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第二十二話
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【第二十二話】
信じていたはずの狼に殺され、俺はリスポーンした。
非常にまずい事態になった。
魂を抜いただけで『ゴブリン・ワイズ』の肉体にトドメを刺していないため、やつはまだ生きている判定になっている。
それにより、『大図書館地下』が攻略扱いにならない。
したがって、このダンジョンを攻略したという名誉を得るためには、もう一度最深部へと向かわなければならない。
ということで、俺は再びダンジョンへと潜った。
しかし、度重なる戦いで集中力が切れており、配下の狼もおらず、道中の魔物をスルーすることも、本棚の上を通り抜ける裏技も使えない。
当然の結果として、魔物にキルされ続け俺は単独での攻略を諦めざるを得なかった。
となると、誰に助けを請えばいいのか。
俺のフレンドのほとんどはユルルンか『始まりの街』にいるし、エリクシルにクランハウスのあるシークさんもアールも、留守にしがちだから来れないだろう。
どうする、詰んだか?
初めて来た街の中で途方に暮れていると、誰かが俺の肩を叩く。
「誰だ?」
振り返ると、男が立っていた。
どこかで見たことがある。だが、思い出せない。
俺の記憶力は人並みくらいはある。一度会った人は、もっと鮮明に覚えているはずだ。
だから、会ったことはないのは確か。
「お前が、あのトーマだな?」
まずい。もう指名手配されていたか。
ダッと逃げようとするが、肩を強く押さえつけられて走れない。
「安心しろ。捕まえに来たわけじゃない」
男は、かろうじて俺に聞こえる程度の声量で話し始めた。
この語り口、暗い話をするのに慣れている。
PKプレイヤーか?
「ダンジョン関係で二度やらかしたお前のことだ。今死に戻ったのもダンジョン関係だろう?」
「まあ、そうです」
男が話しているのは、一度目が『水晶の洞窟事件』、二度目が『ダンジョンジェム事件』だ。
俺のことをよく知っているうえに、頭が切れる。
下手にごまかして余計に時間を浪費するより、正直に話した方がいい。
「現在逃亡中のお前が、なぜかダンジョン攻略をしている。おかしいよな?」
確かに、正常な人から見るとおかしいだろう。
だが、残念ながらこのゲームのプレイヤーに正常な人は少ない。
よって、俺がやったことにおかしいことはない。
「これにはわけが…」
「待て、言うな。当ててやろう。お前はダンジョン攻略という功績をぶら下げて、自首するつもりだろう」
めんどくさいのでさっさと経緯を話そうとすると、男が遮って推理を披露する。
「そうだ」
抜群の洞察力だ。
いや、人の心理を読むのが上手いといった方がいいか。
「まだ俺の顔にぴんとこないのか?割と有名だと自負していたが…」
「来ていない。いきなり話しかけてきてなんだこの人、と思っている」
どうせ心の内が読まれているので、思ってることをそのまま言う。
さっさと自己紹介してくれ。
俺のことは知ってるだろうから、俺はしなくていいな?
