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お試しのデート
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約束した、デート当日。
ミーナはソワソワしながら、広場で待っていた。
デートなんて、一体いつぶりかしら。気合いを入れてオシャレしたから、いつもよりはマシだと思うんだけど。あー緊張する…。
時計を見ると、待ち合わせ時間までまだ10分もある。ラルの姿はまだ見えない。
周りにはたくさんの恋人達。皆幸せそうで良いな。私も幸せになりたい…。
フゥっと溜め息を吐き出し、少し憂鬱な気分になった。
「ねーお姉さん、どうしたのかな?もしかして、彼氏にフラれた?」
知らない男がいきなり話しかけてきた。イケメンでもなく、服の趣味が悪い。
「そんな暗い顔してないで、俺が遊んであげるからさ。じゃ、行こう!」
「きゃ!?」
肩に腕をまわされ、そのまま無理やり歩かされる。
何なのこいつ!?気持ち悪い!生きていない状態にしてやろうかしら?
イラつく気持ちに身を任せ、攻撃に移ろうとしたら、急に肩が軽くなった。
「ミーナさん、お待たせ。遅くなってごめんね。」
後ろを振り返ると、ラルが男の襟を掴み、軽々と持ち上げていた。
「ラルさん。」
強い男が好きなミーナは、男らしいラルに思わず見とれた。
「くそ、離せよ!俺が目をつけたんだ!」
男は、身体が浮いた状態でジタバタするも、ラルは涼しい顔だ。
「悪いけど、俺の彼女だから渡すわけにはいかないよ。怪我する前に引いてくれないかな?」
ラルは男だけに分かる程度に、殺気を込めた。男はガクガク震え、みるみる怯えた表情に変わった。
「す、すみっすみませんでしたぁー!!」
男はよろけながらも、必死の形相で走って行った。
「助けてくれてありがとう。すごく格好良かったわ。」
「え?そ、そうですか?」
ラルは照れて、後頭部を掻いた。
「お試しだけどデートだから、敬語は無しにしましょう。今日はよろしくね。」
「分かった、よろしくね。」
2人は近くのカフェへ入り、テラス席に向かい合わせに座る。おすすめのケーキと、紅茶を2つずつ注文した。
トラブルはあったけど、ラルさんの優しいところが見られて良かったわ。男を軽々と持ち上げてた筋肉も素敵。
「ラルさんって、普段から鍛えてるの?」
「毎日トレーニングしてるよ。兄さんの相手してたから、その習慣でね。」
「あのマスターの相手が出来るなんて、すごいわ!」
冒険者でも相手出来る人は少ないのに。
ラルが嬉しそうに微笑み、ミーナもつられて笑顔になった。
あぁ、ミーナさんの笑顔すごく可愛い。俺の彼女になってくれないかなぁ。
ラルの視界には、ミーナしか写っていなかった。
「お待たせしました。こちらおすすめの、イチゴのケーキとモンブラン、紅茶です。」
店員が注文の品を持ってきた。ミーナにはイチゴのケーキ、ラルにはモンブランを置いた。
「わぁ、キレイ!美味しそう!」
子どものように喜ぶミーナを、ラルはボーッと見つめていた。
あれ?ラルさんは、どうしたのかしら?
