VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第三十話

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【第三十話】

 サイド:ハッパ

 降りしきるひょうの破片の中、一匹の『ゴブリン・サクラ』がすぐそこまで迫ってきた。

「ウチが『今!』って言ったら、思いっきり横に跳んでね」

「何よその、恐ろしいお願いは……」

 なんだかんだ言いつつ、数歩進んで前衛を務めてくれるリーパー。

 そういうところもかっこいいね!

「行くわ」

「がんばれっ!」

「ハッパも頑張るのよ……」

 そう言いつつも、リーパーは右手に持った鎌をクルクルと振り回しながら、魔物の出方を伺う。

 一方、さらに加速し、彼女に肉薄する『ゴブリン・サクラ』。

 接敵する!

 でも、勝負は一瞬だった。

 十分に近づいた『ゴブリン・サクラ』が、逆手に持ったナイフを斜めに振り下ろす。

「ふっ…」

 それをしゃがんでよけた彼女は、ブンッと鎌を振った。

「ギャギャッ!?」

 桜色の右足から侵入した刃は、なぜか肉体を切り裂くことなくすり抜ける。

 そして、左足へと振り抜かれる。

 すごい!

 鎌は柄も刀身も真っ黒で、太陽の光を浴びて鈍く輝いている。

 厚みはそれほどなさそうだけど、人一人分くらいの幅をした大振りの刃が一際目を引く。

 重そうなのに、軽々と鎌を振り切ってみせるリーパー。

 でも、どうして切られたゴブリンに傷口ができないんだろう?

「私の鎌はね、魂だけを切り裂くの」

 はてなマークが浮かんでいたのに気づいたのか、振り返ってウチの方を向き、彼女は疑問に答える。

 なるほど!なにかに似てるなとは思ったけど、トーマのスキルみたいなものか!

「まさに、一撃必殺だね」

「そんなにすごくないわよ」

 魂を刈り取られた『ゴブリン・サクラ』はどさりと倒れ込み、視界が晴れる。

 そして、その奥に見えるのは…。

「防御無視、当たれば一撃必殺の斬撃を……」

 …手をこちらに向ける、もう一匹の『ゴブリン・サクラ』!

 危ない!

 リーパーは背を向けて話すのに夢中で、気づいてない!

「今!」

「っ!!!」

 ウチがなぜ、このタイミングでかけ声を上げたのか、疑問に思って立ち止まらずにいてくれてよかった。

 意図を察したリーパーは、全力で左に回避する。

 それを見届けたウチは目をつぶり、耳に手を当てる。

 バアアアアアアアアアアア

 一瞬遅れて、リーパーがさっきまで立っていた場所が爆発する。   

 ウチは衝撃で後ろに吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。

 間違いない、これは【爆発魔法】だ。

「……リーパー!?」

 衝撃が収まり、起き上がって前を確認する。

 自分の声は聞こえるし、視界も問題ない。

 聴覚と視覚は大丈夫そう。
 
「リーパー!?……リーパー!?」

 自分の体を確認したら、リーパーの位置を探す。

 まともに食らっちゃったけど、大丈夫かな?

 …いた!少し遠くに倒れてる!

「っ…!」

 彼女は今にも立ち上がろうとして、左手を地面についている。

 待ってて!すぐ行くから!

 そう思っていたのに、次の瞬間。

「っ!?」

 バアアアアアアアアアアア

 リーパーがいたところを中心として、再び音と光が生まれる。

 今度は警戒していなかった。まともに爆発の影響を受けてしまう。

 目が眩み、耳がグワングワンする。

「ぐうううっ!」

 今にもぶっ倒れそうだけど、一歩踏み出してこらえるウチ。

 でも、二度目の爆発で最初の爆発の煙が晴れた。

 晴れた視界の数十メートル先。

 リーパーに向かって手を構えた二体目の『ゴブリン・サクラ』の姿が、おぼろげながらに見える。

「……っ」

 今起きたことを思って、唇を嚙む。

 多分、今の一撃で彼女はデスしちゃったと思う。

 だったら、ウチが仇を取る!

「うらああああっ!」

 正気を失ったように叫びながら、【爆発魔法】の有効距離まで詰める。

 ウチの声を聞いて、こちらに手をかざす新たな『ゴブリン・サクラ』。

 この魔物はなぜか、杖を使わなくても魔法が使えている。

 『サクラ個体』だから?

 どっちでもいいけど、まだまだ経験が浅いね!

 先に視線で対象を捉え、発動を念じておけば、あとは…!  

