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お試しのデート

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 約束した、デート当日。
 ミーナはソワソワしながら、広場で待っていた。
 デートなんて、一体いつぶりかしら。気合いを入れてオシャレしたから、いつもよりはマシだと思うんだけど。あー緊張する…。
 時計を見ると、待ち合わせ時間までまだ10分もある。ラルの姿はまだ見えない。
 周りにはたくさんの恋人達。皆幸せそうで良いな。私も幸せになりたい…。
 フゥっと溜め息を吐き出し、少し憂鬱な気分になった。

「ねーお姉さん、どうしたのかな?もしかして、彼氏にフラれた?」

 知らない男がいきなり話しかけてきた。イケメンでもなく、服の趣味が悪い。

「そんな暗い顔してないで、俺が遊んであげるからさ。じゃ、行こう!」
「きゃ!?」

 肩に腕をまわされ、そのまま無理やり歩かされる。
 何なのこいつ!?気持ち悪い!生きていない状態にしてやろうかしら?
 イラつく気持ちに身を任せ、攻撃に移ろうとしたら、急に肩が軽くなった。

「ミーナさん、お待たせ。遅くなってごめんね。」

 後ろを振り返ると、ラルが男の襟を掴み、軽々と持ち上げていた。

「ラルさん。」

 強い男が好きなミーナは、男らしいラルに思わず見とれた。

「くそ、離せよ!俺が目をつけたんだ!」

 男は、身体が浮いた状態でジタバタするも、ラルは涼しい顔だ。

「悪いけど、俺の彼女だから渡すわけにはいかないよ。怪我する前に引いてくれないかな?」

 ラルは男だけに分かる程度に、殺気を込めた。男はガクガク震え、みるみる怯えた表情に変わった。

「す、すみっすみませんでしたぁー!!」

 男はよろけながらも、必死の形相で走って行った。

「助けてくれてありがとう。すごく格好良かったわ。」
「え?そ、そうですか?」

 ラルは照れて、後頭部を掻いた。

「お試しだけどデートだから、敬語は無しにしましょう。今日はよろしくね。」
「分かった、よろしくね。」

 2人は近くのカフェへ入り、テラス席に向かい合わせに座る。おすすめのケーキと、紅茶を2つずつ注文した。
 トラブルはあったけど、ラルさんの優しいところが見られて良かったわ。男を軽々と持ち上げてた筋肉も素敵。

「ラルさんって、普段から鍛えてるの?」
「毎日トレーニングしてるよ。兄さんの相手してたから、その習慣でね。」
「あのマスターの相手が出来るなんて、すごいわ!」

 冒険者でも相手出来る人は少ないのに。
 ラルが嬉しそうに微笑み、ミーナもつられて笑顔になった。
 あぁ、ミーナさんの笑顔すごく可愛い。俺の彼女になってくれないかなぁ。
 ラルの視界には、ミーナしか写っていなかった。

「お待たせしました。こちらおすすめの、イチゴのケーキとモンブラン、紅茶です。」

 店員が注文の品を持ってきた。ミーナにはイチゴのケーキ、ラルにはモンブランを置いた。

「わぁ、キレイ!美味しそう!」

 子どものように喜ぶミーナを、ラルはボーッと見つめていた。
 あれ?ラルさんは、どうしたのかしら?
 じっと見つめて動かないラルに、ミーナのイタズラ心がウズウズした。
 一口分ケーキをフォークに載せ、ラルの口元へ差し出した。

