VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第四話

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【第四話】

「しかし、大通りは混んでるな」

「仕方ねえだろ、今一番熱い街だからな」

「どの店も品揃え多いし、NPCの店でも結構ヤバいよ」

 俺とグレープ、ハッパはユルルンの街の大通りを歩いていた。

 さっきまで二人に俺の新居をお披露目していた。とはいえ、廊下の穴はまだ修復できていなかったので布を被せてごまかすことにはなったが。

 家の外見を見せた時には二人は驚いてくれたが、がらんどうの中を見るとすぐさま、家具を買いに行こうと、口を揃えて言い出した。

 そのため、『預かり屋』でお金を下ろし、こうしてお店を探している。

「あんないい家なのに中身がスカスカだともったいないだろ」

「ウチらも使うんだから充実してた方がいいでしょ」

 え?ウチらも使うってどういうことだ?

「今までさんざん検証に付き合ってあげたじゃん。その借りを返すってことで、ウチとグレープの拠点としても使わせてって言ってんの」

 確かに、この約一か月間、グレープとハッパには仕様の検証に付き合ってもらっていた。

 彼女に下手に歯向かうと爆死させられるので、首を縦に振るしかない。

「……わかった。いつでも来てくれ。ストレージボックスには奇麗にしまえよ」

「やった!」

 ここでの拠点として使わせろ、はストレージボックスを使わせろ、という意味だ。

 ソロプレイヤーにとって、マイハウスを買うというのは敷居が高い。そのため、マイハウスの所有者のみに与えられるストレージボックスを利用することも、当然できない。

 そこで、ソロであるハッパは半ば脅すような形で、使わせろと言ってきたわけだ。

「でもいいのか?高かったんだろ、マイハウス?」

 グレープは変なところで律儀だ。

「いいよ。一人も二人も変わらない」

「そりゃあ助かるぜ。手数料も馬鹿にならないからな」

 『預かり屋』に預けたアイテム、お金を引き出すのには手数料を持ってかれる。そのため、ストレージボックスを使う方がお金を節約できる。

「着いたよ!ここなら大抵の家具が手に入るんだって!」

 俺たちは大通りに面する家具屋に到着した。

 なかなか大きな店だ。ショーウインドウにはオシャレな造りの木のイスとテーブルが並べられていた。

 まだOSOがリリースしてから一か月も経っていない。こんなに大きな店を構えられるほどのプレイヤーはいないだろうから、NPCの店だな。

「こんにちは」

 とりあえず挨拶して中に入る。

「いらっしゃいませ、どのような製品をお求めでしょうか?」

 店員さんが訊きに来てくれたので、俺は新築に必要な家具を買いに来たと伝える。

「それでしたら私が一つずつご案内致しますね」

「ありがとうございます」

「えー、ウチらで選んだ方がよくない?」

「俺の家なんだから俺の勝手だろ」

 ハッパは不満げだが、買い物にあまり時間をかけていられない。この後にもやりたいことがあるのだ。

「それではご案内致します」

 店員さんに連れられて、俺は家具一式を購入した。具体的には、玄関マット、4人分の布団、ちゃぶ台、ダイニングテーブルと4脚のダイニングチェア、2つのベッド、2つのクローゼット、2つのキャビネット、置時計と壁掛け時計をいくつかだ。

