VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第二十六話

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【第二十六話】

『おはよう、諸君。今年もうららかな春がやってきたな!私は「チェリーアプリ」社長兼、代表取締役の白峰桜だ。

 本日までに11000名以上のプレイヤーが【Original Skill Online】を遊んでくれており、感謝しかない。本当にありがとう。

 この挨拶も二回目だ。前置きはこれくらいにしておく。プレイヤ―諸君も早くイベント内容を知りたいだろうから、早速発表に移ろう。

 正式リリース二か月記念のイベント内容は、その名も…。

 「サクラ個体とサクラジェムで春満開!」だ!

 内容を説明しよう。

 まずは「サクラ個体」について。

 これは何かと言うと、イベント期間中に登場する魔物の特殊個体の名前だ。

 フィールドやダンジョンで現れる、より突っ込んで言うとスポーンする全魔物のうち、一定の確率で生まれるのが「サクラ個体」になる。

 突然変異のレア個体みたいな位置づけだな。

 どうやら、諸君は「特殊個体」を異常な成長を遂げた魔物の一個体を指す言葉として使っているらしい。

 であるならば、「サクラ個体」は特殊個体と呼ばないかもしれないが、めんどくさいので特殊個体の一種と定義させてもらう。

 この「サクラ個体」の大きな特徴は、見た目にある。

 もれなく薄いピンク色、桜色をしているので、諸君も一目見れば分かるだろう。

 あと「サクラ個体」は、その魔物の通常個体よりも遥かに強い。

 オリジナルスキルの種類にもよるが、諸君らが団結せねば倒せないくらいの脅威となるかもしれない。

 と、「サクラ個体」に関する説明はここまでだな。後は実際に遊んで確かめてみてくれ。

 次に、「サクラジェム」の説明に移る。

 察しの良い諸君らは気がついたかもしれないが、「サクラジェム」は「サクラ個体」を倒すと欠片の状態でドロップするアイテムとなる。

 さらに、「サクラ個体」を倒すと「サクラジェムの欠片」の他に、その魔物の素材の桜色バージョンがドロップする。

 通常個体からドロップするアイテムよりも性能、効果が優れていて貴重な素材だから、ぜひ様々な「サクラ個体」を狩ってみてほしい。

 それでは、話をジェムに戻そう。

 「サクラジェムの欠片」は、十個集めると「サクラジェム」になる。これは「スキルジェム」の仕組みと一緒だな。

 しかし「サクラジェム」自体には、特に効果はない。

 これは、貨幣やポイントのようなものと考えてほしい。

 イベント終了後に「サクラジェム」と引き換えに装備、アイテムを手に入れることのできる期間限定のショップ画面をメニューに追加させてもらうから、そこで通貨の役割を果たすというわけだ。