「『魔王』、といえば分かるか?」
「…『魔王』ね」
一言でピンときた。
『魔王』。
このゲーム、OSOがリリースされる前に実施されていたβテストで最も活躍し、また最も多くのプレイヤーをキルしたプレイヤーだ。
彼の悪行は、大体こんな感じだと聞いている。
彼はまず、テスト最終日までは、とあるプレイヤーたち四人のグループ『勇者パーティ』と協力して攻略に挑んでいた。
しかし最終日、β-ドラゴンが彼らによって倒された後、急に反旗を翻して宣戦布告。
仲の良いフレンドたちの『四天王』とともに、眷属の魔物を侍らせて『始まりの街』を包囲した。
これに、『勇者パーティ』を筆頭とする、正義のプレイヤーたちが応戦。
さらに日頃からPKをしたい、悪いことをしたいと思いつつ、攻略のために抑圧されていた悪のプレイヤーたちが『魔王』一味に加勢した。
この超大規模な戦いが、後に言う『勇者と魔王事件』だ。
そしてこの事件が起こった後に、彼らには『勇者』だの『魔王』だのという異名がつけられた。
まあ細かいことなので、気にせず事件前の時系列でもこれらの名前で呼んでいるが。
それはさておき、気になる『勇者と魔王事件』の結果は…。
…決着が着く前にβテストの期間が終了したので、引き分け。
なんとも締まらない。βテスト最終日とかいうギリギリの日取りにやるからこうなる。
「で、俺に話しかけた理由は何だ?」
「…驚かないんだな」
「驚いてほしかったのか?」
「そうじゃない。驚かないお前が異常だと言いたい」
「そういうのはいいから早くしてくれ。用はなんだ」
この男、なんかめちゃくちゃ強いらしいが、俺のイメージはβテスト最終日に戦争を吹っかけた考えなしのやつだ。
俺はβテスターの殆どを尊敬しているが、『魔王』は別だ。
「お前のダンジョン攻略に協力してやろう。条件付きでな」
「だったら結構だ。じゃあな」
即答した。
こいつ、俺と同じ匂いがする。
アールに泣いて謝って協力してもらおう。
彼なら、『条件』なんて狡いこと言わないだろう。
「分かった。条件はいらない。タダで協力してやろう」
踵を返して立ち去ろうとすると、慌てて訂正する『魔王』。
「それでも結構だ」
アールだって、泣いて謝ればタダで協力してくれる。
彼なら、恩着せがましい態度なんて取らないだろう。
「分かった。金をやる。俺と一緒に攻略してくれるなら、白金貨一枚やる」
「断る。両替できないからいらん」
白金貨は、金貨100枚分の価値を持つ通貨だ。
単位が大きすぎるので、基本的に『預かり屋』でも両替できないという、まさに宝の持ち腐れ。
そんなことも知らないとは、やはり信用ならない。
「それじゃ、俺も忙しいんでな」
交渉は決裂したとばかりに、俺は彼にそっぽを向いて数歩離れる。
さーて、アールのクランハウスはどこだ?
「分かった。金貨100枚、いや200枚出す。だから、俺とダンジョン攻略してくれ」
その言葉を待っていた。
俺は足を止める。黒い笑みを浮かべて。
瞬時に真顔に戻して、勢いよく振り返る。
「じゃあ行くぞ」
「お前、結構最低だぞ。俺より邪悪だとは…」
失礼な。
『最低』の中に良い方なんてないし、邪悪さを比較することなんてできないだろう。
俺と『魔王』はどっちも最低で、等しく邪悪な存在というだけだ。
俺は『魔王』を置いて、さっさと『大図書館』の入口に入るのだった。
※※※
『魔王』はやっぱり強かった。
いや彼自身がというより、彼のスキルが強い。
彼のスキルは【魔物図鑑】。
初期装備として空白のページの本を与えられ、異なる種類の魔物を倒すごとにページが埋まっていく。
