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side:ロー ~特別な女~

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 今日もいつものように、馴染みの酒場で、馴染みの連中と、楽しく飲んでいた時だった。
 突然、酒場の扉が静かに開いて、すぐに閉まった。
 何だ?人が居ない。風か?
 不思議に思っていると、身体が透けてる女が走って隅の方に行き、壁に寄りかかった。
 何だあの女、隠蔽使ってるじゃないか。何者だ?
 ここに居る奴で、あの女の存在に気付いたのは、俺だけだろう。
 すぐ後に騎士が入って来て、女が騎士を見て震えていた。
 騎士に追われているのか…?
 騎士は、黒髪か金髪の女を探してるようだ。
 そこの女の髪は銀色だが、怯えた様子から、騎士の探している女なのだろう。
 姿を変えることも出来るのか…。少し手を貸してやろう。

「騎士さん見てくれよ~。男しか居なくてムサ苦しいだろ?女が居るなら紹介してくれよ~!」

 俺が言うと、「そうだそうだ!」「紹介しろ!」と飲み仲間が乗って、騒いでくれた。
 騎士がビビって逃げ、仲間と大笑いした。

 辛そうな様子が気になって、女に近づいた。
 銀髪の長い髪、紺色の服。顔立ちは可愛らしく、足からは血が出ている。あれでは歩くのが辛いだろう。しかし、これだけ近いのに、俺が見えてる事に全然気付いてないな…。

「なぁ、どうしたんだ?」

 俺が声を掛けると、ビクッとして、周りをキョロキョロと見回た。
 その姿に思わず笑ってしまった。
 女を気に入ったから、助けてやることにした。

 席に連れて行ったら、周りの奴らに『彼女』だと騒がれた。
 『彼女』か…。この女なら良いかも知れないな。
 周りの奴らに話を合わせながら、そんな事を考えていた。
 女はユーリという。こんなに女に興味を持ったのは初めてだ。

 また騎士が来て、『彼女』として、話を合わせた。流れから、ユーリの頬にキスをすると、真っ赤になり、手で顔を隠した。
 ユーリ、可愛いなぁ…。あぁ、そうか。これが惚れたということか…。
 人生で初めての感覚に驚いたが、意外にスッと府に落ちた。
 もう、ユーリを離すことは出来ないな…。自分の執着心が、こんなに強いとは知らなかった。
 逃げられない様に、抱き抱え、上手いこと言って、そのまま拠点に連れて行った。

 団長にユーリを見せたが…、顔が良いからな…。惚れたら困る。説明は省いて、『俺の彼女』を強調して言った。
 なぜか団長に心配されたが、何なんだ?そんなことより、ユーリの治療だ。
 何だこの軽さは。膝に乗せた時の軽さに驚いた。
 足を治療すると、笑顔でお礼を言われ、あまりの可愛いさに、思わず頬にキスしてしまった。

 団長がユーリに説明を求め、話した内容がとても信じられなかった。
 異世界から来たなんて…。これは運命かもしれない。ユーリは俺に会うために、この世界に来たんだ…。なぜかそう感じた。
 許可も出たし、もうユーリは俺のもの。誰であっても渡さない。
 辛そうに見せられた、ユーリの本当の姿は、まさしく天使だった。
 我慢出来ず、俺の気持ちを伝えた。ユーリには、これからゆっくり、好きになってもらおう。

 ユーリの部屋は、無理言って俺と一緒にしてもらった。
 俺と一緒の部屋なら、他の誰かと寝る事は出来ない。これからは、俺としか寝られない。
 トラブルがあったが、ユーリが寝てくれて良かった。
 ベッドから出て、1階へ降りた。

 コンコン。ノックして執務室へ入る。
 団長はまだ書類に目を通していた。

「どうした?ユーリと寝たんじゃないのか?」

 団長は手を止めて、俺の方を見た。

「少し話をしたくてな。」

 ソファに座って、団長を見据えた。

「分かった。何の話しだ?」

 団長が向かいに座った。

「ユーリの事だ。その前に、ユーリは俺のものにする。心も身体も。だから、団長は手を出さないでくれ。」
「お前がそんなに必死になるなんてな。すごい変わりようだ。ユーリはそれほどの存在と言うことか…。ああ、俺の好みじゃないから、安心しろ。」

 ふーっと安堵の息を吐いた。
 良かった。団長と戦うと、勝つのは難しいからな。

「そうか。ユーリの事だが、王族に召還されたんだろう?」
「そうだ。王族には召還方法が伝わっている。だが、もう何百年も、召還に成功した記録はない。」
「なら、何か他の条件を満たして、召還に成功したってことか?」
「それは分からない。俺のか、が召還したはずだが、成功したのは、ただの偶然かもしれない。」
「そうか…。」

 召還された理由は分からないか…。
 団長は顎に手を当て、考えていた。

「しかし、助かったよ、ロー。ユーリを見つけて、ここへ連れて来てくれて。」
「何でだ?」
「今回の事は、王族がやらかした事。貴族の余計な争いを事前に防ぐ事が出来た。それから、見つけた者がローでなければ、ユーリは今頃、酷い目にあっていただろう。そして、ここへ来た事で、何か起こる前に保護することが出来た。王族の責任は俺にもある。ユーリの安全の保障を、しっかりしなければならない。」

 団長は、眉間に皺を寄せた厳しい顔で、話した。

「そうか、王族は大変だな。」
「あぁ、俺は辞めたいがな。もし、今後ユーリに何かしてくるようなら、遠慮はいらない。俺も王族を潰しにかかるからな。」

 団長は、懐かしい、悪い笑顔を見せた。

「その顔、久しぶりだな、アレク。そうだ、もう1つ聞きたいんだが。元の世界に帰る方法はあるのか?」

 俺は念のため団長に確認した。

「召還者の、詳細な記録は残ってない。だから、帰る方法は分からないな。」
「そうか…。」
「お前、何で喜んでるんだ?」

 俺は嬉しさに、自然と顔が緩んでいた。

「ユーリとずっと一緒に居られるだろ?」
「お前…酷いな…。」

 団長に睨まれても、何とも思わない。
 ユーリが帰れないなら、俺の側に居るしかない。そんなの最高じゃないか。

「満足したから行くよ。じゃあな。」

 俺はウキウキした気分で、ユーリの寝る俺の部屋へと向かった。
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