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契機
第8話 *えちシーンあり
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汗でしっとりと濡れた肌を重ね、律は飯塚の胸元に頭を預けた。
ほっと息を吐き出すと、飯塚が気だるげに手を伸ばし、律の肩を抱く。
「太田のオヤジの言うとおりになったよなぁ」
と、自嘲気味に言う飯塚を見上げ、律はふふっと笑う。
「そうだね」
「まあ、間違いとは思ってないけど……」
「それも、そうだね」
飯塚が律の顔をのぞき込み、そろっと布団を持ち上げる。
目線は目から、顔から、段々下へ。
律は飯塚の視線の行方に気づき、うっすらと情事のあとの残る胸を隠す。
「ちょっと」
「良いじゃん、減るもんじゃ無し」
「そういう問題じゃない……」
律は腕で胸を隠しながら身を起こした。
「どっか行くの?」
「シャワー浴びて、寝るの」
「明日で良くね? 今日はもう寝よう……」
飯塚は律の腰に手を回そうとしたが、律はするりと抜け出してしまう。
「恋人じゃないもの。朝まで一緒に寝たら勘違いしそう」
律がそう言って、床に散らばった衣服をかき集める。カーディガンを羽織って、前ボタンを止める。
飯塚は言葉をなくしたまま口を開き、視線を泳がせると腕をベッドに戻した。
「じゃあね、おやすみ」
「……ああ。おやすみ」
律は段ボールが貼られたドアを開け、振り返らずに彼の部屋を後にした。
***
自粛ムードの続く初春に、城島はため息ばかりである。
飯塚は顔に油汚れをつけたまま朝の作業を終え、休憩を入れた。目の前に座る城島の不満気な顔に嫌でも気づいてしまった。
「……どうしたんすか」
「……いや別に……」
と言った側からまたため息だ。飯塚は顎をしゃくって生返事する。
「なあ、ルームシェアしてるんだろ?」
と、城島が突然話題をふってくる。飯塚は「はあ」と返した。
「他人と同居するってどんな感じなんだ?」
「あー、同居っすか?」
飯塚は律との暮らしを振り返る。
お互いに干渉しない、と決めたからか、特に不満はない。律は大人しい方だし、うるさい趣味もない。部屋が離れていることもあって、個人の空間を邪魔しあうこともない。
それに匂いだ、他人の匂いは異空間にいる気分にさせるが、律から嫌なものを感じたことはない。お香やアロマをやっている気配もなかった。
飯塚自身もそれをやらないが、作業着などの匂いを落とすための洗剤が時々強烈に匂う程度か。
たまに手料理を食べさせてもらい、もちろん味に文句はない。
(今度飯の作り方でも教えてもらうかな)
などと考え、ベッドから出て行く彼女の背中を思い出してなんとも言えない気分になったが、その後も律の態度が今まで通りだったため、余計に何とも言えない。
不満はない、というのが妥当な感想だ。
「まぁ、こんなもんかなって感じっすね」
「そういうもん? 家事とかどうしてんの?」
「どう……なんつーか……お互い干渉しないってことにしてるんで」
「そうか……」
城島が明後日の方向を向いて額をかいた。
飯塚は頬杖をつき、話を進める。
「なんかあったんすか?」
「いやー……結婚してぇなーって思うんだよ」
「はあ」
「でも今の自由な生活も好きなんだよ。相手が出来て、その生活が崩れるのがちょっとなーって思ってさ……」
「まあ、そうすね」
「合コンとか誘われてるけど、乗り気しないんだよなぁ……」
飯塚は城島をじーっと見つめた。
何か違和感がある。
城島に対してではない。
「……男として枯れる一方っすね」
「だよなぁ」
城島は大きなため息をついた。
***
明かりがついた家の光景にも慣れ、飯塚はふと思う。
(慣れだな、慣れ)
新生活に、城島もいずれ慣れる時が来るのでは、と一人勝手に納得し頷く。
除菌用アルコールスプレーを全身に浴び、手洗いうがいを済ませるとリビングへ向かう。
これも慣れた手順だ。
ノックしてから入ることも覚えた。
ドアを開けると、律が振り返って手をふって出迎える。
いつも通りの笑みだ。
肌を重ねてから一週間、何も変わらない。
まるで何もなかったかのようだ。
「ただいま」
「おかえり。ちょっとごめんね」
と律が言ったのは飯塚に対してではなく、彼女が持っているノートパソコンの画面に対してだ。
「何? リモート会議とかいうやつ?」
飯塚が声を抑えて言えば、律は軽く頷いた。
「会議じゃないけど、地元の友達とちょっとね。部屋移るから気にしないで」
律はノートパソコンを持つとリビングを去って行った。
ドアが閉まる。
が、すぐに開かれると律が言った。
「ねえ、味噌汁作りすぎたの。良かったら飲んでね」
そう言い残し、今度こそドアが閉まった。
軽い足音が聞こえる。
飯塚はふっと気持ちが軽くなったように感じ、台所へ向かった。
***
「でさぁ、まじで起きない。今晩は俺が起きてるからーって言うくせにさ」
「純はそれでどうしたの?」
「ベイビーちゃん泣いてるのに寝てらんない。結局私があやしに行くんだよね。いいのよ、あやすのは。ベイビー期って今だけだからさ、貴重な時間だと思いなってママが言うし。そこじゃないの」
「起きてるって言ったじゃん~! って?」
「そうそれ! まじそれ!」
純は律の幼なじみである。気づけば一緒にいた仲であり、双子のようにくっついて行動していた。
彼女は結婚し、子供も産まれて今現在子育ての真っ最中である。
愚痴と近況報告を聞き、律は画面にうつる彼女の「ベイビーちゃん」を見た。
ぐっすり眠っている。目元が純に似て、まつげが長かった。
「可愛い~」
「でしょう。律も早く結婚すればいいのに。子育てするなら体力あるうちの方がいいって言うよ?」
「無理だよ」
「なんで。てかこっち出るとき結婚するもんだと思ってたけど」
律ははたと気がついた。
佐竹と別れたことを彼女は知らないのだ。
「どうした?」
純が気遣わしげに眉を寄せる。
律は「うーん」と鼻を軽く擦るようにすると口を開く。
「その、別れた」
それを聞いた瞬間、純の口がぽかんと開き、次の瞬間にはパソコンいっぱいに純の顔が近づいた。
「うっそ! なんで!?」
ベイビーちゃんが母親の声に驚いて泣き出してしまった。
「あ~、ごめんごめん。ママが悪かったよぉ」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。このくらいでビビる子には育てないから」
「そういうもの?」
「そういうもの……って、この子の話じゃない、律の話だよ! 何、別れたって」
「そのままだけど……」
律は噛みつく勢いの純に驚き、思わず正座になってしまった。
視線を彷徨わせ、頬をかくと純に説明する。
「その、まあ、色々……すれ違った感じ。向こうはこっちに馴染んじゃったし」
「マジでー? 信じらんない、先輩とあんなに仲良かったのに……えっ、じゃあ律今一人なんでしょ? 生活大丈夫なの?」
「うん。なんとかね」
「ならいいけど……何かあったら帰っておいでよ? 特にそっちにこだわる理由もないでしょ?」
「んー……そうかもね……」
律は曖昧に頷いた。
純は律に届かないまま手を伸ばし、画面越しに頭を撫でた。
「よしよし。大丈夫だからね、律はステキガールだから。あれ? でもさっき男の人の声聞こえたけど」
純の言葉に律は顔をひきつらせた。
飯塚のことはどう説明したものか。
「ええと……ルームシェアってやつ。広い中古物件に部屋がいっぱいあって……そのうちの一人」
「ああ~なるほど。知り合い?」
「うん」
