VRMMO【Original Skill Online】

LostAngel

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第二話

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ユルルンの街は最もプレイヤー人口が多い。それはなぜかというと、街とその付近にダンジョンがあるからだ。

 ダンジョンというのは、迷宮のような複雑な構造をした特別なエリアのことを指す。

 主な特徴としては、普通のフィールドよりも魔物のスポーン率が高い、『スポーンの活性化』と、ダンジョン内に人間がいない時、瞬時に中の構造がランダムに変化する『構造のリセット』、ダンジョン内で死亡しても何もロストせず、入り口でリスポーンできる『デスペナルティの緩和』がある。

 これらの仕様のおかげで、デスペナルティが重いOSOの世界でも素材集めがやりやすくなる。

 素材が集めやすいということは、強い装備を作れるということであり、生産職に人気があるということだ。

 さらに、街に生産職が住み着けば、必然的に強い装備、武器を求めて戦闘職も集まる。

 このような正の循環によってプレイヤーが集まり、ユルルンは最も活気づいている街となっている。

 あと他にも理由はあるのだが、長くなるのでまた今度。

 さて、ユルルンの街と付近のフィールドには、合計三つのダンジョンがある。

 まず、『螺旋の塔』。読んで名のごとく塔の形をした建物のダンジョンだ。

 内部は人一人分の幅の螺旋階段があり、一階分の高さごとに左手、螺旋の内側に宝箱が配置された小部屋が生成される。

 階段には魔物が湧くので、プレイヤーは勾配のある地形で一対一の戦いを強いられる。

 更にこのダンジョンはユルルンの街の中にある。敷地面積が狭く、『スポーンの活性化』で魔物が無限に湧いてダンジョンから溢れてしまうため、定期的に攻略に挑戦しなければならない。

 なので、プレイヤーたちは果敢にも挑むのだが、階段の幅が狭すぎてパーティで挑んでも数の利を活かせない。また、出現する魔物の種類がランダムのため、ソロで挑んでも相性の不利な相手に遭遇して詰む。