 このショップでは、ジェム一個から交換できるアイテムがある。戦闘に自信のない者や、あまり時間が取れない者でも、イベントに参加して景品を交換してもらえたら嬉しい。

 またイベントの終了時点、時刻にして十五日後の午前零時だが、その時点で諸君が持っている「サクラジェム」の個数に応じて、後日ランキングが発表される。

 このランキングに入った者は、順位に応じて報酬が渡される。といっても、一個でも「サクラジェム」を持っていればランクインできるから安心してくれ。

 「サクラ個体」を狩るなり、フレンドと交換するなりして「サクラジェム」を集めて、ぜひ諸君ら全員にイベントを楽しんでもらいたい。

 さて、これで私が伝えることは以上だ。

 長くなってもいけないので、配信はここまでとする。

 今私がアナウンスしたことは、後に文面での発表される。気になる者は公式サイトを確認してくれ。

 それでも分からないことがあったら、メニューの「お問い合わせ」から聞いてみてほしい。

 それでは配信を終了する。またな、諸君!』

 『チェリーアプリ』の社長、白峰桜はいつもの口調で説明を終え、配信が終了した。 

 所要時間は大体五分くらい。

 トピックスは何点かあったが、社長は要点しか話さないから、必要なことだけを知りたい俺としては助かる。

 ただ…。

「これは恐ろしいぞ」

 マイハウスの和室でちゃぶ台を囲んで聞き入っていた俺、グレープ、ハッパの三人は、揃って顔を上げる。

 このイベント、『春満開!』とか調子のいいこと言ってるが、とんでもない内容だ。

 もしや運営は、プレイヤーたちの血を吸わせて桜の花を咲かせようとしているのかもしれない。

「何が恐ろしいんだ?」

「全然聞いてなかった!」

 二人は相変わらずでよかった。いや全くもってよくないんだが。

 それは置いといて、このイベントに隠された意図というのは、フィールドの探索と人ゴブ戦争の活性化だ。

 多くの数及び様々な種類の『サクラ個体』を狩らせるという名目で、プレイヤーにフィールドの探索を促し、新たなダンジョン、街、魔物を見つけさせる。

 ダンジョン内は『スポーンの活性化』という性質で際限なく魔物が湧くが、フィールドには湧き数の上限というものがあるらしい。

 一つの種の魔物がそのフィールドで一定の数まで湧くとそれ以上湧かなくなる、という仕様が【検証組】によって明らかになった。

 したがって、『サクラ個体』の数をこなすならダンジョンで、種類をこなすならフィールドで、ということを頭に入れて動かなければならない。

 しかし、ダンジョンよりも魔物の数が多く、さらに魔物を狩るだけで名声を得られる狩場が存在する。

 それが、ゴブリン領との境界線だ。あそこで人ゴブ戦争に参加することにより、『サクラジェム』と名誉の両方を獲得できる。

 ただゴブリンと戦うとなると、やはりゴブリン種の『サクラ個体』しかおらず、色々な魔物の桜色素材が集められないという欠点があるな。

 長くなったな。まとめよう。

「『サクラジェム』をたくさん集めたい場合は、ダンジョンにこもるのがいい。ダンジョン内でなら際限なく魔物が湧くからな。

 対して、ジェムを集めつつ名誉が欲しい、有名になって目立ちたいって場合は、人ゴブ戦争に参加するのがおすすめ。

 最後に桜色の素材をコレクションしたいときは、ランダムに全種類の魔物が湧くダンジョン『螺旋の塔』にこもるか、あちこちのフィールド、ダンジョンと狩場を替えて地道に集めて周る。

