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第十四話
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【第十四話】
イベント開始から二週間後の今日。
いつものグループで『悪魔』を狩り終えた俺は、マイハウスに帰ってきた。
靴を脱いで、家の横っ腹に開いている穴から和室に入る。未だマドリさんに修理を頼めていない。
『スキルジェム強盗事件』で信用を失ったのと、家がこの有様なので、グレープとハッパは別の場所でスキル付与に追われている。
ちゃぶ台の側に座り込んで、先ほどの戦いを振り返る。
俺たちのグループは初日(1日目)、8日目、そして今日、15日目のローテーションで狩りをしてきた。
イベント『悪魔の降臨とスキルジェム』の開催期間は三週間なので、俺たちが『悪魔』を狩るのは今日で最後だった。
しかし今日の『悪魔』は拍子抜けだった。
炎を生み出し、操るスキル持ちだったのだが、充分離れた距離にいればあちらの攻撃を避けるのが簡単だったのだ。
そのため、ニヒル、Z、ビヨンドが中距離からナイフを投げてるだけで倒せてしまった。
俺の出番は無かった。まあ近距離全振りみたいな『悪魔』だったし、仕方がないか。
隙間風と人の目が気になるので、洋室に移動する。
キッチンでお湯を沸かし、お茶を淹れる。やかんと急須、湯飲みはNPCの店で買った。
ダイニングテーブルに移動し、お茶を飲む。
うん、味がしない。熱くもない。ゲーム内だから仕方がない。
冷蔵庫からレーションを取り出し、お茶と一緒に食べる。
このレーションは、ヴァーミリオンのスキルによって作り出された。
煩わしい食糧問題を解決した、『レーション事件』は、まだ記憶に新しい。
最も、彼がプレイヤーたちに拘束されたままレーションを大量に生産して過労死しただけなんだが。
なーんて無意味なことを考えていると、インターフォンが鳴った。
この有様のこの家で律儀にインターフォンを!?
いったいどんな人格者なんだ?と思いながら玄関のドアを開けると、懐かしい顔ぶれが並んでいた。
「んーと、えーと」
「マモルだ。こっちがコースケ、ライラ、リン」
「あっ、そうだった、そうだった。いや、最近物忘れがひどくて」
適当なことを言ってごまかす。
彼らはユルルンの街に行ったときに出会った、初心者パーティだ。
「掲示板で有名な人が俺たちの命の恩人だったことが分かったから、挨拶しに来たんだ」
洋室に移動すると、一番話せるマモル君が話を振ってくれる。
「なんで渦中の人物が俺だって分かったんだ?」
「本人の前では言いづらいが、スクショが晒されていたからだ」
スクショとは、スクリーンショットの略で、画面を撮影した写真のことを指す。
そしてOSOにはスクショが基本搭載されてない。リアル志向だからな。
だから写真を撮るには、カメラを買うか特定のスキルを使う必要があるのだが、今回は後者だな。
「フォトズだな。ついに撮られたか」
「本人が上げてたのでそうだな」
掲示板の匿名性を捨ててまで俺のスクショの信憑性を上げに来たか。強かなやつだ。
フォトズというプレイヤーは、【OSOすぎる速報】という、遅いんだか速いんだか分からない名前をしているクランのメンバーだ。
【OSOすぎる速報】は、どのオンラインゲームにもいるような、メディア系のクランだ。
ゲーム内で起こった面白いことを記事にして、ゲームの中で配ったり、スキャンダラスなスクショを掲示板に晒したり、やりたい放題の集団である。
しかし、ここのマスターは文章を書く才があり、攻略Wikiの編集者でもあるので、このクランは決して無碍には出来ない、目の上の瘤のような立ち位置にいる。
「なーそれよりさ、トーマは『悪魔』倒した?めっちゃ強くね!?魔物のパワーあるくせにスキル持ちって、チートかよって感じだよな!」
めっちゃフランクにコースケが訊いてくる。
「俺は既にマイハウスを持ってたから、ローテーションに入れてもらって毎週狩ってたぞ。今日も倒したしな」
ユルルン周辺の平原に湧く『悪魔』の討伐ローテーションは、該当区域にマイハウスを持っている者だけが参加する、というような、暗黙のルールみたいなのがあった。