 …杖を構えるだけでいい!

「ギャアッ!?」

 こちらに狙いを定める『ゴブリン・サクラ』。ウチは杖を前に掲げている。

 でも、魔法の発動が速いのはウチだ!

 伊達に【爆発魔法】を使っちゃいないよ!

「はああああっ!!」

 バアアアアアア

 大きな音と光が『ゴブリン・サクラ』の目の前で発せられる。

 ウチはまたもや、衝撃で後ろに吹き飛ばされる。  

 パンッと音を立てて、鼓膜が破れた。辺りが真っ暗になり、目が見えなくなった。

 でも、『ゴブリン・サクラ』は倒せたはず!

 そう確信したウチは倒れたまま、手元を見ずにインベントリから『スキルジェム・【自己再生】』を取り出し、おぼつきながらも飲み込む。
 
 ゆっくりと、視覚と聴覚が回復していく。

 ドガアアアンッと、ひょうの破片が地面に激突する大きな音がぼやあっと聞こえ始める。

 ウチの両目が徐々に光を取り戻していき、目の前がピンクに染まる。

「ピンク?」

 …まさか!

「なんで…、生きてるの!?」

 爆発に巻き込んだはずの『ゴブリン・サクラ』が、ウチの目の前に立っていた。 


 サイド:トーマ

 まだ焦らなくていい。なにも詰んだわけじゃない。

 俺はインベントリから『スキルジェム・【自己再生】』を取り出すと、口に運んだ。

 そのまま飲み込むと、失ったはずの足が徐々に生えていく。

 改めて見ても、ショッキングな映像だ。

 足は根元から失っていないので、時間はかかるが生え揃うだろう。

 なんか、子どもの歯みたいな言い方だな。

 そんなことを考えながら、俺は階段を這いずりながら一階下にある小部屋に体を滑り込ませる。

 ふう、これでひとまず安全だ。

 部屋の入口に扉はなく、魔物も中に入り込むことができる。

 だが、階段にいるよりかは生存の確率が上がるのは間違いない。

「まさか、スキルジェムがこんな形で役立つなんてな」

 とりあえず、奥に置いてある宝箱に寄りかかり、一人呟く。

 ナナとファーストは逃げ切れただろうか。

 『ワーウルフ・サクラ』は鈍重だから、多分大丈夫だな。

 それよりも危惧すべきは、下からやってきた魔物と挟み撃ちになることだ。

 だから傷が癒えたらすぐ、俺も下に降りる。

 動きの遅いヤツの背後から魂を抜くのは容易だろう。リベンジは確実に成功する。

 …とまあ、色々考えたが、足が治らないことには始まらない。

 暇だ。

 ………。

 ああ、傷口の説明をした方がいいか?

 いや、俺がしたくないからダメだ。

 
 ※※※
 

 だいたい五分くらい待って、両足が完全に再生した。

 【自己再生】というスキルは本当に強いな。グレープを犠牲にして仕様を研究した甲斐があった。

 俺は感覚を取り戻すように足を動かしながら、小部屋を出る。

「よし、問題なく動くな」

 そうしたら、階段をひたすら降りていく。

 頼む、ナナ!ついでにファースト!生きててくれよ!

