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第28話 オッサンと訪問者
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ミィナの先導で向かった先はサイクロプス居住地の『境』に程近い場所。
ここだけ何故か嵐が通り過ぎた後のように草木が倒れている。
その理由は聞くまでもなく分かった。
「だーかーら、連れてくるまで、ちょっと待ってろって!! あー! また木を倒した! あんた、自分の身体の大きさ考えて行動しろよ」
少し動くだけでもそこらの木を倒し続ける張本人を、モルソが必死に押し留めている。
「ね、アレ止められるのユイしかいないでしょ?」
俺達を連れてきたミィナが、やれやれと耳打ちする。
ムジカとラヴァンドもこの惨状に肩をすくめる。
俺は一歩前に出て、彼に呼び掛けた。
「ラーク! 俺に会いにきてくれたのか?」
「ユイ!」
モルソの言葉に聞く耳を持たなかったサイクロプスの王——ラークは、俺の声には素早く反応した。
青い大きな一つ目が忙しなくまたたいたと思ったら、最短距離で俺のもとに走って来た。
その途上でぶつかった、そこそこ樹齢がありそうな太い木が根元から折れ、路上を塞ぐ。
嵐のような惨状はこうやって作られたのか………。
「心配、シタ。ユイノ危機、オレ、間ニ合ワナカッタ。昨日モ、会ワセテ、モラエナカッタ」
「あー。ラークは王様で忙しいから仕方ないよ。昨日は……雨降ってたしな!」
さすがに39歳のオッサンが泥んこになって、友達と全力で遊んでましたとは言い辛い………。
「デモ、スグ止ンダ。アレ、ユイノ仕業」
俺がムジカを振り返ると、彼はすぐに俺の意図を察して「王にはユイが『歌姫』だと伝えてあります」と答えてくれた。
ラークが俺の力を悪用するとは思えないし、彼もこの森の住民であり、サイクロプスの王だ。
確かに知っておいてもらった方が良い。
「ユイ強イ。デモ弱イ。次ハ、オレヲ呼ベ。力貸ス」
「分かった。その時はよろしく頼むよ」
大きな目がゆっくりと細められる。どうやら俺の答えに満足して笑ったようだ。
ラークはそれから自分が倒した木々を跨いで、大人しく帰って行った。
「毎回これだと後片付けが大変だな」
ラヴァンドが倒れた木々を見回して溜息を吐く。
「今後も考えて『境』に見張りを立てる事も検討しましょう」
ムジカが族長の顔で、すぐに見張りの人数とシフトを考え始めた。
「おい、ムジカ! あのハーフエルフの見張り、なんで俺にやらせてくれねえんだよ!?」
ムジカの思考を中断したのはモルソだった。
「モルソは駄目だ。アイツの境遇に同情して取り込まれる恐れがある。あの男は狡猾だ」
モルソの問いに答えたのはラヴァンドだったが、ムジカも同意らしく、うんうんと頷いている。
「はあ!? 半分ヒト族のヤツなんかに、俺がいいように使われるかよ!」
「駄目です。ラヴァンドも言ったようにヤツは油断ならない。モルソは悪ぶってても、基本悪人になり切れない善人なのですから、ヤツの言葉にころっと乗せられてしまう可能性があります」
それがムジカから見たモルソの人物評か。
確かに、そんな感じはする。
「ホントにどいつもコイツも!! あ」
自分の思い通りにならず癇癪を起こしたモルソの視線が俺を捉える。
絡んでくるなよとの願い虚しく、ヤツはズカズカとこっちに近づき、
「お前、スッゲーな! あれだけの人数のヒト族、お前一人でヤったんだってな!!」
と、上機嫌でバンバンと俺の背中を叩きまくる。
……コイツ的には最大の賛辞のつもりなんだろうが、大量殺戮を肯定されるのは、俺の倫理的にはよろしくない。
「何変な顔してんだよ。ヒト族の中ではマシなヤツだって褒めてるんだぞ、俺は」
「俺の評価は下げてもらって結構。もうあんな事しないから」
今度はモルソが変な顔になった。
「お前がしなきゃ、俺達がアイツらを殺してた。どっちみち、やめてくれって言葉で言って聞くヤツらじゃなかっただろ? 次、もし襲われたらどうすんだよ?」
「……………」
確かに俺が歌姫の力を発揮出来なかったら、死んだのは俺の方だ。
殺すくらいなら殺される方がいいなんて、綺麗事を言うつもりは無い。
———でも、あんな事はもうごめんだ。俺の、自分の心が擦り切れる。
「次は殺さない」
「そうです。ユイの力には頼りません。むしろ私があなたを守ります」
ぎゅっと俺の手を握って、ムジカが力強く言い切った。
この森に来てから、彼には世話になりっぱなしだ。
でも、それだけじゃいけない。
「モルソ、お前の言い草じゃあ、ユイの力を借りないと自分の身も守れないようにも聞こえるぞ?」
ラヴァンドがわざと意地悪くモルソを煽った。
「なっ!? そんなわけねえだろ!! コイツの力なんか借りなくたって、俺一人でこの森の平和は守ってやるよ!!」
「じゃあ、その意気で結界の見回りよろしく」
「おうよ!」
ラヴァンドにまんまと乗せられて、意気揚々と見回りに行くモルソ。
本当に悪いヤツじゃなんだろうな、アイツ………。
後に残った俺とムジカを交互に見て、
「どうせ近くまで来たんだ。ユイも最後に彼に会っておくか?」
と、ラヴァンドが尋ねた。
「ユイに悪影響です。必要ありません」
ムジカが即座に却下した。
「………ラヴァンドさん。彼というのは?」
