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招かれ人と『番の証明』
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王宮について早々キャンピングカーを送還し、スタッグさんと騎士団員さん達とは入り口から別行動。
ああああ……スタッグさん、お世話になった皆さん、後でヴァレリーに頼んで酒届けますから……
スタッグさん達にお礼を言おうとする俺を、さっさと抱き上げてヴァレリーがスタスタ歩き出した為、心の中で感謝するしかできなかったんだけどさ。
苦情を言ったらヴァレリー曰く「どうせまた会える」って言ってたし、その時にでもしっかりお礼を言おうと切り替えると、次に待っていたのは、大勢のメイドさんやら執事さん達からの歓迎の嵐。
それはもう、必死に「降ろしてくれ!」とヴァレリーに頼みましたよ……でも、ヴァレリーが「トオヤ不足だ」と離してくれませんでした(涙)。
流石に余りの恥ずかしさ故顔を隠したかったが、そこは社会人と礼節の国の日本人としての矜持が許さない。
まあ、赤面症はどうしようもないけど、必死に皆さんに笑顔を振りまいていたら、「グルルル……」とヴァレリーが怒り出し、俺の顔をヴァレリーの首筋に押し付けてしまったんだ。
これには、流石に一緒に移動していたディグラン様が苦笑。
「トオヤ、今ヴァレリーは余裕がない。皆、番に対する執着心はわかっている者達だけだからちょっと我慢してくれ」
そう言われると仕方ないと言うか、そうせざるを得ないというか……
折角だからヴァレリーの毛並みを堪能しようと、すりすりしていたらヴァレリーの歩く速度が速くなったけど。
そしたら「誰も煽れとは言ってない!」と追いついて来たディグラン様から俺がお叱りを受けた。
……えー、俺のせいなの?
なんてやっていると、目的の部屋についたらしい。ディグラン様は自室に戻って謁見の為に着替える為、ここで別行動。
ヴァレリーに抱かれたまま入ると、ズラリと並んだメイド獣人さん達が俺を待っていたんだ。
うおお!メイド服を着た獣人さん!!と思わずテンションが上がった俺。
「さ、ヴァレリー様も招かれ人様を降ろして、お着替えに行って下さいませ。後は私達がしますから」
その中の気品のある猫さん獣人さんが、やんわりとヴァレリーに頼む事で俺はやっと地面に降りる事ができたんだ。ああ、自分で立てるって素晴らしい……!
「トオヤ、すぐに着替えて迎えに来る」
やっと降りれてホッとした俺に、俺の頬にキスをしてから俺の頭を撫でたヴァレリー。俺もヴァレリーの手の感触を楽しみながら「わかった」と見送りしたんだ。
うん、ここまで堂々とされると、いっそ清々しいよな。慣れてきた俺も大概だろうけど。
なんて思っていると、ほうっ……とメイドさん達から感嘆のため息が聞こえて来た。どうやらヴァレリーと俺の行動に見惚れていたらしい。
「まぁまぁ、あのヴァレリー様がここまでマーキングなさるとは素晴らしいですわ。では、改めて招かれ人様に自己紹介をさせて頂きますわ。お世話をさせて頂く、カラカル獣人のマリッサでございます。宜しければ、招かれ人様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、失礼しました。トオヤ・クガと申します。トオヤとお呼び下さい」
「ふふふ。トオヤ様ですね。宜しくお願い致します。それと、私共に敬語は不要ですわ。私の事はマリッサとお呼び下さいませ」
「……わかった。世話になるよ、マリッサ」
「はい、お任せくださいませ。さ、では急ぎますわよ?トオヤ様」
パンパンとマリッサが手を叩くと、メイドの獣人さん達に囲まれる俺。
「まずは湯浴みとオイルマッサージ、そして謁見の為のお着替えですわ。恐らく、すぐヴァレリー様が戻って来そうですもの」
にっこりマリッサがそう言うと、部屋付きの浴室へと連行される俺。メイドさん達に囲まれて、俺は嫌~な予感がしたんだよ……
「まあ、なんて素晴らしいお肌かしら!すべすべですわ!」
「綺麗なお髪ですわね!これはずっと触っていたくなりますわ!」
「あら、逃げないで下さいませ?これからは毎日お世話させて頂くのですから」
「まあ、柔らかいお体。羨ましいですわぁ」
……俺の抵抗虚しく、それはもう身体の隅々まで洗われたんだ。どの世界でも集団の女性(メス)は強しと思い知ったよ……
もはや無の境地を悟ったであろう俺は、なされるがままオイルマッサージを受け、ツヤッツヤのすべすべに仕上がったらしい。
そしてヒラヒラが沢山ついたシャツに、精巧に刺繍されたベストと肌触りいい黒のスラックスとブーツという姿に着替えさせられた頃には、既にヴァレリーが応接間で待機していた。
メイドさん達にしっかり仕立てて貰い格好は整った俺だったけど、精神力が削られげんなり。でも現金な俺は、応接間にいた正装のヴァレリーの姿を見て一気にハイテンションに!
