VRMMO [AnotherWorld]

LostAngel

文字の大きさ
上 下
29 / 36

第二十九話

しおりを挟む
[第二十九話]

「どんどん行こう、トール」

「あのー、いったいいつまで……」 

「メカトニカを復活させるまで」

 ええ…?

 シズクさんの機転により『エンシェント・シールド・ゴーレム』に快勝したが、彼女の意志は変わらないようだった。

「このペースでいけば、パーツを集めきれるかもしれない…」

 シズクさんがそう言い、首を動かして周りを眺める。

 俺も真似してみる。

 今まで気づかなかったが、大広間からは俺たちがやってきたのとは別に五つの通路が伸びていた。

 文献を信じるのであれば、メカトニカの起動に必要なパーツは全部で六つ。

 ここでゴーレムを倒したから一つ手に入ったから、残りは五つ。

 そして、分かれ道もちょうど五つ。

 まさか、順々に攻略していけということか?

 ………。

 ええい、ままよ!

「いきましょう、シズクさん!」

「トールも勢いが出てきた。今日中に残り五つのパーツを集める…!」

 俺が乗り気になると、シズクさんは今日一番の大きな声で宣言するのだった。

 あれ?

 でも、なんだか嫌な予感がする。

 こういうときって、確か…。


 ※※※


 数分後。

 案の定、俺とシズクさんは死に戻りした。

 やっぱり、彼女の宣言は死亡フラグだったか。

 もともと鉱山内の通路には、ロックゴーレムとロックリザードの上位種、アイアンゴーレムとアイアンリザードしか出現しないはずだった。 

 しかし、大広間から伸びる通路にはこれらの他に、新しい魔物が現れるようになった。

 それが、カナリアスケルトンだ。

 白骨化した小鳥のような見た目のその魔物は、なぜか声帯がないのに鳴くことができる。

 あいつは俺たちを見つけたら、「ピピピピピッ!」と大きな声でさえずった。

 すると、その音を聞きつけた周囲の魔物が洪水のように襲いかかってきて…。

 見事に死に戻りしたのだった。

「まさか、あんなのがいるなんて」

「しょうがないですよ。対策必須な魔物だったんですし、死に戻りするのも」

 俺は意気消沈するシズクさんを励ます。

 ただでさえ硬い廃坑の魔物が、大挙して押し寄せてくるのはどうしようもない。熟練のパーティですら、凌ぐことは難しいだろう。

「うう、せっかくメカトニカに乗れると思ったのに……」

「え…」

 何を言い出すかと思えば、あの採掘機会に搭乗しようとしていたのか…。

 そういえばこの人、静のお姉さんだった。

 どこか変わったところがあると思っていたが…。

 もしかしてロボット好きなのか?雫さん。

「と、とりあえず今日は解散しましょう。なにか策を練ってから攻略を再開しましょう」

「…そうする」

 立ち回り次第で攻略できそうなら粘りたいのだが、俺とシズクさんだけでは逆立ちしても無理だ。

 それは彼女も分かっていたようで、すんなり折れてくれた。

 いつの間にか、時刻は二十二時。

 死に戻りで王都に戻ってきていた俺たちは、中央広場でログアウトするのだった。


 ※※※


 あの後超遅めの晩ご飯を食べて、入浴後に寝た。

 今日は四月九日火曜日。

 授業と三回目のバイトがある日だ。

「…眠い」

 窓から注ぐ朝日が眩しい。

 少しぼーっとしてからタブレットをチェックすると、読書部の発表用資料の件について、あすかさんから『オッケー!』と返信が来ていた。

 いっぱいダメ出しされるかと思ったが、よかった。

 これからも、丁寧で分かりやすいスライドを心がけて作っていこう。

「そろそろだな」

 朝ご飯のトーストとスープを平らげ、スマホでニュースとネットサーフィンをして時間を潰した後。

 俺は寝間着から私服に着替え、トートバッグを肩に提げて桜杏高校に向かう。

 学校を目指す生徒は何人かいたが、今朝は友達に会わずに校舎に着いた。

 一年二組の教室に入ると、昇たちがすでに着席済みだった。

「おはよう、透」

「おはようですわ」

「おはよう」

「おはよう、皆早いんだな」

「透が遅いんですわ。もうすぐ始業時間でしてよ」

 そうだったか。

 部屋を出た時間は普通だったが、昨日の狩りが大変で、疲れが歩くスピードをゆっくりにさせていたのかもしれない。

「授業が始まるよ。集中しよう」

 などと考えていると、彰が注意してくれる。

 話し始めると視野が狭くなってしまうな。ちゃんと言ってくれるのは助かる。

 未だに眠いが、しゃんとしないとな。

 というわけで俺と昇、彰、静の四人は、午前中の授業に取りかかるのだった。


 ※※※


「昨日は大変そうだったと見えるね。授業中もぼーっとしてたし」

 長く感じた授業の時間が終わり、現在はお昼休み。

 いつもの席に座っていただきますしてから、彰が俺に話しかけてくる。

「ああ。採取に狩りに、大変だったよ」

「私も昨日はたくさん狩れました。おかげでタメルがたんまりですわ」

「あっ、それ僕に売ってくれればよかったのに。大森林の素材なら高く買うよ」

「そうでしたの!?なんだか損をした気分ですわ…」

「俺はログインできなかったなあ。陸上部の練習がきつくてな」

「あんまり無理しすぎるなよ。体が第一だからな」

「ああ!サンキュー、透」

 こんな会話を繰り広げながら、昼食を食べ進めていく。

 聞いている感じでは、ローズは調子がよく、フクキチは順調に商売ができているようだった。

 ライズは時間が取れなかったようだが、焦る必要はない。

 誰と競っているわけでもない。自分のペースで遊ぶゲームが一番楽しいだろう。

「こんにちは、少しいい?」

 そんなことを思っていると、俺たちの前に一つの影が現れた。

「あっ!」

 その人物の姿を見て、俺は思わず声が出てしまう。 

 果たして、その人物とは…。

「私は倉持冴姫。そこの透くんと同じ読書部の二年生」

 きれいなロングヘアーの黒髪に、シックな色合いのブラウスとスカート。

 読書部の先輩の一人である、冴姫先輩だった。

 まずい!

 俺の口からはとても言えないが、とてもまずい!

「突然だけど、三人の名前を聞いてもいい?」

 二言目には、相手のことを尋ねる質問…。 

 まずい、掛け合わされてしまう!

 ある意味最も危険な人物を前に、俺は心の中でファイティングポーズをとるのだった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

【完結】マギアアームド・ファンタジア

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。  高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。  待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。  王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...