ページを埋める文字は独自の言語らしく、彼にも他のプレイヤーにも読めない。
ただ、見出しである魔物の名前は日本語らしい。
じゃあ図鑑を使って何ができるのかというと、魔力を消費することで、ページに記載されている魔物を召喚できるそうだ。
召喚できる魔物の種類や数に制限はなく、魔力が続く限り何体でも魔物を召喚できる。
また召喚した魔物が、図鑑に載っていない魔物を倒した場合でも、本人が倒した扱いになってページが埋まるらしい。
もはや、召喚した魔物を戦わせるだけでいい。本人がいる意味がない。
そう思ったが、これが半分その通りらしい。
俺の【魂の理解者】で配下にした場合と異なり、召喚した魔物は完全服従で、『魔王』の命令に忠実に従う。
簡単な命令であれば、本人が近くにいなくとも実行し続けるという。
なので、魔物を召喚し「その辺の魔物を狩れ」と命じることで、『魔王』は働かずに魔物狩りができるというわけだ。
ただもちろん制約もあって、召喚した魔物を倒しても素材アイテムがドロップしない。
これにより、非人道的なマッチポンプ式アイテム集めは、流石にできない。
スキル【魔物図鑑】についてはこんな感じだ。
『大図書館地下』内の移動中、隣にいる『魔王』から根掘り葉掘り訊いた。
召喚した魔物が道中の魔物を狩ってくれるし、『魔王』が地下五階までの攻略ルートを記した地図を持ってきていて道に迷わないので、俺は現在暇だ。
ちなみに、本棚が倒せることはだいぶ前に発見されていそうだが、その頃には迷路の攻略ルートが開発済みだった。
よって、下手に地図を書き換えるよりも、攻略ルートに従って進む方が速いし楽だということで、攻略Wikiでは本棚を倒す行為は非推奨、とされたらしい。
また、第六階層以下は攻略ルートがない。そこまで到達できるプレイヤーがわずかだからだ。
これも『魔王』から訊いた。
下手に出ればべらべらと吐いてくれる、便利な話し相手だ。
「ここを曲がれば階段だ。行くぞ」
地図を見ながら『魔王』が言う。
この分なら一人でも余裕で攻略できそうだが、なぜ『魔王』は俺に固執したんだ?
見たことのない強そうな魔物と鉢合わせた際も、数の暴力で蹂躙していた。
何が狙いだ?
まあ、楽して最深部に行けるし、後でお金ももらえるし、どうでもいいか。
俺は『魔王』と、彼が召喚した数十匹の魔物とともに、『大図書館地下』の地下二階に降りるのだった。
※※※
はい、地下二階~地下九階の攻略、カット。
地下五階までは地図で効率よく進み、地下六階~地下九階は純粋に迷路で遊んでいただけだったので、省略する。
近づく魔物を、召喚した魔物の数と種類でごり押ししたため、ついぞ俺と『魔王』は一回も戦闘しなかった。
【魔物図鑑】が強すぎる。
色んな『オリジナルスキル』の上位互換だろ、これ。
「無駄に広いな」
「本当に無意味だから、その通りだ」
というわけで、『大図書館地下』の最深部、地下十階に到着した。
てくてくと前方を歩いていく、俺と『魔王』。
あらかじめ、ダンジョンボスを倒したことは伝えてある。
だから、彼は召喚した魔物たちを全て帰還させている。
ただ、ダンジョンボスじゃない魔物がいるんだな、これが。
「グルウウアアッ!!」
ビュンッと風を切る音、視界外から俊足で駆けてくる薄水色の毛並み。
俺が手懐け、俺を裏切った狼だ。
「騙したな、トーマ!」
「”ボス”は倒したも同然だといった。こいつはボスじゃない」
『魔王』を前に行かせていたので、狼のヘイトが彼に向く。
全速力で迫る両の爪。
どうする、『魔王』?
