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第29話 空白
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グランスによる魔銃訓練は一日目こそ付きっきりだったが、二日目以降は彼の空いた時間になった。
俺の銃の腕前が上がった——まだ命中には程遠い——こともあるのだが、やはりグランスもアンゴル大峡谷遠征においては主戦力だ。
追加戦力として募集した民に与える魔具も銃が多いため、教える生徒は俺だけじゃない。
そんなわけで俺は昨日と同じ射撃場で自主練である。
……あんな少女漫画な展開はそうそうないと思うが、ここは乙女ゲームの世界だ。これからはもう少し用心しよう。
パンッ!
本日の六十発目は、的の中央から大きく外れてしまった。
これは俺の集中力が切れかかってる証拠だ。
魔銃に使う魔石の弾は、魔石の中でも屑石を使うらしいが、まだまだ貴重な品であることは間違いない。
アンゴル大峡谷付近には質の高い魔石がゴロゴロしているそうだが、弾は銃に装填するための加工が必要だ。弾切れしても現地調達というわけにはいかない。
無駄にするより、少し休憩を挟もう。
今日もクレアやディエスたちはメンブルム騎士団と一緒だ。
メテオラも顔を合わすと俺を構ってくるが、彼こそ飛行船でアルカと本国を行ったり来たりしなきゃいけない身の上で、とても忙しい。
俺はメンブルム城に戻ってきたが、城内ではこの時間は使用人以外と会わない。
父ウィルガは領主の仕事に、母ミルレはウィルガの補佐兼城の運営管理、弟リベルは家庭教師と勉強——メンブルム家の人々もそれなりに多忙だ。
リトは俺の部屋か厨房に居るはずだが、今はどちらにに行くべきか。
空振りだと広い城の中を歩き回る羽目になるからな。
こういう時、この世界でもスマホが欲しくなる。
「ん?」
見知った顔が廊下で話をしていた。
「コスタ、レギオさん!」
「あ、フィリア様」
「おや、どうされました? フィリア様」
ディエス殿下の新旧従者コンビだ。
「私は少し休憩ですわ。お二人こそディエス殿下を放っておいて宜しいんですの?」
「はははっ。殿下はしばらく会わないうちに、それは立派に成長されましたからな。今さら私の出る幕などありませぬよ」
豪快に笑う元傅役に、コスタが尊敬の眼差しを向ける。
「いえいえ、ご謙遜をレギオ様。僕はディエス殿下の三番目の侍従ですが、レギオ様なくして今の殿下はあり得ませんよ。膨大な魔力は殿下のものですが、あの素晴らしい太刀筋はレギオ様の教えの賜物です!」
コスタが鼻息荒く力説する。
……そういえば、フィリアの記憶の中にレギオと笑顔のディエスは残っているが、レギオがネブラ王国へ赴いて以降、他の従者とディエスの思い出というのは彼女の記憶の中に残っていない。
そもそも、その期間の彼とフィリアの思い出も数える程しかないのだ。
「コスタが三番目の侍従ですの?」
「あー、正確に言うと違いますね。レギオ様がディエス殿下の一番目の侍従で、その二番目の方——僕の前任者ですね。その方の前の侍従というのが短期間の臨時採用という形で、コロコロ変わっていたそうです。僕も殿下の学園ご入学直前の採用ですから、まだそう長くはないんです」
「まあ、そうでしたの」
それならフィリアの記憶に残っていないのも納得だ。
「その二番目の、コスタの前任者の方はどうされましたの?」
「病気で亡くなったとか……僕も詳しくは知らないんですが」
コスタが申し訳なさそうに答えた。
「……ではレギオさんもコスタも、その間の殿下のことはご存じないのですね」
「ええ。それが何か? フィリア様」
「私もその間、あまりディエス殿下とお会いする機会がなかったのです。何か殿下が昔と変わってしまわれたような気がして……」
コスタとレギオが顔を見合わせる。
立ち入ったことを聞いてしまっただろうか。やはり前言を撤回しようと口を開いた時———
「それはおそらく、彼の母親の死が関係しているのだろう」
ノクスが静かに真相に踏み込んだ。
「ノクス先生!? 何故ここに!? 王都にいらっしゃったのでは?」
「メテオラ王太子殿下に、連絡用の小型飛行船を貸してもらった。兵站の食糧のことでメンブルム侯に確認することがあったのでね」
「そうでしたか」
アンゴル大峡谷遠征が成功した暁には、大量の魔石が手に入り、グラキエス王国の魔具製造も全盛期の勢いを取り戻すだろう。
成功が約束されているとはいえ、実に豪快なメテオラらしい大盤振る舞いだ。
「あの、殿下のお母様は流行病で、殿下のお父様——ルーメン先王と同時期に亡くなったと聞いておりますが」
「表向きはな」
「真実は違いますの?」
「ノクス先生——いや、ノクス殿下」
レギオが話を遮るように口を挟む。それに対しノクスは手を挙げ、逆にレギオを制した。
「フィリア嬢はディエスの婚約者だ。そろそろ本当のことを知ってもらった方がいい」
「……はい」
彼は憂いを帯びた目で一瞬だけ俺を見たが、これ以上口出しするつもりはないようで一歩後ろに引いた。
「フィリア嬢。これはディエスの母親——カテナという一人の女性の物語だ」
やがてノクスは語り出す。
ひとりの女性の、短くも激動の人生を———
俺の銃の腕前が上がった——まだ命中には程遠い——こともあるのだが、やはりグランスもアンゴル大峡谷遠征においては主戦力だ。
追加戦力として募集した民に与える魔具も銃が多いため、教える生徒は俺だけじゃない。
そんなわけで俺は昨日と同じ射撃場で自主練である。
……あんな少女漫画な展開はそうそうないと思うが、ここは乙女ゲームの世界だ。これからはもう少し用心しよう。
パンッ!