「ラルさん、あーん。」
「あー…んぐ!?」

 無意識に開けたラルの口にケーキを入れた。ラルは、少し遅れて、あーんをされた事に気付き、顔を手で覆った。

「ふふっ。ボーッとしてたけど、大丈夫?」

 慌てちゃって、意外と可愛い。
 ミーナは、イタズラが成功してニコニコしていた。

「ミーナさん酷いよ。…はい、あーんして。」

 悔しかったラルは、フォークにモンブランを取り、ミーナの口に近づけた。

「え?お、お返しは受け付けてないんだけど…。」

 同じことをされると思ってなかったミーナは、赤い顔で慌てた。

「ダメだよ。俺にやったんだから、ミーナさんもやろうね。」

 ラルは笑顔の圧で、ミーナにあーんを促した。

「わ、分かった!あむっ。」

 ミーナがやけくそで食べると、ラルは満足そうに笑った。

「初間接キスだね、嬉しいな。」
「え!?何言って…もうっ。」

 ミーナは熱くなった頬を手で抑え、冷やそうとした。
 ラルさんの性格がこんな感じなんて、知らなかったわ…。

「ミーナさん、可愛いね。この後はどうする?」
「特に考えてないんだけど…。ラルさんの行きたい所に行くのはどう?」

 ラルは少し考えてから、ニヤッとしてミーナを見た。

「それなら、ミーナさんの家に行きたいな。」
「私の家!?そ、それは無理!片付けとか、掃除とかしてないから!」

 ミーナは、意外な提案に慌てて断った。

「俺の行きたい所って言ったでしょ?行きたいな、ミーナさんの家。片付けでも掃除でも手伝うよ、俺慣れてるから。」

 良い笑顔なのに、拒否権は認めない感じの圧が含まれてる気がする…。

「うぅ…、分かったわよ。部屋の片付けも掃除もやってもらうからね!」
「楽しみだな。」

 ラルは喜び、ミーナは憂鬱と反対の心境になった。ケーキを食べ一息つくと、店を後にした。
 
 お試しのデートのはずなのに、いきなり家に来るなんて…。あぁ!下着干したままかも!?帰ったら先に確認しないと。
 ミーナは足取り重く、家へ向かって歩いた。
 ラルは上機嫌でミーナの後ろを付いて行く。
 ミーナさんの家、楽しみだな。今日告白して、できれば彼女になってほしい。
 こじんまりとした家の前で、ミーナが足を止めて振り返った。

「ガッカリしても知らないからね。」
「大丈夫だよ。」

 ドアを開け、2人で家の中へ入ると、ラルは部屋の中を見回し安心した。
 それほど散らかってないし、汚れてもなさそうだ。これならすぐ綺麗になるから問題無いな。
 
「ガッカリしたでしょ…?」

 何も言わないラルに、ミーナが不安そうに聞いた。

「俺からすると、これは綺麗だよ。家は兄弟多いから、こんなもんじゃ済まない。はるかに汚れてるし、散らかってるよ。」
「仕事が忙しいし、面倒であまりやってなくて…。」
「理想が高いんだね。俺がたまに手伝いに来ようか?」
「そんなの悪いから。今日だけで大丈夫よ。」
「そっか。じゃあやろう。」

 ラルはまず、ゴチャゴチャしている棚が目についた。入っているものを全てテーブルに出し、棚をサッと拭いた。

「ミーナさん、これ使う頻度で分けて。」
「分かった。」

 ミーナが仕分けする間に、ラルはホコリを落とし、床を拭き、キッチンへ。シンクで着け浸け置きをすると、お風呂へ。浴槽で浸け置きをすると、トイレへ。洗剤をかけてから、寝室へ行く。
 クローゼットを開け、引き出しは触らずに掛けてある服だけ、長さを揃え、色毎に並べた。
 これだけでもスッキリ見えるな。床をサッと拭き、ミーナのところへ。

「ラルさん、仕分け終わったよ。こっちがよく使う物。」
「あまり使わない物を奥、使う物を手前に並べて。大きさを揃えると整って見えるよ。」
「分かったわ。」

 キッチンの浸け置きしたものを洗い、一通り拭いた。
 お風呂の浸け置きを洗い、浴槽の中を掃除して換気をする。
 トイレも拭き、流して終わりっと。

「ラルさん、終わった…って、すごい綺麗になってる!?」
「丁度こっちも終わったよ。一通り掃除したけど、ざっとだから軽くだけどね。」

 こんなに綺麗になるなんて、今までなかった。これで軽くって、ラルさん家はどれだけ綺麗なの?