じっと見つめて動かないラルに、ミーナのイタズラ心がウズウズした。
一口分ケーキをフォークに載せ、ラルの口元へ差し出した。
「ラルさん、あーん。」
「あー…んぐ!?」
無意識に開けたラルの口にケーキを入れた。ラルは、少し遅れて、あーんをされた事に気付き、顔を手で覆った。
「ふふっ。ボーッとしてたけど、大丈夫?」
慌てちゃって、意外と可愛い。
ミーナは、イタズラが成功してニコニコしていた。
「ミーナさん酷いよ。…はい、あーんして。」
悔しかったラルは、フォークにモンブランを取り、ミーナの口に近づけた。
「え?お、お返しは受け付けてないんだけど…。」
同じことをされると思ってなかったミーナは、赤い顔で慌てた。
「ダメだよ。俺にやったんだから、ミーナさんもやろうね。」
ラルは笑顔の圧で、ミーナにあーんを促した。
「わ、分かった!あむっ。」
ミーナがやけくそで食べると、ラルは満足そうに笑った。
「初間接キスだね、嬉しいな。」
「え!?何言って…もうっ。」
ミーナは熱くなった頬を手で抑え、冷やそうとした。
ラルさんの性格がこんな感じなんて、知らなかったわ…。
「ミーナさん、可愛いね。この後はどうする?」
「特に考えてないんだけど…。ラルさんの行きたい所に行くのはどう?」
ラルは少し考えてから、ニヤッとしてミーナを見た。
「それなら、ミーナさんの家に行きたいな。」
「私の家!?そ、それは無理!片付けとか、掃除とかしてないから!」
ミーナは、意外な提案に慌てて断った。
「俺の行きたい所って言ったでしょ?行きたいな、ミーナさんの家。片付けでも掃除でも手伝うよ、俺慣れてるから。」
良い笑顔なのに、拒否権は認めない感じの圧が含まれてる気がする…。
「うぅ…、分かったわよ。部屋の片付けも掃除もやってもらうからね!」
「楽しみだな。」
ラルは喜び、ミーナは憂鬱と反対の心境になった。ケーキを食べ一息つくと、店を後にした。
お試しのデートのはずなのに、いきなり家に来るなんて…。あぁ!下着干したままかも!?帰ったら先に確認しないと。
ミーナは足取り重く、家へ向かって歩いた。
ラルは上機嫌でミーナの後ろを付いて行く。
ミーナさんの家、楽しみだな。今日告白して、できれば彼女になってほしい。
こじんまりとした家の前で、ミーナが足を止めて振り返った。
「ガッカリしても知らないからね。」
「大丈夫だよ。」
ドアを開け、2人で家の中へ入ると、ラルは部屋の中を見回し安心した。
それほど散らかってないし、汚れてもなさそうだ。これならすぐ綺麗になるから問題無いな。
「ガッカリしたでしょ…?」
何も言わないラルに、ミーナが不安そうに聞いた。
「俺からすると、これは綺麗だよ。家は兄弟多いから、こんなもんじゃ済まない。はるかに汚れてるし、散らかってるよ。」
「仕事が忙しいし、面倒であまりやってなくて…。」
「理想が高いんだね。俺がたまに手伝いに来ようか?」
「そんなの悪いから。今日だけで大丈夫よ。」
「そっか。じゃあやろう。」
ラルはまず、ゴチャゴチャしている棚が目についた。入っているものを全てテーブルに出し、棚をサッと拭いた。
「ミーナさん、これ使う頻度で分けて。」
「分かった。」
ミーナが仕分けする間に、ラルはホコリを落とし、床を拭き、キッチンへ。シンクで着け浸け置きをすると、お風呂へ。浴槽で浸け置きをすると、トイレへ。洗剤をかけてから、寝室へ行く。
クローゼットを開け、引き出しは触らずに掛けてある服だけ、長さを揃え、色毎に並べた。
これだけでもスッキリ見えるな。床をサッと拭き、ミーナのところへ。
「ラルさん、仕分け終わったよ。こっちがよく使う物。」
「あまり使わない物を奥、使う物を手前に並べて。大きさを揃えると整って見えるよ。」
「分かったわ。」
キッチンの浸け置きしたものを洗い、一通り拭いた。
お風呂の浸け置きを洗い、浴槽の中を掃除して換気をする。
トイレも拭き、流して終わりっと。
「ラルさん、終わった…って、すごい綺麗になってる!?」
「丁度こっちも終わったよ。一通り掃除したけど、ざっとだから軽くだけどね。」
こんなに綺麗になるなんて、今までなかった。これで軽くって、ラルさん家はどれだけ綺麗なの?
