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第7話 遅刻厳禁
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「遅い!!」
——2人だけのパーティー結成翌日。
待ち合わせのギルド前で、俺の新しい相方は非常にお冠だった。
「悪い悪い、早目に出ようとはしたんだが……」
「何だ寝坊か、だらしないヤツめ」
………その台詞、明らかに寝癖ついてる人間に言われたくはなかったな。
「まあ、遅れたのは俺だしな。悪かったよ、ロワ。あーあ、地滑りさえなけりゃあ、もっと早く着いてたんだけどな。お陰で道を整備するのに時間が取られて」
「ちょっと待て」
ロワが眉間に皺を寄せ、俺の愚痴を聞き咎めた。
「ラントはこの付近の宿屋に泊まっていないのか?」
「ああ。ギルド近辺は高いだろう? ロワはどこに泊まってるんだ?」
「ギルドの隣りだ」
「ええっっ!!?? あんな高い所に泊まってんのか!! あそこ一泊銀貨50枚するだろう!?」
「別に普通だろ」
どうしよう。
俺と新しい相棒の経済的価値観が違いすぎる。
そういえば、ロワは身なりに無頓着だが、身につけている物は、よくよく見れば質が良い物ばかりだ。
あれだけの実力があって、冒険者じゃない魔法使い。
さらに彼の言葉を信じるならば、魔物の討伐経験もあると言う。
ひょっとして、ロワはどこかの貴族のお抱え魔法使いで、今回の新種の植物採取も主君に命じられて——
「おい、ラントの宿はどこだと聞いている」
「え」
「ぼうっとするな。人の話を聞け」
「あ、ああ。俺の泊まってる所か」
考えていたら、ついロワの話を聞き逃していたらしい。
さすがに昨日出会ったばかりの相手について、本人が話す気がなさそうなのに詮索するのは良くないな。
俺は気持ちを切り替えて、彼の質問に答えるべく、山の方を指差した。
「あそこだ。今は昼間だから分からないだろうが、夜になれば灯りがつくからすぐ分かるぞ」
「山………だな」
「ああ。山小屋だな」
ロワが心底理解出来ないという目で、何故か俺を見る。
「この付近には低価格の宿もあるだろう」
「ああ。あるけど……そういうのは駆け出し冒険者に譲ってやらないと。俺も未だに金に余裕があるわけじゃないけど、本当に新人の頃は、金銭的にも肉体的にもギリギリだったから」
「成程」
「あと、あの山小屋は老夫婦がやっていて、若い女性は滅多に来ないから、俺にとって都合が良いんだ」
「………自覚はあるんだな『壊し屋』の」
「ハハハ、オルコギルド長に俺の悪名を聞いたか。…………そりゃあ、小さい頃から俺のせいで人間関係壊れるの見てきたからな。なるべく自衛もするさ」
俺に親はいない。
赤ん坊の頃に捨てられていたのを孤児院で拾ってもらって、そこで育った。
俺のいた孤児院はそこそこ環境の良い所で、特に屈折する事もなく、他の孤児達と一緒にすくすく成長した。
自覚したのは物心ついた頃だ。
その孤児院には当然、他の女児や女性職員もいた。
彼女達は格別俺に優しかった。
子どもだった俺は、単純に彼女達の好意が嬉しくて、何も考えず受け入れていた。
———それが異常だと気付いたのは、俺を巡って女子達が血みどろの大喧嘩を始めた時だった。
優しかった彼女達が豹変し、口汚く相手を罵り、流血沙汰を繰り広げる様は恐怖だった。
孤児院の大人達が配慮して、俺が院を出るまで異性となるべく一緒に過ごさないようにしてくれた。
しかし成長して独り立ちしたら、そうもいかない。
冒険者は常に危険を伴う職業だから男の割合が多い。
でもギルドの受付嬢やら、宿や酒場の女性従業員など、駆け出しの頃は上手く避けられず、良く問題を引き起こしてしまった。
他の冒険者が言うには、俺はお節介なタチらしい。
孤児院で年少の子ども達の世話してたせいか、困っている人がいれば、それに手を貸すのは苦にならない。
彼ら曰く、その親切が「この人私に気があるかも……」と思わせるんだと———
「さすがに酸いも甘いも噛み分けたご婦人には、俺なんて赤ん坊みたいなものなんだろうな」
「………そういう理由ではないと思うが」
「ん?」
俺の無自覚タラシにも動じない、山小屋の女将さんの顔を思い浮かべて笑うと、ロワがボソリと何か言ったが、よく聞き取れなかった。
まあいい。
これでパーティーは揃った。いよいよ出発だ!