これは試験といってもいい。
元腹心の狼を倒すことができれば、俺はこいつを尊敬に値するβテスターとして認めよう。
「俺が使役してたんだが、反抗されて殺された。とにかく倒してくれ」
「お前…」
何か言いたげな『魔王』だったが、即座に跳んで狼の突進をよける。
今の攻撃を躱せるのか。肉弾戦も相当に強いな、こいつ。
狼の連撃が襲い、図鑑を広げて魔物を召喚する隙がない『魔王』。
距離を取るなど、決して許してはくれないだろう。
格闘で応戦するしかないぞ。
「この悪魔め…」
『魔王』は俺に恨みを吐きつつ、繰り出される爪と牙を全て躱す。
「とんでもないやつに出会ってしまったな」
しかし、その口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
なんで嬉しそうなんだ。
最下位同士で争っても無駄だぞ。同率でドべだ。
「ふっ」
大ぶりの攻撃をヒラリと躱した『魔王』は、懐から短剣を取り出した。
これも初期装備だ。
どんなスキルの持ち主であっても、必ず初期装備に短剣が渡される。
「今楽にしてやる」
狼が足を踏ん張って跳躍する。
その瞬間に合わせて距離を詰めた『魔王』は、狼の首筋に刃を突き刺した。
「グゥッ…」
致命的なカウンターをもらい、途端に勢いを失った狼。
数歩ほど歩みを進めた後、ぐったりと倒れて動かなくなった。
ああ、狼よ。すまない。
命令するばかりで、俺はお前に何もしてやれなかったな。
「こいつがいなくても、お前は強くなれる。だから心配するな」
どうやら『魔王』は、俺が優秀な駒を失ったことに落胆していると思い込んでいる。
何やら嬉しそうにしながら近づいてきて、俺の肩にポンと手を置いてくる。
「悪いな。狼が魅力的で図鑑に乗せたかった。殺すしかなかったんだ」
試験は合格だ。
だが、お前は落第だ。
「え?」
俺は、初めてプレイヤーに対して【魂の理解者】を使用した。嘘だ、リリース初期の検証期間に何度もグレープで試した。
即座に手を突き入れ、魂を掴み、手を抜く。
至近距離、涅槃の速度で行われたこれらの行為に、『魔王』は当然反応できるはずもなく…。
「金貨はいらん。お前とのコネもいらん」
俺の一言を、ただ黙って聞くしかない『魔王』。
魂を失ったその肉体は、重力に従ってゆっくりと崩れ落ちた。
「狼は俺の仲間だった。俺は仲間を侮辱するやつを許さない」
”倒すのはいいけど、蔑むのはダメだったのか。………なんで?”
倒れる『魔王』の目は、そう物語っていた。
こいつもアイコンタクトの使い手か。かなりのゲーマーだな。
「それが、俺だからな」
一度会っただけで、人を理解できると思うな。
そう思いつつ俺は、手の中にあった『魔王』の魂を握りつぶした。
信じていたはずの狼に殺され、俺はリスポーンした。
非常にまずい事態になった。
魂を抜いただけで『ゴブリン・ワイズ』の肉体にトドメを刺していないため、やつはまだ生きている判定になっている。
それにより、『大図書館地下』が攻略扱いにならない。
したがって、このダンジョンを攻略したという名誉を得るためには、もう一度最深部へと向かわなければならない。
ということで、俺は再びダンジョンへと潜った。
しかし、度重なる戦いで集中力が切れており、配下の狼もおらず、道中の魔物をスルーすることも、本棚の上を通り抜ける裏技も使えない。
当然の結果として、魔物にキルされ続け俺は単独での攻略を諦めざるを得なかった。
となると、誰に助けを請えばいいのか。
俺のフレンドのほとんどはユルルンか『始まりの街』にいるし、エリクシルにクランハウスのあるシークさんもアールも、留守にしがちだから来れないだろう。
どうする、詰んだか?
初めて来た街の中で途方に暮れていると、誰かが俺の肩を叩く。
「誰だ?」
振り返ると、男が立っていた。
どこかで見たことがある。だが、思い出せない。
俺の記憶力は人並みくらいはある。一度会った人は、もっと鮮明に覚えているはずだ。
だから、会ったことはないのは確か。
「お前が、あのトーマだな?」
まずい。もう指名手配されていたか。
ダッと逃げようとするが、肩を強く押さえつけられて走れない。
「安心しろ。捕まえに来たわけじゃない」
男は、かろうじて俺に聞こえる程度の声量で話し始めた。
この語り口、暗い話をするのに慣れている。
PKプレイヤーか?