「ラルさん、ありがとう。お礼は何が良い?」
ミーナのお腹がぐぅっと鳴った。
「ははっ、俺もお腹空いたから、お礼はミーナさんの手料理が良いかな?」
「分かった。」
ミーナは冷蔵庫を開け、頭を抱えた。それを見たラルは近寄り、冷蔵庫の中を確認した。
卵といくつか野菜と、ベーコンが少しある。
「あー、これで作れるもの無いなって感じかな?」
「いつもお店に頼ってるから、あるもので作るとか出来なくて…。」
お礼もまともに出来ないなんて…。情けなくて、泣きそうになってきた。
ラルはミーナの頭を優しくポンポンとして、
「パスタもあるし、これだけあれば1食ぐらい大丈夫だよ。俺に任せて、ね?」
そういうと、テキパキとあっという間に料理を作り終えた。
余りの手際の良さに見入ってしまった。
「お待たせ!ベーコンのパスタと、野菜スープ、オムレツだよ。」
「すごい!少ない材料でこんなに作るなんて!ラルさん素敵!」
ミーナは手を組んで、ラルを見上げた。そのミーナの可愛いさに、ニヤケそうになるのを何とか堪えた。
「さ、さぁ、温かいうちに食べよう。」
「そうね。いただきます。」
ミーナはオムレツをすくい、口に含んだ。
「お、美味しい!家でこんな美味しい料理が食べられるなんて!」
ミーナは夢中で料理を全て平らげた。
「ご馳走様でした!もうお腹いっぱい。」
「喜んでもらえて良かった。俺はミーナさんのこと好きだよ。今日お試ししてどうかな?俺結構役に立つと思うんだけど、付き合ってくれたら嬉しいな。」
ラルは、ミーナの手に、ラルの大きな手を重ね、熱のこもった眼差しを向けた。
ミーナは頬を赤くして俯いた。
「私ね、もう23歳なの。だから、結婚前提じゃないと付き合えない。それに、仕事柄恨みを買うこともあるから、強い人じゃないと…。」
ラルさんのことは素敵だと思うけど…。結婚適齢期過ぎちゃうから、遊んでる時間なんてないし。
ミーナはフゥと溜め息をついた。
ラルはしばらく考えた後、口角を上げた。
「そっか。俺が強い事を証明すれば良いんだよね。だったら、俺が兄さんに勝ったら付き合って。」
「え!?あのマスターよ?勝てるわけないじゃない。」
「どんな手を使っても良いなら勝てるよ。だからお願い。」
ラルは上目遣いで、ミーナを見つめた。
「うっ、分かったわ。もしも本当にマスターに勝てたら、ラルさんと付き合うわ。」
「やったー!じゃあ、明日ギルドで。ミーナさん、楽しみにしててね!」
ラルは笑顔で帰って行った。ミーナはドキドキが収まらなくて、中々眠れなかった。
翌朝、ミーナは少し寝不足で出勤。ふわぁと欠伸が出たところで、2人が来た。
「おはよう、ルーク君、マスター。今日ちょっとお願いが…。」
「あ、おはよう兄さん!お願いがあるんだけど!」
ミーナが言う前に、ラルがギルドに来た。ラルは2人に説明して、協力を頼んだ。
「そういう事なら喜んで協力するが…、お前俺に勝てるのか?」
「ああ、大丈夫だよ。強力な助っ人が居るからね。」
訓練場に移動し、ラルはルークを呼んだ。
「ちょっと、兄さん睨まないでよ。ルーク取らないから。」
「ギ~ル~。協力するんでしょ?」
ラルを睨んでいたギルは、ルークの一言でショボンとしてしまった。
兄さんが大人しくなるなんて、流石ルークだな。おっと、感心してる場合じゃない。
ルークに作戦を伝えると、「ギルがどうなるか楽しみ!」と、ノリノリで協力してくれることになった。
「ミーナさん、準備出来たよ!」
「分かった。ルールは3本勝負。身体の何処かに木刀を当てたら1本。2本先取した方が勝ちよ。」
「「分かった。」」
ラルとギルは木刀を構え向き合った。ルークとミーナは離れた所で立つ。
ラルさん、本当に勝てるのかしら…。ミーナはドキドキしてる胸を抑え、開始の合図をした。
「始め!」
合図と同時にラルが走り、ギルに打ち込んだ。カーン!と木刀の音が響き、ギルが軽く受け止めた。
ギルが木刀を押し、ラルを離すと上から振り下ろした。ラルは木刀で受けるも力で押されてしまう。木刀をすべらせ、横に払った。
「最近相手してないが、腕は落ちてないみたいだな。」