意気揚々と歩き出した瞬間、ロワが待ったをかける。
「何だよ、忘れ物か? 深く潜るんならダンジョン内で寝起きしなきゃだからな。でも、安心しろ! 必要最低限の物はこの中に詰まってるから、ロワは手ブラだって構わないぞ」
「その大荷物を持って行く気か」
「ああ。俺は荷物持ちだから、このくらい当然だぞ。いや2人だけだから、いつもより少ないくらいだ」
「…………」
ロワが何か言いたげに、俺の背負った荷物をジロジロ見る。
うーん、ダンジョン初心者にはこれが大荷物に見えるのか。
俺も最初の頃こそ息が上がったもんだが、今は何の苦もない。
「それは常時必要な物ばかりか?」
渋面の魔法使いは少し思案すると、そう問いかけてきた。
「いや。でも食事や就寝時に必要な物は、いくらかさばっても置いていけないぞ?」
「分かっている。とりあえず必要最低限の物を分けろ」
ロワの意図はよく分からなかったが、携帯用の小さなかばんに、すぐ必要になりそうな物だけ詰めた。
すると彼は、残りの荷物を引き取ると「ちょっと待っていろ」と、空中に杖で円を描いた。
パカン
実際はそんな音などしなかったが、唐突に何もない空間に丸い穴が開き、ロワはそこに俺の荷物を無造作に放り込んだ。
「おいっっ!!」
「心配するな。空間魔法の一種だ。あの中は時が止まっていて、ナマモノも腐らない。必要ならすぐに取り出せる」
「そういう事じゃなくて……」
「あ?」
「俺の仕事! 荷物持ちの存在価値が……………っっ!!!」
「……面倒臭いヤツだな。サッサと行くぞ」
衝撃から立ち直れない俺を引き摺って、仏頂面の魔法使いは大ダンジョンへと歩き出した。
——2人だけのパーティー結成翌日。
待ち合わせのギルド前で、俺の新しい相方は非常にお冠だった。
「悪い悪い、早目に出ようとはしたんだが……」
「何だ寝坊か、だらしないヤツめ」
………その台詞、明らかに寝癖ついてる人間に言われたくはなかったな。
「まあ、遅れたのは俺だしな。悪かったよ、ロワ。あーあ、地滑りさえなけりゃあ、もっと早く着いてたんだけどな。お陰で道を整備するのに時間が取られて」
「ちょっと待て」
ロワが眉間に皺を寄せ、俺の愚痴を聞き咎めた。
「ラントはこの付近の宿屋に泊まっていないのか?」
「ああ。ギルド近辺は高いだろう? ロワはどこに泊まってるんだ?」
「ギルドの隣りだ」
「ええっっ!!?? あんな高い所に泊まってんのか!! あそこ一泊銀貨50枚するだろう!?」
「別に普通だろ」
どうしよう。
俺と新しい相棒の経済的価値観が違いすぎる。
そういえば、ロワは身なりに無頓着だが、身につけている物は、よくよく見れば質が良い物ばかりだ。
あれだけの実力があって、冒険者じゃない魔法使い。
さらに彼の言葉を信じるならば、魔物の討伐経験もあると言う。
ひょっとして、ロワはどこかの貴族のお抱え魔法使いで、今回の新種の植物採取も主君に命じられて——
「おい、ラントの宿はどこだと聞いている」
「え」
「ぼうっとするな。人の話を聞け」
「あ、ああ。俺の泊まってる所か」
考えていたら、ついロワの話を聞き逃していたらしい。
さすがに昨日出会ったばかりの相手について、本人が話す気がなさそうなのに詮索するのは良くないな。
俺は気持ちを切り替えて、彼の質問に答えるべく、山の方を指差した。
「あそこだ。今は昼間だから分からないだろうが、夜になれば灯りがつくからすぐ分かるぞ」
「山………だな」
「ああ。山小屋だな」
ロワが心底理解出来ないという目で、何故か俺を見る。
「この付近には低価格の宿もあるだろう」
「ああ。あるけど……そういうのは駆け出し冒険者に譲ってやらないと。俺も未だに金に余裕があるわけじゃないけど、本当に新人の頃は、金銭的にも肉体的にもギリギリだったから」