「ダンジョン関係で二度やらかしたお前のことだ。今死に戻ったのもダンジョン関係だろう?」
「まあ、そうです」
男が話しているのは、一度目が『水晶の洞窟事件』、二度目が『ダンジョンジェム事件』だ。
俺のことをよく知っているうえに、頭が切れる。
下手にごまかして余計に時間を浪費するより、正直に話した方がいい。
「現在逃亡中のお前が、なぜかダンジョン攻略をしている。おかしいよな?」
確かに、正常な人から見るとおかしいだろう。
だが、残念ながらこのゲームのプレイヤーに正常な人は少ない。
よって、俺がやったことにおかしいことはない。
「これにはわけが…」
「待て、言うな。当ててやろう。お前はダンジョン攻略という功績をぶら下げて、自首するつもりだろう」
めんどくさいのでさっさと経緯を話そうとすると、男が遮って推理を披露する。
「そうだ」
抜群の洞察力だ。
いや、人の心理を読むのが上手いといった方がいいか。
「まだ俺の顔にぴんとこないのか?割と有名だと自負していたが…」
「来ていない。いきなり話しかけてきてなんだこの人、と思っている」
どうせ心の内が読まれているので、思ってることをそのまま言う。
さっさと自己紹介してくれ。
俺のことは知ってるだろうから、俺はしなくていいな?
「『魔王』、といえば分かるか?」
「…『魔王』ね」
一言でピンときた。
『魔王』。
このゲーム、OSOがリリースされる前に実施されていたβテストで最も活躍し、また最も多くのプレイヤーをキルしたプレイヤーだ。
彼の悪行は、大体こんな感じだと聞いている。
彼はまず、テスト最終日までは、とあるプレイヤーたち四人のグループ『勇者パーティ』と協力して攻略に挑んでいた。
しかし最終日、β-ドラゴンが彼らによって倒された後、急に反旗を翻して宣戦布告。
仲の良いフレンドたちの『四天王』とともに、眷属の魔物を侍らせて『始まりの街』を包囲した。
これに、『勇者パーティ』を筆頭とする、正義のプレイヤーたちが応戦。
さらに日頃からPKをしたい、悪いことをしたいと思いつつ、攻略のために抑圧されていた悪のプレイヤーたちが『魔王』一味に加勢した。
この超大規模な戦いが、後に言う『勇者と魔王事件』だ。
そしてこの事件が起こった後に、彼らには『勇者』だの『魔王』だのという異名がつけられた。
まあ細かいことなので、気にせず事件前の時系列でもこれらの名前で呼んでいるが。
それはさておき、気になる『勇者と魔王事件』の結果は…。
…決着が着く前にβテストの期間が終了したので、引き分け。
なんとも締まらない。βテスト最終日とかいうギリギリの日取りにやるからこうなる。
「で、俺に話しかけた理由は何だ?」
「…驚かないんだな」
「驚いてほしかったのか?」
「そうじゃない。驚かないお前が異常だと言いたい」
「そういうのはいいから早くしてくれ。用はなんだ」
この男、なんかめちゃくちゃ強いらしいが、俺のイメージはβテスト最終日に戦争を吹っかけた考えなしのやつだ。
俺はβテスターの殆どを尊敬しているが、『魔王』は別だ。
「お前のダンジョン攻略に協力してやろう。条件付きでな」
「だったら結構だ。じゃあな」
即答した。
こいつ、俺と同じ匂いがする。
アールに泣いて謝って協力してもらおう。
彼なら、『条件』なんて狡いこと言わないだろう。
「分かった。条件はいらない。タダで協力してやろう」
踵を返して立ち去ろうとすると、慌てて訂正する『魔王』。
「それでも結構だ」
アールだって、泣いて謝ればタダで協力してくれる。
彼なら、恩着せがましい態度なんて取らないだろう。
「分かった。金をやる。俺と一緒に攻略してくれるなら、白金貨一枚やる」
「断る。両替できないからいらん」
白金貨は、金貨100枚分の価値を持つ通貨だ。
単位が大きすぎるので、基本的に『預かり屋』でも両替できないという、まさに宝の持ち腐れ。
そんなことも知らないとは、やはり信用ならない。
「それじゃ、俺も忙しいんでな」
交渉は決裂したとばかりに、俺は彼にそっぽを向いて数歩離れる。
さーて、アールのクランハウスはどこだ?