「当たり前だよ、毎日鍛えてるからね。」
2人が同じように口角を上げて、ニヤッとすると、スピードを上げての打ち合いが始まった。
カカカンッ!!と何度も木刀が当たる音が訓練場に響いた。
数分経過した時、ラルがルークに合図をした。
「ギ~ル~!だぁ~い好き!」
ルークはギルに向かって叫んだ。反応したギルに、更にルークはあざと可愛い笑顔で、投げキッスをお見舞いした。
「はぅ!ルーク、か、可愛い過ぎる…。」
ルークにメロメロになって、反応が鈍る。その隙にラルはギルの足に打ち込んだ。
「あ、ラルさん一本!」
急に決まり、ミーナは、ハッとして一本を宣言した。
凄い…、本当にマスターから1本取るなんて…。ミーナの胸の鼓動はさっきよりも早くなった。
「今のはズルいぞ。ルークがメチャクチャ可愛いかった…。」
「ふふっ、ギルありがとう。」
ルークとギルは甘い空気になった。ラルは咳払いをして、
「兄さん、まだ終わってないから。ルーク、次も頼むよ。」
「分かった、がんばるね!」
ギルとラルは再び木刀を構えた。
「2本目、始め!」
ラルは走り、ギルの首に突こうとし、払われた。体制を崩したところに、腹に入れられそうになる。スレスレで何とか躱すと、ルークに合図を送った。
ルークは大人の姿に変身し、ギルに向かってニコッと微笑んだ。そして甘い声で言った。
「ギル、愛してるよ。」
「あ…ルーク…。」
ルークに気を取られたギルに、ラルは木刀を打ち込んだ。木刀はギルの腕に当たった。
「い、一本!ラルさんの勝ちです!」
信じられない…、マスターに勝つなんて。茫然として、ラルを見つめた。
ラルはミーナの側まで来ると、右手を取り、手の甲にキスをした。
「勝つって言ったでしょ?約束通り、俺と付き合ってね。」
「…分かったわ。」
ミーナは頬が熱くなり、心臓の音がうるさくなった。
「やったー!ミーナさんは俺の彼女だー!」
「ちょっと、ラルさん!?」
ラルはミーナを抱き上げ、クルクルと回した。そっと降ろすと、
「じゃあ、仕事行くね!また夕方来るから。あ、ルークもありがとう!お礼はまた後でね!」
ものすごい笑顔で、幸せオーラ全開のラルさんが、颯爽と走って行った。
「あいつのあんな顔、初めて見たな。ミーナ、おめでとう。ラルのことよろしくな。」
「は、はい。ありがとうございます、マスター。」
ミーナは熱い頬を手で抑え、冷やした。
「それにしてもルーク、酷くないか?」
ギルは眉間に皺を寄せ、ルークをジロッと見つめた。
「2人の幸せの為だからさ。ギルには後でたっぷりサービスするから、機嫌直して?」
頬にチュッとすると、ギルはルークをサッと抱き上げ、
「しょうがない、それで許してやろう!」
デレデレしながら、訓練場を後にした。
「よし、これで今日の仕事は終わりよ。お疲れ様でした。」
「お疲れ様~。あ、ラルさん来たよ。」
ルークが言うと、ギルドの扉が開きラルが入って来た。
「ミーナさん、お待たせ。仕事終わった?」
「お、終わったわよ。」
「はは、可愛いね。家まで送るよ。もし良ければ、夕食作るから一緒に食べない?」
「…食べたいわ。あと、ラルさん…。好き。」
ミーナは、ラルの耳に囁いた。ラルは少し固まり、笑顔になった。
「ミーナさん、俺もだよ。」
付き合い始めた2人は、仲良く手を繋ぎ帰りました。
ミーナはソワソワしながら、広場で待っていた。
デートなんて、一体いつぶりかしら。気合いを入れてオシャレしたから、いつもよりはマシだと思うんだけど。あー緊張する…。
時計を見ると、待ち合わせ時間までまだ10分もある。ラルの姿はまだ見えない。
周りにはたくさんの恋人達。皆幸せそうで良いな。私も幸せになりたい…。
フゥっと溜め息を吐き出し、少し憂鬱な気分になった。
「ねーお姉さん、どうしたのかな?もしかして、彼氏にフラれた?」
知らない男がいきなり話しかけてきた。イケメンでもなく、服の趣味が悪い。
「そんな暗い顔してないで、俺が遊んであげるからさ。じゃ、行こう!」
「きゃ!?」
肩に腕をまわされ、そのまま無理やり歩かされる。
何なのこいつ!?気持ち悪い!生きていない状態にしてやろうかしら?