「ラルさん、ありがとう。お礼は何が良い?」

 ミーナのお腹がぐぅっと鳴った。

「ははっ、俺もお腹空いたから、お礼はミーナさんの手料理が良いかな?」
「分かった。」

 ミーナは冷蔵庫を開け、頭を抱えた。それを見たラルは近寄り、冷蔵庫の中を確認した。
 卵といくつか野菜と、ベーコンが少しある。

「あー、これで作れるもの無いなって感じかな?」
「いつもお店に頼ってるから、あるもので作るとか出来なくて…。」

 お礼もまともに出来ないなんて…。情けなくて、泣きそうになってきた。
 ラルはミーナの頭を優しくポンポンとして、

「パスタもあるし、これだけあれば1食ぐらい大丈夫だよ。俺に任せて、ね?」

 そういうと、テキパキとあっという間に料理を作り終えた。
 余りの手際の良さに見入ってしまった。

「お待たせ!ベーコンのパスタと、野菜スープ、オムレツだよ。」
「すごい!少ない材料でこんなに作るなんて!ラルさん素敵!」

 ミーナは手を組んで、ラルを見上げた。そのミーナの可愛いさに、ニヤケそうになるのを何とか堪えた。

「さ、さぁ、温かいうちに食べよう。」
「そうね。いただきます。」

 ミーナはオムレツをすくい、口に含んだ。

「お、美味しい!家でこんな美味しい料理が食べられるなんて!」

 ミーナは夢中で料理を全て平らげた。

「ご馳走様でした!もうお腹いっぱい。」
「喜んでもらえて良かった。俺はミーナさんのこと好きだよ。今日お試ししてどうかな?俺結構役に立つと思うんだけど、付き合ってくれたら嬉しいな。」

 ラルは、ミーナの手に、ラルの大きな手を重ね、熱のこもった眼差しを向けた。
 ミーナは頬を赤くして俯いた。

「私ね、もう23歳なの。だから、結婚前提じゃないと付き合えない。それに、仕事柄恨みを買うこともあるから、強い人じゃないと…。」

 ラルさんのことは素敵だと思うけど…。結婚適齢期過ぎちゃうから、遊んでる時間なんてないし。
 ミーナはフゥと溜め息をついた。
 ラルはしばらく考えた後、口角を上げた。

「そっか。俺が強い事を証明すれば良いんだよね。だったら、俺が兄さんに勝ったら付き合って。」
「え!?あのマスターよ?勝てるわけないじゃない。」
「どんな手を使っても良いなら勝てるよ。だからお願い。」

 ラルは上目遣いで、ミーナを見つめた。

「うっ、分かったわ。もしも本当にマスターに勝てたら、ラルさんと付き合うわ。」
「やったー!じゃあ、明日ギルドで。ミーナさん、楽しみにしててね!」

 ラルは笑顔で帰って行った。ミーナはドキドキが収まらなくて、中々眠れなかった。

 翌朝、ミーナは少し寝不足で出勤。ふわぁと欠伸が出たところで、2人が来た。

「おはよう、ルーク君、マスター。今日ちょっとお願いが…。」
「あ、おはよう兄さん!お願いがあるんだけど!」

 ミーナが言う前に、ラルがギルドに来た。ラルは2人に説明して、協力を頼んだ。

「そういう事なら喜んで協力するが…、お前俺に勝てるのか?」
「ああ、大丈夫だよ。強力な助っ人が居るからね。」

 訓練場に移動し、ラルはルークを呼んだ。

「ちょっと、兄さん睨まないでよ。ルーク取らないから。」
「ギ~ル~。協力するんでしょ?」

 ラルを睨んでいたギルは、ルークの一言でショボンとしてしまった。
 兄さんが大人しくなるなんて、流石ルークだな。おっと、感心してる場合じゃない。
 ルークに作戦を伝えると、「ギルがどうなるか楽しみ!」と、ノリノリで協力してくれることになった。

「ミーナさん、準備出来たよ!」
「分かった。ルールは3本勝負。身体の何処かに木刀を当てたら1本。2本先取した方が勝ちよ。」
「「分かった。」」

 ラルとギルは木刀を構え向き合った。ルークとミーナは離れた所で立つ。
 ラルさん、本当に勝てるのかしら…。ミーナはドキドキしてる胸を抑え、開始の合図をした。

「始め!」

 合図と同時にラルが走り、ギルに打ち込んだ。カーン!と木刀の音が響き、ギルが軽く受け止めた。
 ギルが木刀を押し、ラルを離すと上から振り下ろした。ラルは木刀で受けるも力で押されてしまう。木刀をすべらせ、横に払った。