 まあだいたいこんな感じだ」

 俺は二人に、配信を見てまとめた自分の考えを説明する。

 自慢じゃないが、運営の意図とこれからの立ち回りをここまで想定できるプレイヤーは少ないだろう。

 俺たちは各々ソロでやっているが、隠しごとなんて野暮なことはしない。

「へー、相変わらずトーマは裏を読むのが上手いな」

「ほんと!なにより短くまとめてくれるのがいい!」

 やはり、グレープもハッパも俺に説明してもらうつもりでいたらしい。

 OSOは弱肉強食だ。自らの利益のためなら、平気で他者を蹴落とそうとするやつはごまんといる。

 頭を使わないと食い物にされるだけだぞ、二人とも。

「まったく。まあ、分かってくれたらそれでいい。俺は『螺旋の塔』に行くが、二人はどうする?」

 『水晶の洞窟』、『キノコの森』、そして『大図書館地下』。

 いくつものダンジョンを攻略してきた。

 名誉など、今の俺には吐いて捨てるほどある。これ以上いらん。

 だから接敵機会が多く、魔物が無限湧きする『螺旋の塔』は『サクラジェム』を得るのに最も効率がいいだろう。

 副産物として手に入る桜色の素材も高値で売れるだはずだし、いいことづくめだ。

 これは完全に勘だが、『サクラジェム』で交換できるものはイベント限定である可能性が高い。

 『魔王』との勝負は正直どうでもいい。とにかく、『サクラジェム』を多く手に入れて交換しまくりたい。

「ウチが気になったのは人ゴブ戦争かなあ。ゴブリン領の方に行ったことないけど、大量のゴブリンが攻めてくる感じ?」

「そうだな、だいたいそのイメージで合ってる」

「じゃあ、ウチにピッタリじゃん!」

 ピッタリだが、ハッパは平気で味方を巻き込みそうなのが不安でしかない。

 人ゴブ戦争は実質、広大なフィールドで行うレイド戦のようなものだ。

 数多いる戦闘員の一人となり、ゴブリンたちの軍勢を倒して境界線を押し上げる。

 明確なルールがあるわけではないが、こうしたプレイヤー全体の目標みたいなものがある。

 だから、仲間との協力が必須になる。

 しかし、ハッパに協力ができると思えない。

 なので俺は今まで、人ゴブ戦争のことを彼女に言わなかった。

 話の都合上、打ち明けてしまったが、間違いだったと後悔する日が来ないことを願う。

「俺は強い装備が欲しいから、素材集めかなあ。鉱山で『アイアン・ゴーレム』を乱獲だな」

 ユルルンの北には、大きな鉱山がある。

 中腹にはいくつもの廃坑への入口があり、廃坑内では金属の体をしたゴーレムや、でかいコウモリ、でかいトカゲ、でかいクモなんかがいるそうだ。

 『螺旋の塔』には劣るが、あそこも効率がいいとは思う。

 ただ、金属や宝石といった鉱石系の素材を同時に集められる点では優れているか。

「あそこは難しいんじゃないのか?ソロで平気か?」

 心配になったので聞いてみた。

 正直、俺はグレープが全然強くないと思っている。

 もう二か月くらい前だが、『始まりの街』周辺での魔物にも苦戦していたからだ。

「トーマ、俺を見くびってるな?俺も成長したんだぜ!」

 グレープはなぜか自信満々だ。

 そういえば、装備が初期装備じゃないな。

 いつの間に用意してきたのか、シンプルなつくりの薄茶色の金属鎧をまとい、上等そうな柄をした剣を腰に差している。

「もう『持たざる者』じゃなくていいんだぜ?」

「そうだったな」

 なるほど。準備万端だから余裕があったのか。

 ダンジュウロウさんに会った後、俺はバージョンアップデートの内容に目を通したが、大きく変わったのは死んでも身に着けている装備がロストしない、『装備の不滅』という点だった。

 『装備の不滅』というのは、他に適当な言い方が見つからないので、プレイヤーの間で使われている俗称だ。

 まあそれはいいとして、これで初期装備以外の防具や武器を身に着けられる。

 これは大きな進歩だ。俺も初期装備以外を身につけないという、『持たざる者』スタイルから卒業できる。

 ちなみに、インベントリ内のアイテムや所持金は、以前と変わらずにぶちまける仕様のままだ。

 ロストしなくなる対象はあくまで、死亡時にプレイヤーが持っていた物、身に着けていた物だけらしい。

「ウチも奮発して、お高い装備にしちゃった!」

 続けて、ハッパがその場でターンして見せつけてくる。

 紅蓮のローブに、赤く輝く宝玉があしらわれた杖。

 まさしく、名は体を表す。全身真っ赤で、一目で危険人物であることが分かるようになっている。

 『装備の不滅』が実装されて、本当によかった。

「俺も何か揃えるか」

 とは言ったものの、装備なんて売ってお金に変えるものと思っていたので、今まで注目したことがなかった。

 もちろん、防具や武器といった類の装備はインベントリにもストレージボックスにもない。

「ま、今はイベントだな」

 時間のあるときに、ダンジュウロウさんにお願いすればいいだろう。

 それに、装備をいいものにしたからといって攻撃力が上昇することはないし、魔物の攻撃をもらっても耐えられるほど頑丈になるわけでもない。

 しかも、装備は簡単に壊れる。

 間違った使い方をしたときや、魔物の攻撃をもろに受けたときなどは特に激しく損傷する。

 では、何故装備を身に着ける方がいいのか。

 それは、装備に様々な効果が付与されているからだ。

 例えば火を纏う剣や、重さを感じさせない鎧など。魔法の対象選択範囲を伸ばす杖とか、耐火性に優れたローブとかもある。

 単なる攻撃力、防御力といった言葉では言い表せない、その装備独自の強みが存在するのだ。

 俺が今、初期装備の下に着ている『寄魂鉄の鎖帷子』もそうだ。

「トーマならそう言うと思ったぜ!」

「合理的に考えるもんね」

 グレープとハッパが囃してくる。

 ええい、うるさい。二人も大概行き当たりばったりだろうが」

「とにかく、今日は解散。がんばれよ、グレープ、ハッパ?」

「おうよ!大物期待しとけ!」

「ウチらより自分の心配したら?最近毎日のように死んでるじゃん」

 言うな。

 そして、それは半分くらいお前が原因だぞ、ハッパ。

 なんてことは言わない。間違いなくめんどくさくなるからだ。

 ちなみに、後の半分はアカネとガイアで間違いない。

「よし、それじゃあ行くか」

「おう!」

「はいさ!」

 俺は『螺旋の塔』、グレープは鉱山、ハッパはゴブリン領との境界線。

 配信を大人しく視聴し、情報交換を終えた俺たちは家を出て、各々目指すべき場所に向かったのだった。
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