 また、小部屋は魔物が湧かないが安全な場所というわけでもなく、普通に魔物が入ってくる。小部屋の入り口は一か所なので、魔物から逃げて小部屋に入っても詰む。

 このような事情のため、攻略難度が高いにもかかわらず、定期的に攻略に行かなければならないという、プレイヤー泣かせの状態になっている。

 この現状に動いたのが、βテスターたちである。

 彼らは大半がベータテストの経験を活かし、クランを結成している。

 説明はいらないかもしれないが、クランというのは、同じ志を持ったプレイヤーの集まりみたいな感じだ。

 話が逸れたな。とにかく、βテスター率いるクランたちが、ローテーションを組んで頻繁に魔物の駆除を引き受けているという形で、『螺旋の塔』の均衡が保たれている。

 ちなみに階数が多すぎて、誰も最上階もしくは屋上にたどり着けていない。そのため、ダンジョンボスは不明である。

 次に、ユルルンの北東部に位置する、『キノコの森』だ。

 一言で言うと、めちゃくちゃでかいキノコが乱立して森の様相を呈しているダンジョンだ。

 ダンジョン内では有毒な胞子が充満しており、生物が吸い込むと死ぬ。

 プレイヤーもその例外ではなく、いとも簡単にあっけなく死ぬので、βテストでも攻略が一切進まなかったらしい。

 しかし、正式リリースから幾日かたったある日、兵器を生み出すことができるスキルを持つプレイヤーが現れたことで、事態は急変した。

 なんとそのプレイヤー、胞子の吸引を除去するガスマスクを作り出せることが判明した。

 これを聞きつけた攻略組と検証組が協力して彼を拉致。スキルを死ぬまで酷使させ、ガスマスクを大量生産したのだ。

 この『ガスマスク事件』により、プレイヤーはスキルを使いすぎると比喩ではなく死ぬ(彼の栄誉を称え、過労死と呼ばれるようになった)ことが明らかになったのは別の話だ。

 何はともあれ、尊い一人の犠牲により、『キノコの森』の全容が明かされた。

 森には二種類の魔物がいる。成人男性ほどの大きさの、手足の生えたキノコの魔物と、毛細血管のように張り巡らされた粘菌型の魔物だ。

 キノコの魔物は単純なもので、手足を活かして殴る、蹴るなどの暴行をしてくる。

 粘菌の魔物はプレイヤーに寄生することで、ゾンビ化させて肉体の支配権を得るという恐ろしい能力を持っている。

 ガスマスクは視界も悪く息苦しいので、プレイヤーはハンデを背負ったままこれらの魔物を相手することになる。

 当然、ガスマスクにも耐久値があるので、キノコに破壊されると即死する。

 そんな絶望的不利な状態でも攻略組は諦めることなく、『キノコの森』を進んでいった。彼らが奥地で見たモノとは……

 単純にサイズをでかくしたキノコの魔物のボスだった。

 当然、スキルがあるとはいえ非力なプレイヤーたちが数十メートルサイズのキノコに勝てるはずもなく、攻略はボスの手前で滞っているという現状だ。

 最後に、ユルルンの南西部の山の中腹にある、『水晶の洞窟』だ。

 謎の原理で発光する水晶が所々露出しているので、明かりを気にせず攻略できる、とプレイヤーに人気のダンジョンだ。

 出てくるモンスターは、でかいコウモリの魔物や、トカゲを人型のようにしたリザードマン(悪)などである。

 何でリザードマン"(悪)"なのかって?それはリザードマン"(正義)"もいるからだ。

 ダンジョンの中にいるのが、リザードマン"(悪)"で、ダンジョンのある山の頂上で生活を営んでいるのがそれはリザードマン"(正義)"なのだ。

 リザードマン"(悪)"は社会を築くのに否定的だった元リザードマン"(正義)"で、好戦的で獰猛な性格だ。トレインしない限り、『水晶の洞窟』にしか出現しない。

 一方、リザードマン"(正義)"は友好的で、人間とコミュニケーションを取るのも可能だった。βテストの一か月間を丸々使ってリザードマンの言語を翻訳した検証組がいた位には、交流を重ねられていた。

 そう、前までは。

 リザードマン"(悪)"とリザードマン"(正義)"の見た目はほとんど同じだ。故に、正式リリースの数日後、山を徘徊しているリザードマン"(正義)"をリザードマン"(悪)"と間違えて倒してしまう事案が発生した。

 後に語られる『リザードマン事件』である。

 βテストは参加人数が少なく、期間も限られていたため、慎重に攻略していた。そのためリザードマン"(正義)"を傷つけることなく、交流が行えた。

 しかし、正式リリース直後の約一千人の中には、喧嘩っ早いプレイヤーがいるのは必然だろう。

 しかも、βテストの情報は正式リリースが始まるまで口外できない仕組みとなっていた。情報の伝播に多少の時間がかかったのも事件が起きた遠因といえる。

 何はともあれ、この事件によりリザードマン"(正義)"との交流は断絶してしまった。

 仲良くしておくことでイベントか何か起こるだろうと予想されていたが、その可能性がゼロになってしまった。

 とはいえ、事件を引き起こしたプレイヤーが悪いのではない。罪を憎んで人を憎まず、だ。当該プレイヤーが多少リスキルされたぐらいで、目立った被害は出なかった。

 そんな悲しい事件が起こった『水晶の洞窟』だが、攻略は目まぐるしく進み、ダンジョンボスがハイリザードマン"(悪)"と呼ばれる、リザードマン"(悪)"の上位種であることまでわかっている。

 このハイリザードマン"(悪)"はそれほど強くなく、戦闘に長けたスキル持ちの四人パーティなら倒せるくらいには弱い。

 しかし、ダンジョンボスを倒すとそのダンジョンは攻略したものとみなされ、『スポーンの活性化』と『構造のリセット』、『デスペナルティの緩和』が消滅して普通のフィールドの一部になる。

 そのため、ボスは倒さずにダンジョンを保とうということになった。

 以上、これらがWikiと掲示板で得た情報だ。

 「どうだ」とばかりに胸を張って、グレープとハッパを見る俺。

「へえ」「そうなんだ。よく調べたね」

 普通のリアクションで返される。というか、ちゃんと聞いてたか?