だって、雪豹が騎士装束に着替えて立っているんだぜ?別に制服好きじゃ無いけど、めっちゃ似合うし格好いいんだ!
俺は思わず走り出して、ヴァレリーにボスッと抱きついてしまった。
「ヴァレリー!めっちゃかっこいい!」
「そうか……堅苦しい服は苦手だが、トオヤから抱きついて来てくれるなら悪くない。それに……」
抱きついていた俺をまたヒョイッと抱き上げ、俺に頬擦りをするヴァレリーだったが、すぐ微妙な表情をした。
「トオヤがこんなに綺麗になったのはいいが、俺の匂いがなくなったのは頂けない」
そう言って、俺に匂いをするつける作業に入ったヴァレリーに、待ったをかけるマリッサ。
そう、せっかくメイドさん達に整えてくれたのに、また舐めまわそうとし出したからなぁ。ナイスタイミングだ!マリッサ!
「ヴァレリー様。折角メイドが腕によりをかけてトオヤ様を磨き上げたんですから、その辺りでお辞め下さいませ。……それに『番の証明』の許可がもう既にございますのでしょう?でしたら今夜もメイド達が腕を振るいますから、その時に存分になさいませ」
「……残念だが、そうするか……」
ヴァレリーがようやく俺を舐め回すのを止めてくれたのはいいけど……なんだ?『番の証明』って?
「なあ、ヴァレリー?『番の証明』ってなに?」
俺の言葉に、一瞬でざわめきだすメイドさん達。マリッサに至っては「あら?」とヴァレリーに笑顔で圧をかけている様に見える。
「……トオヤ?一緒に寝ようと言ってくれただろう?」
「それは言ったけどさ」
「招かれ人が獣人の番の立場を受け入れ、招かれ人から誘われるという工程を経て、初めて『番の証明』つまり閨を共にする事が出来るんだ」
「は?閨って?俺とヴァレリーが?」
「他に誰がいる?というか考えただけでもその相手を殺したくなる……!」
グルルルと唸るヴァレリーだけど、俺はそれどころじゃ無い……!
ヴァレリーに反論しようとすると、その雰囲気を察したマリッサが会話に加わって来たんだ。
「失礼ながら、会話に加わらせて頂きますわ。……ヴァレリー様。それでは余りにもお言葉が足りなさすぎていらっしゃいますわ。トオヤ様が混乱するのは当然でしょう」
「マリッサ……!」
ああ、ここに俺の気持ちをわかってくれる人がいた……!