「まあ、律が大丈夫ならいいけど。そうなんだ……ねえ、何かあったら本当にすぐ言ってよ? ダンナに高速走らせて迎えに行くから」
純の一言に律は目頭が熱くなるのを感じ、ごまかすように笑うと頷いた。
「ありがとう」
***
律がリビングに戻ってきた。
飯塚はちゃっかり味噌汁に火をかけている最中で、あとはスーパーで買ってきたウインナーを炒めるのみだ。
律が冷蔵庫を開けながらコンロをのぞいた。
「味噌汁……沸騰しそう」
「だな」
「だな……じゃなくて。もう火を止めないと」
「なんで?」
「なんで? ……味噌汁って沸騰させると美味しくなくなるのよ」
「マジで!?」
飯塚は慌てて火を止めた。
とたん湯気が立ち上り、味噌の香りがふわっと広がる。
「……」
冷蔵庫を閉めた律がそれを見ていた。
飯塚はふたをするとウインナーの袋を開ける。
「……冷凍庫にブロッコリーあるよ」
律の一言に飯塚は素直に頷く。彼女が差し出した冷凍ブロッコリーを皿に出し、レンジに入れた。
「譲くんて器用かのか不器用なのか……」
「得手不得手ってやつだよ」
飯塚はフライパンにウインナーを並べ、火にかける。
「……あのさぁ」
徐々に音をたてるウインナーを見つめながら、飯塚は切り出した。
「暇な時で良いから……」
「うん。何?」
「あー……料理教えてくんねぇ?」
「ああ、うん。いいよ」
「えっ、マジで?」
あっさり了承した律に振り向く。彼女はホワイトチョコレートを口に入れて頷いた。
チョコレートがパキッと小気味よい音がして、彼女の唇にかけらが残る。
「暇な時でいいんでしょ?」
律にそう言われ、飯塚ははっと視線をあげた。
「そう、暇な時でいいから」
「ピアノも使わせてもらってるし、そのお礼ということで」
「よっし。これで俺もまともに飯が食えるようになるかな」
「うん」
律が意味ありげな笑みを浮かべている。
唇に残っていたチョコレートを舐めとったのが見えてしまった。
が、彼女の指がしめすものを見たとき、飯塚の顔色が変わる。
ウインナーが焦げていた。
***
焦げた部分を切り落とし、無事だった少しの部分だけを食べる。
飯塚は寂しい夕食をぼそぼそと食べた。
律は録画したい番組を選んでいる最中だ。リビングに静かなひとときが流れる。
「そのドキュメントって面白いの?」
飯塚がそう声をかければ、律が振り向いた。
「仕事で取り扱うかもしれないの。これ、平安時代の仏像の特集だから」
律の仕事は美術館スタッフだ。
歴史的展示物などを扱うこともある、その予習ということだ、と飯塚は理解した。
「マメだよな。歴史好き?」
「うん。譲くんは?」
「わかりやすいのは好きだけど」
「わかりやすいのって?」
「坂本龍馬とか? 勝海舟はけっこう好きかもな」
「渋い好みね」
律は一通り録画予約を終えるとリモコンを置いた。
そのまま立ち上がる。
「味噌汁ごちそうさん」
「うん。先にお風呂入って良い?」
「良いよ。律の残り香味わいながら入るから」
「やめてよ」
律は目を細めて笑った。が、すぐに何か思い出したのか表情を改めた。
「ねえ、職場の子が来たいって言ってるの。呼んでもいいかな」
「良いよ。何人?」
「一人よ」
飯塚は頷いた。
律が立ち去る前に、飯塚は彼女の手を取る。
律の手が逃げようとした。今までとは違う反応だった。
「な、何……?」
「いや……なんでも」
飯塚は律の手をあっさり逃がす。
律の頬がうっすら赤くなっているのは見間違いではないはず。
だがそれをどう受け止めればいいのか、飯塚は分からなかった。
***
城島が家に来たいと言ったので、飯塚はどうしたものか、と首を捻った。
全くの一人暮らしなら問題ない。
城島とはたまに飲みに行き、そのままどちらかの家で倒れるように寝たものだ。
だが同居人がいる。
泊まりはきついかもしれない。
「昼なら」
と返事し、城島は頷いた。
そのことを律に伝えると、彼女はあっさり頷いたものだ。
「それで、私の後輩も来るんだけど、昼間ならいいかなって思ってたの。遅くなるようなら泊めようかと」
「ああ。ま、テキトーで良いよな。いつ頃になりそう?」
「今度の金曜日ね。休みが一緒になったから」
飯塚はやべえ、と顎をしゃくる。
「譲くんの先輩も同じ日?」
「に、なりそう……ま、いいか。皆いい年だし」
「そうよね。ねえ何作ったらいいかな。それとも皆でバーベキューみたいなのする?」
「それ良いねぇ。じゃ、カレーとか作っといてさ、あとはバーベキューしますか」
予定が決まり、金曜日に合わせて食料を買い込み、木曜の夜に二人で台所に立った。
ジャガイモの皮を剥き、人参を洗って乱切りにする。
飯塚は律に教えてもらいながら野菜を切り、タマネギの洗礼を受けて肉を炒める。
いつかのような時間だが、どこか違う。
ただの他人ではなくなり、ただの仲間ではなくなり、男女になりながら恋人でない関係。
むずがゆいような心地だった。
律がカレーのルウを溶かし、しばらく煮込むと熱くなってきたのかカーディガンを脱いだ。
汗のにじんだうなじが見え、飯塚は頭が殴られたような感覚を味わう。
体がぐわっと熱くなったのは、ストーブのせいではない。
「ちょっと失礼」
そう言ってリビングを出て、冷えた廊下の空気を肺いっぱいに吸い込む。
突然思い出すのは彼女の肌の感触、胸の柔らかさ、とろんとした表情に甘ったるい声だ。
鎮まってくれそうにない欲情に飯塚は立ちくらみを覚えた。
深く息を吸って、頭を冷やすために冷水をかぶる。
リビングに戻ると律が顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「ああ、うん」
飯塚が上の空で答え、眉を寄せたままなので律は訝しんでいる。
律の手が飯塚の額をとらえた。
あの日、飯塚の体を撫でた小さな手が。
「うわっ!」
と、大きな声で言って体を捻ってしまった。
飯塚のその態度に律が目を見開いた。
「そんなに嫌だった?」
「嫌じゃない!」
怒るような声で反射的にそう言ったため、律が肩をすくめて首を傾げる。
飯塚は額を指先でかき、首を横にふった。
「そうじゃなくて……ああ、近づいたらダメだ」
「えっ、私臭い?」
ルウをこぼしただろうか、と律はエプロンを確認する仕草を見せた。飯塚は慌てて否定する。
「違うって。律はいい匂いだから。じゃない、そうじゃなくて……」
息を大きく吸い込むと律の目の前に手のひらを広げてストップをかけた。
「……俺今、発情期」
「……発情期……」
「律さ、近づいたらヤバいよ。俺押し倒すかも」
「……あらら」
と、律にしては珍しく冗談ぽく返してきた。
飯塚は表情を引き締めるとはっきりと言う。
「……本気だって。カレー作っとくから、嫌なら早く逃げること。OK?」
「分かった。じゃあ」
と言って、律は作業を再開させた。飯塚はあまりに淡々と作業を進めるその姿に、なんとなく拍子抜けしてしまう。
律はふたをすると火を止め、ガスの元栓を閉じると飯塚に振り向いた。
「……シャワー浴びてきて良い?」
それを聞いた瞬間、律の唇をキスで塞いでいた。
***
律の、シャンプーの香りの残る髪に鼻を埋め、耳に口づける。
飯塚は触れる部分から赤く染まる素直な耳に気分を良くし、肩を撫でながら続けた。
律は息を乱し、飯塚の服にすがるようにつかまると時々腰を揺らす。それを支えるように手を回すと、熱いものにでも触れたかのように彼女の体が跳ねた。
「ちょ、ちょっと待って」
「何?」
「腰抜けそう」
「良いよ、抜かしても」
「ダメでしょ、立ったままなのに」
律が飯塚の服をぐいっと引っ張った。
飯塚はそれに構わず、パジャマ越しに彼女のお尻に触れ、揉むと体を密着させた。
