VRMMO [AnotherWorld]

LostAngel

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第二十八話

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[第二十八話]

 十分ほどランディール荒野を進んでいくと、そびえ立つ大きな山が見えてきた。

 山の岩肌は荒野と同じように草に乏しく、大小様々な石、岩が転がっている。

「これが新しい杖」

 その山を登り続けて数分。

 はたと立ち止まったシズクさんがこちらを振り返り、俺に小さな杖をくれた。

〇白い貝殻の杖 水属性 効果:水属性魔法威力強化:小
 東の海岸のフィールド、ココデ海岸のヤシヤドカリの殻を使って作られた杖。打撃攻撃に強いが、乱暴な取り扱いに注意。

 杖は緩く螺旋を巻いており、細長く白い貝殻の見た目をしている。

 独特の光沢を放っており、とてもきれいだ。

 赤いサンゴの杖と比較しても、水魔法の威力がさらに上がったり、打撃攻撃にも耐性があったりと、上位互換の性能をしている。

「ありがとうございます。こんな上等なもの」

「そんなことない。…品質は保証するから、大事に使うといい」

 少し照れ臭そうに、シズクさんが言う。

 だが、相変わらず無表情で、本当に照れているのかどうか分からない。

「じゃあ、行こう」

 ここで杖を渡してくるということは、戦闘は避けられないということ。

 おんぼろの木枠で支えられた、ぽっかりと闇を飲み込むトンネルの入り口。

 ここがランディール鉱山の廃坑か。

「気を引き締めて。この中はいわゆる『ダンジョン』で、あらゆるマッピング作用が機能しない」

 シズクさんが脅すように言ってくる。

 ですから、どうしてそんなところに俺を。

「どうして連れてきたのかという顔をしている。答えは簡単。トールが強い水魔法使いだから」

 強い水魔法使い…!

 強い…、強い…。

 しょうがないな、シズクさんは。

「単純で助かった。今の今まで駄々をこねる子どもみたいだったから」

 すっかり浮かれ切った俺には、彼女の呟きは届かないのだった。


 ※※※


 なんなんだ、ここの魔物は!

 荒野のよりも数倍強いぞ。

「『アクア・ボール』!」

 廃坑内部にて。

 鈍重な動きを見せるアイアンゴーレムに、俺が放った水の玉が当たる。

 どちゃっ、と鈍い音。

 これは、ちゃんとダメージが入っているのだろうか。

「………」

 小さい頭に太い手足と胴体でできた鋼鉄の人型から醸し出される、無言の圧力。

 ゴーレムはこちらを鬱陶しがったのか、岩のような拳を構えて振り下ろしてくる。

「『アクア・ランス』」

 しかしその隙を突いて、シズクさんが魔法を放つ。

 放たれた透明な槍は、大きな銀白色の胴体を刺し貫いた。

 その瞬間、ゴーレムはその命を失い、ガラガラと崩れ落ちる。

「やっぱり、動きやすい」

 トドメを刺したシズクさんが、安どのため息をつきながら言う。

 アイアンゴーレムはランディール鉱山でよく見られる魔物で、物理攻撃に高い耐性がある。

 が、魔法、特に水属性に弱く、頭や胴体にある程度ダメージを与えると、バラバラになって鉄に似た素材をドロップしてくれる。

「囮に使いましたね、シズクさん。ファーストアタックを先にさせて」

「適材適所ってやつ」

 アイテムを拾いつつ、シズクさんは無表情のまま、ぺろりと舌を出す。

 それを見た俺は、(かわいい)とポーカーフェイスで思う。

「…ごめん。だしにしたことは謝るから、不機嫌にならないで」

「いえ、大丈夫ですよ。どうせ俺の攻撃はやつに通らなかったでしょうし」

 俺が責めるように言ったので、怒っていると勘違いされた。

 全然気にしていないので、訂正しておく。

 水属性の通りがいい魔物が多いとはいえ、暗く狭い通路の中を、魔法使いがソロで攻略するのは至難の業。

 人手はいた方がいいし、効果的な作戦はやったもん勝ちだ。

「ところで、この調子でいけば深部まで行けそうですね。ゴーレムとリザードしかいないですし」

「油断は禁物」

 とは言うものの、今のところ、シズクさんの水魔法のおかげでなんとかなっている。

 挑戦すると聞いたときは嫌な予感がしたが、これならいけるか?

 もしかしたら、踏破も今日中に…。

 なんて思いながら、道なりに進むこと数十分。

「やっと着いた。道順を覚えておくのも大変」

 ダンジョンだからといって、入るたびに構造が変わるわけではないという。

 右か左かまっすぐか、進むべき道を覚えておけばここまで来れるとか。

 ちなみに、ここというのは、天井が見えないくらいの高さがある広い空間だ。

「うわあ……」

 思わず声が出る。

 空間の中央には、バカでかいロボットのようなものがうなだれるようにして座っていた。

 アイアンゴーレムとは違い、全身が人工的な金属の部品や板で構成されている。

 相当大きさがあるな。頭の先からつま先まで五メートルか、下手すれば十メートルくらいか?