 数段飛ばしで階段を下ること数階分…。

 不意に、桜色の毛並みが飛び込んでくる。

「おっと」

 俺を死の間際にまで追い詰めた、『ワーウルフ・サクラ』が立ち止まっていた。

 ということは、二人にとってよくない事態が起きているということ。

 大きな足音を出していたが、『ワーウルフ・サクラ』はナナたちに夢中で俺に気づいていない。

「……」

 いける。後ろから奇襲して魂を抜ける。 

 俺は焦らないように気を付けながら、ゆっくりとした足取りで魔物に迫る。

 数段ほど下り『ワーウルフ・サクラ』の背後に立つと、右手を素早く突き入れて、魂を掴む。

「…っ」

 人狼の魔物が俺に気づく。

 振り向きながら右腕を振り、裏拳のように払おうとしてくる。

 だが、遅い。俺の方が速い。

 そして、もう油断はしない。

 俺は最小限の動きで魂を引き抜く。

「ふう」

 今度は上手くいった。

 肉体だけになった『ワーウルフ・サクラ』はピタリと動きを止め、ゆっくりと倒れた。

「ナナ、もう大丈夫だ」

「トーマ!?生きてたっすか!?」

 俺が呼びかけると、下の方にいたナナが心底驚いたという顔で大声を上げる。

「ああ、【自己再生】のスキルジェムで傷を回復した」 

「そんなことできるんっすね!……ファースト、トーマが倒してくれたっす!」

 次は、彼女が下に向かって叫ぶ。

 正確には、『ワーウルフ・サクラ』はまだ生きてるけどな。

「分かった!これで前に集中できる!」

 下の階からファーストの返事が聞こえた。

 どうやら俺の予想通り、二人は『ワーウルフ・サクラ』と別の魔物に挟撃されていたらしい。

 それで下に逃げるに逃げられず、立ち往生していたんだな。

「念のため、耳を塞いでおくっす!」

「分かった」

 あとは一方向だけの敵に集中すればいいと判断し、ファーストがスキルを発動するようだ。

 俺は答えながら、耳元に手を持っていく。

 言霊系のスキルは、聴覚を持つ生き物であれば魔物でも適用される。

 これは逆に言えば、声を聞かなければ影響を受けない、ということ。

 【絶対的優先権】は決まれば最強だが、ある程度離れた距離にいる複数の相手に対し、一度に全員に作用させることは難しい。

 だから、今まで温存していたんだろう。

「『―――――』!」

 ファーストが何事かを命じたが、俺には聞こえないので大丈夫。

 ただ何もすることがないので、耳を塞いだまま振り返り、上を警戒しておく。

 また挟み撃ちされたら面倒だ。

「………」

 石段とレンガの壁を眺めること、数十秒か一分くらい。

 不意に肩を叩かれた。

 俺は両手を耳から離し、後ろを向く。

「もう倒せたっす」

「流石だな、ファースト」

「ま、俺にかかればこんなもんだ!」

 ファーストも戻ってきたので、ここは素直に褒めておく。

「なんとかなったな」

 一段落したところで、俺は短剣を鞘から引き抜き、放心状態の『ワーウルフ・サクラ』にトドメを刺す。

 そして一分後、魔物の肉体が消滅。

 大量の『サクラジェムの欠片』と桜色の素材がドロップした。

「おお、こんなに落とすのか」

 ひとまず俺が全部受け取って、数えてみる。

 『サクラジェムの欠片』は六十七個もあった。

 欠片十個で『サクラジェム』一つだから、六個分だな。

「分配はどうする?」

「トーマが倒したんっすから、好きに決めていいっすよ!」

「じゃあ、端数の七個をもらっていいか?」

「持っていけ。今日のMVPはトーマだ」

 一方、桜色の素材はそれほど数が多くなかった。

 収集癖のあるファーストが物欲しそうな顔をしていたので、彼が多めにもらえるように分けた。

「こんなもんだな。……それで、これからどうする?」

 アイテム整理を終えた俺たちはひとまず近くの小部屋に入り、『螺旋の塔』の攻略を続けるかどうかを話し合う。

「挑戦してみて分かったが、ここは意外に効率が悪い。桜色の素材の種類集めにはいいが、『サクラ個体』が思ったより出ない」

「一度に接敵するのが一体か二体くらいだからな。理想的に見えて時間がかかる」

「他のプレイヤーも多いし、なにより窮屈っす!」

 『螺旋の塔』に対する、俺たちの評価は最低まで落ちた。

 ということで、今日はもう解散することになった。

 早速、来た道を引き返すように階段を下っていく俺たち。 

「二度も死にかけたし、得られた成果の割に疲れの方が大きいな…」

「でも、一緒に攻略できて助かったっす!トーマがいなかったら二十階もいけなかったっすよ!」

「いや、そのときは俺が本気を出してたから、結果は変わらなかっただろうな」

「どうしてそう、ファーストは一言多いっすか…?」

 ファーストの空気を読まない発言に、すかさずナナが大きなドライバーのようなものを構える。

 あれも『ナナ's道具』か?ヘビの腹を掻っ捌いたときに使っていたような。

 まあ、細かいことはいいか。

 楽しかったからな。ついでに、ファーストとナナの強さも知れた。

「また機会があったら、よろしく頼む」

「なんだよ、きもちわりいな。でも、悪くはなかったぜ、トーマ」

「ファースト、いい加減にするっすよ?…トーマ、本当にありがとうっす!今度は私も活躍させてくださいっすよ!」

「まだ帰りが残ってるぞ」

「それもそうっすね!」

 しかし、不法侵入から広がる縁なんてものがあるとはな。

 その後は特に目立ったことは起きず、俺たちは『螺旋の塔』から生還した。
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