「譲くんっ……」
「大丈夫だって、支えてるから」
「も……」
律の口から小言が飛び出さないよう、キスで封じ、細い腰を撫でると張りのある胸に手を這わせる。
どことも違う柔らかさで、ぽよぽよとしているのに手にしっかりと馴染んでくる。いわゆるナイトブラをしているのが残念だが、その柔らかいカップを半分に折り曲げ、パジャマのボタンを2、3外せば乳白色のメロンが二つ、谷間を作って飯塚の目を釘付けにした。
「せ、せめて座らない?」
「すぐ終わらせるから、このまま」
「でも……」
「明日お客が来るじゃん? ちょっと控えめにしないと俺らがヤってるってバレるよ」
お互いの匂いが移るっていうか、と鼓膜に注ぐように囁けば、律が体を強ばらせた。
耳が敏感なのだろう。
ふとシャンプーとは違う甘い香りが漂ったのに気づき、飯塚はにやりとした。
嫌がっていない証拠だ。
調子に乗って律の全身をなで回せば、すでに体が敏感になっているらしく、時々甘い息が乗る。
追い詰められた小動物のような姿についからかいたくなり、壁に追い詰める。
パジャマの下を脱がした。
膝をついて下から見上げる格好になると、律が両手で脚の付け根を隠す。
「なんで電気……」
「消したら見えない」
「せめて明かりを落として欲しいの」
「んー……」
顔を真っ赤にして「お願い」をする律の言うことを聞いてやりたくなったが、飯塚は首を傾げて「どうしようかな……」と焦らした。
律は脚をすり寄せ、消え入りそうな声を出す。
「ねぇ。こんなに濡れたら、見られるの恥ずかしいの」
と、なかなかの発言に飯塚は目を丸くし、頷くと立ち上がり、リモコンを取った。
オレンジ色の目玉焼きのような明かりに設定すると、律はあからさまにほっとした様子を見せる。
「そんなに嫌だった?」
「恥ずかしいから……そんなに綺麗じゃないし」
「うっそ。すげぇ綺麗だったよ」
「言わないでっ」
律は眉をつり上げた。しかし全く怖くない怒り顔だ。目が潤んでいるせいだ。
飯塚はごめんごめん、と言いながら律の体を抱きよせる。
すっかり勃ちあがった自身のモノをカーゴパンツ越しに彼女の肌に擦りつける。
律の体がびくりと震えた。
「もう固くなってる……」
「前の思い出したから……バカだろ? 正直すぎるよなぁ」
律のパジャマの裾から手を入れ、すべらかな背中を指先で撫でる。
「ん……」
と、鼻にかかったような声が飯塚のモノを更に固くさせた。
「律って背中触られんの好き?」
「た、多分……」
律は頷きながら、何度も脚をすり合わせている。
そのショーツの中を想像し、飯塚は腰が重くなった。
おそらくたっぷり濡れて、花芽が赤くふくれて健気に震えているのだろう。
飯塚は蜜をすすりたいのをこらえ、パジャマのボタンを更に外す。
ベッドで見るのとは違い、寄せられたまま固定され、露出している白い乳房がぷるぷると波打った。
胸を掴んでカップから取り出せば、ぴんと尖る淡いピンク色の蕾が見えた。
律は顔を真っ赤にして顔を背ける。飯塚は寄せた胸の間に鼻先を埋め、ほんのり甘い律の匂いを肺一杯に吸い込んで、声をかけた。
「せっかく綺麗にしたのにな」
「うん……あとで軽く浴びるから……」
「なるほど。ま、なめ回すのはやめとく」
飯塚はそう言うと、乳房の感触を楽しみ、時折かすめる乳首が膨らむのを手のひらで感じ、指でつまんで弾いた。
律が腰を曲げ、脚を震わせた。
ぴちゃっ、と音がしたのは気のせいではない。
飯塚は体温が上がり、上衣を脱ぐと額をぬぐった。わずかに汗が浮かんでいる。
カーゴパンツのチャックを下ろし、濡れた下着からモノを取り出すと自身で握って慰める。
律がそれを見ていた。
「……しようか?」
「え? いい、いい。気にするなよ。それより服越しに触るのって面白いよな。こうやってさ」
律のパジャマを胸にかぶせ、爪をたてて軽くひっかく。
「あっ!」
と、甘い声と同時に律が背を反らせた。
「なんかパジャマに乳首の形浮いてんの、エロい」
「譲くんってすけべ……」
「そりゃあ……そうだろ」
そのままひっかき、押したりを繰り返すと律は口元に手をやり、もう片手を脚の付け根にやった。
与えられる快感に身をよじって耐えようとする姿に、どんどん攻略したくなってしまう。
弱いのであろう耳に、ちゅっと音立てて唇で吸い付けば、律は喉を震わせて首をふった。
そこからまた彼女の匂いが強く香る。
どこか爽やかな、甘い香りだ。
ひどく落ち着くそれを堪能するうち、何かが脳裏をかすめる。
薄ピンク色の、ひらひらと風に乗る――
飯塚は頭をふって今に集中した。律を強く抱きしめ、下腹部に手を滑らせる。
ショーツの中に忍ばせると律がほっと息を吐き出して飯塚の胸元に頭を預けた。
信頼されている感覚に気を良くし、律の体を支えるように肩を抱く。
思った通りショーツの中はすっかり熱く、ひくついた花芽はすでに蜜で濡れていた。
「あ……っ」
ぬちゃっ、と膜をかき分けて割れ目に指を沿わせる。
軟体動物に指をぞろぞろ確かめられているようだ、指がとけそうにじんじんと熱い。蜜口を見つけるとゆるゆるといじり、中指を曲げて進入させる。
潤んだヒダのある内壁が、指を迎えて騒ぎ出した。
「……ん……ふぅ……」
中は熱くとろけているが、やはり感度は良くないらしい。律は顔色を変えないまま飯塚にすがるようにした。
「譲くん……」
「ん?」
「キスして……」
律の求めに、飯塚は応じる。
唇を吸ってなめ回し、ぬるついた舌と舌を絡める。
律の体から力が抜け、腰を抱えると彼女は脚を飯塚の脚に絡めてきた。
蜜口が広がり、指が動きやすい。飯塚が意のままに中を探れば、蜜が垂れて彼女自身の膝を濡らす。
「……ゴム持ってる?」
「持ってる。もう挿れた方がいいか?」
「うん……疲れちゃうから……」
律の言葉に飯塚は頷き、ポケットからコンドームを取り出す。
律はその場でショーツを下ろし、濡れているためか脱ぐのをためらった。
飯塚はコンドームを着けると律の片足からショーツを脱がせ、残した左足を持ち上げた。
「えっと……」
律が戸惑った様子を見せ、飯塚はその脚を腰に巻き付けると腰をぐっと引き寄せる。
「パンツ引っ掛かったままってクるものがあるよな……」
「結局脱げそうかも」
「かもな」
飯塚はモノの先端を蜜でたっぷりと濡らす。
ひくつくぽってりとした花びらをかきわけ、蜜口にあてがうと律が肩を縮めて飯塚の肩にしがみつく。
「挿れるぞ」
「ん……っう」
ぐぷぷっ、と蜜が溢れ、モノをなめらかにする。
飯塚は腰を落とし、下から突き上げるようにして中を掘り進める。
きついのも一瞬で、内壁はずるずるとモノを引っ張り上げた。
「あっ……!」
ぎちっ、とハマる感覚があり、飯塚はつい声を出す。
それに気づいた律と間近で目が合い、飯塚は思わず唇を貪った。
ふっくらとした唇に、飯塚を丸ごと包むような口内。遠慮がちな舌をつんと突けば、返事するように舌の表面が触れあう。
「っはあ……あっ……お腹いっぱい……」
唇が離れると律がつながった部分を見つめて言った。
彼女は自身の下腹部を撫でる。
「動いていい?」
「あっ……いいよ」
飯塚は律の脚を抱え、腰をくいっと動かした。
内壁がモノを締め付け、熱を伝える。
体が熱に包まれ、性感だけが強くなった。
酔った心地のまま奥に押し入り、またギリギリまで出して、を繰り返すと鋭さを増す快楽に腰が重みを増した。
それを逃がそうと息を吐き出せば、律のまつげが滴で濡れているのが目に入る。
喉が腫れたように熱いのを感じ、それを癒そうと彼女のまぶたに口づける。
律がくすぐったそうに瞬きをして、ようやく気づく。
彼女は気持ちよくないのでは?
