VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第二十一話

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 【第二十一話】

 『大図書館地下』の地下二階も、一階と同じような手法で走破した。

 本棚の上に乗って周囲を観察し、狼に乗り走って、たまに出会う魔物から逃げる。

 こんな裏技と言ってもいいような方法で、地下三階への階段を見つけた。

 地下三階~地下九階もこの手法で攻略した。

 同じことの繰り返しなので、全部カットだ。

 狼が強すぎる。騎乗したときのスピードが速すぎて、魔物との戦闘を拒否できる。

 おかげで、対して時間をかけずに地下十階まで到達できた。

 まさに捨てる神あれば拾う神あり、だ。

 自宅に軟禁され、不当な労働を強いられていた俺を、天は見放さなかった。

 これは俺が天から与えられた、ただ一回きりのチャンスだ。

 必ずここを攻略して、揺るぎない名誉を手に入れ、真の自由を得る。

 そう決意すると、俺は地下十階の扉を開けた。

「ゥ~…」

 隙間から狼が先行してくれる。

 さて、区切りのいい十階層目だ。

 待ち受けているのは、これまでと同じ光景か、それとも最深部か。

 地下十階は一階から九階までと異なり、広く大きな空間だった。

 床は板張りだが、天井だけでなく、入ってきた手前側以外の三方の壁も見えないほどに広い。

 間違いない。ここが『大図書館地下』の最深部だ。  

「う~ん…」

 目を凝らして奥の方を見ると、豆粒のように小さな人影が見える。

 あれがダンジョンボスか?

 狼を前に位置取らせ、慎重に歩いてそちらに進む。

「ウウゥ~…!」

 狼が唸り声を大きくし、纏う殺気を強める。

 ある程度近づくと、普通の体格をした人が一人、こちらに向かって手を振っていた。

 ローブを着ていて、人相が全く分からない。

 その正体は、敵か味方か。

 ダンジョンボスなのだから、味方であるはずはないな。

「よかった。やっと誰か来てくれたよ」

 声の届く範囲まで来ると、振っていた手を下ろして話しかけてくる謎の存在。

 よく見ると、両手には白い手袋をしている。

 また、フードをしっかりと被っていて顔が確認できない。

「あなたは誰ですか?」

 警戒しながら、敬語で話しかける。

 俺のモットーとして、初対面の人(?)に礼儀は欠かさないというのがある。

 その方が、好印象を持たれることが多いからだ。  

「あなたは賢さって言われて、何を思い浮かべる?」

「はい?」

 両手を肩の高さまで持ち上げながら、目の前の人物が問うてくる。

 いきなりなんだ?

「そう、人間だ。人間こそ賢さの象徴であり、全ての魔物が目指すべき終着点である」

 一切、会話が通じていない。

 今の時代、NPCとですらもっとまともにコミュニケーションができるぞ。

 OSOではプレイヤー以外の全ての生き物に高度なAIが搭載されているから、これは魔物でも言えることでだ。

 だから論理的な言動が期待できないとなると、錯乱したプレイヤーという可能性も浮上してくる。

 タッチの差で、俺よりも早く『大図書館地下』を攻略したソロの玄人?

 いや、そんなはずはない。

 人の形をしているが、『全ての魔物が目指すべき終着点』という発言からも、十中八九魔物だろう。

「だから僕は目指したんだよ、そして到着した」
 
「もう一度訊く。お前は誰だ?」

 目の前の何かは、両手を頭の後ろに持っていきながら話を続ける。
  
「僕?そうだなあ、なんて呼べばいいだろう?」 

 しかしここで、今まで常識とされている大前提がある。

 人語を介する魔物なんて、いるはずがない。

「強いて名乗るとするなら、『ゴブリン・ワイズ』かな」

 そう言ってフードを外す彼、『ゴブリン・ワイズ』。

 その顔立ちは端正だったが、肌は緑色。

 完全にゴブリンのそれだった。

 いたわ。目の前に。

 そう思った、瞬間。

 俺の目の前に、『ゴブリン・ワイズ』が現れた。

「なにっ!?」

 俺とこいつの距離は、数メートルほどあった。

 まさか、狼の全速力以上の速さで距離を詰めてきたのか?

「僕はねえ」

 ゴブリン・ワイズはそう言って俺の首を掴み、そのまま体を持ち上げる。

「人間になったんだ。だから…」

 俺はすかさずワイズの腹に腕を入れようとするも、それ以上の速さで床に叩きつけられる。

 やはり速い!