「聞いてた聞いてた。『螺旋の塔』と『キノコの森』と、なんだっけ?」

「『リザードマン事件』だよ、グレープ!」

「『水晶の洞窟』だ!」

 パーティを組んでくれたお礼として二人に情報をあげたが、二度とするかと決意した。

「じゃ、こっからはソロって事で。お疲れ、トーマ、ハッパ!俺は装備屋に行くぜ!」

「お疲れ~。ウチはとりあえずブラブラしよっと!」

「また何かあったら連絡する」

「おうよ!」「りょーかいっ」

 ユルルンの東門の下で、適当に挨拶して二人と別れる。

 そう、俺たちは都合のいい関係だ。基本ソロで、自分のやりたいようにOSOの世界を満喫する。そして、街から街へ旅するときや、ダンジョン攻略で詰まったときなど、人手を必要とする場合には集合する。

 それが俺たち。勝手に『OSOソロ連合』と名付けている。俺とグレープとハッパしかいないけどな。

 さて、俺はテレポートクリスタルに登録しに行くか。

 街の構造はどの街でも概ね一緒である。東西南北に大通りが走り、中央にはテレポートクリスタルが埋め込まれた噴水広場がある。

 そんなわけで、サクッと広場に到着し、登録が終わった。こういうのは面倒だから先にやっておいた方がいい。

 次はいよいよ、マイハウスの購入だ。冒険者ギルドに行くとしよう。

 マイハウス。文字通り自分の家だ。

 OSOでは、街の中に賃貸を借りて住む方法(推奨)と、一軒家を購入して街の外で住む方法(非推奨)の二つがある。

 町の外で住む=フィールドに家を建てるなので、後者の方が危険である。しかし、前者は家賃を払い続けなければいけないというデメリットもある。

 一軒家はめちゃくちゃ値が張るが、拡張性が高い。重力の概念はもちろんあり、家の中は空間が広がるということもない。しかし、部屋数を増やしたりレイアウトに融通が利く。そのため、プレイヤーの多くが複数人でお金を出し合い、クランハウスとして運用している。

 ただ、街の外は無法地帯なので、クラン同士の争いにより放火されたり、破壊されたりという運命にある。

 後、フィールドにある建築物は魔物のヘイトを買うらしく、魔物により破壊されたりという運命も待っている。

 それでも二つ目の方法で住居を持つプレイヤーがほとんどである。やはりクランハウスは便利なのである。

 ちなみに、何故街の中に新築を建てられないかというと、スペースがない。街はNPCの家と店でいっぱいいっぱいなのだ。

 値段は張るが、平屋で一人暮らし用の家であれば出せなくはない。約一か月の間に貯めていたお金を放出するときが来た。

 冒険者ギルドに着いた俺は、併設されているカウンター付きのバーに座る一人の女性の下に向かった。

「お待たせしました」

「今来たとこ」

 このお約束が分かっているプレイヤーは、マドリさんという。素材があれば特定の空間内で自由に建築ができる、【インスタントビルド】というスキルを持ち、βテスターの一人である。

 そのため、クランハウスを建てたいプレイヤーたちにスキルを酷使されている。

「過労死は大丈夫ですか?」

「ぜーんぜん大丈夫。私のスキルは素材必要だし、死ぬまでこき使われることはないよ」

 俺たちは冒険者ギルドを後にし、街の外へ向かう。

 ユルルンの街は、魔物対策のためにレンガ造りの外壁がぐるっと囲んでいる。一軒家を持ちたいが、街の近くに住みたいという強欲なプレイヤーたちは、外壁の外側に沿って思い思いのクランハウスを建築した。

 よって、外から見た街の景観がすごいことになっている。大きさの違う家々がズラッと並んでいるのだ。

 さて、マドリさんに家を建ててもらう場所はあらかじめ考えている。

 彼女はリリース後すぐに、建築ができる生産職(建築勢)を束ね、【マドリ建設】と呼ばれるクランを設立した。

 この采配は流石βテスターだ。建築勢を管理することで、フィールドのあちこちに建物が乱立することや、土地関係で生じるいざこざを未然に防いだ。

 これにより、建築勢は余計なことを考えずに建物が建てられ、プレイヤーは安心して建築勢に建築を依頼できるようになった。

 これが現在のクランの発展につながっている。

 今の説明だけでも、βテスターがどれだけプレイヤーに貢献しているかがわかるだろう。

「本当にすごいですよね、βテスターって…」

「まあね。右も左もわからず、手探りでスキルを使ってみて、あ、こんな感じなんだっていうのを確かめながら進んでいくのは面白かったよ」

 急に話を振ったが、快く答えてくれるマドリさん。懐が広い。

 南の大通りを抜けて、南門から外に出る。そのまま外壁に沿って左に進む。大小様々な家たちを左手にして少し歩くと、街から見てちょうど南東の位置にぽっかりと、一軒分の空間があった。その空間をとばして東門までの外壁沿いにも家々が並んでいる。