「ごめん、俺ばっか良くなってた」
「え? 良いのに、気にしなくて……」
「嫌だね、一人でよがったってバカらしいじゃん。律をもっと喘がしてみたい」
「それは……怖いんですが」
「もっと楽しめよ。なんか……まあリラックスとか、エクササイズと思って」
「あのね……本来は赤ちゃんが出来る行為だからね。エクササイズはちょっと嫌」
「エクササイズじゃなかった? それに俺子供好きだけどな。もしそういう将来が来たらサバイバル教え込むつもり」
「……男の子には良いかもね」
突然の話題に急に吹き出してしまい、律を見ると彼女もおかしそうに屈託のない笑みを浮かべていた。
「案外教育方針、気が合うんじゃね? 俺ら」
「さあ……」
「まずは今のことだよな。クリ触ったらイケる?」
飯塚の直球な質問に律が眉を開く。律は密着した下半身を見下ろすと、自身の指を秘部に沿わせてゆく。
むずむずする電流が走ったようだった。
律の指がそのまま、飯塚のモノと彼女自身の蜜口を撫でたのだ。
しかし当の本人は確認、といった感じの表情を浮かべている。
「うん……ここ」
「ん?」
「ここ……じゃないとちょっと痛いの」
律の示したのはクリ――花芽を包む薄皮の根元部分だ。飯塚は律の指と交替にそこに触れた。ぬちゅっ、と音がして、指がとろとろした熱い蜜に濡れる。
「はぁ……うん。そこならイケそう」
律が満足そうに吐息し、頷いた。
素直に性感を伝える彼女にやはり「律儀」だな、と飯塚は密かに感心し、そこをくりくりとなで回す。
そのたびに律の腰がくねって、中がきゅんきゅん締まる。
なるほど、素直に聞いてみるものだ、と飯塚は一人納得してそれを続けた。
「ん……んぅ……!」
律の胸元が、乳白色から桃のように染まってゆく。
美味しそうに色づく胸元に顔を寄せ、体をすりよせながら仰け反る喉をじっとり舐めた。
「あっ!」
律の手が背中をぎゅっと抱く。
喉も首も弱いらしい。
彼女の脚を高く持ち上げ、背中を壁に預けさせると腰をぐいっと押しつけた。
「すげ……」
内壁がさざ波を立て、飯塚のモノに吸い付く。
背骨から頭にかけてじわじわと溶かされそうな快楽だ。
「んん……!」
「中、すげえ良いよ……律は? 気持ちいい?」
「い、良いよ……っあっ、腰抜けちゃう……っ」
「抱きついてて。ほら」
律の背中をしっかり抱けば、汗でしっとりと吸い付いた。
顔が見えなくなったものの、余裕をなくした息づかいに甘い声が乗っている。
その声を聞いていると、耳が溶けそうだ。
「あっ……やっ……奥っ」
「奥? 感じる? ここ?」
ぐりっ、と内壁のざらつく部分を先端でこすれば、目がチカチカするほど快楽があった。
律もそこを突かれる度に喉の奥から甘い声をもらす。
「イケそう?」
「無理っ……でも、感じるっ」
立ったままだから触れられたのか、飯塚は内心でラッキーと思いながら、そこを突いた。
律の花芽はぷっくりと腫れ、中を突きながらそれに触れると中がきつく締まる。
「あう……! んん……っ」
律が一際高い声で喘ぐと、背中に回した手に力を込めた。
肌がお互いの汗でぴったりと張り付き、律の豊かな胸が柔軟に形を変えて押しつけられる。
上擦った息が口から放たれ、そろそろ限界だ、と飯塚は勘づいた。
もう少し彼女を抱いていたいが、明日は客が来るのだ。我慢せねばならない。
「そろそろイくか」
律が頷いた。顔を見れば、風呂でのぼせたみたいに目元まで赤く、とろんとしている。
開いたままの唇を重ね、唾液が垂れるのも構わずに離せば律の脚を抱え直す。
壁に背を預けさせ、上半身を離すと花芽を撫でながら激しく腰を突き動かす。
ずちゅっ、と蜜が引き出される音が鳴り、床が汚れた。
飯塚はそれに構わずに求めるままに揺さぶった。
律が喉をそらせて消え入りそうな声をあげる。
「あっ、だめぇ……!」
その瞬間に痛いくらいに蜜口が締まり、飯塚を追い詰める。
ぐっと目を閉じてそれに耐えると、細かくうねる律の中をフタタに攻め立てる。重みを増した内壁に、その快楽に飲み込まれそうだった。
「すっげ……気持ちい」
むぷむぷする中を擦りあげると、モノがぶるっと限界を訴える。
律は息も絶え絶えだ、飯塚はしっかり彼女の体を支えて腰を動かす。
「あ……もう出る、出る」
「え……っ? あっ!」
「出るっ……!」
律の体が離れないよう、きつく抱きしめ、中で溜まった熱を放出した。
反動で体が弾けるような感覚に全身の産毛が総立つ。どぴゅっ、と熱い体液がゴムの中で自身のモノを濡らした。
「やべ……まだ出る」
律は体を小刻みに震わせ、無意識にか飯塚の下腹部を押しのけようとしたが、それをなだめるように頭を撫でる。
息を整えてその場に座り込むと、腕の中で律が胸を激しく上下させているのが目に入った。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
律が頷くのを見ると、額に口づけてモノを抜いた。白い体液まみれの、赤黒い、筋だったモノだ。
多少は満足そうにしているか。
コンドームを取り去って、口を結ぶ。
はあ、と息を吐き出すと、律が体をぐったりと傾けてきた。
なんのかんの激しくしてしまったかもしれない。もう一度顔を覗き込むと、律も見つめ返してきた。
「すげえ気持ちよかった。律は……?」
「……うん。良かった……」
そう答える声はどことなく舌っ足らずだ。
彼女の肩を撫でると、猫のように体を曲げて頬をすり寄せてくる。
しばらく動く気になれず、そのまま抱き合っていた。
ほっと息を吐き出すと、飯塚が気だるげに手を伸ばし、律の肩を抱く。
「太田のオヤジの言うとおりになったよなぁ」
と、自嘲気味に言う飯塚を見上げ、律はふふっと笑う。
「そうだね」
「まあ、間違いとは思ってないけど……」
「それも、そうだね」
飯塚が律の顔をのぞき込み、そろっと布団を持ち上げる。
目線は目から、顔から、段々下へ。
律は飯塚の視線の行方に気づき、うっすらと情事のあとの残る胸を隠す。
「ちょっと」
「良いじゃん、減るもんじゃ無し」
「そういう問題じゃない……」
律は腕で胸を隠しながら身を起こした。
「どっか行くの?」
「シャワー浴びて、寝るの」
「明日で良くね? 今日はもう寝よう……」
飯塚は律の腰に手を回そうとしたが、律はするりと抜け出してしまう。
「恋人じゃないもの。朝まで一緒に寝たら勘違いしそう」
律がそう言って、床に散らばった衣服をかき集める。カーディガンを羽織って、前ボタンを止める。
飯塚は言葉をなくしたまま口を開き、視線を泳がせると腕をベッドに戻した。
「じゃあね、おやすみ」
「……ああ。おやすみ」
律は段ボールが貼られたドアを開け、振り返らずに彼の部屋を後にした。
***
自粛ムードの続く初春に、城島はため息ばかりである。
飯塚は顔に油汚れをつけたまま朝の作業を終え、休憩を入れた。目の前に座る城島の不満気な顔に嫌でも気づいてしまった。
「……どうしたんすか」
「……いや別に……」
と言った側からまたため息だ。飯塚は顎をしゃくって生返事する。