イラつく気持ちに身を任せ、攻撃に移ろうとしたら、急に肩が軽くなった。
「ミーナさん、お待たせ。遅くなってごめんね。」
後ろを振り返ると、ラルが男の襟を掴み、軽々と持ち上げていた。
「ラルさん。」
強い男が好きなミーナは、男らしいラルに思わず見とれた。
「くそ、離せよ!俺が目をつけたんだ!」
男は、身体が浮いた状態でジタバタするも、ラルは涼しい顔だ。
「悪いけど、俺の彼女だから渡すわけにはいかないよ。怪我する前に引いてくれないかな?」
ラルは男だけに分かる程度に、殺気を込めた。男はガクガク震え、みるみる怯えた表情に変わった。
「す、すみっすみませんでしたぁー!!」
男はよろけながらも、必死の形相で走って行った。
「助けてくれてありがとう。すごく格好良かったわ。」
「え?そ、そうですか?」
ラルは照れて、後頭部を掻いた。
「お試しだけどデートだから、敬語は無しにしましょう。今日はよろしくね。」
「分かった、よろしくね。」
2人は近くのカフェへ入り、テラス席に向かい合わせに座る。おすすめのケーキと、紅茶を2つずつ注文した。
トラブルはあったけど、ラルさんの優しいところが見られて良かったわ。男を軽々と持ち上げてた筋肉も素敵。
「ラルさんって、普段から鍛えてるの?」
「毎日トレーニングしてるよ。兄さんの相手してたから、その習慣でね。」
「あのマスターの相手が出来るなんて、すごいわ!」
冒険者でも相手出来る人は少ないのに。
ラルが嬉しそうに微笑み、ミーナもつられて笑顔になった。
あぁ、ミーナさんの笑顔すごく可愛い。俺の彼女になってくれないかなぁ。
ラルの視界には、ミーナしか写っていなかった。
「お待たせしました。こちらおすすめの、イチゴのケーキとモンブラン、紅茶です。」
店員が注文の品を持ってきた。ミーナにはイチゴのケーキ、ラルにはモンブランを置いた。
「わぁ、キレイ!美味しそう!」
子どものように喜ぶミーナを、ラルはボーッと見つめていた。
あれ?ラルさんは、どうしたのかしら?
じっと見つめて動かないラルに、ミーナのイタズラ心がウズウズした。
一口分ケーキをフォークに載せ、ラルの口元へ差し出した。
「ラルさん、あーん。」
「あー…んぐ!?」
無意識に開けたラルの口にケーキを入れた。ラルは、少し遅れて、あーんをされた事に気付き、顔を手で覆った。
「ふふっ。ボーッとしてたけど、大丈夫?」
慌てちゃって、意外と可愛い。
ミーナは、イタズラが成功してニコニコしていた。
「ミーナさん酷いよ。…はい、あーんして。」
悔しかったラルは、フォークにモンブランを取り、ミーナの口に近づけた。
「え?お、お返しは受け付けてないんだけど…。」
同じことをされると思ってなかったミーナは、赤い顔で慌てた。
「ダメだよ。俺にやったんだから、ミーナさんもやろうね。」
ラルは笑顔の圧で、ミーナにあーんを促した。
「わ、分かった!あむっ。」
ミーナがやけくそで食べると、ラルは満足そうに笑った。
「初間接キスだね、嬉しいな。」
「え!?何言って…もうっ。」
ミーナは熱くなった頬を手で抑え、冷やそうとした。