「成程」
「あと、あの山小屋は老夫婦がやっていて、若い女性は滅多に来ないから、俺にとって都合が良いんだ」
「………自覚はあるんだな『壊し屋』の」
「ハハハ、オルコギルド長に俺の悪名を聞いたか。…………そりゃあ、小さい頃から俺のせいで人間関係壊れるの見てきたからな。なるべく自衛もするさ」
俺に親はいない。
赤ん坊の頃に捨てられていたのを孤児院で拾ってもらって、そこで育った。
俺のいた孤児院はそこそこ環境の良い所で、特に屈折する事もなく、他の孤児達と一緒にすくすく成長した。
自覚したのは物心ついた頃だ。
その孤児院には当然、他の女児や女性職員もいた。
彼女達は格別俺に優しかった。
子どもだった俺は、単純に彼女達の好意が嬉しくて、何も考えず受け入れていた。
———それが異常だと気付いたのは、俺を巡って女子達が血みどろの大喧嘩を始めた時だった。
優しかった彼女達が豹変し、口汚く相手を罵り、流血沙汰を繰り広げる様は恐怖だった。
孤児院の大人達が配慮して、俺が院を出るまで異性となるべく一緒に過ごさないようにしてくれた。
しかし成長して独り立ちしたら、そうもいかない。
冒険者は常に危険を伴う職業だから男の割合が多い。
でもギルドの受付嬢やら、宿や酒場の女性従業員など、駆け出しの頃は上手く避けられず、良く問題を引き起こしてしまった。
他の冒険者が言うには、俺はお節介なタチらしい。
孤児院で年少の子ども達の世話してたせいか、困っている人がいれば、それに手を貸すのは苦にならない。
彼ら曰く、その親切が「この人私に気があるかも……」と思わせるんだと———
「さすがに酸いも甘いも噛み分けたご婦人には、俺なんて赤ん坊みたいなものなんだろうな」
「………そういう理由ではないと思うが」
「ん?」
俺の無自覚タラシにも動じない、山小屋の女将さんの顔を思い浮かべて笑うと、ロワがボソリと何か言ったが、よく聞き取れなかった。
まあいい。
これでパーティーは揃った。いよいよ出発だ!
意気揚々と歩き出した瞬間、ロワが待ったをかける。
「何だよ、忘れ物か? 深く潜るんならダンジョン内で寝起きしなきゃだからな。でも、安心しろ! 必要最低限の物はこの中に詰まってるから、ロワは手ブラだって構わないぞ」
「その大荷物を持って行く気か」
「ああ。俺は荷物持ちだから、このくらい当然だぞ。いや2人だけだから、いつもより少ないくらいだ」
「…………」
ロワが何か言いたげに、俺の背負った荷物をジロジロ見る。
うーん、ダンジョン初心者にはこれが大荷物に見えるのか。
俺も最初の頃こそ息が上がったもんだが、今は何の苦もない。
「それは常時必要な物ばかりか?」
渋面の魔法使いは少し思案すると、そう問いかけてきた。
「いや。でも食事や就寝時に必要な物は、いくらかさばっても置いていけないぞ?」
「分かっている。とりあえず必要最低限の物を分けろ」
ロワの意図はよく分からなかったが、携帯用の小さなかばんに、すぐ必要になりそうな物だけ詰めた。
すると彼は、残りの荷物を引き取ると「ちょっと待っていろ」と、空中に杖で円を描いた。
パカン
実際はそんな音などしなかったが、唐突に何もない空間に丸い穴が開き、ロワはそこに俺の荷物を無造作に放り込んだ。
「おいっっ!!」
「心配するな。空間魔法の一種だ。あの中は時が止まっていて、ナマモノも腐らない。必要ならすぐに取り出せる」
「そういう事じゃなくて……」
「あ?」
「俺の仕事! 荷物持ちの存在価値が……………っっ!!!」
「……面倒臭いヤツだな。サッサと行くぞ」
衝撃から立ち直れない俺を引き摺って、仏頂面の魔法使いは大ダンジョンへと歩き出した。
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