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想いを乗せて、浮かばせて
しおりを挟む大きな窓を外へと開き、ベッドに乗ったまま身を乗り出す。
視界いっぱいに広がった青空に、赤青黄色、いくつもの風船が飛び交っている。高くから降り注ぐ日差しが心地いい。まるで、感覚のない義足の足先までをも温めてくれるようだった。
今日は、月に一度のお祭りの日だ。
私はやっぱり、この景色が一番好き。普段の静かな空も好きではあるけど。
一面の広場はたくさんの人が行き交っていて、中央には縞模様の大きなテント。一帯は色とりどりの風船やガーランドで飾られている。
細かくは見えないけど、人々が楽しそうに楽器を動かす姿や、口を開いて笑顔を交わし合う姿を温かな気持ちで眺めていた。
そこに、突然目の前を風船の束が通過した。風船はそのまま、風に乗ってゆっくりと遠くへ流れていく。
窓から真下を見てみれば、質素な服の少年が赤い顔でこちらを見上げていた。
お祭りの風船を、うっかり手放しちゃったのかしら?
そう思いながら笑いかけると、少年はさらに顔を真っ赤にして逃げていった。
……悪いことしちゃったわ。きっと、失敗を笑われたと思ったに違いない。ごめんね。
ところが、風船は次の日も目の前を通過した。雨の日を挟んで、その次の日も。太陽の光を反射して、きらきらと輝きながら空の向こうへと飛んでいく。
窓の下には、いつも同じ少年が立っていた。
それがしばらく続いたある日。少年は束を飛ばしたあとに、紫の風船をひとつ追加で飛ばした。
その風船は狙いすましたように、三階の窓からするりと私の部屋へ入ってきた。
私は少し驚きながら、風船のひもに手紙が結ばれてるのに気づき、手に取った。
〝初めまして、僕はケリー。百発百中のフーセン師さ!〟
ふたたび窓から覗けば、少年が金色の三角帽子をかぶって立っている。
なんだか楽しくて、お礼の気持ちを込めた笑顔を向けてみた。少年は一旦顔を背けたものの、今日は逃げることはしなかった。もう一度私の方を向き、恥ずかしそうに何かを言ってから立ち去った。
その日から、少年が飛ばす風船は一個になった。時々ついている手紙には、近況報告や小粋なジョークがつづられている。
手紙を読めば、私はいつも嬉しい気持ちになった。
〝もうすぐ夢が叶いそうなんだ。君をびっくりさせてあげる!〟
そんな報告があった次の日から、しばらく雨で窓を開けられない日が続いた。期待で胸が膨らんだまま、なんだかもどかしい気分になっていく。
そんなある日、夢を見た。
ピンクの空に、紫や水色黄色、カラフルな風船が無数に浮かぶ。私はその中を、ふわりと雲と一緒に飛んでいた。
とってもかわいい。きれい。足が自由に動かせる。
せっかくの夢なんだから楽しまなきゃね、と思っていたら、手元に手紙のついた風船が飛んできた。
……こんなところまで届くんだ。
くすりと笑いが零れる。さすが、百発百中だね。
〝君のおかげで、僕は舞台のスターになれたよ!〟
〝ずっと君を、僕のショーに招待したいと思ってたんだ!〟
まぁ、素敵。
今、空を飛んでるこの景色が、彼のショーということなのかしら? それとも、これとは別に何かを見せてくれるのかしら。
ぱちり、と目が覚める。
見慣れた自宅の天井。ベッドの柱のひとつに、紫の風船が結ばれていた。
一緒についていた手紙には、不思議なことに、夢で見た内容と同じことが書かれていた。
誰かが読み上げてくれたとしても、私は聞こえないはずなのに。
胸が高鳴って、気持ちがどんどん高揚していく。
窓から見える景色だけで、今までの私は満足していたのだけれど。
もう少し欲張って、リハビリ頑張ってみようかな。
期待や希望、欲といった感情が風船のように膨らんで束になり、少しずつ、私の体を浮かす準備を始めていた。
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