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伯爵との会談と、新事業 2
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伯爵に話しかけられ、顔を強張らせたシンシアは、淡々とお礼を言った。
伯爵に事情があったとはいえ、シンシアは嫌われてると思っているから。領地の事が解決すれば、親子関係も徐々に良くなるだろう。
執事が戻って来て、その手には白いものがのった皿がある。それをシンシアの前に置き、伯爵の後ろへ下がった。
シンシアはその皿を僕の前に移動させた。
「アレン、これくだものだよ。おいしいから、アレンにもたべてほしいの。」
「ありがとう。」
シンシアは優しいな。照れながら上目遣いで果物を進める彼女は可愛かった。
顔がデレデレにならないように引き締めて、見たことの無い果物を1切れ食べてみた。
「お、おいしい!なにこれ!?」
甘くて味はバナナに似てるけど大きめな種がある。これは何の果物だろう。前世には無いものかな……?
「これはクオっていうの。たくさんそだててるんだよ。」
領地で大量生産してるってことか。お父様も興味深そうにクオを見て、伯爵に質問をした。
「これは領地の名物か?大量生産しているのに、大きな収入になっていないのか?」
「それが、このままではあまり日持ちしないものなんです。ジャムや缶詰めにも加工しているのですが、売れ行きが悪い状態で……。これが剥く前のクオです。」
執事がテーブルにオレンジ色で楕円の形をしたクオを2つ置いた。
それを見た僕は落ちそうな程目を開いた。
これ!まさしくカカオじゃん!メッチャ売れるよー!!
「おとうさま!これうれる!ぜったいうれるよ!」
アレンはチョコレートの原料であるカカオを発見したことに興奮して、目をキラキラさせグランに迫った。
「近いぞアレン。分かったから、どういう事か教えてくれ。売れるってこのクオか?伯爵は売れないと言ったが。」
グランがクオを1つ取り、アレンの前に置いた。
「ぼくがうれるっていったのは、このたねだよ。このたねからおいしいものがつくれるんだ。うれすぎてたぶんこまるとおもうよ。」
僕はニコニコしながら言ったが、この部屋にいる全員が「この種が?」と理解出来ないようだ。さらに説明を続けた。
「ぼくもくわしくはわからないけど、このたねをかんそうしたり、つぶしたり、まぜたりすると、チョコレートができるんだ!それができればこどもにも、おとなにもたくさんうれるよ!」
自分が食べたいという思惑もあるから力説した。
伯爵は困惑していて、シンシアは首を傾げている。グランは何か考えている様子だ。
「このクオの種からそんなに凄いものが出来るとは、信じがたいですね……。」
チョコレート生産に及び腰の伯爵に、グランが言った。
「気持ちは分かる。だが、うちのアレンは優秀でな、時々こうして面白いアイディアを出してくれる。それを試しにやってみると、凄い効果が出たりするんだ。チョコレートの開発に必要な費用は出すから、試しにやってみてくれないか?」
「それならやってみます。早速手配しなければ!」
伯爵は執事にあれこれ指示を出した。
「アレン、ありがとう。そんなことおもいつくなんて、アレンはすごいね。」
「どういたしまして。」
シンシアが嬉しそうに微笑む。
指示を出し終えた伯爵が深々と頭を下げた。
「公爵様、アレン君、ありがとうございました。お二人のお陰で、家族の事も領地の事も希望が見えてきました。早速とりかかり、経過は随時報告させていただきますので、よろしくお願いいたします。」
「報告楽しみにしているよ。ではアレン帰ろうか。」
「わかった。」
まだシンシアと一緒にいたかったけど、お父様は忙しいから我が儘を言うわけにはいかない。
シンシアが僕の手を握り、お茶会の時のように泣きそうな顔をしていた。
「シンシア、いえのなかはすぐよくなるからだいじょうぶだよ。てがみかくからね、またすぐあえるよ。」
「うん……。」
不安そうなシンシアを慰める為に、優しく抱き締めた。温かくて柔らかくて嬉しい気持ちになる。
「ごほん、ほらアレン行くぞ。お父様は仕事が山積みなんだ。」
「うん。」
お父様と伯爵が居るの忘れてた。名残惜しいけど仕方なくシンシアを離した。
「わたしもてがみかくからね。」
そんな寂しそうな顔されると、僕帰れなくなるじゃないか……。
中々動かない僕の肩をお父様が掴み、そのまま馬車まで連れていかれる。馬車に乗り込むと、窓からシンシアに声をかけた。
「シンシア、またね!」
「うん、またね!」
姿が見えなくなるまで僕もシンシアも手を振り続けた。
あれから1週間が経過した。
シンシアと何度かやり取りした手紙によると、家族の問題が片付いたようだ。
伯爵の妻と血の繋がらない妹は、離婚した上で妻の実家に送られた。実家の方が援助金の返還と賠償金を求めたらしいけど、そこはお父様が話を付けて、払わずに済んだようだ。
チョコレートに関しては、試作品が出来たから、次に会う時に持ってきてくれるそうだ。
手紙のやり取りも楽しいけど、やっぱり会うのが一番だよね。あぁ早くシンシアに会いたい。
「アレン君、手が止まっていますよ。もう全問解き終わったのですか?」
「はい、おわりました。さいてんしてください。」
小テスト中にボーッとしてしまった。
ユリウス先生がペンでキュキュッと記入していく。ペンのキャップを閉めると机にトンと置いた。
「はいアレン君、全問正解です。よくできました。」
「ありがとうございます。」
紙を見ると丸だらけで嬉しい。前世の時から算数は好きだった。計算すると必ず答えが出るところが楽しいからだ。
伯爵に事情があったとはいえ、シンシアは嫌われてると思っているから。領地の事が解決すれば、親子関係も徐々に良くなるだろう。
執事が戻って来て、その手には白いものがのった皿がある。それをシンシアの前に置き、伯爵の後ろへ下がった。
シンシアはその皿を僕の前に移動させた。
「アレン、これくだものだよ。おいしいから、アレンにもたべてほしいの。」
「ありがとう。」
シンシアは優しいな。照れながら上目遣いで果物を進める彼女は可愛かった。
顔がデレデレにならないように引き締めて、見たことの無い果物を1切れ食べてみた。
「お、おいしい!なにこれ!?」
甘くて味はバナナに似てるけど大きめな種がある。これは何の果物だろう。前世には無いものかな……?
