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第44話 波乱
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「レギオ……さん?」
俺に声を掛けてきたのは、ディエスのかつての傅役、今回はアンゴル大峡谷の道案内を務めたレギオだった。
「フィリア様。すぐ来てください! 転倒した団員が魔石の角で足を切ってしまい、出血が止まらないんです!」
彼は慌てた様子で、馬上から俺に手を伸ばす。
そういうことなら俺の出番だ。
「分かりましたわ。負傷者のもとへ連れて行ってくださいませ!」
レギオは俺を前に乗せて、大峡谷の——まさに魔界への入り口の裂け目に向かって馬を駆った。
結界周辺にはアルカ王国とグラキエス王国の魔術師や魔法使いが集結している。
先日のディエスの忠告——結界は魔力の弱い人間や魔物を通してしまうこと——が、頭の隅をよぎったが、負傷者がいる以上仕方がない。
そもそも自ら飛び込まなければ、落ちることもないだろう。
「まだ先ですの?」
魔石の林を走る馬が止まる気配はない。
結界ギリギリの場所で警護していた団員が負傷したのだろうか。
俺を馬に乗せてから、レギオは言葉少なだった。
「もうすぐです」
そう呟いたきり、また黙ってしまった。
「あ」
魔石の林を抜けた先、結界が目の前にあった。
そしてそこにはディエスの姿も———
「レギオ、フィリアを離せ」
様子がおかしい。
彼はかつての傅役に剣を向けていた。
「ディエス殿下!?」
何がどうなっている!?
俺は混乱した。
殿下がご乱心!? いや、彼の表情は平素と変わらない。
レギオの右腕が、ぎゅっと俺の身体に巻き付く。
「殿下、そこをお通し下さい。負傷者がいるのです」
「クレア嬢を襲ったのは、お前だ。レギオ」
ディエスの言葉は疑問ではなく、断定だった。
俺は驚き、レギオを仰ぎ見た。
犯人扱いされた彼の顔に困惑の色はない。
ただ淡々と「何故そう思うのです」と、ディエスに問いかけた。
「目がある獲物はまず視界を奪い、次いで動きを奪う———あれはお前に教わった魔物討伐のやり方だ」
レギオが隻眼を細めて苦笑する。
「魔力が強大すぎて、一撃で殲滅してしまう貴方には向かない戦法でしたね」
「やはりお前の仕業だったのか」
一瞬の沈黙の後、レギオは大きく息を吐いた。
「彼女が油断していなければ、私に勝ち目はなかった」
「!!」
ディエスの言う通り、この男がクレアを——ササPを襲ったのか!?
でも何のために?
レギオがササPを襲撃した動機が、俺には分からない。
「再度言う。フィリアを離せ、レギオ」
「お通し下さい、殿下」
二人の会話は平行線に戻った。
しかし、先に動いたのはレギオだった。
「ハッ!」
彼は馬を駆り、ディエスに向かって直進する。
「レギオさん!?」
ぶつかる寸前、巧みな手綱捌きでディエスの剣を回避した。
待て。
レギオはどこに向かうつもりだ。
進路の先には結界が、その先には魔界が口を開けている。
俺の思考は嫌な予想に辿り着いてしまう。
———まさか、彼の逃亡先は魔物が跋扈する魔界で、俺は人質!?
「レギオさん!! 考え直してくださいませ!! 魔界なんて、生きて帰って来られませんわ!!」
俺は拘束を解こうと必死でジタバタするが、彼の腕はびくともしない。
「クレア様には申し訳ないことをしました」
「だったら、本人に謝りましょう!! 今からでも、遅くはありませんわ!!」
「もう手遅れです……何もかも」
そう呟いたレギオの顔は全てを諦観していた。
虚無の隻眼が俺を映す。
「ああでも、貴方には先に謝れるか。申し訳ありません、フィリア様」
「レギオさん……」
「グランス!!」
後方からディエスの声が聞こえた、次の瞬間———
パシュッ! パシュッ!
狙いを過たず、グランスの撃った魔力の弾丸は、レギオの肩と足を貫いた。
「グッ!!」
短い悲鳴をレギオは飲み込み、彼は俺を高く抱え上げ、放り投げた!