「あれは『エンシェント・メカトニカ』。古代の採掘機械、らしい」

「昔の人は、あれを使って採掘をしていたということですか?」

「王都の図書館で読んだ資料によると、そうらしい。だけど、今はうんともすんともいわないとも書いてあった」

 彼女はそう言うと、特に警戒もせずに『エンシェント・メカトニカ』へと近づいていく。

 シズクさんも調べ物するんだな。

 失礼だけど、前もって知識を入れずに適当にやっていくタイプかと思った。

 って、そうじゃなくて…。

「危なくないんですか!?」

「危ない」

「ええっ?」

「だって、こうしないと…」

 シズクさんが意味深に言うと…。

 ぬっと。

 メカトニカの陰から、一回り小さい機械製のゴーレムが出てきた。

「…やつが出てこない」

 シズクさんがあごをくいと動かして奥を指す。

 そこにいたのは、メカトニカを小さくしたような、右手に大きな盾を持ったゴーレム。

 『エンシェント・シールド・ゴーレム』。名づけるならそんなところか。

「あれを倒すのが、今回の目的。ちなみに、私はソロで三回死に戻りしている」

「え」

「あのゴーレムかメカトニカの効果か分からないけど、ここでは奥義が使えない。私の[タイカイノシズク]は封印されている」

 なんてこった。それが頼りだったのに。

 俺が強いからとおどけていたが、シズクさんはこいつを倒すため、猫の手でも借りたいとばかりに俺を誘ったのか?

「私が、魔力の続く限り高威力の魔法を放つ。トールはやつを引きつけて。シールドをうまく使わせないでほしい」

「了解です」

 口では言わないし、聞いても教えてくれないと思うが、多分そうだろう。

 フォクシーヌの猛攻をしのいだ俺を見込んでくれてるってことか。

 分かりました。

 俺の命、シズクさんに預けます。


 ※※※


 俺とシズクさんを視認して臨戦態勢に入った『エンシェント・シールド・ゴーレム』が、盾を構えて突進してくる。

「はあああああっっ」

 俺は一喝して、大きく横に転がってよける。

 とりあえず、最初のターゲットは俺だな。

「『アクア・ランス』」

 突進の隙を狙い、シズクさんが魔法を撃った。

 大きく、太い水の槍がゴーレムの右肩に迫る。

 だが、やつはとっさに盾を振ることでガードを間に合わせる。

「ちっ」

 小さく舌打ちするシズクさん。

 やっぱり、一筋縄ではいかないか。

 あの強固な盾を崩さなければ、あいつを倒すことはできない。

 どうする。

 答えを導き出す間もなく、やつは再び盾を構えなおすと、勢いをつけて今度はシズクさんの方に突進攻撃をしかけてきた。

「よけてください、シズクさん!!」

「悪知恵が働くのは、なにもトールだけじゃない」

「え?」

 突然、不穏なことを呟いたシズクさん。

 彼女はくるりと身を翻し、ゴーレムの突進軌道上から逃れると…。

「『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』、『アクア・クリエイト』……」

 息が続く限り『アクア・クリエイト』を唱え続けた。

 たちまち、彼女が元いた場所が水浸しになる。

 いったいなにを…?

 と思ったが、そうか!

 ゴーレムはそのまま突進してくるから…。

「ふふっ」

 ウルフカットが揺れ、クールな顔立ちをしたいたずらっ子の小さな笑みが漏れる。

 そして、次の瞬間。

 つるっっっ。

 運動エネルギーを殺しきれず、太く短い脚を泥の中に踏み込んだ『エンシェント・シールド・ゴーレム』。

 見事に、ぬかるんだ地面で滑って体勢を崩した。

「『アクア・ランス』、『アクア・ランス』、『アクア・ランス』」

 そして、そこにシズクさん渾身の魔法を炸裂したのだった。


 ※※※


 無事、メカトニカの子機ともいえる『エンシェント・シールド・ゴーレム』を倒すことができた後。

 俺とシズクさんは、静かになった岩の広間で小休憩を挟んでいた。

「これ、メカトニカのパーツ」

 カンテラを地面に置きっぱなしにしてドロップアイテムを確認していたシズクさんが、ふいにそんなことを言う。

 パーツ?

「メカトニカを動かすためのパーツ。全部で六つ必要だと書籍に書いてあった」

 俺の疑問が顔に出ていたのか、彼女はすぐに言葉を続ける。 

 メカトニカはパーツが足りないのか。まあ、簡単にロストテクノロジーが利用できたら苦労がないよな。 

 え?

 …じゃあ、六つ必要ってことは。

「そう、あと五体同じようなゴーレムを倒す必要があるということ」

「それって、もしかして、今からですか」

「そうって言ったら?」

 さ、さいですか。

 もはや、乗りかかった船。

 『明日ヒマ?』と聞かれて、『暇』と返してしまった後みたいなものだ。

 今日は徹夜か?と思いつつ、俺には過去に犯した二件の過ちがあるので、否応なしに彼女に従うしかないのだった。
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