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第11話 ダンジョンの優雅な朝食

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「ん……………?」

目が覚めると星空が見えた。
アレ…………ここ、どこだっけ…………俺は、今まで何して———

「早いな。交代まで、まだ時間はあるぞ」

炎に照らされた無愛想な端正な顔と、抑揚に乏しい平坦な声に、俺は瞬時に現状を思い出す。
そうだ。ここはダンジョンの中で、コイツは俺の新しいパーティーメンバーだ。

「いや、起きる。二度寝する程の時間は無いだろう? 見張り交代だ」

俺は頭を振って完全に覚醒すると、何故かダンジョンに場違いな布団が、腹の上に掛けられているのに気がついた。
しかもこのフカフカ具合、上物の羽毛布団だ! しかし何故それが俺に掛けられていたんだ??
俺がサワサワしていた布団を、ロワが無言で引っぺがし、そのまま被って寝てしまった。
まあ、こんな上物俺は買えないから、当然彼の持ち物ではあるんだろう。

「ふむ、人肌の温度で丁度良いな」
そうロワは呟き、布団の中でモソモソしてたと思ったら、程なくして規則的な寝息が聞こえてきた。
俺に布団を貸したのは親切ではなく、単に冷たい布団が嫌なだけだったらしい。
それならそうと言え。

俺は焚き火のそばに座り直すと、勢いが衰えてきた火の中に、新たに薪を焚べて火勢を大きくする。
ロワの張った魔力の防御壁越しに、幾つかの光る目がじっとこちらを覗っていた。
ダンジョンの魔力を養分にして湧いてきた魔物の幼体達だ。
ヤツらが成体となる前——昼前にはここを出た方が良いだろう。

俺はこの第9階層の朝日が昇るまで、周囲を警戒しつつも特にやる事は無く、焚き火の炎をただ見つめていた。


「そろそろ良いだろう。おい! 朝になったぞ! メシ食って出発するぞ!!」

うっすらと空が白んできた事を確認すると、俺はロワを起こしに掛かった。
しっかり身体に巻きついている布団を剥がそうとしても、「う~」とか「あ~」とか、意味を成さない音を発しているばかりだ。
端的に言って、コイツ寝汚いな。
きっと自覚があるから、夜の見張りも先に買って出たのだろう。

実力行使は俺が疲れる。
俺はロワを起こすのをやめて朝食と昼食を作り始めた。
主な食材はやっぱり『大赤角牛』の肉だ。

肉を細かく切って、昨日とは異なる味付けで、持参した野菜と一緒に浅鍋で炒める。
その横で山小屋の女将さん特製パンも薄く切り、焼き目が軽くこんがり付くくらい火で炙った。
食欲をそそる肉と、香ばしいパンの良い匂いが、辺りに充満する。
視界の隅でモソモソと布団が動き始めた。

「食べる……………………」

まだぐらんぐらん身体が揺れて、安定していない。
完全な覚醒には程遠いが、睡眠欲より食欲が勝ったらしい。

山で採れた木の実の果汁を瓶に詰めて持参していた物を、器に注いでやる。
甘さと酸っぱさが絶妙で、少しは目が覚めるだろう。
ロワが大人しくそれを飲んでる間に、パンの間に肉を挟んで皿に置いた。

「昼飯もコレと同じ物にするけど、ロワは何個食べるんだ?」
「………………5………いや、6個」
「けっこう食べるな」

けっして少食ではない俺でも、2個で十分な量だが…………。
まあ、肉自体は大量にあるわけだし、増産するのは簡単な事だ。
俺はせっせと肉とパンを焼き、朝食と昼食分を作り終えた。


「はー、食った、食った。一休みしたら支度して出発するからな…………って、寝るなよ!」

果汁で口の中をサッパリさせていると、ロワが腹一杯になったせいか、また船を漕ぎ出した。
明日からの朝食は、コイツの腹八分目に抑えないといけないようだ。

「寝てない……」と本人は言うが、明らかに頭がグラグラしている。
俺は食事の支度の前に自分の準備は済ませてあるが、ロワは長い髪がグシャグシャに絡まって寝癖までつき、せっかくの美形が残念な事になっていた。
する事がなくて、彼の髪を自分の櫛で梳かして結ってやったら、胡乱な目で見られた。

「あ、触られるの嫌だったか?」
「……………いや、やけに慣れてるな」
「小さい頃チビ達の———ああ、俺は孤児院で他の子ども達と一緒に育ったから、こういうの割と得意なんだ。小さくても女の子ってのは髪型に拘りが凄いからな。俺が大きくなってからは、女同士の喧嘩になるからって、出番は無くなったけど」
「…………そうか」
「?」

ロワは手鏡を取り出すと、俺の腕前を確認するように、自分の顔をジッと見つめた。
それから「問題ない」と、独り言のようなお墨付きを貰ったので、俺のした事はお節介にならなくてホッと一安心だ。

———しかし手鏡も常備している男が、普段は寝癖も気にしないのは、ちょっと不思議だと思った。
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