「しかし……」とまだごねるヴァレリーに、腕を組んでマリッサ助けてと目で訴える俺の様子を見て、はあ…とため息を吐いて頭を抱えたマリッサ。
「……この分だと、トオヤ様は意味を分からず言葉を発したみたいですわね?大方、添い寝を思い描いていたと言うところでしょうか?」
マリッサの言葉に、全力でうんうんと頷く俺。味方はここに居た……!と思っていた俺の思いは、次のマリッサの言葉で崩れ落ちた。
「……でも、これはトオヤ様にとって必要な事ですわね」
一瞬で築き上げた信頼が、一瞬で崩れ落ちた……
呆然とする俺に、苦笑しながら話し出すマリッサ。
「トオヤ様は獣人にとって人族は魅力的に映る、と言うお話はお聞きになったかしら?」
「それについては、スタッグさんから聞いた」
「では『番の証明』のない人族の招かれ人が受けた受難は、説明を受けましたでしょうかしら?」
思わずヴァレリーを見ると、シュンとして「済まぬ、言っていない。トオヤは最初から獣人を好意的に受け入れてくれていたから……」と素直にマリッサに報告している。
「……ヴァレリー様には後でお話がございます。さて、トオヤ様?考えてみて頂けますかしら?一般獣人より力のないとっても魅力的な人族が、たった一人獣人の世界で放り出されていたらどうなっていたかを」
ヴァレリー達が迎えに来ない場合か……まず、俺の力(ギフト)は召喚だけど、あのまま一人でいたらそのうち魔物の襲われて死亡確定だっただろうな。
運良く獣人の村に着いたとしても……あ、俺って性的対象になるんだ……!うげぇ……陵辱、強姦、マワされ待った無しってか……。
運良く生活できたとしても、常にその危険が付き纏い、安眠出来ない生活……ってどうあっても死亡確定じゃんか……!
サアアと血の気が引いた俺の様子に気づいたマリッサが、近くまで来てぎゅっと抱きしめてくれた。
おわあ……!女性獣人はまたヴァレリーと違って柔らかい……!
すぐに機嫌が良くなった俺にクスっと笑いながらも、マリッサは抱きしめながら話してくれた。
「この国がすぐに迷い人を保護する様になったのは、実はここ100年の間なのですわ。迷い人達の悪夢を終わらせたのは、先先代の王の番です。……とても腕の良い魔導具師でしたの。貴族に奴隷として飼い慣らされていて発見した時は、王が暴れて手がつけられなかったぐらいですわ」
「当然だ。トオヤがそんな目に遭っていたらと思うと胸糞悪い……!!」
「……そして番と獣人にわかっても、人族にはわからない。先先代の王はそれはもう甲斐甲斐しくお世話をしたそうですわ。おかげで、立ち直れた招かれ人様は、一定周期で表れる今後の招かれ人様の為に手を尽くしたのです。それが、『招かれ人専用の詮索探査魔導具』と『番の証明』の法の制定ですの」
「トオヤ、おまえから言葉をもらっているから既に王には言伝してある。……が、お前には実のところ最後まで拒否する権限もあるんだ。だけど、済まない。……俺が教えたくなかった」
「ヴァレリー様のやり方は、正直余り褒められたものではありませんわ。でも、獣人は番を大事にする生き物。誰かの番になっているならば、トオヤ様はこの世界でも普通に暮らせますわ」
そう言って俺の頭を撫でて、笑顔で離れて言ったマリッサ。その後言葉もない俺に、ヴァレリーがシュンとした表情で近づいてきて俺をぎゅっと抱きしめてくれたんだけど………
ヴァレリーにこうされても全然嫌じゃないんだよなぁ、俺。これが殿下やスタッグさんだったら……?って考えると、悪いけど正直逃げ出してる。
この深緑の匂いが俺を落ち着かせるし、ヴァレリー自体俺は好ましく思っているし……
ええい!何を悩む!久我凍夜!もふもふを堪能できる生活が待っているんだ!帰れないが、此処には俺の望むもふもふ天国がある!尻の穴一つ惜しむ事はない筈だ!!
決意して顔を上げると、心配そうなヴァレリーの表情。
ぷはっ、雪豹もこんな表情になるのか。……もう、可愛い過ぎるだろ。
「ヴァレリー。俺、改めてお前に言うよ。……一緒に寝ような?」
肩の力も抜けて笑顔で言った俺を、無言でぎゅぎゅっとヴァレリーが抱きしめてきた。
まあ、このままで終わればいい話なんだけどな。
ヴァレリーが俺を抱き上げて自室に連れて行こうとするわ、俺の支度が再度必要になるわ、ディグラン様まで呼び出してヴァレリーと共にマリッサさんが説教を始めるわで、謁見に行くのに更に時間がかかったんだ。
流石に王を待たせすぎて、怒られると思うだろう?