「分かった。金貨100枚、いや200枚出す。だから、俺とダンジョン攻略してくれ」
その言葉を待っていた。
俺は足を止める。黒い笑みを浮かべて。
瞬時に真顔に戻して、勢いよく振り返る。
「じゃあ行くぞ」
「お前、結構最低だぞ。俺より邪悪だとは…」
失礼な。
『最低』の中に良い方なんてないし、邪悪さを比較することなんてできないだろう。
俺と『魔王』はどっちも最低で、等しく邪悪な存在というだけだ。
俺は『魔王』を置いて、さっさと『大図書館』の入口に入るのだった。
※※※
『魔王』はやっぱり強かった。
いや彼自身がというより、彼のスキルが強い。
彼のスキルは【魔物図鑑】。
初期装備として空白のページの本を与えられ、異なる種類の魔物を倒すごとにページが埋まっていく。
ページを埋める文字は独自の言語らしく、彼にも他のプレイヤーにも読めない。
ただ、見出しである魔物の名前は日本語らしい。
じゃあ図鑑を使って何ができるのかというと、魔力を消費することで、ページに記載されている魔物を召喚できるそうだ。
召喚できる魔物の種類や数に制限はなく、魔力が続く限り何体でも魔物を召喚できる。
また召喚した魔物が、図鑑に載っていない魔物を倒した場合でも、本人が倒した扱いになってページが埋まるらしい。
もはや、召喚した魔物を戦わせるだけでいい。本人がいる意味がない。
そう思ったが、これが半分その通りらしい。
俺の【魂の理解者】で配下にした場合と異なり、召喚した魔物は完全服従で、『魔王』の命令に忠実に従う。
簡単な命令であれば、本人が近くにいなくとも実行し続けるという。
なので、魔物を召喚し「その辺の魔物を狩れ」と命じることで、『魔王』は働かずに魔物狩りができるというわけだ。
ただもちろん制約もあって、召喚した魔物を倒しても素材アイテムがドロップしない。
これにより、非人道的なマッチポンプ式アイテム集めは、流石にできない。
スキル【魔物図鑑】についてはこんな感じだ。
『大図書館地下』内の移動中、隣にいる『魔王』から根掘り葉掘り訊いた。
召喚した魔物が道中の魔物を狩ってくれるし、『魔王』が地下五階までの攻略ルートを記した地図を持ってきていて道に迷わないので、俺は現在暇だ。
ちなみに、本棚が倒せることはだいぶ前に発見されていそうだが、その頃には迷路の攻略ルートが開発済みだった。
よって、下手に地図を書き換えるよりも、攻略ルートに従って進む方が速いし楽だということで、攻略Wikiでは本棚を倒す行為は非推奨、とされたらしい。
また、第六階層以下は攻略ルートがない。そこまで到達できるプレイヤーがわずかだからだ。
これも『魔王』から訊いた。
下手に出ればべらべらと吐いてくれる、便利な話し相手だ。
「ここを曲がれば階段だ。行くぞ」
地図を見ながら『魔王』が言う。
この分なら一人でも余裕で攻略できそうだが、なぜ『魔王』は俺に固執したんだ?
見たことのない強そうな魔物と鉢合わせた際も、数の暴力で蹂躙していた。
何が狙いだ?