ラルさんの性格がこんな感じなんて、知らなかったわ…。
「ミーナさん、可愛いね。この後はどうする?」
「特に考えてないんだけど…。ラルさんの行きたい所に行くのはどう?」
ラルは少し考えてから、ニヤッとしてミーナを見た。
「それなら、ミーナさんの家に行きたいな。」
「私の家!?そ、それは無理!片付けとか、掃除とかしてないから!」
ミーナは、意外な提案に慌てて断った。
「俺の行きたい所って言ったでしょ?行きたいな、ミーナさんの家。片付けでも掃除でも手伝うよ、俺慣れてるから。」
良い笑顔なのに、拒否権は認めない感じの圧が含まれてる気がする…。
「うぅ…、分かったわよ。部屋の片付けも掃除もやってもらうからね!」
「楽しみだな。」
ラルは喜び、ミーナは憂鬱と反対の心境になった。ケーキを食べ一息つくと、店を後にした。
お試しのデートのはずなのに、いきなり家に来るなんて…。あぁ!下着干したままかも!?帰ったら先に確認しないと。
ミーナは足取り重く、家へ向かって歩いた。
ラルは上機嫌でミーナの後ろを付いて行く。
ミーナさんの家、楽しみだな。今日告白して、できれば彼女になってほしい。
こじんまりとした家の前で、ミーナが足を止めて振り返った。
「ガッカリしても知らないからね。」
「大丈夫だよ。」
ドアを開け、2人で家の中へ入ると、ラルは部屋の中を見回し安心した。
それほど散らかってないし、汚れてもなさそうだ。これならすぐ綺麗になるから問題無いな。
「ガッカリしたでしょ…?」
何も言わないラルに、ミーナが不安そうに聞いた。
「俺からすると、これは綺麗だよ。家は兄弟多いから、こんなもんじゃ済まない。はるかに汚れてるし、散らかってるよ。」
「仕事が忙しいし、面倒であまりやってなくて…。」
「理想が高いんだね。俺がたまに手伝いに来ようか?」
「そんなの悪いから。今日だけで大丈夫よ。」
「そっか。じゃあやろう。」
ラルはまず、ゴチャゴチャしている棚が目についた。入っているものを全てテーブルに出し、棚をサッと拭いた。
「ミーナさん、これ使う頻度で分けて。」
「分かった。」
ミーナが仕分けする間に、ラルはホコリを落とし、床を拭き、キッチンへ。シンクで着け浸け置きをすると、お風呂へ。浴槽で浸け置きをすると、トイレへ。洗剤をかけてから、寝室へ行く。
クローゼットを開け、引き出しは触らずに掛けてある服だけ、長さを揃え、色毎に並べた。
これだけでもスッキリ見えるな。床をサッと拭き、ミーナのところへ。
「ラルさん、仕分け終わったよ。こっちがよく使う物。」
「あまり使わない物を奥、使う物を手前に並べて。大きさを揃えると整って見えるよ。」
「分かったわ。」
キッチンの浸け置きしたものを洗い、一通り拭いた。
お風呂の浸け置きを洗い、浴槽の中を掃除して換気をする。
トイレも拭き、流して終わりっと。
「ラルさん、終わった…って、すごい綺麗になってる!?」
「丁度こっちも終わったよ。一通り掃除したけど、ざっとだから軽くだけどね。」
こんなに綺麗になるなんて、今までなかった。これで軽くって、ラルさん家はどれだけ綺麗なの?