「構いませんわ。あの方も、少しは我慢を覚えるといいのです」
強気なマリッサが凄えと思ったね。
後々聞いてみたら、マリッサは古株のメイド長。王にも臆せずものを申し立てる事が出来る立場らしい。
……うん、マリッサを怒らせる事はしないようにしよう……
ああああ……スタッグさん、お世話になった皆さん、後でヴァレリーに頼んで酒届けますから……
スタッグさん達にお礼を言おうとする俺を、さっさと抱き上げてヴァレリーがスタスタ歩き出した為、心の中で感謝するしかできなかったんだけどさ。
苦情を言ったらヴァレリー曰く「どうせまた会える」って言ってたし、その時にでもしっかりお礼を言おうと切り替えると、次に待っていたのは、大勢のメイドさんやら執事さん達からの歓迎の嵐。
それはもう、必死に「降ろしてくれ!」とヴァレリーに頼みましたよ……でも、ヴァレリーが「トオヤ不足だ」と離してくれませんでした(涙)。
流石に余りの恥ずかしさ故顔を隠したかったが、そこは社会人と礼節の国の日本人としての矜持が許さない。
まあ、赤面症はどうしようもないけど、必死に皆さんに笑顔を振りまいていたら、「グルルル……」とヴァレリーが怒り出し、俺の顔をヴァレリーの首筋に押し付けてしまったんだ。
これには、流石に一緒に移動していたディグラン様が苦笑。
「トオヤ、今ヴァレリーは余裕がない。皆、番に対する執着心はわかっている者達だけだからちょっと我慢してくれ」
そう言われると仕方ないと言うか、そうせざるを得ないというか……
折角だからヴァレリーの毛並みを堪能しようと、すりすりしていたらヴァレリーの歩く速度が速くなったけど。
そしたら「誰も煽れとは言ってない!」と追いついて来たディグラン様から俺がお叱りを受けた。
……えー、俺のせいなの?
なんてやっていると、目的の部屋についたらしい。ディグラン様は自室に戻って謁見の為に着替える為、ここで別行動。
ヴァレリーに抱かれたまま入ると、ズラリと並んだメイド獣人さん達が俺を待っていたんだ。
うおお!メイド服を着た獣人さん!!と思わずテンションが上がった俺。
「さ、ヴァレリー様も招かれ人様を降ろして、お着替えに行って下さいませ。後は私達がしますから」
その中の気品のある猫さん獣人さんが、やんわりとヴァレリーに頼む事で俺はやっと地面に降りる事ができたんだ。ああ、自分で立てるって素晴らしい……!
「トオヤ、すぐに着替えて迎えに来る」
やっと降りれてホッとした俺に、俺の頬にキスをしてから俺の頭を撫でたヴァレリー。俺もヴァレリーの手の感触を楽しみながら「わかった」と見送りしたんだ。
うん、ここまで堂々とされると、いっそ清々しいよな。慣れてきた俺も大概だろうけど。
なんて思っていると、ほうっ……とメイドさん達から感嘆のため息が聞こえて来た。どうやらヴァレリーと俺の行動に見惚れていたらしい。
「まぁまぁ、あのヴァレリー様がここまでマーキングなさるとは素晴らしいですわ。では、改めて招かれ人様に自己紹介をさせて頂きますわ。お世話をさせて頂く、カラカル獣人のマリッサでございます。宜しければ、招かれ人様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、失礼しました。トオヤ・クガと申します。トオヤとお呼び下さい」
「ふふふ。トオヤ様ですね。宜しくお願い致します。それと、私共に敬語は不要ですわ。私の事はマリッサとお呼び下さいませ」
「……わかった。世話になるよ、マリッサ」
「はい、お任せくださいませ。さ、では急ぎますわよ?トオヤ様」
パンパンとマリッサが手を叩くと、メイドの獣人さん達に囲まれる俺。
「まずは湯浴みとオイルマッサージ、そして謁見の為のお着替えですわ。恐らく、すぐヴァレリー様が戻って来そうですもの」
にっこりマリッサがそう言うと、部屋付きの浴室へと連行される俺。メイドさん達に囲まれて、俺は嫌~な予感がしたんだよ……
「まあ、なんて素晴らしいお肌かしら!すべすべですわ!」
「綺麗なお髪ですわね!これはずっと触っていたくなりますわ!」
「あら、逃げないで下さいませ?これからは毎日お世話させて頂くのですから」
「まあ、柔らかいお体。羨ましいですわぁ」
……俺の抵抗虚しく、それはもう身体の隅々まで洗われたんだ。どの世界でも集団の女性(メス)は強しと思い知ったよ……
もはや無の境地を悟ったであろう俺は、なされるがままオイルマッサージを受け、ツヤッツヤのすべすべに仕上がったらしい。
そしてヒラヒラが沢山ついたシャツに、精巧に刺繍されたベストと肌触りいい黒のスラックスとブーツという姿に着替えさせられた頃には、既にヴァレリーが応接間で待機していた。
メイドさん達にしっかり仕立てて貰い格好は整った俺だったけど、精神力が削られげんなり。でも現金な俺は、応接間にいた正装のヴァレリーの姿を見て一気にハイテンションに!