「なあ、ルームシェアしてるんだろ?」
と、城島が突然話題をふってくる。飯塚は「はあ」と返した。
「他人と同居するってどんな感じなんだ?」
「あー、同居っすか?」
飯塚は律との暮らしを振り返る。
お互いに干渉しない、と決めたからか、特に不満はない。律は大人しい方だし、うるさい趣味もない。部屋が離れていることもあって、個人の空間を邪魔しあうこともない。
それに匂いだ、他人の匂いは異空間にいる気分にさせるが、律から嫌なものを感じたことはない。お香やアロマをやっている気配もなかった。
飯塚自身もそれをやらないが、作業着などの匂いを落とすための洗剤が時々強烈に匂う程度か。
たまに手料理を食べさせてもらい、もちろん味に文句はない。
(今度飯の作り方でも教えてもらうかな)
などと考え、ベッドから出て行く彼女の背中を思い出してなんとも言えない気分になったが、その後も律の態度が今まで通りだったため、余計に何とも言えない。
不満はない、というのが妥当な感想だ。
「まぁ、こんなもんかなって感じっすね」
「そういうもん? 家事とかどうしてんの?」
「どう……なんつーか……お互い干渉しないってことにしてるんで」
「そうか……」
城島が明後日の方向を向いて額をかいた。
飯塚は頬杖をつき、話を進める。
「なんかあったんすか?」
「いやー……結婚してぇなーって思うんだよ」
「はあ」
「でも今の自由な生活も好きなんだよ。相手が出来て、その生活が崩れるのがちょっとなーって思ってさ……」
「まあ、そうすね」
「合コンとか誘われてるけど、乗り気しないんだよなぁ……」
飯塚は城島をじーっと見つめた。
何か違和感がある。
城島に対してではない。
「……男として枯れる一方っすね」
「だよなぁ」
城島は大きなため息をついた。
***
明かりがついた家の光景にも慣れ、飯塚はふと思う。
(慣れだな、慣れ)
新生活に、城島もいずれ慣れる時が来るのでは、と一人勝手に納得し頷く。
除菌用アルコールスプレーを全身に浴び、手洗いうがいを済ませるとリビングへ向かう。
これも慣れた手順だ。
ノックしてから入ることも覚えた。
ドアを開けると、律が振り返って手をふって出迎える。
いつも通りの笑みだ。
肌を重ねてから一週間、何も変わらない。
まるで何もなかったかのようだ。
「ただいま」
「おかえり。ちょっとごめんね」
と律が言ったのは飯塚に対してではなく、彼女が持っているノートパソコンの画面に対してだ。
「何? リモート会議とかいうやつ?」
飯塚が声を抑えて言えば、律は軽く頷いた。
「会議じゃないけど、地元の友達とちょっとね。部屋移るから気にしないで」
律はノートパソコンを持つとリビングを去って行った。
ドアが閉まる。
が、すぐに開かれると律が言った。
「ねえ、味噌汁作りすぎたの。良かったら飲んでね」
そう言い残し、今度こそドアが閉まった。
軽い足音が聞こえる。
飯塚はふっと気持ちが軽くなったように感じ、台所へ向かった。
***
「でさぁ、まじで起きない。今晩は俺が起きてるからーって言うくせにさ」
「純はそれでどうしたの?」
「ベイビーちゃん泣いてるのに寝てらんない。結局私があやしに行くんだよね。いいのよ、あやすのは。ベイビー期って今だけだからさ、貴重な時間だと思いなってママが言うし。そこじゃないの」
「起きてるって言ったじゃん~! って?」
「そうそれ! まじそれ!」
純は律の幼なじみである。気づけば一緒にいた仲であり、双子のようにくっついて行動していた。
彼女は結婚し、子供も産まれて今現在子育ての真っ最中である。
愚痴と近況報告を聞き、律は画面にうつる彼女の「ベイビーちゃん」を見た。
ぐっすり眠っている。目元が純に似て、まつげが長かった。
「可愛い~」
「でしょう。律も早く結婚すればいいのに。子育てするなら体力あるうちの方がいいって言うよ?」
「無理だよ」
「なんで。てかこっち出るとき結婚するもんだと思ってたけど」
律ははたと気がついた。
佐竹と別れたことを彼女は知らないのだ。
「どうした?」
純が気遣わしげに眉を寄せる。
律は「うーん」と鼻を軽く擦るようにすると口を開く。
「その、別れた」
それを聞いた瞬間、純の口がぽかんと開き、次の瞬間にはパソコンいっぱいに純の顔が近づいた。
「うっそ! なんで!?」
ベイビーちゃんが母親の声に驚いて泣き出してしまった。
「あ~、ごめんごめん。ママが悪かったよぉ」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。このくらいでビビる子には育てないから」
「そういうもの?」
「そういうもの……って、この子の話じゃない、律の話だよ! 何、別れたって」
「そのままだけど……」
律は噛みつく勢いの純に驚き、思わず正座になってしまった。
視線を彷徨わせ、頬をかくと純に説明する。
「その、まあ、色々……すれ違った感じ。向こうはこっちに馴染んじゃったし」
「マジでー? 信じらんない、先輩とあんなに仲良かったのに……えっ、じゃあ律今一人なんでしょ? 生活大丈夫なの?」
「うん。なんとかね」
「ならいいけど……何かあったら帰っておいでよ? 特にそっちにこだわる理由もないでしょ?」
「んー……そうかもね……」
律は曖昧に頷いた。
純は律に届かないまま手を伸ばし、画面越しに頭を撫でた。
「よしよし。大丈夫だからね、律はステキガールだから。あれ? でもさっき男の人の声聞こえたけど」
純の言葉に律は顔をひきつらせた。
飯塚のことはどう説明したものか。
「ええと……ルームシェアってやつ。広い中古物件に部屋がいっぱいあって……そのうちの一人」
「ああ~なるほど。知り合い?」
「うん」
「まあ、律が大丈夫ならいいけど。そうなんだ……ねえ、何かあったら本当にすぐ言ってよ? ダンナに高速走らせて迎えに行くから」
純の一言に律は目頭が熱くなるのを感じ、ごまかすように笑うと頷いた。
「ありがとう」
***
律がリビングに戻ってきた。
飯塚はちゃっかり味噌汁に火をかけている最中で、あとはスーパーで買ってきたウインナーを炒めるのみだ。
律が冷蔵庫を開けながらコンロをのぞいた。
「味噌汁……沸騰しそう」
「だな」
「だな……じゃなくて。もう火を止めないと」
「なんで?」
「なんで? ……味噌汁って沸騰させると美味しくなくなるのよ」
「マジで!?」
飯塚は慌てて火を止めた。
とたん湯気が立ち上り、味噌の香りがふわっと広がる。
「……」
冷蔵庫を閉めた律がそれを見ていた。
飯塚はふたをするとウインナーの袋を開ける。
「……冷凍庫にブロッコリーあるよ」
律の一言に飯塚は素直に頷く。彼女が差し出した冷凍ブロッコリーを皿に出し、レンジに入れた。
「譲くんて器用かのか不器用なのか……」
「得手不得手ってやつだよ」
飯塚はフライパンにウインナーを並べ、火にかける。
「……あのさぁ」
徐々に音をたてるウインナーを見つめながら、飯塚は切り出した。
「暇な時で良いから……」