 和式の家具も売っていてよかった。ここだけで家具を揃えることができた。

「よし、帰るぞ」

「すげー、このベッドフカフカだぞ!」

「えーもう帰るの?」

 会計を済ませた俺はグレープとハッパに声をかけた。というか、寝具で遊ぶな、グレープ。

「今日はもう一軒寄るところがあるから、早く済ませたいんだ」

「そうなの?」

「ああ」

「このイスすっげーしなるぞ!暴れても全然壊れねえ!」バキッ

 せっかく街まで来たし、人手もある。二人に手伝ってもらおう。

 そしてグレープはいい加減売り物で遊ぶのやめろ。小学生か。


 ※※※


 この後、ある店に寄ってからマイハウスに戻ってきた。

 俺は家具をひとしきり飾った後、ちゃぶ台を囲んでいる二人の元に向かう。

「それにしても、つるはしとヘルメット、それにバケツとシャベルなんて、どこかで鉱石でも掘るのか?」

 グレープが至極真っ当の質問をしてくる。

「まあ、それは後でわかる。とりあえず、外に出るぞ」

 俺は二人を連れて外に出る。そのまま家の裏手に回る。

「よし、着いたぞ」

 ここは家の背後にそびえ立つ街の外壁だ。この位置は家が死角になって外からは見えず、家と壁に挟まれていて陽の光が差し込まず、暗い。

 外壁の高さは5メートルくらいあるだろうか。厚さはわからないが、おそらく1メートルあるかないかくらいだろう。

「まさか、この壁を掘るの?」

「そうだ。二人も実感しただろ。いちいち遠回りして南門まで行くのはめんどくさいからな」

「だから壁に穴開けようってわけか。考えることがいかにもトーマっぽいな。合理的なのかよくわからないところが」

 何を言っている。俺は効率を重視しているだけだ。これも100%合理的だろう。

「あの、ウチの魔法で穴開ければよくない?」

「それだと大きな音がして住民にバレるだろう。きれいな穴が空くかもわからないしな」

「あ、ちゃんと悪いことしてるっていう自覚はあるんだ……」

 人がちゃんと通れるような通路を作りたい。ハッパの魔法でも壁はブチ抜けると思うが、壁全体が崩落する恐れがある。あまり目立つようなことはしたくない。

「それじゃあ、工事を始めるぞ。グレープは真っ直ぐ掘り進めてくれ。俺が後ろから穴を広げながら着いていく。ハッパは出てきた土砂をバケツで外に出してくれ」

 そう言ってつるはしを2本、ヘルメットを3つ、バケツとシャベルを1つずつ出した。未だ呆けている二人に道具を配る。

「ま、まあ収納使わせてくれるんだし、協力してもいいんじゃないか、ハッパ?」

「そ、そうだね。これは必要なこと……必要なこと…」

 二人も決意をしたようだ。

 街の条例や法律などは知らないが、『外壁に穴を開けてはならない』なんて条項はないだろう。よって、今からする行為は別に罪に問われないはずだ。

 まあ、アウトだとしても二人の共犯者がいる。ただでは転ばんよ。道連れになって一緒に地獄に落ちようぜ。 

「もうちょい右、いきすぎ、ちょっと左。おっけー。そこから掘り始めてくれ」

ガンッ、ガンッ、ガンッ。

 硬い物同士がぶつかり合う音が辺りに広がる。これでも結構うるさいな。

 外壁はレンガ造りになっている。店売りの、性能が半端なつるはしでも掘ることができる。 

 グレープの掘削作業は、最初はぎこちなかったが、時間が経つにつれて慣れてきたようだ。

ガンッ、ガンッ、ガンッ。

 一定のリズムでつるはしを叩き付ける音が響く。

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ。

 小刻みにつるはしを振って穴を広げていく俺。

ザッザッザッ。………ザザーッ。

 シャベルで土砂をバケツに入れ、外に運んで中身をぶちまけるハッパ。

ガンッ、ガンッ、ガンッ。

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ。

ザッザッザッ。………ザザーッ。

「…ゲームの中で何をしているの、ウチら……?」

 言うな。将来の栄光(ショートカット)は俺たちが掴むんだ。

ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガラガラガラ。

「やったぞ、向こう側に通じた!」

「よし、そのまま穴を広げてくれ」

 ついに開通したな。

 穴を十分広げた俺は、シャベルとバケツに持ち替え、周りの土砂を片付ける。

 バケツを一杯にして外に向かうと、何やら話し声が聞こえる。

「こんなところで何をしているの?ここはトーマの家なんだけど?」

「いや、ウチはトーマのフレンドで……」