だって、雪豹が騎士装束に着替えて立っているんだぜ?別に制服好きじゃ無いけど、めっちゃ似合うし格好いいんだ!
俺は思わず走り出して、ヴァレリーにボスッと抱きついてしまった。
「ヴァレリー!めっちゃかっこいい!」
「そうか……堅苦しい服は苦手だが、トオヤから抱きついて来てくれるなら悪くない。それに……」
抱きついていた俺をまたヒョイッと抱き上げ、俺に頬擦りをするヴァレリーだったが、すぐ微妙な表情をした。
「トオヤがこんなに綺麗になったのはいいが、俺の匂いがなくなったのは頂けない」
そう言って、俺に匂いをするつける作業に入ったヴァレリーに、待ったをかけるマリッサ。
そう、せっかくメイドさん達に整えてくれたのに、また舐めまわそうとし出したからなぁ。ナイスタイミングだ!マリッサ!
「ヴァレリー様。折角メイドが腕によりをかけてトオヤ様を磨き上げたんですから、その辺りでお辞め下さいませ。……それに『番の証明』の許可がもう既にございますのでしょう?でしたら今夜もメイド達が腕を振るいますから、その時に存分になさいませ」
「……残念だが、そうするか……」
ヴァレリーがようやく俺を舐め回すのを止めてくれたのはいいけど……なんだ?『番の証明』って?
「なあ、ヴァレリー?『番の証明』ってなに?」
俺の言葉に、一瞬でざわめきだすメイドさん達。マリッサに至っては「あら?」とヴァレリーに笑顔で圧をかけている様に見える。
「……トオヤ?一緒に寝ようと言ってくれただろう?」
「それは言ったけどさ」
「招かれ人が獣人の番の立場を受け入れ、招かれ人から誘われるという工程を経て、初めて『番の証明』つまり閨を共にする事が出来るんだ」
「は?閨って?俺とヴァレリーが?」
「他に誰がいる?というか考えただけでもその相手を殺したくなる……!」
グルルルと唸るヴァレリーだけど、俺はそれどころじゃ無い……!
ヴァレリーに反論しようとすると、その雰囲気を察したマリッサが会話に加わって来たんだ。
「失礼ながら、会話に加わらせて頂きますわ。……ヴァレリー様。それでは余りにもお言葉が足りなさすぎていらっしゃいますわ。トオヤ様が混乱するのは当然でしょう」
「マリッサ……!」
ああ、ここに俺の気持ちをわかってくれる人がいた……!
