VRMMO [AnotherWorld]

LostAngel

文字の大きさ
上 下
28 / 36

第二十八話

しおりを挟む
[第二十八話]

 十分ほどランディール荒野を進んでいくと、そびえ立つ大きな山が見えてきた。

 山の岩肌は荒野と同じように草に乏しく、大小様々な石、岩が転がっている。

「これが新しい杖」

 その山を登り続けて数分。

 はたと立ち止まったシズクさんがこちらを振り返り、俺に小さな杖をくれた。

〇白い貝殻の杖 水属性 効果:水属性魔法威力強化:小
 東の海岸のフィールド、ココデ海岸のヤシヤドカリの殻を使って作られた杖。打撃攻撃に強いが、乱暴な取り扱いに注意。

 杖は緩く螺旋を巻いており、細長く白い貝殻の見た目をしている。

 独特の光沢を放っており、とてもきれいだ。

 赤いサンゴの杖と比較しても、水魔法の威力がさらに上がったり、打撃攻撃にも耐性があったりと、上位互換の性能をしている。

「ありがとうございます。こんな上等なもの」

「そんなことない。…品質は保証するから、大事に使うといい」

 少し照れ臭そうに、シズクさんが言う。

 だが、相変わらず無表情で、本当に照れているのかどうか分からない。

「じゃあ、行こう」

 ここで杖を渡してくるということは、戦闘は避けられないということ。

 おんぼろの木枠で支えられた、ぽっかりと闇を飲み込むトンネルの入り口。

 ここがランディール鉱山の廃坑か。

「気を引き締めて。この中はいわゆる『ダンジョン』で、あらゆるマッピング作用が機能しない」

 シズクさんが脅すように言ってくる。

 ですから、どうしてそんなところに俺を。

「どうして連れてきたのかという顔をしている。答えは簡単。トールが強い水魔法使いだから」

 強い水魔法使い…!

 強い…、強い…。

 しょうがないな、シズクさんは。

「単純で助かった。今の今まで駄々をこねる子どもみたいだったから」

 すっかり浮かれ切った俺には、彼女の呟きは届かないのだった。


 ※※※


 なんなんだ、ここの魔物は!

 荒野のよりも数倍強いぞ。

「『アクア・ボール』!」

 廃坑内部にて。

 鈍重な動きを見せるアイアンゴーレムに、俺が放った水の玉が当たる。

 どちゃっ、と鈍い音。

 これは、ちゃんとダメージが入っているのだろうか。

「………」

 小さい頭に太い手足と胴体でできた鋼鉄の人型から醸し出される、無言の圧力。

 ゴーレムはこちらを鬱陶しがったのか、岩のような拳を構えて振り下ろしてくる。

「『アクア・ランス』」

 しかしその隙を突いて、シズクさんが魔法を放つ。

 放たれた透明な槍は、大きな銀白色の胴体を刺し貫いた。

 その瞬間、ゴーレムはその命を失い、ガラガラと崩れ落ちる。

「やっぱり、動きやすい」

 トドメを刺したシズクさんが、安どのため息をつきながら言う。

 アイアンゴーレムはランディール鉱山でよく見られる魔物で、物理攻撃に高い耐性がある。

 が、魔法、特に水属性に弱く、頭や胴体にある程度ダメージを与えると、バラバラになって鉄に似た素材をドロップしてくれる。

「囮に使いましたね、シズクさん。ファーストアタックを先にさせて」

「適材適所ってやつ」

 アイテムを拾いつつ、シズクさんは無表情のまま、ぺろりと舌を出す。

 それを見た俺は、(かわいい)とポーカーフェイスで思う。

「…ごめん。だしにしたことは謝るから、不機嫌にならないで」

「いえ、大丈夫ですよ。どうせ俺の攻撃はやつに通らなかったでしょうし」

 俺が責めるように言ったので、怒っていると勘違いされた。

 全然気にしていないので、訂正しておく。

 水属性の通りがいい魔物が多いとはいえ、暗く狭い通路の中を、魔法使いがソロで攻略するのは至難の業。

 人手はいた方がいいし、効果的な作戦はやったもん勝ちだ。

「ところで、この調子でいけば深部まで行けそうですね。ゴーレムとリザードしかいないですし」

「油断は禁物」

 とは言うものの、今のところ、シズクさんの水魔法のおかげでなんとかなっている。

 挑戦すると聞いたときは嫌な予感がしたが、これならいけるか?

 もしかしたら、踏破も今日中に…。

 なんて思いながら、道なりに進むこと数十分。

「やっと着いた。道順を覚えておくのも大変」

 ダンジョンだからといって、入るたびに構造が変わるわけではないという。

 右か左かまっすぐか、進むべき道を覚えておけばここまで来れるとか。

 ちなみに、ここというのは、天井が見えないくらいの高さがある広い空間だ。

「うわあ……」

 思わず声が出る。

 空間の中央には、バカでかいロボットのようなものがうなだれるようにして座っていた。

 アイアンゴーレムとは違い、全身が人工的な金属の部品や板で構成されている。

 相当大きさがあるな。頭の先からつま先まで五メートルか、下手すれば十メートルくらいか?