俺は別にそんなの気にしないけどな。皆で好きに狩ればいいじゃんとは思う。
「やっぱトーマってすげーな!」
そして褒めてくれる。こういうメードメーカーがいると元気をもらえるな。
「仲間たちが強かっただけだ。戦闘はまだまだ半人前だ」
適当に謙遜する。
「それで、何か要件があったんだろ?何の用だ?」
「流石、鋭いですね。……実は、私たちと一緒に依頼を受けてほしいんです」
ライラが話を切り出してくる。
「依頼ってことはアイテム取りに行くやつか?それとも、商人の護衛?」
「商人の護衛の方です」
冒険者ギルドから交付される大抵の依頼は、『アイテム持って来い』系か『商人の護衛』かのどちらかだ。
「私たち、クランハウスを買うために依頼をこなしてるんです。護衛の依頼を受けたのもその一環で、でも……」
言葉を詰まらせるライラ。どうしたんだ。
「PKにあったんです。正確にはPKプレイヤーにキルされました」
代わりに話を続けるリン。
「攻略Wikiを読んで全員『持たざる者』スタイルだったので、お金くらいの被害しかなかったですけど、商人の荷物が奪われてしまって」
基本的に、略奪された品は返ってこない。商人の積み荷は諦めた方が良い。
「それは災難だったな。でも、化け物みたいに強いPKプレイヤーもいるから、あまり気にしない方がいいぞ」
俺は隣人のことを思い浮かべながら、4人をフォローする。
「キルされたこと、依頼を失敗したことは気にしてない。俺らが弱かっただけだ。問題は、護衛依頼を俺たちだけで達成するのは難しい、ということだ」
再びマモルが話し始める。
そうだな。息の合ったパーティでも、商人と荷物を守りながら戦うというのは難しい。
「恥ずかしながら、俺たちはフレンドと呼べるものが少なくてな。こういうことを頼める相手がいないんだ」
「だから俺のところに来たって訳か」
「そうだ…。どうだろうか?受けてくれるか?」
コースケ以外の三人が俯きがちになり、上目遣いでこちらを見てくる。
「いいよ。私とトーマで行こう」
!?
この声は……。
「こんにちは~、横穴から失礼するよ」
「あ、お前!!」
「参ったな…」
「どうしてここに……」
「離れて!ライラ!」
4人が過敏な反応を示す。もしかして、彼らがキルされたPKプレイヤーって……。
「あ、君たちはこの間殺したプレイヤーたちじゃないか。奇遇だね」
化け物みたいに強いPKプレイヤーの隣人、ニヒルが何でもないことのようにのたまうのだった。
イベント開始から二週間後の今日。
いつものグループで『悪魔』を狩り終えた俺は、マイハウスに帰ってきた。
靴を脱いで、家の横っ腹に開いている穴から和室に入る。未だマドリさんに修理を頼めていない。
『スキルジェム強盗事件』で信用を失ったのと、家がこの有様なので、グレープとハッパは別の場所でスキル付与に追われている。
ちゃぶ台の側に座り込んで、先ほどの戦いを振り返る。
俺たちのグループは初日(1日目)、8日目、そして今日、15日目のローテーションで狩りをしてきた。
イベント『悪魔の降臨とスキルジェム』の開催期間は三週間なので、俺たちが『悪魔』を狩るのは今日で最後だった。
しかし今日の『悪魔』は拍子抜けだった。
炎を生み出し、操るスキル持ちだったのだが、充分離れた距離にいればあちらの攻撃を避けるのが簡単だったのだ。
そのため、ニヒル、Z、ビヨンドが中距離からナイフを投げてるだけで倒せてしまった。
俺の出番は無かった。まあ近距離全振りみたいな『悪魔』だったし、仕方がないか。
隙間風と人の目が気になるので、洋室に移動する。
キッチンでお湯を沸かし、お茶を淹れる。やかんと急須、湯飲みはNPCの店で買った。
ダイニングテーブルに移動し、お茶を飲む。
うん、味がしない。熱くもない。ゲーム内だから仕方がない。
冷蔵庫からレーションを取り出し、お茶と一緒に食べる。
このレーションは、ヴァーミリオンのスキルによって作り出された。
煩わしい食糧問題を解決した、『レーション事件』は、まだ記憶に新しい。
最も、彼がプレイヤーたちに拘束されたままレーションを大量に生産して過労死しただけなんだが。
なーんて無意味なことを考えていると、インターフォンが鳴った。
この有様のこの家で律儀にインターフォンを!?