「ラルさん、ありがとう。お礼は何が良い?」
ミーナのお腹がぐぅっと鳴った。
「ははっ、俺もお腹空いたから、お礼はミーナさんの手料理が良いかな?」
「分かった。」
ミーナは冷蔵庫を開け、頭を抱えた。それを見たラルは近寄り、冷蔵庫の中を確認した。
卵といくつか野菜と、ベーコンが少しある。
「あー、これで作れるもの無いなって感じかな?」
「いつもお店に頼ってるから、あるもので作るとか出来なくて…。」
お礼もまともに出来ないなんて…。情けなくて、泣きそうになってきた。
ラルはミーナの頭を優しくポンポンとして、
「パスタもあるし、これだけあれば1食ぐらい大丈夫だよ。俺に任せて、ね?」
そういうと、テキパキとあっという間に料理を作り終えた。
余りの手際の良さに見入ってしまった。
「お待たせ!ベーコンのパスタと、野菜スープ、オムレツだよ。」
「すごい!少ない材料でこんなに作るなんて!ラルさん素敵!」
ミーナは手を組んで、ラルを見上げた。そのミーナの可愛いさに、ニヤケそうになるのを何とか堪えた。
「さ、さぁ、温かいうちに食べよう。」
「そうね。いただきます。」
ミーナはオムレツをすくい、口に含んだ。
「お、美味しい!家でこんな美味しい料理が食べられるなんて!」
ミーナは夢中で料理を全て平らげた。
「ご馳走様でした!もうお腹いっぱい。」
「喜んでもらえて良かった。俺はミーナさんのこと好きだよ。今日お試ししてどうかな?俺結構役に立つと思うんだけど、付き合ってくれたら嬉しいな。」
ラルは、ミーナの手に、ラルの大きな手を重ね、熱のこもった眼差しを向けた。
ミーナは頬を赤くして俯いた。
「私ね、もう23歳なの。だから、結婚前提じゃないと付き合えない。それに、仕事柄恨みを買うこともあるから、強い人じゃないと…。」
ラルさんのことは素敵だと思うけど…。結婚適齢期過ぎちゃうから、遊んでる時間なんてないし。
ミーナはフゥと溜め息をついた。
ラルはしばらく考えた後、口角を上げた。
「そっか。俺が強い事を証明すれば良いんだよね。だったら、俺が兄さんに勝ったら付き合って。」
「え!?あのマスターよ?勝てるわけないじゃない。」
「どんな手を使っても良いなら勝てるよ。だからお願い。」
ラルは上目遣いで、ミーナを見つめた。
「うっ、分かったわ。もしも本当にマスターに勝てたら、ラルさんと付き合うわ。」
「やったー!じゃあ、明日ギルドで。ミーナさん、楽しみにしててね!」
ラルは笑顔で帰って行った。ミーナはドキドキが収まらなくて、中々眠れなかった。
翌朝、ミーナは少し寝不足で出勤。ふわぁと欠伸が出たところで、2人が来た。
「おはよう、ルーク君、マスター。今日ちょっとお願いが…。」
「あ、おはよう兄さん!お願いがあるんだけど!」
ミーナが言う前に、ラルがギルドに来た。ラルは2人に説明して、協力を頼んだ。
「そういう事なら喜んで協力するが…、お前俺に勝てるのか?」
「ああ、大丈夫だよ。強力な助っ人が居るからね。」
訓練場に移動し、ラルはルークを呼んだ。
「ちょっと、兄さん睨まないでよ。ルーク取らないから。」
「ギ~ル~。協力するんでしょ?」
ラルを睨んでいたギルは、ルークの一言でショボンとしてしまった。
兄さんが大人しくなるなんて、流石ルークだな。おっと、感心してる場合じゃない。
ルークに作戦を伝えると、「ギルがどうなるか楽しみ!」と、ノリノリで協力してくれることになった。
「ミーナさん、準備出来たよ!」
「分かった。ルールは3本勝負。身体の何処かに木刀を当てたら1本。2本先取した方が勝ちよ。」
「「分かった。」」
ラルとギルは木刀を構え向き合った。ルークとミーナは離れた所で立つ。
ラルさん、本当に勝てるのかしら…。ミーナはドキドキしてる胸を抑え、開始の合図をした。
「始め!」
合図と同時にラルが走り、ギルに打ち込んだ。カーン!と木刀の音が響き、ギルが軽く受け止めた。
ギルが木刀を押し、ラルを離すと上から振り下ろした。ラルは木刀で受けるも力で押されてしまう。木刀をすべらせ、横に払った。
「最近相手してないが、腕は落ちてないみたいだな。」
「当たり前だよ、毎日鍛えてるからね。」
2人が同じように口角を上げて、ニヤッとすると、スピードを上げての打ち合いが始まった。
カカカンッ!!と何度も木刀が当たる音が訓練場に響いた。
数分経過した時、ラルがルークに合図をした。
