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しおりを挟む「わたし、おおきくなったらルークと結婚するの!」
幼かった私は、本気でその未来を夢見ていた。
「え、騎士団に戻ってしまうの? 私の護衛は? 辞めるの?」
「…………もっとちゃんとクリスティア様を守れるように、強くなってきます」
「そう…………わかったわ」
離ればなれになってしまうときも、ルークが困ったような顔で笑うから、私は駄々をこねられなかった。
でも、どんなに離れていてもルークを忘れるわけがなかったし、私たちは繋がっていると思っていた。
「もう会えないわけではありませんが……なんというか、寂しいですね」
ルークだってそう言っていたから。
「私もよ! なら、約束しましょう」
だから、何も不安なことなんてなくて。
「すぐに強くなって、なるべく早く戻ってきてね」
笑って小指を絡ませあった。
約束は、私の支えだった。
月日が経って、王女が騎士と結婚するのは難しいのだと知った頃。
それでも私はルークへの恋心を捨ててはいなかった。
約束が果たされて、ルークが帰って来さえすれば、どうにかできると根拠もなく信じていて。
月に一度の隠れた逢瀬を、心待ちにする日々を過ごした。
「お久しぶりです、クリスティア様」
「会いたかったわ、ルーク」
お互いの近況を話すだけの短い逢瀬は、楽しいけれど、すぐに時間が過ぎてしまう。
それでも、一緒にいれるだけで幸せだった。
手が触れあえば胸が高鳴って、頭を撫でられれば頬が熱くなった。
「頑張ってください、クリスティア様。俺はいつだって応援してますから」
王女としての重圧に押し潰されそうな日々の中、ルークの励ましだけが救いだった。
そんなもどかしい日が続くある日、ルークがやけに深刻な顔つきでやって来たことがあった。
「ルーク? 何かあったの?」
ルークにはいつもの朗らかな様子がなく、私は少し不安な気持ちで尋ねた。
「その、クリスティア様……」
なんだか居心地悪そうな様子で口をもごもごさせるルーク。
「なに? 何でも言って?」
何か言いにくいことなのだろうか。もう会えないとかだったらどうしよう。そうなったら死んでしまうかもしれない。
悪い予想ばかりが、頭のなかでぐるぐると渦巻いていた。
「…………俺と、結婚してくれませんか?」
まあ、それらも、その言葉で一瞬にして吹き飛んだけれど。何なら色々吹き飛びすぎて頭が真っ白になった。
でも、段々とその言葉をゆっくりと理解していくと同時に、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。
難しいことではあるかもしれない。
お互いにそれを望んだとしても、叶わない願いかもしれない。
それでも、その言葉をルークからもらえたことが、何よりも嬉しかった。
「ええ、もちろん!」
感極まって勢いよく抱きつけば、ルークはいつもの困ったような笑みで、受け入れてくれた。
「すぐには難しいですけど、近い内に必ず迎えに来ますから」
「わかったわ、ずっと待ってる」
「約束ですよ」
かつてのように、小指を絡ませあう。
新たに交わした約束は、私を浮かれさせるのに十分だった。
ルークは優しくて、しっかりしている。
ただでさえ四つ年上なのに、年のわりにも大人っぽいから、私はいつもその余裕を崩すことができなかった。
そんなルークだからこそ、適当なことは絶対に言わない。約束したことは必ず守ってくれると無条件で信じられた。
私は、本当に幸せだった。
未来は希望と幸福に満ちていて、毎日が楽しくて仕方なくて。
ルークとの未来を妄想しては、一人顔を緩ませていた。
想像だけでも幸せで、何日だって待てる気がするけれど、でもやっぱり早く迎えに来てほしい、なんて。
以前交わした約束も、新しい約束も、同時に果たされるであろう、その日を夢見ていた。
────なのに、どうして。
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