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獣が服を着て立っていました。

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 ………おいおいおい。こんな群れってあるのか……?

 だって居るのはライオン、虎、豹だぞ⁉︎しかも色は白黒茶色と色とりどりで10数頭いるし。

 何より1番不思議なのは、軍服みたいなのを着て、2本足で立っている事……!うおっ!腰に剣みたいなのもあるじゃん⁉︎って……



 …………………………………なんで動かねえんだ?



 ……ハッ、待て!俺、もしかして言葉通じねえって思われてる?ステータスには言語理解ってあったし大丈夫だと思うけど……どれ、試してみるか?

「……えーと、あの……無断で侵入してすみませんでした……!言葉通じてますか……?」

 俺がかけた言葉によってハッと気付いたらしい一際大きな白い豹さんが、ゆっくりと俺の前まで歩いてきた。

 うおおお……迫力あるぅ……!

 無言の圧を感じ腰がひけてしまい、思わず後ずさる俺の前まで来て跪く白い豹さん。

 その目は肉食獣のはずなのに、俺を見る目は優しく見えたんだ。

「……怖がらせて済まない。私は獣人国第一騎士団の長を務めるヴァレリー・べルシェンドと言う。貴殿は招かれ人……いや、チキュウと言う場所から来たのだろうか?」

 ……凄え、豹が日本語話してる……!って待て!地球を知ってる⁉︎

「え⁉︎あの!地球を知っているんですか⁉︎って事は此処はまだ地球?俺!日本人で、気がついたら此処に居て……!なのにステータスは出るし、スキルやギフトや祝福まで付いてて……!グッ!……」

「……混乱する気持ちはよくわかる。少し落ち着きなさい」

 言葉がわかって情報を持っているとわかった俺は、どうやら白い豹さんに詰め寄っていたらしい。

 でもなぜか現在、白い豹さんに抱きしめられています……?ついでに背中をポンポンって、子供だと思われてる?それに……

 すっげえ良い匂い……俺の好きな深緑の匂いだぁ……

 気持ちよくなってスンスンと匂いを嗅ぎ、思わず顔をスリスリしてしまった俺だが、「グゥゥ」と言う声でハッと気づく。

 ……やっべ!よく考えたら、まだよくわからん男からスリスリされたら気持ち悪いよな⁉︎

 正気に戻りバッと手で胸を押して上を見上げると、俺の目の前には地球で焦がれに焦がれた毛並みがチラリ。

 ふおおおお!フッサフサやんけ!しかも毛艶もいいと来た!

 またもや出て来たエセ関西弁。脳内で触りたいと言う欲求と、人としての理性がせめぎ合う事1秒。

「……あの……?首元触っても良いですか……?」

 長年の欲求に勝て無かった理性が、すんでのところで働いてくれた。うん、痴態を晒す事は避けられたな!

 自分にグッジョブといいつつ、期待を込めて見上げる事しばらく……

 ん?返答が無い……?

「……団長、大丈夫ですか?」

 いつのまにか近くに来ていた黒虎さんが、固まっていたヴァレリーさんの肩にポンっと手をおいて声をかけて来たんだ。

 ひょおお!黒い虎ってかっこいい!!あああああああ……しかも尻尾が揺れてるじゃないか!

 俺の心はもうフル稼働!

 余りの嬉しさにもはや恐怖もなく、ただただ目の前の幸福をガン見しつつも、せめてニヤける顔を隠す為にも両手で口を塞ぐ事しか出来ない。

 そうしているとガルル……と近くから声が聞こえるじゃないか……!

 うお⁉︎やっぱ俺、非常識な事言ったか?

 弁解しようと声の主の白豹さんを見上げると、唸り声と共に鋭い歯が見えていた。

 うおおお……⁉︎俺、喰われるんじゃね……?

「うーわー、団長がこうなるのって初めて見たわ……って言うか、団長!しっかりして下さいよ!ほら、招かれ人君が怖がってますって!」

 俺の様子を見て慌てた黒虎さんが白豹さんの肩を揺さぶると、ハッと正気に戻ったらしい白豹さん。「済まない」と言ってガバッと俺を引き離してしまった。

 ええええ……!俺のもふもふタイムは?

 恐怖もあったが長年の夢の為諦めきれない俺の様子に、片手で口を押さえて顔を横に向けてしまった白豹さん。

 黙ってしまった白豹さんの様子に、黒虎さんが代わって俺に説明してくれたんだけどさ。

「は?毛並みを触らせてって、「抱いて下さい」って意味なんですか?」

 目をパチクリさせながらも未だに状況が掴めない俺に、黒虎さんは更に教えてくれる。

「えっと、確かチキュウでは獣人って居ないと聞いていますが、此処セレリオ国はチキュウで言う猫科の動物達が住む国なんです。セレリオ国では皆、人の様に2本の足で立ち、服を着て生活しています。……此処までは良いですか?」

「……とりあえず理解はしました」

 だって目の前にその存在がいるんだもんなぁ。

「今はそれで結構です。それで、地球でマナーがある様に、獣人は種族毎にマナーがあります。その一つに自分の毛並みを触らせる事はしない、と言うものがあります。ブラッシングは家族か恋人しか許されておらず、しかも「貴方の毛並みを触らせて下さい」と言う言葉は、主に交尾……人で言うセックスに誘う言葉になるんですよ」

 黒虎さんが困った様に言葉を出す中、俺は自分がしでかした事に顔が真っ赤になる。

「え?でも俺男ですよ……?」

 なんとか絞り出した声に、黒虎さんはふう……とため息を吐きながら教えてくれたのは、俺にとって衝撃の事実だった……!

「獣人のオスは、基本性別も種族も関係なく孕ませる事が出来ます。それに人間は希少な種族で、大半の獣人達にとって魅力的に映り、保護対象になっています」

「……という事は?」

「貴方も十分に性的対象になり、俺たちにとってはとても魅力的に見えるという事です」

 真面目なトーンの黒虎さんの言葉は耳には入って来ているが、俺は正直理解出来ないでいたんだ。でも、黒虎さんは更に俺に追い討ちをかけてきた。

「えー、……因みに、獣人の特徴として番という自分の伴侶を見分ける事が出来まして……どうやら団長の番が貴方の様です。ホラ、団長!いつまで惚けているんですか?」

 爆弾発言をした黒虎さんは、白豹さんの背中をバシッと叩いて俺の方を見るように促しているが、当事者の俺と言えば、与えられた情報が俺の許容範囲を超えたらしい。

 俺の伴侶が白豹さんだって????しかも、もふもふが簡単に出来ないだとぅ?!

「ええええええええええええええええ!!」

 静かな草原に俺の絶叫が響き渡り、どうやら叫んだ後フッと俺の意識はフェードアウトしてしまったようだ。
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