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prologue
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ばくばくと、心臓が壊れたかのように鼓動する。
血が巡る感覚が強まり、身体が燃えるように熱い。だが、頭はその熱を処理できない。まるで脳にだけ血液が届いていないかのようだ。
体温と矛盾した寒気を感じ、身体が震える。
あれだけ普段自由に動かせる指先が、凍ったかのように冷たく、動かない。
掴まれている手首だけは、熱さが理解できた。
「今、ポケットに入れたよね」
自分をまっすぐ見つめている少年が言う。その眼差しすら、冷たく感じた。
必死こいて受かった高校でできた、本当は作る気もなかった、ただひとりの友人。
俺は今、一番バレたくなかった人物に、万引き現場を押さえられている。
現行犯。友人の指摘通り、自分のポケットには未会計の商品が入っているだろう。
何を入れたかは……正直覚えていない。欲しいと思ったことすら分からない。
今からでも隠せないか。誤魔化せないか。ひたすらに逃げ道を探すが、凍り付いた脳では思考が上手くまとまらない。出てくるのは、もう口が覚えてしまった『いつもの言い訳』だけ。
「あ……あぁ、ホントだ。俺、ポケットにモノ入れる癖あってさ……無意識だった」
その声は自分の想像より落ち着いていたが、弁明としては苦しい。
信じてもらえるなんて微塵も思えない。
たとえ、本当のことだとしても。
慣れた言葉を口にしてみると、少しずつ脈が落ち着くのを感じた。
なんとかできると思ったからではない。どうにもならないと思ったからだ。
「俺の高校生活もここまでか」なんて諦めが、冷静さを取り戻させてくれた。
掴まれている手首の熱だけは、変わらなかった。
「知ってた」
友人の口からは、想像していなかった言葉が出てきた。
脳の氷は解けかけているというのに、理解できない。
知っていた? 何を?
「そういう癖があるの、気づいてた」
「……え?」
「大丈夫。まだ店出てないから、今から会計すれば何の問題もないよ」
掴まれていた手が離される。
それでもまだ、熱かった。
「会計して、どこか座れるところ行こ。ちゃんと話、したいから」
そう言って、友人――園田慎太郎は、怖がる子供を安心させるかのように微笑んだ。
血が巡る感覚が強まり、身体が燃えるように熱い。だが、頭はその熱を処理できない。まるで脳にだけ血液が届いていないかのようだ。
体温と矛盾した寒気を感じ、身体が震える。
あれだけ普段自由に動かせる指先が、凍ったかのように冷たく、動かない。
掴まれている手首だけは、熱さが理解できた。
「今、ポケットに入れたよね」
自分をまっすぐ見つめている少年が言う。その眼差しすら、冷たく感じた。
必死こいて受かった高校でできた、本当は作る気もなかった、ただひとりの友人。
俺は今、一番バレたくなかった人物に、万引き現場を押さえられている。
現行犯。友人の指摘通り、自分のポケットには未会計の商品が入っているだろう。
何を入れたかは……正直覚えていない。欲しいと思ったことすら分からない。
今からでも隠せないか。誤魔化せないか。ひたすらに逃げ道を探すが、凍り付いた脳では思考が上手くまとまらない。出てくるのは、もう口が覚えてしまった『いつもの言い訳』だけ。
「あ……あぁ、ホントだ。俺、ポケットにモノ入れる癖あってさ……無意識だった」
その声は自分の想像より落ち着いていたが、弁明としては苦しい。
信じてもらえるなんて微塵も思えない。
たとえ、本当のことだとしても。
慣れた言葉を口にしてみると、少しずつ脈が落ち着くのを感じた。
なんとかできると思ったからではない。どうにもならないと思ったからだ。
「俺の高校生活もここまでか」なんて諦めが、冷静さを取り戻させてくれた。
掴まれている手首の熱だけは、変わらなかった。
「知ってた」
友人の口からは、想像していなかった言葉が出てきた。
脳の氷は解けかけているというのに、理解できない。
知っていた? 何を?
「そういう癖があるの、気づいてた」
「……え?」
「大丈夫。まだ店出てないから、今から会計すれば何の問題もないよ」
掴まれていた手が離される。
それでもまだ、熱かった。
「会計して、どこか座れるところ行こ。ちゃんと話、したいから」
そう言って、友人――園田慎太郎は、怖がる子供を安心させるかのように微笑んだ。
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