結界の先———魔界へと、俺は落ちて行く。
「っっ!!」
「フィリア!!」
「フィリア様!!」
ディエスとグランスの伸ばした手は、結界に阻まれ、俺に届かない。
ああ、ディエスの杞憂が現実になってしまった。
「フィリア様ーっ!!」
薄れ行く意識の中、誰かが俺の名を呼び、手を取った。
それを確かめる前に、俺の意識と身体は魔界の暗闇に中に、なす術もなく堕ちていった———
俺に声を掛けてきたのは、ディエスのかつての傅役、今回はアンゴル大峡谷の道案内を務めたレギオだった。
「フィリア様。すぐ来てください! 転倒した団員が魔石の角で足を切ってしまい、出血が止まらないんです!」
彼は慌てた様子で、馬上から俺に手を伸ばす。
そういうことなら俺の出番だ。
「分かりましたわ。負傷者のもとへ連れて行ってくださいませ!」
レギオは俺を前に乗せて、大峡谷の——まさに魔界への入り口の裂け目に向かって馬を駆った。
結界周辺にはアルカ王国とグラキエス王国の魔術師や魔法使いが集結している。
先日のディエスの忠告——結界は魔力の弱い人間や魔物を通してしまうこと——が、頭の隅をよぎったが、負傷者がいる以上仕方がない。
そもそも自ら飛び込まなければ、落ちることもないだろう。
「まだ先ですの?」
魔石の林を走る馬が止まる気配はない。
結界ギリギリの場所で警護していた団員が負傷したのだろうか。
俺を馬に乗せてから、レギオは言葉少なだった。
「もうすぐです」
そう呟いたきり、また黙ってしまった。
「あ」
魔石の林を抜けた先、結界が目の前にあった。
そしてそこにはディエスの姿も———
「レギオ、フィリアを離せ」
様子がおかしい。
彼はかつての傅役に剣を向けていた。
「ディエス殿下!?」
何がどうなっている!?
俺は混乱した。
殿下がご乱心!? いや、彼の表情は平素と変わらない。
レギオの右腕が、ぎゅっと俺の身体に巻き付く。
「殿下、そこをお通し下さい。負傷者がいるのです」
「クレア嬢を襲ったのは、お前だ。レギオ」
ディエスの言葉は疑問ではなく、断定だった。
俺は驚き、レギオを仰ぎ見た。
犯人扱いされた彼の顔に困惑の色はない。
ただ淡々と「何故そう思うのです」と、ディエスに問いかけた。
「目がある獲物はまず視界を奪い、次いで動きを奪う———あれはお前に教わった魔物討伐のやり方だ」
レギオが隻眼を細めて苦笑する。
「魔力が強大すぎて、一撃で殲滅してしまう貴方には向かない戦法でしたね」
「やはりお前の仕業だったのか」
一瞬の沈黙の後、レギオは大きく息を吐いた。
「彼女が油断していなければ、私に勝ち目はなかった」
「!!」
ディエスの言う通り、この男がクレアを——ササPを襲ったのか!?
でも何のために?
レギオがササPを襲撃した動機が、俺には分からない。
「再度言う。フィリアを離せ、レギオ」
「お通し下さい、殿下」
二人の会話は平行線に戻った。
しかし、先に動いたのはレギオだった。
「ハッ!」
彼は馬を駆り、ディエスに向かって直進する。
「レギオさん!?」
ぶつかる寸前、巧みな手綱捌きでディエスの剣を回避した。
待て。
レギオはどこに向かうつもりだ。
進路の先には結界が、その先には魔界が口を開けている。
俺の思考は嫌な予想に辿り着いてしまう。
———まさか、彼の逃亡先は魔物が跋扈する魔界で、俺は人質!?
「レギオさん!! 考え直してくださいませ!! 魔界なんて、生きて帰って来られませんわ!!」
俺は拘束を解こうと必死でジタバタするが、彼の腕はびくともしない。
「クレア様には申し訳ないことをしました」
「だったら、本人に謝りましょう!! 今からでも、遅くはありませんわ!!」
「もう手遅れです……何もかも」
そう呟いたレギオの顔は全てを諦観していた。
虚無の隻眼が俺を映す。
「ああでも、貴方には先に謝れるか。申し訳ありません、フィリア様」
「レギオさん……」
「グランス!!」
後方からディエスの声が聞こえた、次の瞬間———
パシュッ! パシュッ!
狙いを過たず、グランスの撃った魔力の弾丸は、レギオの肩と足を貫いた。
「グッ!!」
短い悲鳴をレギオは飲み込み、彼は俺を高く抱え上げ、放り投げた!
結界の先———魔界へと、俺は落ちて行く。
「っっ!!」
「フィリア!!」
「フィリア様!!」
ディエスとグランスの伸ばした手は、結界に阻まれ、俺に届かない。
ああ、ディエスの杞憂が現実になってしまった。
「フィリア様ーっ!!」
薄れ行く意識の中、誰かが俺の名を呼び、手を取った。
それを確かめる前に、俺の意識と身体は魔界の暗闇に中に、なす術もなく堕ちていった———
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