「最近相手してないが、腕は落ちてないみたいだな。」
「当たり前だよ、毎日鍛えてるからね。」

 2人が同じように口角を上げて、ニヤッとすると、スピードを上げての打ち合いが始まった。
 カカカンッ!!と何度も木刀が当たる音が訓練場に響いた。
 数分経過した時、ラルがルークに合図をした。

「ギ~ル~!だぁ~い好き!」

 ルークはギルに向かって叫んだ。反応したギルに、更にルークはあざと可愛い笑顔で、投げキッスをお見舞いした。

「はぅ!ルーク、か、可愛い過ぎる…。」

 ルークにメロメロになって、反応が鈍る。その隙にラルはギルの足に打ち込んだ。

「あ、ラルさん一本!」

 急に決まり、ミーナは、ハッとして一本を宣言した。
 凄い…、本当にマスターから1本取るなんて…。ミーナの胸の鼓動はさっきよりも早くなった。

「今のはズルいぞ。ルークがメチャクチャ可愛いかった…。」
「ふふっ、ギルありがとう。」

 ルークとギルは甘い空気になった。ラルは咳払いをして、

「兄さん、まだ終わってないから。ルーク、次も頼むよ。」
「分かった、がんばるね!」

 ギルとラルは再び木刀を構えた。

「2本目、始め!」

 ラルは走り、ギルの首に突こうとし、払われた。体制を崩したところに、腹に入れられそうになる。スレスレで何とか躱すと、ルークに合図を送った。
 ルークは大人の姿に変身し、ギルに向かってニコッと微笑んだ。そして甘い声で言った。

「ギル、愛してるよ。」
「あ…ルーク…。」

 ルークに気を取られたギルに、ラルは木刀を打ち込んだ。木刀はギルの腕に当たった。

「い、一本!ラルさんの勝ちです!」

 信じられない…、マスターに勝つなんて。茫然として、ラルを見つめた。
 ラルはミーナの側まで来ると、右手を取り、手の甲にキスをした。

「勝つって言ったでしょ?約束通り、俺と付き合ってね。」
「…分かったわ。」

 ミーナは頬が熱くなり、心臓の音がうるさくなった。

「やったー!ミーナさんは俺の彼女だー!」
「ちょっと、ラルさん!?」

 ラルはミーナを抱き上げ、クルクルと回した。そっと降ろすと、

「じゃあ、仕事行くね!また夕方来るから。あ、ルークもありがとう!お礼はまた後でね!」

 ものすごい笑顔で、幸せオーラ全開のラルさんが、颯爽と走って行った。

「あいつのあんな顔、初めて見たな。ミーナ、おめでとう。ラルのことよろしくな。」
「は、はい。ありがとうございます、マスター。」

 ミーナは熱い頬を手で抑え、冷やした。

「それにしてもルーク、酷くないか?」

 ギルは眉間に皺を寄せ、ルークをジロッと見つめた。

「2人の幸せの為だからさ。ギルには後でたっぷりサービスするから、機嫌直して?」

 頬にチュッとすると、ギルはルークをサッと抱き上げ、

「しょうがない、それで許してやろう!」

 デレデレしながら、訓練場を後にした。


「よし、これで今日の仕事は終わりよ。お疲れ様でした。」
「お疲れ様~。あ、ラルさん来たよ。」

 ルークが言うと、ギルドの扉が開きラルが入って来た。

「ミーナさん、お待たせ。仕事終わった?」
「お、終わったわよ。」
「はは、可愛いね。家まで送るよ。もし良ければ、夕食作るから一緒に食べない?」
「…食べたいわ。あと、ラルさん…。好き。」

 ミーナは、ラルの耳に囁いた。ラルは少し固まり、笑顔になった。

「ミーナさん、俺もだよ。」

 付き合い始めた2人は、仲良く手を繋ぎ帰りました。
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