いったいどんな人格者なんだ?と思いながら玄関のドアを開けると、懐かしい顔ぶれが並んでいた。
「んーと、えーと」
「マモルだ。こっちがコースケ、ライラ、リン」
「あっ、そうだった、そうだった。いや、最近物忘れがひどくて」
適当なことを言ってごまかす。
彼らはユルルンの街に行ったときに出会った、初心者パーティだ。
「掲示板で有名な人が俺たちの命の恩人だったことが分かったから、挨拶しに来たんだ」
洋室に移動すると、一番話せるマモル君が話を振ってくれる。
「なんで渦中の人物が俺だって分かったんだ?」
「本人の前では言いづらいが、スクショが晒されていたからだ」
スクショとは、スクリーンショットの略で、画面を撮影した写真のことを指す。
そしてOSOにはスクショが基本搭載されてない。リアル志向だからな。
だから写真を撮るには、カメラを買うか特定のスキルを使う必要があるのだが、今回は後者だな。
「フォトズだな。ついに撮られたか」
「本人が上げてたのでそうだな」
掲示板の匿名性を捨ててまで俺のスクショの信憑性を上げに来たか。強かなやつだ。
フォトズというプレイヤーは、【OSOすぎる速報】という、遅いんだか速いんだか分からない名前をしているクランのメンバーだ。
【OSOすぎる速報】は、どのオンラインゲームにもいるような、メディア系のクランだ。
ゲーム内で起こった面白いことを記事にして、ゲームの中で配ったり、スキャンダラスなスクショを掲示板に晒したり、やりたい放題の集団である。
しかし、ここのマスターは文章を書く才があり、攻略Wikiの編集者でもあるので、このクランは決して無碍には出来ない、目の上の瘤のような立ち位置にいる。
「なーそれよりさ、トーマは『悪魔』倒した?めっちゃ強くね!?魔物のパワーあるくせにスキル持ちって、チートかよって感じだよな!」
めっちゃフランクにコースケが訊いてくる。
「俺は既にマイハウスを持ってたから、ローテーションに入れてもらって毎週狩ってたぞ。今日も倒したしな」
ユルルン周辺の平原に湧く『悪魔』の討伐ローテーションは、該当区域にマイハウスを持っている者だけが参加する、というような、暗黙のルールみたいなのがあった。
俺は別にそんなの気にしないけどな。皆で好きに狩ればいいじゃんとは思う。
「やっぱトーマってすげーな!」
そして褒めてくれる。こういうメードメーカーがいると元気をもらえるな。
「仲間たちが強かっただけだ。戦闘はまだまだ半人前だ」
適当に謙遜する。
「それで、何か要件があったんだろ?何の用だ?」
「流石、鋭いですね。……実は、私たちと一緒に依頼を受けてほしいんです」
ライラが話を切り出してくる。
「依頼ってことはアイテム取りに行くやつか?それとも、商人の護衛?」
「商人の護衛の方です」
冒険者ギルドから交付される大抵の依頼は、『アイテム持って来い』系か『商人の護衛』かのどちらかだ。
「私たち、クランハウスを買うために依頼をこなしてるんです。護衛の依頼を受けたのもその一環で、でも……」
言葉を詰まらせるライラ。どうしたんだ。
「PKにあったんです。正確にはPKプレイヤーにキルされました」
代わりに話を続けるリン。
「攻略Wikiを読んで全員『持たざる者』スタイルだったので、お金くらいの被害しかなかったですけど、商人の荷物が奪われてしまって」
基本的に、略奪された品は返ってこない。商人の積み荷は諦めた方が良い。
「それは災難だったな。でも、化け物みたいに強いPKプレイヤーもいるから、あまり気にしない方がいいぞ」
俺は隣人のことを思い浮かべながら、4人をフォローする。
「キルされたこと、依頼を失敗したことは気にしてない。俺らが弱かっただけだ。問題は、護衛依頼を俺たちだけで達成するのは難しい、ということだ」
再びマモルが話し始める。
そうだな。息の合ったパーティでも、商人と荷物を守りながら戦うというのは難しい。
「恥ずかしながら、俺たちはフレンドと呼べるものが少なくてな。こういうことを頼める相手がいないんだ」
「だから俺のところに来たって訳か」
「そうだ…。どうだろうか?受けてくれるか?」
コースケ以外の三人が俯きがちになり、上目遣いでこちらを見てくる。
「いいよ。私とトーマで行こう」
!?
この声は……。
「こんにちは~、横穴から失礼するよ」
「あ、お前!!」
「参ったな…」
「どうしてここに……」
「離れて!ライラ!」
4人が過敏な反応を示す。もしかして、彼らがキルされたPKプレイヤーって……。
「あ、君たちはこの間殺したプレイヤーたちじゃないか。奇遇だね」
化け物みたいに強いPKプレイヤーの隣人、ニヒルが何でもないことのようにのたまうのだった。
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