倍以上生きてる
 そんな長い人生は僕だったらどう生きるのだろうか・・・
 ドワーフの鍛冶人生は定命の者には考えられないほど長いのだ

「まだまだ周りの評価も鍛冶の腕も足りないならよぉ!
 魔剣でも打って名を上げちまおうって考えたんだが!」

 なるほど
 彼が魔剣に固執して素材を横領したのはそういう経緯があったんだ
 ただ好き放題してたわけじゃない・・・と
 僕はラビヤーをちらっと見る
 彼女が頷く
 スミスは嘘はついていないようだ
 ラビヤーとそんなやり取りをしていたら、ゴブニュさんが開き直ったスミスに対して声を上げた

「おめぇはほんとに馬鹿野郎だな!
 数打ちを任されてる時点で俺たちは評価してんだぞ」
「言ってくれてねぇとわからねぇんだが?!」

 ゴブニュさんに食って掛かるスミス
 人からの評価なんて確かに分かりにくい
 いっそ紙に書いて渡してくれとも思うだろう

「それに・・・お前の剣を持ってった冒険者が、新しい剣をまた打ってもらいに来てないことに気付いてないようだな?」
「えっ」

 なんと
 彼の作る剣は丈夫だと前に聞いていたが、そこまで耐久力があったのか?
 剣を使う冒険者にとって、丈夫であることは好ましい事だ
 長年使い続けていると愛着も湧く
 折れないのなら信頼できる最高の相棒と言えるだろう
 新しい剣を求めに来ないことがそういうことだとわかるまで、スミスには経験と時間が足りなかったんだろうな
 口を挟めそうにない空気である

「確かにお前の剣は切れ味も無い
 だが折れないんだ
 敵の剣や牙を受け止めても少し研ぐだけで使えるって聞いてるぞ」
「そんな・・・」
「お前に足りなかったのは名声とか鍛冶の腕じゃねぇよ
 自分の腕・・・打った剣を信じていなかったことだ
 そんな奴には魔剣なんて打てないだろうよ」
「ぐっ・・・ちくしょう・・・ちくしょう!」

 スミスは項垂れてしまった
 まだ質問を一つしかしてないんだけど

「次の質問に行ってもいいですか・・・?」
「ぐすっ・・・ああ・・・ちょっと待ってくれ・・・」

 スミスは泣いてしまっている
 しかしこっちだって仕事で来ているのだ
 彼の事情がどうであれ、彼がやったことは過ちである
 追放するかどうかはゴブニュさんやギルド長が決めることだ
 僕は調査をするしかないのだ

「ふぅ・・・落ち着いた、いいぞ」
「では次です、あの呪いのネックレスはどうやって手に入れたんですか?」
「ああ、あれか・・・」

 スミスは顎に手を当てて考える素振りを見せる
 ドワーフ族特有の髭を撫で続け・・・

 ・・・長くない?
 わりとすぐ答えられそうな質問のはずだったんだけど?
 スミスはうんうんと唸り始めた
 必死に思い出そうとしているようだが・・・

「思い出せん・・・」
「えぇ・・・」
「ネックレスを自分で付けた記憶が無い、気づいたらここに寝てたくらいだ」
「もしかして呪われてる間の記憶は無いんですか?」
「あーいや・・・猛烈に魔剣作りがしたくなっていたことは覚えてるな・・・
 うーん・・・」

 今度は腕を組んで首をかしげている
 記憶が曖昧なのか
 なにか・・・なにか無いの?

「声が・・・」
「えっ?」
「声がずっと聞こえてな?
『お前のやりたいことをやれ、誰も止めないぞ』なんて言われてた気がする」

 質問とは違った答えだったが、彼が呪われていた時の事なのだろう
 あのネックレスは人の欲望を唆して増長させるもののようだ

 スミスが何とも言えない表情でネックレスについて答えていると、ドアを叩く音が聞こえた
 誰だろう?
 今尋問中なんだけどなぁ
 返事をする前にノックをした人物が勝手に入ってきた

「おはようございます、私も混ぜてください」

 その人物は、昨日現れたクリスチャンと名乗った、教会からやってきた男だった
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