予想は出来たが俺は敢えて聞いてみた。
「もちろん、今回の『エルフの森襲撃事件』の首謀者、ハーフエルフのダスクだよ」
ここだけ何故か嵐が通り過ぎた後のように草木が倒れている。
その理由は聞くまでもなく分かった。
「だーかーら、連れてくるまで、ちょっと待ってろって!! あー! また木を倒した! あんた、自分の身体の大きさ考えて行動しろよ」
少し動くだけでもそこらの木を倒し続ける張本人を、モルソが必死に押し留めている。
「ね、アレ止められるのユイしかいないでしょ?」
俺達を連れてきたミィナが、やれやれと耳打ちする。
ムジカとラヴァンドもこの惨状に肩をすくめる。
俺は一歩前に出て、彼に呼び掛けた。
「ラーク! 俺に会いにきてくれたのか?」
「ユイ!」
モルソの言葉に聞く耳を持たなかったサイクロプスの王——ラークは、俺の声には素早く反応した。
青い大きな一つ目が忙しなくまたたいたと思ったら、最短距離で俺のもとに走って来た。
その途上でぶつかった、そこそこ樹齢がありそうな太い木が根元から折れ、路上を塞ぐ。
嵐のような惨状はこうやって作られたのか………。
「心配、シタ。ユイノ危機、オレ、間ニ合ワナカッタ。昨日モ、会ワセテ、モラエナカッタ」
「あー。ラークは王様で忙しいから仕方ないよ。昨日は……雨降ってたしな!」
さすがに39歳のオッサンが泥んこになって、友達と全力で遊んでましたとは言い辛い………。
「デモ、スグ止ンダ。アレ、ユイノ仕業」
俺がムジカを振り返ると、彼はすぐに俺の意図を察して「王にはユイが『歌姫』だと伝えてあります」と答えてくれた。
ラークが俺の力を悪用するとは思えないし、彼もこの森の住民であり、サイクロプスの王だ。
確かに知っておいてもらった方が良い。
「ユイ強イ。デモ弱イ。次ハ、オレヲ呼ベ。力貸ス」
「分かった。その時はよろしく頼むよ」
大きな目がゆっくりと細められる。どうやら俺の答えに満足して笑ったようだ。
ラークはそれから自分が倒した木々を跨いで、大人しく帰って行った。
「毎回これだと後片付けが大変だな」
ラヴァンドが倒れた木々を見回して溜息を吐く。
「今後も考えて『境』に見張りを立てる事も検討しましょう」
ムジカが族長の顔で、すぐに見張りの人数とシフトを考え始めた。
「おい、ムジカ! あのハーフエルフの見張り、なんで俺にやらせてくれねえんだよ!?」
ムジカの思考を中断したのはモルソだった。
「モルソは駄目だ。アイツの境遇に同情して取り込まれる恐れがある。あの男は狡猾だ」
モルソの問いに答えたのはラヴァンドだったが、ムジカも同意らしく、うんうんと頷いている。
「はあ!? 半分ヒト族のヤツなんかに、俺がいいように使われるかよ!」
「駄目です。ラヴァンドも言ったようにヤツは油断ならない。モルソは悪ぶってても、基本悪人になり切れない善人なのですから、ヤツの言葉にころっと乗せられてしまう可能性があります」
それがムジカから見たモルソの人物評か。
確かに、そんな感じはする。
「ホントにどいつもコイツも!! あ」
自分の思い通りにならず癇癪を起こしたモルソの視線が俺を捉える。
絡んでくるなよとの願い虚しく、ヤツはズカズカとこっちに近づき、
「お前、スッゲーな! あれだけの人数のヒト族、お前一人でヤったんだってな!!」
と、上機嫌でバンバンと俺の背中を叩きまくる。
……コイツ的には最大の賛辞のつもりなんだろうが、大量殺戮を肯定されるのは、俺の倫理的にはよろしくない。
「何変な顔してんだよ。ヒト族の中ではマシなヤツだって褒めてるんだぞ、俺は」
「俺の評価は下げてもらって結構。もうあんな事しないから」
今度はモルソが変な顔になった。
「お前がしなきゃ、俺達がアイツらを殺してた。どっちみち、やめてくれって言葉で言って聞くヤツらじゃなかっただろ? 次、もし襲われたらどうすんだよ?」
「……………」
確かに俺が歌姫の力を発揮出来なかったら、死んだのは俺の方だ。
殺すくらいなら殺される方がいいなんて、綺麗事を言うつもりは無い。
———でも、あんな事はもうごめんだ。俺の、自分の心が擦り切れる。
「次は殺さない」
「そうです。ユイの力には頼りません。むしろ私があなたを守ります」
ぎゅっと俺の手を握って、ムジカが力強く言い切った。
この森に来てから、彼には世話になりっぱなしだ。
でも、それだけじゃいけない。
「モルソ、お前の言い草じゃあ、ユイの力を借りないと自分の身も守れないようにも聞こえるぞ?」
ラヴァンドがわざと意地悪くモルソを煽った。
「なっ!? そんなわけねえだろ!! コイツの力なんか借りなくたって、俺一人でこの森の平和は守ってやるよ!!」
「じゃあ、その意気で結界の見回りよろしく」
「おうよ!」
ラヴァンドにまんまと乗せられて、意気揚々と見回りに行くモルソ。
本当に悪いヤツじゃなんだろうな、アイツ………。
後に残った俺とムジカを交互に見て、
「どうせ近くまで来たんだ。ユイも最後に彼に会っておくか?」
と、ラヴァンドが尋ねた。
「ユイに悪影響です。必要ありません」
ムジカが即座に却下した。
「………ラヴァンドさん。彼というのは?」
予想は出来たが俺は敢えて聞いてみた。
「もちろん、今回の『エルフの森襲撃事件』の首謀者、ハーフエルフのダスクだよ」
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