「うん。何?」
「あー……料理教えてくんねぇ?」
「ああ、うん。いいよ」
「えっ、マジで?」
あっさり了承した律に振り向く。彼女はホワイトチョコレートを口に入れて頷いた。
チョコレートがパキッと小気味よい音がして、彼女の唇にかけらが残る。
「暇な時でいいんでしょ?」
律にそう言われ、飯塚ははっと視線をあげた。
「そう、暇な時でいいから」
「ピアノも使わせてもらってるし、そのお礼ということで」
「よっし。これで俺もまともに飯が食えるようになるかな」
「うん」
律が意味ありげな笑みを浮かべている。
唇に残っていたチョコレートを舐めとったのが見えてしまった。
が、彼女の指がしめすものを見たとき、飯塚の顔色が変わる。
ウインナーが焦げていた。
***
焦げた部分を切り落とし、無事だった少しの部分だけを食べる。
飯塚は寂しい夕食をぼそぼそと食べた。
律は録画したい番組を選んでいる最中だ。リビングに静かなひとときが流れる。
「そのドキュメントって面白いの?」
飯塚がそう声をかければ、律が振り向いた。
「仕事で取り扱うかもしれないの。これ、平安時代の仏像の特集だから」
律の仕事は美術館スタッフだ。
歴史的展示物などを扱うこともある、その予習ということだ、と飯塚は理解した。
「マメだよな。歴史好き?」
「うん。譲くんは?」
「わかりやすいのは好きだけど」
「わかりやすいのって?」
「坂本龍馬とか? 勝海舟はけっこう好きかもな」
「渋い好みね」
律は一通り録画予約を終えるとリモコンを置いた。
そのまま立ち上がる。
「味噌汁ごちそうさん」
「うん。先にお風呂入って良い?」
「良いよ。律の残り香味わいながら入るから」
「やめてよ」
律は目を細めて笑った。が、すぐに何か思い出したのか表情を改めた。
「ねえ、職場の子が来たいって言ってるの。呼んでもいいかな」
「良いよ。何人?」
「一人よ」
飯塚は頷いた。
律が立ち去る前に、飯塚は彼女の手を取る。
律の手が逃げようとした。今までとは違う反応だった。
「な、何……?」
「いや……なんでも」
飯塚は律の手をあっさり逃がす。
律の頬がうっすら赤くなっているのは見間違いではないはず。
だがそれをどう受け止めればいいのか、飯塚は分からなかった。
***
城島が家に来たいと言ったので、飯塚はどうしたものか、と首を捻った。
全くの一人暮らしなら問題ない。
城島とはたまに飲みに行き、そのままどちらかの家で倒れるように寝たものだ。
だが同居人がいる。
泊まりはきついかもしれない。
「昼なら」
と返事し、城島は頷いた。
そのことを律に伝えると、彼女はあっさり頷いたものだ。
「それで、私の後輩も来るんだけど、昼間ならいいかなって思ってたの。遅くなるようなら泊めようかと」
「ああ。ま、テキトーで良いよな。いつ頃になりそう?」
「今度の金曜日ね。休みが一緒になったから」
飯塚はやべえ、と顎をしゃくる。
「譲くんの先輩も同じ日?」
「に、なりそう……ま、いいか。皆いい年だし」
「そうよね。ねえ何作ったらいいかな。それとも皆でバーベキューみたいなのする?」
「それ良いねぇ。じゃ、カレーとか作っといてさ、あとはバーベキューしますか」
予定が決まり、金曜日に合わせて食料を買い込み、木曜の夜に二人で台所に立った。
ジャガイモの皮を剥き、人参を洗って乱切りにする。
飯塚は律に教えてもらいながら野菜を切り、タマネギの洗礼を受けて肉を炒める。
いつかのような時間だが、どこか違う。
ただの他人ではなくなり、ただの仲間ではなくなり、男女になりながら恋人でない関係。
むずがゆいような心地だった。
律がカレーのルウを溶かし、しばらく煮込むと熱くなってきたのかカーディガンを脱いだ。
汗のにじんだうなじが見え、飯塚は頭が殴られたような感覚を味わう。
体がぐわっと熱くなったのは、ストーブのせいではない。
「ちょっと失礼」
そう言ってリビングを出て、冷えた廊下の空気を肺いっぱいに吸い込む。
突然思い出すのは彼女の肌の感触、胸の柔らかさ、とろんとした表情に甘ったるい声だ。
鎮まってくれそうにない欲情に飯塚は立ちくらみを覚えた。
深く息を吸って、頭を冷やすために冷水をかぶる。
リビングに戻ると律が顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
「ああ、うん」
飯塚が上の空で答え、眉を寄せたままなので律は訝しんでいる。
律の手が飯塚の額をとらえた。
あの日、飯塚の体を撫でた小さな手が。
「うわっ!」
と、大きな声で言って体を捻ってしまった。
飯塚のその態度に律が目を見開いた。
「そんなに嫌だった?」
「嫌じゃない!」
怒るような声で反射的にそう言ったため、律が肩をすくめて首を傾げる。
飯塚は額を指先でかき、首を横にふった。
「そうじゃなくて……ああ、近づいたらダメだ」
「えっ、私臭い?」
ルウをこぼしただろうか、と律はエプロンを確認する仕草を見せた。飯塚は慌てて否定する。
「違うって。律はいい匂いだから。じゃない、そうじゃなくて……」
息を大きく吸い込むと律の目の前に手のひらを広げてストップをかけた。
「……俺今、発情期」
「……発情期……」
「律さ、近づいたらヤバいよ。俺押し倒すかも」
「……あらら」
と、律にしては珍しく冗談ぽく返してきた。
飯塚は表情を引き締めるとはっきりと言う。
「……本気だって。カレー作っとくから、嫌なら早く逃げること。OK?」
「分かった。じゃあ」
と言って、律は作業を再開させた。飯塚はあまりに淡々と作業を進めるその姿に、なんとなく拍子抜けしてしまう。
律はふたをすると火を止め、ガスの元栓を閉じると飯塚に振り向いた。
「……シャワー浴びてきて良い?」
それを聞いた瞬間、律の唇をキスで塞いでいた。
***
律の、シャンプーの香りの残る髪に鼻を埋め、耳に口づける。
飯塚は触れる部分から赤く染まる素直な耳に気分を良くし、肩を撫でながら続けた。
律は息を乱し、飯塚の服にすがるようにつかまると時々腰を揺らす。それを支えるように手を回すと、熱いものにでも触れたかのように彼女の体が跳ねた。
「ちょ、ちょっと待って」
「何?」
「腰抜けそう」
「良いよ、抜かしても」
「ダメでしょ、立ったままなのに」
律が飯塚の服をぐいっと引っ張った。
飯塚はそれに構わず、パジャマ越しに彼女のお尻に触れ、揉むと体を密着させた。
「譲くんっ……」
「大丈夫だって、支えてるから」
「も……」
律の口から小言が飛び出さないよう、キスで封じ、細い腰を撫でると張りのある胸に手を這わせる。
どことも違う柔らかさで、ぽよぽよとしているのに手にしっかりと馴染んでくる。いわゆるナイトブラをしているのが残念だが、その柔らかいカップを半分に折り曲げ、パジャマのボタンを2、3外せば乳白色のメロンが二つ、谷間を作って飯塚の目を釘付けにした。
「せ、せめて座らない?」
「すぐ終わらせるから、このまま」
「でも……」
「明日お客が来るじゃん? ちょっと控えめにしないと俺らがヤってるってバレるよ」