「あれは『エンシェント・メカトニカ』。古代の採掘機械、らしい」

「昔の人は、あれを使って採掘をしていたということですか?」

「王都の図書館で読んだ資料によると、そうらしい。だけど、今はうんともすんともいわないとも書いてあった」

 彼女はそう言うと、特に警戒もせずに『エンシェント・メカトニカ』へと近づいていく。

 シズクさんも調べ物するんだな。

 失礼だけど、前もって知識を入れずに適当にやっていくタイプかと思った。

 って、そうじゃなくて…。

「危なくないんですか!?」

「危ない」

「ええっ?」

「だって、こうしないと…」

 シズクさんが意味深に言うと…。

 ぬっと。

 メカトニカの陰から、一回り小さい機械製のゴーレムが出てきた。

「…やつが出てこない」

 シズクさんがあごをくいと動かして奥を指す。

 そこにいたのは、メカトニカを小さくしたような、右手に大きな盾を持ったゴーレム。

 『エンシェント・シールド・ゴーレム』。名づけるならそんなところか。

「あれを倒すのが、今回の目的。ちなみに、私はソロで三回死に戻りしている」

「え」

「あのゴーレムかメカトニカの効果か分からないけど、ここでは奥義が使えない。私の[タイカイノシズク]は封印されている」

 なんてこった。それが頼りだったのに。

 俺が強いからとおどけていたが、シズクさんはこいつを倒すため、猫の手でも借りたいとばかりに俺を誘ったのか?

「私が、魔力の続く限り高威力の魔法を放つ。トールはやつを引きつけて。シールドをうまく使わせないでほしい」

「了解です」

 口では言わないし、聞いても教えてくれないと思うが、多分そうだろう。

 フォクシーヌの猛攻をしのいだ俺を見込んでくれてるってことか。

 分かりました。

 俺の命、シズクさんに預けます。


 ※※※


 俺とシズクさんを視認して臨戦態勢に入った『エンシェント・シールド・ゴーレム』が、盾を構えて突進してくる。

「はあああああっっ」

 俺は一喝して、大きく横に転がってよける。

 とりあえず、最初のターゲットは俺だな。

「『アクア・ランス』」

 突進の隙を狙い、シズクさんが魔法を撃った。

 大きく、太い水の槍がゴーレムの右肩に迫る。

 だが、やつはとっさに盾を振ることでガードを間に合わせる。

「ちっ」

 小さく舌打ちするシズクさん。

 やっぱり、一筋縄ではいかないか。

 あの強固な盾を崩さなければ、あいつを倒すことはできない。

 どうする。

 答えを導き出す間もなく、やつは再び盾を構えなおすと、勢いをつけて今度はシズクさんの方に突進攻撃をしかけてきた。

「よけてください、シズクさん!!」

「悪知恵が働くのは、なにもトールだけじゃない」

「え?」

 突然、不穏なことを呟いたシズクさん。

 彼女はくるりと身を翻し、ゴーレムの突進軌道上から逃れると…。

「『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』……」

 息が続く限り『アクア・クリエイト』を唱え続けた。

 たちまち、彼女が元いた場所が水浸しになる。

 いったいなにを…?

 と思ったが、そうか!

 ゴーレムはそのまま突進してくるから…。

「ふふっ」

 ウルフカットが揺れ、クールな顔立ちをしたいたずらっ子の小さな笑みが漏れる。

 そして、次の瞬間。

 つるっっっ。

 運動エネルギーを殺しきれず、太く短い脚を泥の中に踏み込んだ『エンシェント・シールド・ゴーレム』。

 見事に、ぬかるんだ地面で滑って体勢を崩した。

「『アクア・ランス』、『アクア・ランス』、『アクア・ランス』」

 そして、そこにシズクさん渾身の魔法を炸裂したのだった。


 ※※※


 無事、メカトニカの子機ともいえる『エンシェント・シールド・ゴーレム』を倒すことができた後。

 俺とシズクさんは、静かになった岩の広間で小休憩を挟んでいた。

「これ、メカトニカのパーツ」

 カンテラを地面に置きっぱなしにしてドロップアイテムを確認していたシズクさんが、ふいにそんなことを言う。

 パーツ?

「メカトニカを動かすためのパーツ。全部で六つ必要だと書籍に書いてあった」

 俺の疑問が顔に出ていたのか、彼女はすぐに言葉を続ける。 

 メカトニカはパーツが足りないのか。まあ、簡単にロストテクノロジーが利用できたら苦労がないよな。 

 え?

 …じゃあ、六つ必要ってことは。

「そう、あと五体同じようなゴーレムを倒す必要があるということ」

「それって、もしかして、今からですか」

「そうって言ったら?」

 さ、さいですか。

 もはや、乗りかかった船。

 『明日ヒマ?』と聞かれて、『暇』と返してしまった後みたいなものだ。

 今日は徹夜か?と思いつつ、俺には過去に犯した二件の過ちがあるので、否応なしに彼女に従うしかないのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

風船葛の実る頃

藤本夏実
ライト文芸
野球少年の蒼太がラブレター事件によって知り合った京子と岐阜の町を探索するという、地元を紹介するという意味でも楽しい作品となっています。又、この本自体、藤本夏実作品の特選集となっています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

飛来新

藤本夏実
ライト文芸
突然、智子のもとへ現れた若者。若者は誰なのか?そして、ふたりはどうやって街を豊かにしていったのか?そんな、商いのバイブルにしてほしい話とその他5話をまとめました。

沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜

雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。 剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。 このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。 これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は 「このゲームをやれば沢山寝れる!!」 と言いこのゲームを始める。 ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。 「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」 何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は 「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」 武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!! ..........寝ながら。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...