「…『オリジナルスキル』を持ってるんだ」

 後頭部を激しく強打する。

 あまりの衝撃で、視界が揺らぐ。

 俺たちプレイヤーに与えられるスキル、『オリジナルスキル』を持っているだと!? 

 まあ、『悪魔』も持っていたし不思議なことではない、のか?

「グラアァッ!」

 スピードが止まった好機を見て、狼が跳びかかる。

 しかしワイズは俺を掴む腕を放し、最初いた位置に移動した。 

「僕は人間なんだ!努力の末、僕は天に選ばれたんだ!」

 奇遇だな。俺も今日、天に選ばれたんだ。

 自由になった俺は、すっくと立ち上がる。

 先ほどの攻撃は効いたが、意識を失うほどではなかったみたいだ。

 床をちらと見ても、漫画でよくあるような亀裂は走ってなかった。

 今度は油断しない。

 やつのスキルはずばり、『瞬間移動』だ。

 恐らく、視界に捉えた位置に瞬間的に移動するか、転移するスキル。

 移動の場合は、障害物が間にあると成功しないとか、筋肉に負荷がかかるとか、そんな感じの制約がありそうだ。

 転移の場合だと制約は…、思いつかない。

 よって、やつのは『移動するスキル』と考えることにする。

「どっちからにしようかな?」

 今度は狼の眼前に瞬間移動するワイズ。

 そして避ける暇も与えず、狼を思いっきり蹴り飛ばす。

「ギャン!」

 しかし座標を指定するスキルなのに、杖を必要としないのか。

 これも、魔物である『悪魔』と同じだな。

 なので、やっぱりこいつは魔物の範疇から抜けられていない。

「やめろ、魔物風情が」

「あ?」

 こちらを振り向き、怒りを露わにするワイズ。

 魔物に魔物と言って、何が悪い。

「僕は人間だ!」

 よくよく考えると、転移するスキルであるのならば、俺がここに入った瞬間に転移すればいいはずだ。

 だが、そんなことはしなかった。

 それはなぜか?

「こいよ、魔物」

 何故なら、やっぱりこいつのスキルは『移動するスキル』だからだ!

 天に愛されていたのは、俺だったようだな!

「殺す!」

 再び、俺の目の前にテレポートするワイズ。

 来ると分かっていれば、こっちのもんだ!

 狼との戦いで研ぎ澄まされた魂を引き抜く技を、ここで発動する。

「…!」

 即座に手を突き入れる。

 こいつは蹴るときに右足を使う。

 だから半身になり、左へ体を傾けて蹴りを躱し、右腕を腹にめり込ませる。

「…っ!」

 即座に魂を掴む。

 ワイズが視線を下ろし、目を丸くする。

 そのリアクションで、充分時間が稼げた。

 奥にある魂をしっかと握りしめる。 

 知能は蓄えたようだが、大きさも重さも至って普通のゴブリンだな。

「!?」

 即座に手を抜く。

 焦ったワイズが目を跳ね上げ、俺の後ろのどこかの地点へと焦点を合わせる。

 瞬間移動で逃げるつもりか。

 だが、俺の方が速い。

「っ!!」

 力を込めて息を飲む。

 わずかな時間の中で、俺は腕を素早く動かし魂を引き抜いた。

 一連のアクション、トータルで一秒あったかどうかくらい。 

 急激な動きに右腕が悲鳴を上げるが、何とかもってくれた。

「……」

 先ほどまでの威勢から一転。

 魂を失くした『ゴブリン・ワイズ』は呆気なくくずおれた。

 勝った。

 これで少なくとも減刑。

 いや、逆転で無罪になるか。

「ふう」

 勝利を確信し、集中を解く。

 後はトドメを刺して、『大図書館地下』をダンジョンでなくさせるだけ。

 初期装備の短剣を鞘から抜いた次の瞬間。

 俺は背後ににじり寄ってきていた狼のトップスピードの突進を食らって、呆気なく死んだ。

 どう、して? 

 急に暇になったので、リスポーンするまでの一分間、頭を回転させて考える。

 あ。

 もしかして、俺がワイズに言った『魔物風情が』というワードを聞いて、自分も下に見られていると思ったのか!?

 えええ?

 まさに、驚き桃の木山椒の木。

 狼は賢いと聞くが、気位が高いにもほどがあるだろ!

 ダンジョンボスは実質倒したのはいいが、トドメを刺せずに放置してしまった。

 それも、多種多様な魔物が徘徊する迷宮の一番下。地下十階層に。

 ………。

 どうするんだ、これ?
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