まあ、楽して最深部に行けるし、後でお金ももらえるし、どうでもいいか。
俺は『魔王』と、彼が召喚した数十匹の魔物とともに、『大図書館地下』の地下二階に降りるのだった。
※※※
はい、地下二階~地下九階の攻略、カット。
地下五階までは地図で効率よく進み、地下六階~地下九階は純粋に迷路で遊んでいただけだったので、省略する。
近づく魔物を、召喚した魔物の数と種類でごり押ししたため、ついぞ俺と『魔王』は一回も戦闘しなかった。
【魔物図鑑】が強すぎる。
色んな『オリジナルスキル』の上位互換だろ、これ。
「無駄に広いな」
「本当に無意味だから、その通りだ」
というわけで、『大図書館地下』の最深部、地下十階に到着した。
てくてくと前方を歩いていく、俺と『魔王』。
あらかじめ、ダンジョンボスを倒したことは伝えてある。
だから、彼は召喚した魔物たちを全て帰還させている。
ただ、ダンジョンボスじゃない魔物がいるんだな、これが。
「グルウウアアッ!!」
ビュンッと風を切る音、視界外から俊足で駆けてくる薄水色の毛並み。
俺が手懐け、俺を裏切った狼だ。
「騙したな、トーマ!」
「”ボス”は倒したも同然だといった。こいつはボスじゃない」
『魔王』を前に行かせていたので、狼のヘイトが彼に向く。
全速力で迫る両の爪。
どうする、『魔王』?
これは試験といってもいい。
元腹心の狼を倒すことができれば、俺はこいつを尊敬に値するβテスターとして認めよう。
「俺が使役してたんだが、反抗されて殺された。とにかく倒してくれ」
「お前…」
何か言いたげな『魔王』だったが、即座に跳んで狼の突進をよける。
今の攻撃を躱せるのか。肉弾戦も相当に強いな、こいつ。
狼の連撃が襲い、図鑑を広げて魔物を召喚する隙がない『魔王』。
距離を取るなど、決して許してはくれないだろう。
格闘で応戦するしかないぞ。
「この悪魔め…」
『魔王』は俺に恨みを吐きつつ、繰り出される爪と牙を全て躱す。
「とんでもないやつに出会ってしまったな」
しかし、その口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
なんで嬉しそうなんだ。
最下位同士で争っても無駄だぞ。同率でドべだ。
「ふっ」
大ぶりの攻撃をヒラリと躱した『魔王』は、懐から短剣を取り出した。
これも初期装備だ。
どんなスキルの持ち主であっても、必ず初期装備に短剣が渡される。
「今楽にしてやる」
狼が足を踏ん張って跳躍する。
その瞬間に合わせて距離を詰めた『魔王』は、狼の首筋に刃を突き刺した。
「グゥッ…」
致命的なカウンターをもらい、途端に勢いを失った狼。
数歩ほど歩みを進めた後、ぐったりと倒れて動かなくなった。
ああ、狼よ。すまない。
命令するばかりで、俺はお前に何もしてやれなかったな。
「こいつがいなくても、お前は強くなれる。だから心配するな」
どうやら『魔王』は、俺が優秀な駒を失ったことに落胆していると思い込んでいる。
何やら嬉しそうにしながら近づいてきて、俺の肩にポンと手を置いてくる。
「悪いな。狼が魅力的で図鑑に乗せたかった。殺すしかなかったんだ」
試験は合格だ。
だが、お前は落第だ。
「え?」
俺は、初めてプレイヤーに対して【魂の理解者】を使用した。嘘だ、リリース初期の検証期間に何度もグレープで試した。
即座に手を突き入れ、魂を掴み、手を抜く。
至近距離、涅槃の速度で行われたこれらの行為に、『魔王』は当然反応できるはずもなく…。
「金貨はいらん。お前とのコネもいらん」
俺の一言を、ただ黙って聞くしかない『魔王』。
魂を失ったその肉体は、重力に従ってゆっくりと崩れ落ちた。
「狼は俺の仲間だった。俺は仲間を侮辱するやつを許さない」
”倒すのはいいけど、蔑むのはダメだったのか。………なんで?”
倒れる『魔王』の目は、そう物語っていた。
こいつもアイコンタクトの使い手か。かなりのゲーマーだな。
「それが、俺だからな」
一度会っただけで、人を理解できると思うな。
そう思いつつ俺は、手の中にあった『魔王』の魂を握りつぶした。
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祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
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※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
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───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
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渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
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この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
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「だが美人揃いだぞ?」
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※2023年11月25日に書籍が発売!
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最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
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