お互いの匂いが移るっていうか、と鼓膜に注ぐように囁けば、律が体を強ばらせた。
耳が敏感なのだろう。
ふとシャンプーとは違う甘い香りが漂ったのに気づき、飯塚はにやりとした。
嫌がっていない証拠だ。
調子に乗って律の全身をなで回せば、すでに体が敏感になっているらしく、時々甘い息が乗る。
追い詰められた小動物のような姿についからかいたくなり、壁に追い詰める。
パジャマの下を脱がした。
膝をついて下から見上げる格好になると、律が両手で脚の付け根を隠す。
「なんで電気……」
「消したら見えない」
「せめて明かりを落として欲しいの」
「んー……」
顔を真っ赤にして「お願い」をする律の言うことを聞いてやりたくなったが、飯塚は首を傾げて「どうしようかな……」と焦らした。
律は脚をすり寄せ、消え入りそうな声を出す。
「ねぇ。こんなに濡れたら、見られるの恥ずかしいの」
と、なかなかの発言に飯塚は目を丸くし、頷くと立ち上がり、リモコンを取った。
オレンジ色の目玉焼きのような明かりに設定すると、律はあからさまにほっとした様子を見せる。
「そんなに嫌だった?」
「恥ずかしいから……そんなに綺麗じゃないし」
「うっそ。すげぇ綺麗だったよ」
「言わないでっ」
律は眉をつり上げた。しかし全く怖くない怒り顔だ。目が潤んでいるせいだ。
飯塚はごめんごめん、と言いながら律の体を抱きよせる。
すっかり勃ちあがった自身のモノをカーゴパンツ越しに彼女の肌に擦りつける。
律の体がびくりと震えた。
「もう固くなってる……」
「前の思い出したから……バカだろ? 正直すぎるよなぁ」
律のパジャマの裾から手を入れ、すべらかな背中を指先で撫でる。
「ん……」
と、鼻にかかったような声が飯塚のモノを更に固くさせた。
「律って背中触られんの好き?」
「た、多分……」
律は頷きながら、何度も脚をすり合わせている。
そのショーツの中を想像し、飯塚は腰が重くなった。
おそらくたっぷり濡れて、花芽が赤くふくれて健気に震えているのだろう。
飯塚は蜜をすすりたいのをこらえ、パジャマのボタンを更に外す。
ベッドで見るのとは違い、寄せられたまま固定され、露出している白い乳房がぷるぷると波打った。
胸を掴んでカップから取り出せば、ぴんと尖る淡いピンク色の蕾が見えた。
律は顔を真っ赤にして顔を背ける。飯塚は寄せた胸の間に鼻先を埋め、ほんのり甘い律の匂いを肺一杯に吸い込んで、声をかけた。
「せっかく綺麗にしたのにな」
「うん……あとで軽く浴びるから……」
「なるほど。ま、なめ回すのはやめとく」
飯塚はそう言うと、乳房の感触を楽しみ、時折かすめる乳首が膨らむのを手のひらで感じ、指でつまんで弾いた。
律が腰を曲げ、脚を震わせた。
ぴちゃっ、と音がしたのは気のせいではない。
飯塚は体温が上がり、上衣を脱ぐと額をぬぐった。わずかに汗が浮かんでいる。
カーゴパンツのチャックを下ろし、濡れた下着からモノを取り出すと自身で握って慰める。
律がそれを見ていた。
「……しようか?」
「え? いい、いい。気にするなよ。それより服越しに触るのって面白いよな。こうやってさ」
律のパジャマを胸にかぶせ、爪をたてて軽くひっかく。
「あっ!」
と、甘い声と同時に律が背を反らせた。
「なんかパジャマに乳首の形浮いてんの、エロい」
「譲くんってすけべ……」
「そりゃあ……そうだろ」
そのままひっかき、押したりを繰り返すと律は口元に手をやり、もう片手を脚の付け根にやった。
与えられる快感に身をよじって耐えようとする姿に、どんどん攻略したくなってしまう。
弱いのであろう耳に、ちゅっと音立てて唇で吸い付けば、律は喉を震わせて首をふった。
そこからまた彼女の匂いが強く香る。
どこか爽やかな、甘い香りだ。
ひどく落ち着くそれを堪能するうち、何かが脳裏をかすめる。
薄ピンク色の、ひらひらと風に乗る――
飯塚は頭をふって今に集中した。律を強く抱きしめ、下腹部に手を滑らせる。
ショーツの中に忍ばせると律がほっと息を吐き出して飯塚の胸元に頭を預けた。
信頼されている感覚に気を良くし、律の体を支えるように肩を抱く。
思った通りショーツの中はすっかり熱く、ひくついた花芽はすでに蜜で濡れていた。
「あ……っ」
ぬちゃっ、と膜をかき分けて割れ目に指を沿わせる。
軟体動物に指をぞろぞろ確かめられているようだ、指がとけそうにじんじんと熱い。蜜口を見つけるとゆるゆるといじり、中指を曲げて進入させる。
潤んだヒダのある内壁が、指を迎えて騒ぎ出した。
「……ん……ふぅ……」
中は熱くとろけているが、やはり感度は良くないらしい。律は顔色を変えないまま飯塚にすがるようにした。
「譲くん……」
「ん?」
「キスして……」
律の求めに、飯塚は応じる。
唇を吸ってなめ回し、ぬるついた舌と舌を絡める。
律の体から力が抜け、腰を抱えると彼女は脚を飯塚の脚に絡めてきた。
蜜口が広がり、指が動きやすい。飯塚が意のままに中を探れば、蜜が垂れて彼女自身の膝を濡らす。
「……ゴム持ってる?」
「持ってる。もう挿れた方がいいか?」
「うん……疲れちゃうから……」
律の言葉に飯塚は頷き、ポケットからコンドームを取り出す。
律はその場でショーツを下ろし、濡れているためか脱ぐのをためらった。
飯塚はコンドームを着けると律の片足からショーツを脱がせ、残した左足を持ち上げた。
「えっと……」
律が戸惑った様子を見せ、飯塚はその脚を腰に巻き付けると腰をぐっと引き寄せる。
「パンツ引っ掛かったままってクるものがあるよな……」
「結局脱げそうかも」
「かもな」
飯塚はモノの先端を蜜でたっぷりと濡らす。
ひくつくぽってりとした花びらをかきわけ、蜜口にあてがうと律が肩を縮めて飯塚の肩にしがみつく。
「挿れるぞ」
「ん……っう」
ぐぷぷっ、と蜜が溢れ、モノをなめらかにする。
飯塚は腰を落とし、下から突き上げるようにして中を掘り進める。
きついのも一瞬で、内壁はずるずるとモノを引っ張り上げた。
「あっ……!」
ぎちっ、とハマる感覚があり、飯塚はつい声を出す。
それに気づいた律と間近で目が合い、飯塚は思わず唇を貪った。
ふっくらとした唇に、飯塚を丸ごと包むような口内。遠慮がちな舌をつんと突けば、返事するように舌の表面が触れあう。
「っはあ……あっ……お腹いっぱい……」
唇が離れると律がつながった部分を見つめて言った。
彼女は自身の下腹部を撫でる。
「動いていい?」
「あっ……いいよ」
飯塚は律の脚を抱え、腰をくいっと動かした。
内壁がモノを締め付け、熱を伝える。
体が熱に包まれ、性感だけが強くなった。
酔った心地のまま奥に押し入り、またギリギリまで出して、を繰り返すと鋭さを増す快楽に腰が重みを増した。
それを逃がそうと息を吐き出せば、律のまつげが滴で濡れているのが目に入る。
喉が腫れたように熱いのを感じ、それを癒そうと彼女のまぶたに口づける。
律がくすぐったそうに瞬きをして、ようやく気づく。
彼女は気持ちよくないのでは?