本日の六十発目は、的の中央から大きく外れてしまった。
これは俺の集中力が切れかかってる証拠だ。
魔銃に使う魔石の弾は、魔石の中でも屑石を使うらしいが、まだまだ貴重な品であることは間違いない。
アンゴル大峡谷付近には質の高い魔石がゴロゴロしているそうだが、弾は銃に装填するための加工が必要だ。弾切れしても現地調達というわけにはいかない。
無駄にするより、少し休憩を挟もう。
今日もクレアやディエスたちはメンブルム騎士団と一緒だ。
メテオラも顔を合わすと俺を構ってくるが、彼こそ飛行船でアルカと本国を行ったり来たりしなきゃいけない身の上で、とても忙しい。
俺はメンブルム城に戻ってきたが、城内ではこの時間は使用人以外と会わない。
父ウィルガは領主の仕事に、母ミルレはウィルガの補佐兼城の運営管理、弟リベルは家庭教師と勉強——メンブルム家の人々もそれなりに多忙だ。
リトは俺の部屋か厨房に居るはずだが、今はどちらにに行くべきか。
空振りだと広い城の中を歩き回る羽目になるからな。
こういう時、この世界でもスマホが欲しくなる。
「ん?」
見知った顔が廊下で話をしていた。
「コスタ、レギオさん!」
「あ、フィリア様」
「おや、どうされました? フィリア様」
ディエス殿下の新旧従者コンビだ。
「私は少し休憩ですわ。お二人こそディエス殿下を放っておいて宜しいんですの?」
「はははっ。殿下はしばらく会わないうちに、それは立派に成長されましたからな。今さら私の出る幕などありませぬよ」
豪快に笑う元傅役に、コスタが尊敬の眼差しを向ける。
「いえいえ、ご謙遜をレギオ様。僕はディエス殿下の三番目の侍従ですが、レギオ様なくして今の殿下はあり得ませんよ。膨大な魔力は殿下のものですが、あの素晴らしい太刀筋はレギオ様の教えの賜物です!」
コスタが鼻息荒く力説する。
……そういえば、フィリアの記憶の中にレギオと笑顔のディエスは残っているが、レギオがネブラ王国へ赴いて以降、他の従者とディエスの思い出というのは彼女の記憶の中に残っていない。
そもそも、その期間の彼とフィリアの思い出も数える程しかないのだ。
「コスタが三番目の侍従ですの?」
「あー、正確に言うと違いますね。レギオ様がディエス殿下の一番目の侍従で、その二番目の方——僕の前任者ですね。その方の前の侍従というのが短期間の臨時採用という形で、コロコロ変わっていたそうです。僕も殿下の学園ご入学直前の採用ですから、まだそう長くはないんです」
「まあ、そうでしたの」
それならフィリアの記憶に残っていないのも納得だ。
「その二番目の、コスタの前任者の方はどうされましたの?」
「病気で亡くなったとか……僕も詳しくは知らないんですが」
コスタが申し訳なさそうに答えた。
「……ではレギオさんもコスタも、その間の殿下のことはご存じないのですね」
「ええ。それが何か? フィリア様」
「私もその間、あまりディエス殿下とお会いする機会がなかったのです。何か殿下が昔と変わってしまわれたような気がして……」
コスタとレギオが顔を見合わせる。
立ち入ったことを聞いてしまっただろうか。やはり前言を撤回しようと口を開いた時———
「それはおそらく、彼の母親の死が関係しているのだろう」
ノクスが静かに真相に踏み込んだ。
「ノクス先生!? 何故ここに!? 王都にいらっしゃったのでは?」
「メテオラ王太子殿下に、連絡用の小型飛行船を貸してもらった。兵站の食糧のことでメンブルム侯に確認することがあったのでね」
「そうでしたか」
アンゴル大峡谷遠征が成功した暁には、大量の魔石が手に入り、グラキエス王国の魔具製造も全盛期の勢いを取り戻すだろう。
成功が約束されているとはいえ、実に豪快なメテオラらしい大盤振る舞いだ。
「あの、殿下のお母様は流行病で、殿下のお父様——ルーメン先王と同時期に亡くなったと聞いておりますが」
「表向きはな」
「真実は違いますの?」
「ノクス先生——いや、ノクス殿下」
レギオが話を遮るように口を挟む。それに対しノクスは手を挙げ、逆にレギオを制した。
「フィリア嬢はディエスの婚約者だ。そろそろ本当のことを知ってもらった方がいい」
「……はい」
彼は憂いを帯びた目で一瞬だけ俺を見たが、これ以上口出しするつもりはないようで一歩後ろに引いた。
「フィリア嬢。これはディエスの母親——カテナという一人の女性の物語だ」
やがてノクスは語り出す。
ひとりの女性の、短くも激動の人生を———
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