「到着!もう両隣に建っちゃってるから、少し手狭に見えるかもだけど、一人で住むならこれでも広いよ」

「いえ、十分広くないですか?」

「そうかな?クランハウスばっかり建ててたから麻痺してきたや」

 俺のように、一人暮らしの家を持とうというプレイヤーは少ない。大抵のプレイヤーはパーティプレイで遊んでおり、さっさとクランに入るため、個人の家が必要ないのだ。また、ソロプレイヤーであっても家を持たずに街から街へ旅をしながら遊ぶのが一般的だ。

「じゃ、早速やりますか」

 あっけらかんとマドリさんが言うと、スキルを発動した。

 まずはインベントリから石材を取り出し、サンドボックスゲームのごとく、一定の面積を1マスとして家の基礎と玄関前の石段を設置していく。

 そして木材に切り替え、主要な柱を何本か建てた後、壁、床、天井を張っていく。

 最後にレンガの建材を取り出し、屋根を一ブロックずつ建てていく。

 彼女のスキル【インスタントビルド】はこのように建築の手順を簡素化し、瞬時に建物を建てられるのだ。

「よし。いっちょうあがり」

 数分で家一軒が立ってしまった。

「本当に早いですね」

「まあそういうスキルだからね」

 特に驕ることもなく、彼女はそう答える。

 マドリさんと知り合うようになったのは、今から二週間ほど前だ。

 フィールドで魔物に襲われているところを救出した、というのがきっかけだ。

 もちろん、その魔物は俺がけしかけた。彼女が一人でいるだろうタイミングを図ってな。

 こうでもしなければ、あらゆるところから引っ張りだこの彼女に近づけないからな。必要なことだった。

 【魂の理解者】はこんな感じで一芝居を打つのにも便利なスキルだ。このような狂言をしてフレンドになった生産職は数多くいる。

「じゃ、お仕事終わりということで、預かり屋に行きますか」

「はい、ありがとうございました」

「私にとっては朝飯前だからね」

 このゲームの街には、『預かり屋』と呼ばれる店が存在する。その名の通りお金やアイテムを預けておける店だ。

 なにせデスペナルティで所持している全てを失ってしまうので、マイハウスやクランハウスを持たないプレイヤーたちがよく利用する。

 『預かり屋』はどこの街にも店舗を構えている。そのため、銀行のように預けた店と違う店に行ってもお金が引き出せる。

 それはわかるのだが、なぜかアイテムまで引き出せてしまうという謎の仕様である。便利なので嬉しいは嬉しいのだが。

 俺とマドリさんは街の中に戻り、『預かり屋』に到着した。店内に入り、二人して奥にある受付に向かう。

「すみません。振り込みをしたいのですが」

「お振り込みですね。かしこまりました。こちらの方の口座へのお振り込みでよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 受付の女性とやり取りをし、予め取り決めておいた額をマドリさんへの口座に振り込んだ。

 OSOは良くも悪くも何でもありなので、『預かり屋強盗』と呼ばれる、リアルで言うところの銀行強盗が稀に発生する。

 また、今やったようにお金を引き出さずに同伴人の口座に直接振り込むという通例が確立される前は、プレイヤーがお金を引き出して預かり屋から出た直後に殺して奪い取るという、地獄のような犯罪行為が横行した。

 街中での犯罪行為は速攻で指名手配となり、見つけ次第殺され、罪の重さに応じてリスキルされるのが常識となった今では、そのような犯罪を引き起こすプレイヤーはほとんどいなくなった。

 だが、用心はしなければならない、ということで、プレイヤー間で金銭、アイテムの授受を行う際には、この『直接振り込み』を行うようになった。

「確かに、全額受け取ったよ。これで契約終了ということで」

「はい、ありがとうございました。また、機会があればよろしくお願いします」

「じゃあね」

 マドリさんは後ろ手をひらひらさせながら『預かり屋』を出ていった。

 この約一か月間で稼いだお金をほとんどマイハウスに充ててしまった。俺個人のマイハウスを依頼するだけでも相当な値段がしたので、クランハウスの場合はもっと大金が動くのだろう。

 やはりβテスターはスケールが違うな。

 俺はしみじみとそう思うのであった。
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