「ごめん、俺ばっか良くなってた」
「え? 良いのに、気にしなくて……」
「嫌だね、一人でよがったってバカらしいじゃん。律をもっと喘がしてみたい」
「それは……怖いんですが」
「もっと楽しめよ。なんか……まあリラックスとか、エクササイズと思って」
「あのね……本来は赤ちゃんが出来る行為だからね。エクササイズはちょっと嫌」
「エクササイズじゃなかった? それに俺子供好きだけどな。もしそういう将来が来たらサバイバル教え込むつもり」
「……男の子には良いかもね」
突然の話題に急に吹き出してしまい、律を見ると彼女もおかしそうに屈託のない笑みを浮かべていた。
「案外教育方針、気が合うんじゃね? 俺ら」
「さあ……」
「まずは今のことだよな。クリ触ったらイケる?」
飯塚の直球な質問に律が眉を開く。律は密着した下半身を見下ろすと、自身の指を秘部に沿わせてゆく。
むずむずする電流が走ったようだった。
律の指がそのまま、飯塚のモノと彼女自身の蜜口を撫でたのだ。
しかし当の本人は確認、といった感じの表情を浮かべている。
「うん……ここ」
「ん?」
「ここ……じゃないとちょっと痛いの」
律の示したのはクリ――花芽を包む薄皮の根元部分だ。飯塚は律の指と交替にそこに触れた。ぬちゅっ、と音がして、指がとろとろした熱い蜜に濡れる。
「はぁ……うん。そこならイケそう」
律が満足そうに吐息し、頷いた。
素直に性感を伝える彼女にやはり「律儀」だな、と飯塚は密かに感心し、そこをくりくりとなで回す。
そのたびに律の腰がくねって、中がきゅんきゅん締まる。
なるほど、素直に聞いてみるものだ、と飯塚は一人納得してそれを続けた。
「ん……んぅ……!」
律の胸元が、乳白色から桃のように染まってゆく。
美味しそうに色づく胸元に顔を寄せ、体をすりよせながら仰け反る喉をじっとり舐めた。
「あっ!」
律の手が背中をぎゅっと抱く。
喉も首も弱いらしい。
彼女の脚を高く持ち上げ、背中を壁に預けさせると腰をぐいっと押しつけた。
「すげ……」
内壁がさざ波を立て、飯塚のモノに吸い付く。
背骨から頭にかけてじわじわと溶かされそうな快楽だ。
「んん……!」
「中、すげえ良いよ……律は? 気持ちいい?」
「い、良いよ……っあっ、腰抜けちゃう……っ」
「抱きついてて。ほら」
律の背中をしっかり抱けば、汗でしっとりと吸い付いた。
顔が見えなくなったものの、余裕をなくした息づかいに甘い声が乗っている。
その声を聞いていると、耳が溶けそうだ。
「あっ……やっ……奥っ」
「奥? 感じる? ここ?」
ぐりっ、と内壁のざらつく部分を先端でこすれば、目がチカチカするほど快楽があった。
律もそこを突かれる度に喉の奥から甘い声をもらす。
「イケそう?」
「無理っ……でも、感じるっ」
立ったままだから触れられたのか、飯塚は内心でラッキーと思いながら、そこを突いた。
律の花芽はぷっくりと腫れ、中を突きながらそれに触れると中がきつく締まる。
「あう……! んん……っ」
律が一際高い声で喘ぐと、背中に回した手に力を込めた。
肌がお互いの汗でぴったりと張り付き、律の豊かな胸が柔軟に形を変えて押しつけられる。
上擦った息が口から放たれ、そろそろ限界だ、と飯塚は勘づいた。
もう少し彼女を抱いていたいが、明日は客が来るのだ。我慢せねばならない。
「そろそろイくか」
律が頷いた。顔を見れば、風呂でのぼせたみたいに目元まで赤く、とろんとしている。
開いたままの唇を重ね、唾液が垂れるのも構わずに離せば律の脚を抱え直す。
壁に背を預けさせ、上半身を離すと花芽を撫でながら激しく腰を突き動かす。
ずちゅっ、と蜜が引き出される音が鳴り、床が汚れた。
飯塚はそれに構わずに求めるままに揺さぶった。
律が喉をそらせて消え入りそうな声をあげる。
「あっ、だめぇ……!」
その瞬間に痛いくらいに蜜口が締まり、飯塚を追い詰める。
ぐっと目を閉じてそれに耐えると、細かくうねる律の中をフタタに攻め立てる。重みを増した内壁に、その快楽に飲み込まれそうだった。
「すっげ……気持ちい」
むぷむぷする中を擦りあげると、モノがぶるっと限界を訴える。
律は息も絶え絶えだ、飯塚はしっかり彼女の体を支えて腰を動かす。
「あ……もう出る、出る」
「え……っ? あっ!」
「出るっ……!」
律の体が離れないよう、きつく抱きしめ、中で溜まった熱を放出した。
反動で体が弾けるような感覚に全身の産毛が総立つ。どぴゅっ、と熱い体液がゴムの中で自身のモノを濡らした。
「やべ……まだ出る」
律は体を小刻みに震わせ、無意識にか飯塚の下腹部を押しのけようとしたが、それをなだめるように頭を撫でる。
息を整えてその場に座り込むと、腕の中で律が胸を激しく上下させているのが目に入った。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
律が頷くのを見ると、額に口づけてモノを抜いた。白い体液まみれの、赤黒い、筋だったモノだ。
多少は満足そうにしているか。
コンドームを取り去って、口を結ぶ。
はあ、と息を吐き出すと、律が体をぐったりと傾けてきた。
なんのかんの激しくしてしまったかもしれない。もう一度顔を覗き込むと、律も見つめ返してきた。
「すげえ気持ちよかった。律は……?」
「……うん。良かった……」
そう答える声はどことなく舌っ足らずだ。
彼女の肩を撫でると、猫のように体を曲げて頬をすり寄せてくる。
しばらく動く気になれず、そのまま抱き合っていた。
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※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
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「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
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