「しかし……」とまだごねるヴァレリーに、腕を組んでマリッサ助けてと目で訴える俺の様子を見て、はあ…とため息を吐いて頭を抱えたマリッサ。
「……この分だと、トオヤ様は意味を分からず言葉を発したみたいですわね?大方、添い寝を思い描いていたと言うところでしょうか?」
マリッサの言葉に、全力でうんうんと頷く俺。味方はここに居た……!と思っていた俺の思いは、次のマリッサの言葉で崩れ落ちた。
「……でも、これはトオヤ様にとって必要な事ですわね」
一瞬で築き上げた信頼が、一瞬で崩れ落ちた……
呆然とする俺に、苦笑しながら話し出すマリッサ。
「トオヤ様は獣人にとって人族は魅力的に映る、と言うお話はお聞きになったかしら?」
「それについては、スタッグさんから聞いた」
「では『番の証明』のない人族の招かれ人が受けた受難は、説明を受けましたでしょうかしら?」
思わずヴァレリーを見ると、シュンとして「済まぬ、言っていない。トオヤは最初から獣人を好意的に受け入れてくれていたから……」と素直にマリッサに報告している。
「……ヴァレリー様には後でお話がございます。さて、トオヤ様?考えてみて頂けますかしら?一般獣人より力のないとっても魅力的な人族が、たった一人獣人の世界で放り出されていたらどうなっていたかを」
ヴァレリー達が迎えに来ない場合か……まず、俺の力(ギフト)は召喚だけど、あのまま一人でいたらそのうち魔物の襲われて死亡確定だっただろうな。
運良く獣人の村に着いたとしても……あ、俺って性的対象になるんだ……!うげぇ……陵辱、強姦、マワされ待った無しってか……。
運良く生活できたとしても、常にその危険が付き纏い、安眠出来ない生活……ってどうあっても死亡確定じゃんか……!
サアアと血の気が引いた俺の様子に気づいたマリッサが、近くまで来てぎゅっと抱きしめてくれた。
おわあ……!女性獣人はまたヴァレリーと違って柔らかい……!
すぐに機嫌が良くなった俺にクスっと笑いながらも、マリッサは抱きしめながら話してくれた。
「この国がすぐに迷い人を保護する様になったのは、実はここ100年の間なのですわ。迷い人達の悪夢を終わらせたのは、先先代の王の番です。……とても腕の良い魔導具師でしたの。貴族に奴隷として飼い慣らされていて発見した時は、王が暴れて手がつけられなかったぐらいですわ」
「当然だ。トオヤがそんな目に遭っていたらと思うと胸糞悪い……!!」
「……そして番と獣人にわかっても、人族にはわからない。先先代の王はそれはもう甲斐甲斐しくお世話をしたそうですわ。おかげで、立ち直れた招かれ人様は、一定周期で表れる今後の招かれ人様の為に手を尽くしたのです。それが、『招かれ人専用の詮索探査魔導具』と『番の証明』の法の制定ですの」
「トオヤ、おまえから言葉をもらっているから既に王には言伝してある。……が、お前には実のところ最後まで拒否する権限もあるんだ。だけど、済まない。……俺が教えたくなかった」
「ヴァレリー様のやり方は、正直余り褒められたものではありませんわ。でも、獣人は番を大事にする生き物。誰かの番になっているならば、トオヤ様はこの世界でも普通に暮らせますわ」
そう言って俺の頭を撫でて、笑顔で離れて言ったマリッサ。その後言葉もない俺に、ヴァレリーがシュンとした表情で近づいてきて俺をぎゅっと抱きしめてくれたんだけど………
ヴァレリーにこうされても全然嫌じゃないんだよなぁ、俺。これが殿下やスタッグさんだったら……?って考えると、悪いけど正直逃げ出してる。
この深緑の匂いが俺を落ち着かせるし、ヴァレリー自体俺は好ましく思っているし……
ええい!何を悩む!久我凍夜!もふもふを堪能できる生活が待っているんだ!帰れないが、此処には俺の望むもふもふ天国がある!尻の穴一つ惜しむ事はない筈だ!!
決意して顔を上げると、心配そうなヴァレリーの表情。
ぷはっ、雪豹もこんな表情になるのか。……もう、可愛い過ぎるだろ。
「ヴァレリー。俺、改めてお前に言うよ。……一緒に寝ような?」
肩の力も抜けて笑顔で言った俺を、無言でぎゅぎゅっとヴァレリーが抱きしめてきた。
まあ、このままで終わればいい話なんだけどな。
ヴァレリーが俺を抱き上げて自室に連れて行こうとするわ、俺の支度が再度必要になるわ、ディグラン様まで呼び出してヴァレリーと共にマリッサさんが説教を始めるわで、謁見に行くのに更に時間がかかったんだ。
流石に王を待たせすぎて、怒られると思うだろう?
「構いませんわ。あの方も、少しは我慢を覚えるといいのです」
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