「トーマが穴を掘れって言ったの?そんなこと言うわけないじゃん常識的に考えて」

「いや、本当にそうなんだけど……」

「嘘ついてないで観念したら?どこのクランから来た?」

「おい、ニヒル。ハッパをいじめないでくれ」

 俺は穴から出て、二人の話の割って入る。なんと、ニヒルがハッパにナイフを突きつけていた。

「やめろ。俺たちは作業中なんだから、物騒なモノはしまってくれ」

「トーマ!?ほんとにやってたの?ガイアに穴開けられたからって外壁に八つ当たり?」

「違うわ!わざわざ南門か東門の方に行くのが面倒だから、新しい出入り口を作ってるんだ」

「ええ……?」

 何で理解できないといった目で見てくるんだ。

「そういうわけで、私ともう一人がトーマに付き合わされてるってわけ」

「…状況は分かったけど、私はトーマの頭の中がよく分からなくなってきたよ」

 ニヒルはそう言ってナイフをしまった。同時に、ハッパが安堵のため息をつく。

「おおい!向こうの穴を広げ切ったぞ!……って何してるんだ二人と、も……」

 グレープが穴の中から出てくるが、ニヒルの方を見て言葉を詰まらせた。

「どうかしたかな?君は殺したことないと思うし、初対面のはずだけど」

「………お、おい、トーマちょっと来い!」

「ちょっ、どうしたんだよ!」

 グレープが俺の袖を掴んで引っ張ってくる。そのままハウスの影まで連れてこられる。

「それでどうした、グレープ?」

「どうしたもこうしたもねえよ!めちゃくちゃかわいいじゃねえか!彼女!」

 ははーん。そういうことね。

「でもあいつ、ニヒルっていうんだが、性別不詳だぞ。男だったらどうすんだよ」

「そんなの関係ねえ!ニヒルちゃんだな!!早速お近づきになってくるぜ!」

「ええ……?」

 一人で興奮して話を終わらせた挙句、勝手に飛び出していったグレープ。

 果たして、オンラインゲームで恋は実るのだろうか。

 OSOでは、キャラクターメイクの時に性別を変えることができない。身長や体重もいじれない。現実との乖離がひどいと、リアルでの生活に支障を来すからだそうだ。

 逆に言えば、性別、身長、体重以外の容姿は好きに変え放題だ。髪型から顔の造り、筋肉、脂肪のつき方などは自由に調整できる。

 これを利用し、実際の体重が100キログラムあるのに細い体つきにしたり、50キログラムなのにめちゃくちゃごつい体つきにすることで、相手の意表を突くことができる。主にPvPで使われる裏技だ。

 よって、ニヒルも外見を自分好みにいじっているはずだ。グレープの恋は無残な結果に終わるだろう。

 というか、VR内での恋愛なんて成り立つのだろうか。VRMMOも普及して久しいが、聞いたことないぞ。

「…こ、こんにちは!自分、グレープって言います!職業は剣士してます!スキルは…ってぐもっ」

「グレープ、初対面の人にスキルまで話しちゃだめだよっ」

 ぺらぺらと口が回るグレープの背後から口をふさぐハッパ。逃れようとして暴れるグレープ。

「よくわからないけど、面白いね、グレープ」

 その様子を見てニヒルが一言感想を漏らすと、グレープの動きが止まった。

「面白い……面白い……面白い……」

 グレープがうわごとを繰り返す。

「…ああ、そういうこと……。ふーん」

 ハッパが気づいたようだ。俺にアイコンタクトしてくる。

”そういうことだ。叶わぬ恋で付き合うだけ無駄だが、少しの間協力してやろう”

”そうだね。どうせ無駄だろうけど、友達の恋は私たちがサポートしてやらなきゃね”

 鼓膜を幾度となく破ってきた俺たちは、その代償としてアイコンタクトによる会話を身に着けた。簡単なやり取りくらいは目の動きのみで伝え合うことができる。

「…話が一区切りついたみたいだし、出来上がったトンネルを見に行こう。ニヒルも来るか?」

「もちろん」

「グレープが一番頑張ったからさ、ぜひ見に行ってよ」

 適当なフォローを入れるハッパ。

 俺たち三人とニヒルは薄暗いトンネルを進んでいく。

 しかし、出来合い感がすごい。崩れた壁の残骸がむき出しになっていて、崩れるのではないかという不安を抱かせてくれる。

 そんなことを考えている間に、光が見えた。やっぱり厚さは1メートルくらいだ。トンネルとは言えないくらいの長さだな。

「おおーっ。ちゃんと街の中だね」

 深いようで当たり前の感想を言うニヒル。

 通路の向こう側はユルルンの裏路地、外壁沿いの通りになっている。このトンネルと狭い路地を進むことで、ほぼ直線距離で街の中央にたどり着くことができる。よって、南門や東門を経由する遠回りな道よりも時間を節約できるというわけだ。