「これはクオっていうの。たくさんそだててるんだよ。」
領地で大量生産してるってことか。お父様も興味深そうにクオを見て、伯爵に質問をした。
「これは領地の名物か?大量生産しているのに、大きな収入になっていないのか?」
「それが、このままではあまり日持ちしないものなんです。ジャムや缶詰めにも加工しているのですが、売れ行きが悪い状態で……。これが剥く前のクオです。」
執事がテーブルにオレンジ色で楕円の形をしたクオを2つ置いた。
それを見た僕は落ちそうな程目を開いた。
これ!まさしくカカオじゃん!メッチャ売れるよー!!
「おとうさま!これうれる!ぜったいうれるよ!」
アレンはチョコレートの原料であるカカオを発見したことに興奮して、目をキラキラさせグランに迫った。
「近いぞアレン。分かったから、どういう事か教えてくれ。売れるってこのクオか?伯爵は売れないと言ったが。」
グランがクオを1つ取り、アレンの前に置いた。
「ぼくがうれるっていったのは、このたねだよ。このたねからおいしいものがつくれるんだ。うれすぎてたぶんこまるとおもうよ。」
僕はニコニコしながら言ったが、この部屋にいる全員が「この種が?」と理解出来ないようだ。さらに説明を続けた。
「ぼくもくわしくはわからないけど、このたねをかんそうしたり、つぶしたり、まぜたりすると、チョコレートができるんだ!それができればこどもにも、おとなにもたくさんうれるよ!」
自分が食べたいという思惑もあるから力説した。
伯爵は困惑していて、シンシアは首を傾げている。グランは何か考えている様子だ。
「このクオの種からそんなに凄いものが出来るとは、信じがたいですね……。」
チョコレート生産に及び腰の伯爵に、グランが言った。
「気持ちは分かる。だが、うちのアレンは優秀でな、時々こうして面白いアイディアを出してくれる。それを試しにやってみると、凄い効果が出たりするんだ。チョコレートの開発に必要な費用は出すから、試しにやってみてくれないか?」
「それならやってみます。早速手配しなければ!」
伯爵は執事にあれこれ指示を出した。
「アレン、ありがとう。そんなことおもいつくなんて、アレンはすごいね。」
「どういたしまして。」
シンシアが嬉しそうに微笑む。
指示を出し終えた伯爵が深々と頭を下げた。
「公爵様、アレン君、ありがとうございました。お二人のお陰で、家族の事も領地の事も希望が見えてきました。早速とりかかり、経過は随時報告させていただきますので、よろしくお願いいたします。」
「報告楽しみにしているよ。ではアレン帰ろうか。」
「わかった。」
まだシンシアと一緒にいたかったけど、お父様は忙しいから我が儘を言うわけにはいかない。
シンシアが僕の手を握り、お茶会の時のように泣きそうな顔をしていた。
「シンシア、いえのなかはすぐよくなるからだいじょうぶだよ。てがみかくからね、またすぐあえるよ。」
「うん……。」
不安そうなシンシアを慰める為に、優しく抱き締めた。温かくて柔らかくて嬉しい気持ちになる。
「ごほん、ほらアレン行くぞ。お父様は仕事が山積みなんだ。」
「うん。」
お父様と伯爵が居るの忘れてた。名残惜しいけど仕方なくシンシアを離した。
「わたしもてがみかくからね。」
そんな寂しそうな顔されると、僕帰れなくなるじゃないか……。
中々動かない僕の肩をお父様が掴み、そのまま馬車まで連れていかれる。馬車に乗り込むと、窓からシンシアに声をかけた。
「シンシア、またね!」
「うん、またね!」
姿が見えなくなるまで僕もシンシアも手を振り続けた。
あれから1週間が経過した。
シンシアと何度かやり取りした手紙によると、家族の問題が片付いたようだ。
伯爵の妻と血の繋がらない妹は、離婚した上で妻の実家に送られた。実家の方が援助金の返還と賠償金を求めたらしいけど、そこはお父様が話を付けて、払わずに済んだようだ。
チョコレートに関しては、試作品が出来たから、次に会う時に持ってきてくれるそうだ。
手紙のやり取りも楽しいけど、やっぱり会うのが一番だよね。あぁ早くシンシアに会いたい。
「アレン君、手が止まっていますよ。もう全問解き終わったのですか?」
「はい、おわりました。さいてんしてください。」
小テスト中にボーッとしてしまった。
ユリウス先生がペンでキュキュッと記入していく。ペンのキャップを閉めると机にトンと置いた。
「はいアレン君、全問正解です。よくできました。」
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