「ギ~ル~!だぁ~い好き!」
ルークはギルに向かって叫んだ。反応したギルに、更にルークはあざと可愛い笑顔で、投げキッスをお見舞いした。
「はぅ!ルーク、か、可愛い過ぎる…。」
ルークにメロメロになって、反応が鈍る。その隙にラルはギルの足に打ち込んだ。
「あ、ラルさん一本!」
急に決まり、ミーナは、ハッとして一本を宣言した。
凄い…、本当にマスターから1本取るなんて…。ミーナの胸の鼓動はさっきよりも早くなった。
「今のはズルいぞ。ルークがメチャクチャ可愛いかった…。」
「ふふっ、ギルありがとう。」
ルークとギルは甘い空気になった。ラルは咳払いをして、
「兄さん、まだ終わってないから。ルーク、次も頼むよ。」
「分かった、がんばるね!」
ギルとラルは再び木刀を構えた。
「2本目、始め!」
ラルは走り、ギルの首に突こうとし、払われた。体制を崩したところに、腹に入れられそうになる。スレスレで何とか躱すと、ルークに合図を送った。
ルークは大人の姿に変身し、ギルに向かってニコッと微笑んだ。そして甘い声で言った。
「ギル、愛してるよ。」
「あ…ルーク…。」
ルークに気を取られたギルに、ラルは木刀を打ち込んだ。木刀はギルの腕に当たった。
「い、一本!ラルさんの勝ちです!」
信じられない…、マスターに勝つなんて。茫然として、ラルを見つめた。
ラルはミーナの側まで来ると、右手を取り、手の甲にキスをした。
「勝つって言ったでしょ?約束通り、俺と付き合ってね。」
「…分かったわ。」
ミーナは頬が熱くなり、心臓の音がうるさくなった。
「やったー!ミーナさんは俺の彼女だー!」
「ちょっと、ラルさん!?」
ラルはミーナを抱き上げ、クルクルと回した。そっと降ろすと、
「じゃあ、仕事行くね!また夕方来るから。あ、ルークもありがとう!お礼はまた後でね!」
ものすごい笑顔で、幸せオーラ全開のラルさんが、颯爽と走って行った。
「あいつのあんな顔、初めて見たな。ミーナ、おめでとう。ラルのことよろしくな。」
「は、はい。ありがとうございます、マスター。」
ミーナは熱い頬を手で抑え、冷やした。
「それにしてもルーク、酷くないか?」
ギルは眉間に皺を寄せ、ルークをジロッと見つめた。
「2人の幸せの為だからさ。ギルには後でたっぷりサービスするから、機嫌直して?」
頬にチュッとすると、ギルはルークをサッと抱き上げ、
「しょうがない、それで許してやろう!」
デレデレしながら、訓練場を後にした。
「よし、これで今日の仕事は終わりよ。お疲れ様でした。」
「お疲れ様~。あ、ラルさん来たよ。」
ルークが言うと、ギルドの扉が開きラルが入って来た。
「ミーナさん、お待たせ。仕事終わった?」
「お、終わったわよ。」
「はは、可愛いね。家まで送るよ。もし良ければ、夕食作るから一緒に食べない?」
「…食べたいわ。あと、ラルさん…。好き。」
ミーナは、ラルの耳に囁いた。ラルは少し固まり、笑顔になった。
「ミーナさん、俺もだよ。」
付き合い始めた2人は、仲良く手を繋ぎ帰りました。
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大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
開発される少年たち・家庭教師の淫らな性生活
ありさわ優那
BL
派遣家庭教師として働く三枝は、行く先々で少年の精通をさせてやったり、性的に開発することを趣味としていた。三枝は、勉強を教えながらも次々に派遣先で少年を毒牙にかける。勉強よりも、エッチなことを求めるようになってしまった少年たちの行方は……。
R-18作品です。少し無理矢理(あまり嫌がりません)。
乳首開発描写多めです。
射精管理やアナル開発の描写もありますが、既に開発されちゃってる子も多く出ます。
※少年ごとにお話を書いていきます。初作品です。よろしくお願いします。
小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる
海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?
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