「ここを『南東門』として、掲示板で発信してくれ。三人とも、頼めるか?」

「なんかよく分からないが、分かった!」

「いいけど、せっかくウチらで掘ったのに、独占しないんだ、ここの通路?」

「むしろみんなに利用してほしいんじゃない、トーマ?」

「まあな」

 ニヒルは分かっているようだ。

 俺が『南東門』を作った理由は、主に二つある。

 一つは、プレイヤーの往来の活性化だ。

 お隣のクランハウスが悪名高い【暗殺稼業】なので、ガイアの時のような流れ弾が今後も飛んでくることが予想される。そこで、俺の家付近の人通りを増やすことで、【暗殺稼業】に対する復讐行為への抑止力になると考えた。

 まあ復讐者がそんなこともお構いなしに攻撃してきたら、知らん。

 そしてもう一つの理由は、生産活動の活性化だ。

 OSOの街の東西南北の大通りは、NPCが経営する店で敷き詰められている。そのため、生産職が大通りに店を構えるには、店主のNPCと交渉して店を売ってもらうか、NPCの店主に師事をして店を譲ってもらうしかないのだ。

 一つ目の方法は、自分が店を構えたい立地を選べるといった利点があるが、店主と仲良くならないといけないので、多少時間がかかる。さらに、店の購入額が目が飛び出るほど高いので、金銭面でのハードルも高い。

 二つ目の方法は、自分がやりたい生産職種を得意とするNPCが構えている店に師事をする形になるので、好きな立地を選べない。しかし、師匠のNPCが生産活動のやり方を教えてくれるので、非常にためになるらしい。また、店を『譲ってもらう』ので、お金を払わずに店を手に入れられる。店主の好感度がMAXにする必要があるので結構時間がかかるらしいが。

 話が長くなってしまったが、要するに生産職が店を手にするのはめちゃくちゃ大変なのだ。

 そのため、クランのお抱え以外の生産職のほとんどは、大通りから外れた路地の端っこで、シートを広げて露店を開いている。裏路地にも店はあるが、だいたいが住宅街なのでスペースがある。

 このような情報を掲示板から仕入れてきた俺は、もっと広い、露店用の場所がある、と考えた。

 それが外壁の内側沿いの通りだ。

 この外壁の内側は、外壁沿いに道が伸びているのだが、単なる通路としての役割しかなく、人通りもほとんどない。

 これを利用しない手はない。多くの生産職が外壁の内側沿いに露店を開くことで、露天市場ができるのではと考えたのだ。

 『南東門』があることで、外壁の内側沿いに人通りが増え、市場が活性化すること間違いなしだ。

 というようなことを三人に説明した。

「はえー。やっぱ頭いいな!半分も分からなかったぜ!」

「ウチもよく分かんなかったけど、生産職が助かるならいいね」

「私らとしたら、あんまり人通り増えてほしくないけどね。まあ灯台下暗しって言うし、いいのかな?」

 三人もとりあえず納得してくれたみたいだ。

「それじゃあ、解散!『南東門』についての拡散頼んだぞ」

 こうして、俺のマイハウスの裏にできた新しい出入り口、『南東門』は多くの人に知られるようになった。

 それに伴い、生産職の協力もあり、外壁の内側沿いの通りに露天市場、『ユルルンマーケット』ができた。

 門と市場は多くのプレイヤーが利用するようになり、多くのプレイヤーが笑顔になった。

 これにて、めでたしめでたし、といきたいのだが……。

 『南東門』を掘り終えて数日後。

『ニヒルゥゥゥッッ!!』

ドガアアアアアンッ!!

 またPKされたのだろう。勢い余って俺の家の壁を破壊するガイアさん。いや、ガイア。

 彼女にも一連の経緯を教えたはずだが……と頭を抱えていると、

「マーケットの治安を乱すのは許さないよっ!」

 いつの間にかできていた市場の治安維持隊に入隊したハッパが、颯爽と現れ杖を構える。

「おい、俺の家があるんだぞ!」

「問答無用、まとめて吹き飛べ!!」

 ハッパの唱えた爆発魔法が炸裂し、付近のプレイヤーは皆死亡した。

 爆発オチなんて今さら時代遅れだぞ!

 遺体となってリスポーンの時間を待ちつつ、余計にひどくなった日常を憂うのだった。
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